同情するならチャクラくれ   作:あしたま

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大変お待たせしてしまって申し訳ございません。
これからも色々と落ち着くまで不定期となります。



026. 予選

  

 

「なに大蛇丸じゃと!?」

 

ゴール地点となっている塔で俺達は大蛇丸と会う事になった経緯を説明した。思わず声をあげた三代目だけでなく、集まった猟犬の隊員達が驚くのもしょうがない。大蛇丸が現れた時点で里には厳戒体制がひかれる事になっているからだ。

 

「しかし何故このタイミングで現れたのでしょう?」

「目的はうちはサスケだ」

 

現場にいなかった忍の疑問に対し簡潔に答えてやる。

 

「大蛇丸は不老不死の研究をついに完成させたようです。アンコが言うには不屍転生という術らしく、簡単に言えば他人の身体に乗り換える術のようです」

「なんと……」

 

常人ではとても思いつかない発想なのは間違いない。聞いている忍達も唖然としている。

 

「多分ですけど、その新たな器としてうちはサスケを狙ったんだと思います。国内から出る機会の少ない下忍を狙うには絶好のタイミングですからね」

 

中忍試験の時期は警備が強化されているようで、実は最も手薄になっている。他里の人間も許可証さえ持っていれば簡単かつ合法的に入る事が出来るのだから致し方ない。

 

「もう一つ重要な事があります。音隠れの里長は大蛇丸のようです」

「火影様、すぐに中忍試験を中止にしましょう!」

 

俺の発言を聞いてお付きの暗部が進言する。だがそれは少し待ってもらおう。

 

「大蛇丸は試験を中止にすればすぐに木の葉に牙を剥くと宣言して消えて行った。サスケは暗部に見張らせて、警備の強化と音の背後関係を探るのが先だ」

 

俺としてはここで木の葉崩しが中断されてしまえば、いつ来るかも分からない襲撃を警戒し続けないといけないため、それは避けたい。

 

「うむヨフネの言う通り、今まで何処におるとも分からなかった大蛇丸が現れたのじゃ、ある意味好機であろう」

「火影様がそう仰るのであれば……」

「うちはサスケの警備と音の監視は元は儂の直轄暗部にいた忍にやらせよう」

 

ダンゾウが幽閉された事により根は解体され、全ての暗部は火影の元へ一括されている。ただ以前とやり方が変わったかは定かではないが、身寄りの無い子供を中心に暗部のエリート教育は継続されている。ちなみに猟犬を使って調べて見たがサイの存在は確認済みだ。あとは引き抜くタイミングだけなんだが、中々機会がなく現状ではなんの手も打てていない。

 

「二次試験が終了するまでの五日間、暗部は音の受験者とその上忍の身元調査を任せる」

「はっ!」

 

その後も幾つか打ち合わせをし、そろそろ解散かという頃に二次試験官の一人がおずおずと手を挙げた。

 

「あの、一つだけ宜しいですか。実は既に二班ほど合格者が出ています」

「ほう」

「確か最速合格が七時間だったわよね?なら既に合格者が出ても不思議ではないでしょう」

 

アンコは流石に自分が試験官をやっているからか細かい記録まで覚えていたようだ。

 

「はい、でも今回はそれを大きく上回っています。まずは一班目、ヨフネ隊長の担当下忍三人です。時間は……およそ一時間です」

 

間違いなく合格するとは思っていたが、まさかそこまでやれるとは思ってもみなかった。映像を見る限り、相当飛ばしたのかかなり汚れてしまっている。

 

「次は約一時間半で砂の班が合格しているんですが、彼をよく見て下さい」

「無傷だと……」

 

我愛羅はやはり無傷で切り抜けたようだ。時間にしたって彼等が寄り道せずに本気で挑めば、俺の班よりも早かっただろう。

 

「ま、でも上出来かな」

「お主はハードルが高すぎるの」

 

 

 

 

 

俺達が警戒を強めつつ調査を行っていると五日はあっという間だったが、その間には原作通りに多くの通過者が出ていた。そのため、アンコの進行で、集められた合格者に今から説明が行われる。

 

「まずは、2次試験の通過おめでとう。これから火影様よりお話しがある。各自、心して聞くように!では火影様お願いします」

「うむ」

 

三代目は鷹揚に頷くと、この中忍試験の目的について説明を始めた。その目的に対して、受験者からは、始め困惑の表情が出ていたが、内容を説明していくうちに理解できたのか、表情を変えていく。

 

「これは己の夢と里の威信を懸けた、命懸けの戦いなのじゃ」

「納得いったってばよ」

「何だっていい。それより早くその命懸けの試験ってヤツの内容を聞かせろ」

「……ふむ、では3次試験について説明しよう」

 

三代目がそこまで言ったところで、ハヤテが上忍達の並ぶ列から前に出た。

 

「ここからは審判を仰せつかった、この月光ハヤテから、説明を行わせていただきます」

 

火影が頷くのを確認してから、ハヤテはアンコからボードを受け取り、受験者たちへと振り返ると、全員を見回したうえで説明を始める。

 

「えー皆さんには3次試験の前にやってもらいたいことがあるんですね。1次試験と2次試験が甘かったせいか、少々人数が残り過ぎてしまいましてね。中忍試験規定に則り、3次試験の本選出場をかけた予選を行います」

「予選ってどういうことだってばよ!」

「先ほど火影様のお話にもあったように本選には、各国の大名を始めとした多くのゲストの方が来られます。そのため、見苦しい試合を見せるわけにはいきませんので、これからすぐに予選を行います。体調のすぐれない方、他にもやめておきたいと思う方は今すぐ申し出てください」

「そんな奴いるわけねーだろ」

「……いませんか?」

 

受験生がハヤテの言葉に対して声を上げるが、ハヤテは気にせずに辞退者の確認を行う。そんな中、一人の忍が手を挙げた、カブトである。

 

「あの、僕はやめときます」

「「「「「 !!! 」」」」」

「えっ!?カブトさん……?」

 

知っている俺からすれば白々しい限りだが、木の葉の受験生達は衝撃を受けているようだ。しばしの静寂の後、ハヤテは咳き込みながら進めていく。

 

「えー木の葉の薬師カブトくんですね。はい、下がっていいですよ」

 

 ハヤテはボードへと書き込むと、思い出したように説明を付け加える。

 

「すみません、言い忘れていましたが、ここからは個人戦です。1人がやめたからと言ってチームに影響は出ませんので、自分自身の判断でご自由に申し出てください。他に辞退者はいませんか?」

 

ハヤテが待っている間、呪印が反応したサスケに対して辞退させるよう進言したアンコだったが、三代目がいざとなったら止めに入ると条件をつけたことで静かに返事を返し了承した。

 

「では、これより始めます。この3次試験は一対一の個人戦、つまり実戦形式の対戦となります。丁度20名となったので、合計10回戦行い、その勝者が中忍試験の本選に進出できます。ルールは一切無しです。どちらか一方が死ぬか倒れるか、あるいは負けを認めるまで闘ってもらいます。死にたくなければすぐに負けを認めてくださいね」

 

ハヤテの言葉に、ナルトたちは息を呑み真剣な表情で聞き入っている。ハヤテは意外と役者だな。

 

「ただし、勝負がはっきりついたと判断した場合などは、無暗に死体を増やしたくないので、止めに入ったりなんかします。説明は以上です」

 

ハヤテの言葉で、俺達の背後にある壁の一部が動きだし、そこに電光掲示板が現れた。

 

「この電光掲示板に対戦者の名前が表示されます。名前が表示された方はそのままここに留まり、それ以外の方は上に移動してください。ではさっそくですが、1回戦の対戦者を発表しますね」

 

 ハヤテが言い終えて少ししてから電光掲示板に文字が映し出される。

 

『ウチハ・サスケ VS アカドウ・ヨロイ』

 

「では、掲示板に示された2名はそのまま留まり、他の方は移動してください」

 

ハヤテに促され、ようやく俺はバルコニー部分へと上がりようやく大蛇丸から離れられた。もう正体がバレていると知っているからなのか、元々の姿と大差ない変化の術で堂々と担当上忍の列へと並んでやがった。

 

ちなみに今サスケと対峙しているのは音のスパイでもある忍だ。口から下を布で覆い、さらには目に貼り付けるようなサングラスをしており見るからに怪しい。確かあいつはチャクラを相手の吸い取る事が出来る体質だったはずだ。羨ましい。

 

「それでは第一試合、うちはサスケ対赤胴ヨロイの試合を始めます」

 

ハヤテが合図を出した途端にサスケは首筋を押さえる。感情の高ぶりと共にチャクラを無意識に練ってしまい呪印が反応したのだろう。しかし、この結果が分かっている試合よりも気になる事があった。

 

サスケはイタチの凶行を直接目にした訳ではないし、一族も全滅はしていないので、おそらくだが原作よりはイタチを憎んではいないと思っている。そのサスケを誘う為に大蛇丸は果たしてなんと言ったのだろうか。

 

手を組んで心配しているサクラのもとへ近寄った。

 

「そう心配するな。大蛇丸がかけた術はすぐに死ぬような物じゃない」

「ヨフネ先生知ってたんですかっ?!」

「まあ色々とね。そこで大事な事なんだけど大蛇丸はサスケになんて言ってた?」

 

何の事やらさっぱり分かっていないナルトは放っておいて、安堵の表情を見せたサクラに俺は肝心の質問を投げかけた。

 

「少し離れていたんで全部が聞き取れたわけではないんですけど『貴方はイタチよりも弱い』とか何とか。あ、あとは痣の事を私の所へ来る為のプレゼントとか言ってたような」

 

どうやら大蛇丸は大した事は言ってなかったようだ。大蛇丸はあの事件の真相など知る由もないだろう。

 

「あの……ヨフネ先生?」

「ん?ああ、すまない少し考えてただけだ」

「ところでイタチって誰なんです?」

「うーん、その質問は俺が答えるわけにはいかないかな。サスケ本人かカカシにでも聞くんだな」

 

当然気になるだろうがプライベートな事だし、何より面倒だから隣にいたカカシに丸投げしてやる事にした。サクラはヤられたという顔をしているカカシの方へとキッと視線を向ける。

 

「まあなんだ、また今度な」

「……もう、分かりましたよ。あ、そういえばナルトも大蛇丸に何かされたんだと思います。あれだけタフなのに簡単に気絶しちゃったから」

「何だと?!」

 

俺はそういや五行封印されてたんだったな程度にしか思わなかったが、カカシの方はかなり驚いている。それもそのはずで人柱力に変な事をされてたら、下手をすれば里が壊滅してしまう。ましてや相手はあの大蛇丸だ。放置しておくには危険過ぎると考えたのだろう、カカシは少し離れた所まで俺を引っ張った。

 

「サスケの試合が終わったら俺は呪印を封印するから、お前はナルトを調べて見てくれ」

「短時間で何か出来るとも思えないけどな」

「お前らしくもない。何をそんな悠長な事を言ってるんだ。何か起こってからだと遅い。この場で火影様の次に術に詳しいのはお前だろ」

「……分かったよ。調べてみる」

 

 

そう答えると、丁度サスケがヨロイを蹴りあげていたところだった。上空へと蹴り上げられたヨロイに対して、連続で蹴りを放っていく。最初の蹴りは防がれたが、続く蹴りに反応できず顔面に喰らい、そこへサスケが追撃で腹部へと殴ることで地面への落下速度を加速させ、地面へと到着すると同時に、地面と挟むようにして胸へと蹴りを放った。

 

しかし、蹴りを放った後のことを考えていなかったのだろう。サスケも攻撃後に蹴りの反動で、その場から弾け飛ばされていたが、息を荒くしながらも、ゆっくりと立ち上がり、ハヤテによって勝利者宣言が成される。

 

カカシは終わるや否やサスケの元へと移動していた。俺は大蛇丸が現れる前にさっさと解印をしてしまおう。

 

「ナルト、ちょっとお前も一緒に来い」

「何だってばよ?俺ってば試合まだなんだぞ」

「第二試合はザク・アブミ対油女シノです。両者は降りて来て下さい」

 

タイミング良くハヤテが次の対戦を全員に伝える。ザクとか言う下忍は両手からチャクラで空気を作り出すという、これまた便利な術を持っていたはずだ。それでもシノには悪いが、試合は見なくても余裕で勝てるだろう。

 

「お前の試合じゃないから良いだろ。すぐに終わらせるさ」

「分かったってばよ」

 

ナルトを納得させ、試験会場から少し離れた一室に連れて行く。既にカカシはサスケを座らせて術式の構築を初めていた。

 

「なあヨフネの兄ちゃん、何だってサスケもいるんだってばよ?」

「お前も大蛇丸に会ったんだろう?サスケは奴に術を掛けられたからカカシが術を封印しようとしてんのさ」

「え!!あの蛇野郎か?」

「まあちょっとややこしい奴でな、お前もあいつに何かされてないか見てやるために連れて来たんだ。とりあえず上着を脱いで全力でチャクラを練ってみろ」

「何か分かんないけど分かったってばよ」

 

ナルトがチャクラを練ると八卦封印とそれを覆う様に五行封印も浮き上がって来た。八卦封印は四象封印を二重にかけた非常に強力な封印だが、ナルトの成長に合わせて引き出す事の出来る九尾のチャクラも増加するように組まれているようだ。しかし、偶数の封印式の上から奇数の五行封印をしているため、本来ならチャクラを思い通りに練れないはずだ。元々多くのチャクラを持っているナルトだからこそ、なんとか戦えているのだろう。やっぱり腹が立つな。

 

「あーあ、お前……このままじゃ死ぬぞ?」

「な、ナンダッテーーー!」

「まあ、幸い俺なら助けてやることもできるがな」

「先にそれを言ってくれってばよ。ヨフネの兄ちゃん早く助けてくれってばよ!!」

「分かった分かった。そのままリラックスして全力でチャクラを練ってろよ」

 

ナルトはさきほどよりも必死にチャクラを練り始めた。俺は五指にチャクラを込め、それを何の警戒もしていないナルトの腹へ打ち込んだ。

 

ーーー五行解印!

 

「ゴホッ!……な、何すんだってばよ!」

 

衝撃で思わず身体をくの字に曲げたナルトが恨めしそうな顔で文句を言ってきた。

 

「まあまあ、大蛇丸の術を解いてやっただけだって」

「でも何にも変わって無いってばよ?」

 

チャクラが練りにくくなってたのに、その鈍感さが凄いよ。

 

「ま、とりあえず治してやったから会場に戻って休んでろ。いつ呼ばれるかも分かんないぞ」

「うー、大人は勝手だってばよ」

 

そう言いつつ上着を拾ったナルトはすごすごと会場へと戻って行った。そしてどうやらカカシも準備が整ったようだ。

 

ーーー封邪法印!!

 

床に描かれた文字が生き物のように床を這い、肩にある呪印へと集まって行く。かなりの苦痛が伴うはずだが、サスケは身動ぎせずに耐えている。

 

しかし、封印が呪印を取り囲んだ瞬間、サスケは床へと倒れ込んでしまった。そして、封印に集中していたカカシは気付かなかったようだが、招かれざる客が現れてしまった。

 

「あら二人ともそんな術が使えるようになったなんて、成長したわね」

「あんた!」

「お久しぶりね、カカシ君」

「……大蛇丸」

 

声をかけられてから気付いたカカシが咄嗟にサスケを守るように大蛇丸の前に立ち塞がった。

 

「君達に用はないのよ。あるのはその後ろの子」

「なぜサスケを付け狙う」

「君は良いわよね、もう手に入れたんだから」

「なに?」

「昔は持ってなかったじゃない、それ。その左目の写輪眼」

 

大蛇丸の目的はやはり写輪眼か。しかし、なんだってサスケのに拘るんだ?この世界ではほかにも生き残りがいるというのに。

 

「私は欲しいのよ。優秀なうちはの力がね」

 

何も言っていないのにご丁寧に教えてくれた。なんだって悪役はこうもおしゃべりなのか。せっかくなんで追求させてもらうけどな。

 

「なるほど……お前の新たな器に耐えられるだけの優秀なうちはを求めているのか?」

「全く……アンコもおしゃべりね」

 

大蛇丸はそう言うとサスケに向かって歩を進め始めた。

 

「それ以上、サスケに近づくな!!」

 

ーーーチチチチチチチチチチチッ!

 

カカシはすぐに千鳥の構えをとり、辺りに鳥のさえずりのような音が鳴り響き、大蛇丸は足を止めた。

 

「いくらあんたがあの伝説の三忍でも、今の俺とヨフネならあんたと刺し違えるくらいのことはできるぞ」

「フフフ、でもヨフネ君の方はそうは思っていないみたいよ。カカシ君、君すること言うこと全てズレてるわよ」

「なに?」

「そんな封印したってまるで意味ないわ。分かるでしょ?目的のためならどんな邪悪な力であろうと求める心、彼はその資質の持ち主なのよね」

 

なるほど、大きな心の闇を持つ人物というのが、サスケに当てはまったのか。というかカカシ、お前勘が鈍ったんじゃないか?こいつには今の俺ら二人じゃ勝てないよ。俺を巻き込むんじゃない。

 

「いずれ彼は必ず私を求める」

 

そう気味の悪いセリフを残すと大蛇丸は背を向けた。

 

「それに君達が私を殺すんだって?やってみれば?できればだけど」

 

そう言った途端、辺りにとんでもない殺気が満ち、一瞬で自分が殺される幻覚を見てしまった。

 

ーーやっぱバケモンだわ、この人。

 

俺らが一瞬硬直した隙に大蛇丸は姿を消していた。分かってはいたが、森での戦闘の際は手を抜いてやがったな。

 

「ハハハ、刺し違える?馬鹿か俺は」

 

硬直が解けた後、俯いたカカシが呟いた。でも、これで諦めてもらっては困る。

 

「そうだな、お前は馬鹿だ。あいつと刺し違えるというなら、その写輪眼をもっと磨け。お前はまだその真価を知らな過ぎるぞ」

「どういうことだ?」

「全く、今までは俺が言ったって聞かなかったくせに……写輪眼にはその上があるんだ。お前なら使えるだろ。今度シスイにでも教えてもらえ」

 

 

 

 

それから、下忍たちに気取られないようにカカシと二人で会場に戻ると既にシノの第二試合は終わっていた。シノは俺が今戻ってきたのを見て不機嫌そうだ。

 

「すまんすまん、でも勝ったんだろ?信頼の証だよ」

「無傷で勝った」

「そうか」

「一撃も喰らわなかった」

「……そうか」

「幻術も成功した」

「褒めて欲しいのか?」

「……別にそういうわけではない」

 

シノは顔を背けながらそう言うが……男のツンデレなんて誰が得するんだよ。

 

 

 

 

 

戻ってきてからも、何事もなかったかのように試合は続いた。第三試合は剣ミスミ対カンクロウとなった。ミスミとかいうやつは、関節を自由に外して軟体化できるという術を使うが、あまりにも活用方法がない。結果として、カンクロウのカラクリにあっけなくやられてしまった。

 

第四試合は春野サクラ対山中いのとくノ一同士の戦いとなった。お互いに根性は見せたが、決定的な術を持たない二人の試合は、酷い泥試合となった。山中一族は他人の援護があって初めて活躍できる技が多い。同時にノックダウンしたが、あまりにも見所のない試合となった。

 

第五試合はテンテン対テマリとまたしてもくノ一同士の戦いになった。しかし、二人とも前の試合に比べるとかなりの使い手である。テンテンは時空間忍術の才能はあるが相性が最悪だ。やはり砂の三人は下忍の中で圧倒的に強いようだ。

 

第六試合は奈良シカマル対キンとなった。シカマルは頭脳プレイによって、敵を倒したが贅沢を言えばもっと決断を早くすべきだ。だが下忍という点を加味すれば猟犬として頑張ってもらいたい人材だ。

 

 

 

そして、次の戦いが電光掲示板に表示される。

 

『イヌヅカ・キバ VS ウズマキ・ナルト』

 

「うっひょおおラッキー!」

「こら油断するなよ」

「はいはい、分かってますよ」

 

格下と見ているナルトとの組み合わせが発表されると、キバが思わず喜びの声を上げた。原作では負けてしまうし、念を押しておこう。

 

「もう一度言う、油断するな」

「お、おう」

 

俺の圧力に負けるように返事をすると、キバは赤丸と共に飛び降りていった。

 

「おいキバ!子犬なんかここに連れてくんな!試合の邪魔だってばよ!」

「バカヤロー、赤丸も一緒にやんだよ」

 

それを聞いたナルトが審判に抗議するが、動物や虫は忍具と同じ扱いであるため、当然抗議は認められなかった。

 

「それでは第七試合、始め!」

 

試合開始早々、キバと赤丸は獣人分身を行い、さらに煙玉を使って匂いを頼りに攻撃を仕掛けた。そのため、ナルトは煙の中で防戦一方である。自分に有利な条件を整える、俺が叩き込んだ鉄則の一つだ。

 

しかし、成長したのはキバだけでは無いらしい。

 

煙が晴れるとキバが三人になって現れた。隙を突こうとナルトが変化したのだ。だが、そんなことで騙される俺の部下ではない。キバは匂いで判別して、すぐに殴り飛ばした。

 

それ以上にナルトも考えたようだ。殴り飛ばされた瞬間に赤丸に変化することで混乱させるつもりらしい。

 

「騙されるかよ、馬鹿」

 

キバはそう言うと立っているもう一人のキバに対してハンドサインを出した。

 

ーーー目標 ヲ 追撃 セヨ

 

すると二人が同時に倒れている赤丸に対して攻撃を仕掛ける。もし、立っているのがナルトであれば出遅れてしまうだろう。その時は引き返して隣にいる敵に仕掛けるだけだ。もし倒れている赤丸がナルトであった場合、遠慮することなく攻撃すれば良いだけである。

 

「うえ?!ちょ、ちょっと待てってばよ!」

 

やはり倒れていたのはナルトであった。躊躇なく迫り来るキバと赤丸に驚いたのか、変化を解いて攻撃を回避する。しかし、初撃を避けられたからといって逃がすキバではない。赤丸とのコンビネーションで徐々に追い詰めていく。

 

すると覚悟を決めたのか逃げていたナルトがキバ達に向かいあった。

 

「ここで負けるわけにはいかねえってばよ!」

 

そう言って影分身の印を結んだナルトから九尾チャクラが漏れ出し始める。

 

「何をやったってお前の負けだナルト!」

 

そう言ってキバが殴りかかるも、ナルトもただでは転ばない。殴られながらもキバの腹部を蹴り飛ばした。キバは攻撃を予測したのだろう、蹴られながらも自分で後ろに飛んで威力を殺しているが、その顔には中々倒せないナルトへの苛立ちが現れていた。

 

ナルトは何とも泥臭く、九尾の再生力と内包する膨大なチャクラによる体力を活かした戦いをしている。そして戦いの中でさらに九尾のチャクラが溢れ出し始め、腰に下げた竹筒の中でコン平が震えるのがわかった。

 

「くぅーん」

「赤丸分かってるよ。急になんか匂いが変わりやがった」

 

キバと赤丸も何か感じる物があったのだろう、顔つきがさらに険しくなる。

 

「確かにお前は成長したかもしれない。だけどな、俺だって、俺だって毎日死ぬ思いしながら成長させられてんだよ!」

 

おいなんてこと言うんだ、周りの担当上忍からの視線が痛い。

 

そんな俺の心境は知らないキバが印を結ぶと岩が両腕に纏わり付くように現れ、次第に凶悪な手を形成していった。その手は巨大なだけでなく爪が異様に発達し、手の甲からこれまた50センチにもなる巨大な角を生やしている。

 

俺との修行でキバが習得した新たな術

 

ーー土遁・爪突爪(そうとつそう)

 

「な、なんだってばよ、それ」

「これが俺の修行成果だ。行くぜ、せめて死ぬなよ」

 

キバはそう言うと形成された腕で地面を叩くことで、その勢いを利用しナルトへと回転しながら突っ込んで行った。

 

「っくそ!」

 

キバの振るった腕を必死に避けようとしたナルトだが角の部分に当たってしまう。四脚の術で四肢にチャクラを集中させているキバの攻撃力はさらに高くなっており、結果ナルトは壁に打ち付けられた。

 

「へっ俺を舐めるからだ」

 

そう言って得意げにするキバの様子に感化されたのか、試験官であるハヤテがナルトへと近付く。

 

「まだ、やれますか?」

「もう無理だって。ただでさえボロボロだったんだぜ?」

「勝手に決めんなってばよ。俺は……ぜってえ諦めねえ。ここで負けてたら火影になんてなれるもんか。一度口にした事は絶対に曲げない。それが俺の忍道だ!」

 

そう叫びながら、ナルトは再び立ち上がった。

 

俺はその姿を見ながら、かつて見たボクシングの漫画を思い出す。いくらやられても諦めず立ち上がり、逃げずに向かって行く、その姿は人を熱くさせる。いつの間にか、会場はナルトを応援する雰囲気へと変わっていた。

 

「もう良いから眠りやがれ。これ以上やると殺しちまう」

「うるせー、やれるもんならやってみろ!」

 

そう言うと今度はナルトが床に転がった石を巻き上げながらキバへと向かって行く。無意識で九尾チャクラを全開にしているせいか、そのスピードは先ほどとは比べ物にならない。

 

しかし、キバは冷静にナルトに合わせて巨大化された拳を突き出した。

 

ーーーゴッ!

 

なんとナルトはキバの拳に対し避けるのではなく、頭突きで対応し、結果キバの岩が砕けた。

 

「何だと?!」

「おめえの負けだってばよ!」

 

岩が砕けたことに動揺したキバの隙をつき、ナルトがキバを殴り飛ばす。

 

「多重影分身の術!」

 

すぐにナルトは影分身を5体作り出し、キバへと迫る。

 

「俺の新技も見せてやるってばよ!」

 

スライディングしてキバの足元に潜り込んだナルトがキバを蹴り上げ宙に浮かし連撃が始まる。

 

「「「「「う・ず・ま・き・ナルト連弾!」」」」」

 

空中で連撃を受け地面に打ち付けられたキバは気を失った。そして、無情な宣告が告げられる。

 

「勝者、うずまきナルト!」

 

結局世の中はチャクラ次第か、理不尽だ。

 

 

 

 

 

そして、ふと気付く。

 

「ねね、カカシさんやい」

「何だいヨフネさんよ」

「ひょっとして俺ってば解印でナルトを手助けしちゃった?」

「ありがとね」

 

 


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