きみのためならなんでもできる!   作:鬼灯@東方愛!

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あったかい、ってそれだけで

 社長室は、いつもより少しだけ賑やかだった。

 

 明るい髪にサングラス、派手なシャツに無精髭の社長が、ソファにどっかりと腰を下ろしている。

 

 ローテーブルの上にはノートパソコンが置かれ、画面はメンバー側に向けられていた。

 

 メンバーは向かいのソファにぎゅうぎゅうに詰め込まれている。

 

 全員座りきれないので、ユイとヒカルは後ろに立っていた。

 

 座っている三人。

 

 中央にヨシノ。

 上質で控えめな私服、背筋を伸ばして静かに微笑んでいる。

 

 左にミウ。

 ピンクの髪に地雷系コーデ、チョーカーが首元で光る。

 ヨシノに体を寄せて、楽しげに目を輝かせている。

 

 右にレオナ。

 大きめのジャージにキャップ、黒いマスクで口元を隠したまま。

 膝の上に紙袋を置いて、爪先でテープをカリカリと引っかいている。

 走ってきたのか、金髪は一つに結ばれている。

 

 立っている二人。

 ミウの後ろにユイ。

 清楚な私服で、少し落ち着かない様子で指を絡めている。

 

 レオナの後ろにヒカル。

 メンズ寄りの私服で王子様然とした立ち方だが、指先で襟足をいじっている。

 

 社長が、にやりと笑った。

 

「ネット、祭りだぞ」

 

 ノートパソコンがくるりと回される。

 画面に、ずらりとスレッド一覧。

 

 

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【フロデレ】Flor de Leónについて語るスレ57

【あざと可愛い】ミウちゃんマジ地雷www

【これが】ミウヨシについて語るスレ29【公式】

【迫りくる】ユイちゃん大丈夫?【シスコン姉】

【顔の良い女×顔の良い女】レオヨシについて語るスレ17

【家庭的】ヒカルくんマジ王子www

【ドルオタ】ヨシノ様について語るスレ2【お嬢様】

【謎の】レオナとお姉さんについて語ろうぜ3【お隣さん】

【速報】無口無表情系金髪アイドル戌井レオナの修行僧部屋www

【推しの】レオナが読んでる本が知りたい【愛読書】

 

 

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「うわ、立ってる立ってる!」

 

 ミウが目を細めて笑う。完全に楽しんでいる。

 

「え、え……これ……」

 ユイは自分のスレッドタイトルを直視できず、視線を泳がせた。

 

「……家庭的」

 ヒカルがぽつりと呟く。それ以上言葉が続かない。

 

「みなさま、楽しそうで何よりですわ」

 ヨシノは穏やかに微笑むだけ。

 

 レオナは画面を一瞥もせず、膝の上の紙袋と格闘中だった。

 カリ、カリ。

 テープが剥がれない。

 もう一度、同じところを爪でなぞる。

 カリ。

 

 ――バリッ。

 

 乾いた音が響く。

 紙袋が破れた。

 

 ヒカルがびくっと肩を揺らす。

 ヨシノがほんの少し口元を緩める。

 

 レオナは気にせず、マスクを顎まで下ろす。

 破れた袋から大判焼きを取り出し、小さく呟いた。

 

「……いただきます」

 

 もぐ。

 

 ミウが自分のスマホを掲げた。

 

「ねえねえ、掲示板だけじゃなくて、こっちもすごいんだよ」

 

 画面にはファンアート、妄想SS、考察スレへのリンク。

 

「仕事早すぎ!」

 ユイが小さく息を呑む。

 ヒカルも覗き込む。

 

 ミウは一枚のイラストを拡大して、レオナに向けた。

 

「お隣のお姉さんイメージだって。似てるー?」

 

 レオナは一瞬だけ視線を落とす。

 

「……こんなんじゃない」

 

 即答。

 

「えー? じゃあ何が違うの?」

 

 レオナは数瞬考えた後、一言。

 

「……黒い」

 

「は?」

「黒い?」

「性格?」

「腹黒系?」

 

 勝手に解釈が飛ぶ。

 レオナはそれ以上何も言わない。

 

 ヨシノだけが、くすっと小さく笑った。

 

「想像力が豊かですわね」

 

 パン、と社長が手を叩く。

 

「はいはい、そこまで」

 

 サングラスの奥は見えないが、口元は笑っている。

 

「まあ要は、注目されてるってことだ。いい意味でも悪い意味でもな」

 

 肩をすくめて。

 

「適当に気をつけとけよ。解散!」

 

 

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 昼下がりの部屋は、静かだった。

 

 咲姫は敷布団にうつ伏せになり、肘をついてスマホを見ている。

 画面との距離が近い。

 

「……なにこれ」

 

 独り言。

 画面には、“お隣のお姉さん”イメージのファンアート。

 

「私、こんな美人じゃないし……」

 

 指でスクロール。

 

「こんなお洒落な髪の色じゃないし、輪郭シャープすぎるし、目もキラキラしすぎ……」

 

 次に開いたのは妄想SS。

 

「……え」

 

 一行目で眉が寄る。

 

「しないし」

 

 二行目で吐き捨てた。

 

「こんなこと言わないし」

 

 スクロールが速くなる。

 

「展開早すぎるし、感情の溜めがないし、視点ブレてるし……」

 

 完全にプロの目線。

 

「……これは、ない」

 

 言い切った直後、スレッド名が目に入る。

 

【推しの】レオナが読んでる本が知りたい【愛読書】

 

「……え?」

 

 タップ。

 背表紙の写真、装丁の色、候補作家一覧。

 

「……あー……」

 

 指が止まる。

 

「……やだ……」

 

 スマホを放り投げ、布団を引き寄せる。

 もぞ。

 もぞもぞ。

 カタツムリのように丸まる。

 

 ――布団つむり、完成。

 

「……もうホント無理……」

 

 ――しばらくして。

 

「……咲姫?」

 

 聞き慣れた声。

 

「…………」

 

 無視。

 布団つむりは沈黙を選ぶ。

 

「咲姫」

「…………」

 

 ――静かになる。

 

(……帰った?)

 

 恐る恐る、布団を少しめくる。

 顔を出した瞬間。

 

 緑色の目が、すぐそこに。

 

「きゃああああああああ!!」

 

 反射的に叫ぶ。

 

 緑色の目――レオナは、耳を押さえつつ、少し距離を取った。

 

「うるさい!」

 

 バァンッ!

 

 勢いよく襖が開く。

 咲姫の母親が仁王立ち。

 

「何事!? ご近所迷惑でしょ!」

「ご、ごめん……!」

 

 言い終わる前に、母の視線が布団へ。

 

「あ、ちょうどいいわ――干すから」

 

 ばさっ。

 布団、強奪。

 

「ちょっとお母さん!」

「空気も入れ替えときなさい」

 

 ぱたん。

 母、退場。

 

 ――静寂。

 

 咲姫は腕を抱えてしゃがみ込む。

 

「……最悪……」

 

 その時。

 背後からぬくもり。

 

 ――ぎゅっ。

 

「れ、レオちゃっ!?」

 

 振り向く間もなく、背中にひっつく、小柄な体。

 迷いなく詰められた、距離。

 

「さむい?」

 

 あまりにも素朴な問い。

 

 咲姫は言葉を失う。

 

「……ち、違っ」

 

 言いかけたところで、レオナが続ける。

 

「布団、なくなったから」

 

 それだけ。

 理由はそれだけ。

 

 背中に額が軽く当たる。

 体温が、じんわり伝わる。

 鼓動が伝わりそうな、密着。

 

「ちょ、ちょっと……近い……!」

 

 抗議は弱々しい。

 レオナは、離れない。

 

「……あったかい」

 

 満足そうに呟いて、さらに体重を預けてくる。

 

 次の瞬間。

 

「……くぅ」

 

 咲姫は、ぴたりと動きを止めた。

 

「……寝た!?」

 

 走って、食って、寝て。

 小さな獣のような生き物である。

 

 背中から腹に回された腕が、無意識にきゅっと締まる。

 

 あったかい。

 混乱する頭でも、それだけははっきり分かる。

 

「……もう」

 

 言葉が、それ以上出てこない。

 だってこの温度は、引き剥がせない。

 

 だから、ただ――

 そのまま。

 

 ふたりの時間は、

 何事もなかったかのように、

 穏やかに、続いていく。

 

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