雑誌の対談収録。
カメラの前で、ミウはヨシノの腕にしがみついていた。
「ヨシノさま、今日も素敵すぎて、あたしドキドキしちゃう♡」
「まあ。ミウさんこそ、その髪飾り、とてもよく似合っていますわ」
ミウの至近距離からの甘えを、ヨシノは当然のように受け入れている。
完璧な「ビジネス百合」の画角。
スタッフが満足げにシャッターを切る。
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収録が終わり、駅へ向かう道。
カメラがなくても、ミウはヨシノの腕を離さなかった。
「ねえ、ヨシノさま。この前のルームツアーでも言ったけど」
ミウが小首を傾げて、ヨシノを覗き込む。
「今日、あたしの部屋来ない? ヨシノさまなら、いつでも大歓迎だよ♡」
一拍、置いて。
ミウは、少しだけ声を落とした。
「……だって、ヨシノさまがくれたお部屋だもんね」
ヨシノの足が、数拍だけ止まった。
穏やかな微笑みが、彫刻のように固定される。
「……本日は、遠慮いたしますわ」
静かな、拒絶。
「夕刻以降に、家の者が参りますの。家族の用事がございますので」
「えー、残念♡」
ミウはあっさりと引き下がった。
その顔に、落胆の色はない。
拒絶されることには、慣れている。
「では――まだ少し時間がございますし、あちらの公園でお話しでもしませんか?」
ヨシノの提案に、ミウは「うん!」と元気よく頷いた。
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公園。
ベンチに座る老人が、ちぎったパンの端を放り投げていた。
群がる鳩。
「……平和だね、ヨシノさま」
「ええ。素敵ですわ」
ミウが、ヨシノの顔を見る。
「やってみる? 鳩に餌、あげるやつ」
「わたくし、経験がございませんの。ぜひ、ご一緒させてくださる?」
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公園近くのコンビニ。
パンコーナーの前で、ふたりは深刻な顔で対峙していた。
「ヨシノさま、こっち。百円ちょっと。コスパ最強だよ」
ミウが手に取ったのは、一番安いプライベートブランド。
6枚入りで百円。
ミウにとっては見慣れた数字。
指先が、その安っぽい感触を覚えている。
「まあ。ですがミウさん、鳩さんたちも美味しい方が嬉しいのではありませんか? こちらの『生食パン』の方が……」
「ヨシノさま、鳩だよ? すぐ飲み込まれるんだから安いので十分だってば」
「ですが……」
結局、間をとった百六十円の食パンを購入した。
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公園に戻り、袋を開ける。
ミウは慣れない手つきで、パンを小さくちぎった。
(……昔のあたしなら、絶対にやらなかった)
地面に食べ物を放り投げる。
その「無駄」に、指先が少しだけ震える。
それを今、「安全の象徴」であるヨシノと一緒に、浪費している。
意識して、甘ったるい声を出した。
「はいっ、鳩さん、どうぞ♡」
一方のヨシノは、食パンを大切そうに両手で持ち、困ったように首を傾げていた。
「ミウさん、これ、どのように……あ、あら?」
ヨシノがパンをちぎろうとした、その瞬間だった。
上質なオーラと、大きなパン。
鳩たちが一斉にターゲットを定めた。
「ちょ、ヨシノさま!? すごい来てる!」
「まあ! わたくし、そんなに歓迎されて……きゃっ、雀さんまで!」
ヨシノは姿勢が良い。あまりにも良すぎる。
直立不動の姿勢。
肩に鳩。
頭に雀。
足元は鳥の海。
ヨシノは、鳥に突かれても微笑んだまま、動かない。
「ヨシノさま、動いて! 食べられちゃうよ!」
「ミウさん、助けて……いえ、でも、みなさん一生懸命で……ふふっ、くすぐったいですわ」
完璧な令嬢が、鳥まみれになって困り果てている。
あまりにマヌケで、優しい光景。
「――っあはははは! バカじゃないの!? ヨシノさま、鳥の王様みたいだよ!」
ミウは腹を抱えて笑った。
鼻にシワを寄せて。
普段は見せることのない、本当の笑顔。
ヨシノは、肩に乗った鳩の重みを感じながら、ただ、その笑顔を見ていた。
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レオナは、紙袋を抱えて公園の脇を通り過ぎた。
鳥にまみれたヨシノ。
それを指さして笑い転げるミウ。
……。
足を止めたのは一瞬。
すぐに歩き出した。
大判焼きが冷める。
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咲姫の部屋。
パソコンに向かっている咲姫の肩を、無言で叩く。
「ひゃっ……!?」
椅子ごと跳ねる。
振り返った瞬間の、開いた口。
そこに、大判焼きを突っ込んだ。
「……むぐっ!?」
頬が、もふっと膨らむ。
「今日、鳥の王様がいた」
端的すぎる報告。
レオナは自分の分を齧りながら、
机と咲姫の間に無理やり潜り込む。
椅子を後ろへぐいっと押して、自分のスペースを確保した。
「…………」
咲姫はムグムグと必死に咀嚼して、やっと飲み込んだ。
「……何それ?」
「ヨシノ。鳥だらけ」
「ヨシノ……黛さんが?」
「うん。王座」
レオナはそのまま、当然のように咲姫の膝に頭を乗せる。
「2人とも、幸せそうだった」
それだけ言うと。
レオナは、静かに目を閉じた。