きみのためならなんでもできる!   作:鬼灯@東方愛!

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鳥の王様と160円の贅沢

 雑誌の対談収録。

 カメラの前で、ミウはヨシノの腕にしがみついていた。

 

「ヨシノさま、今日も素敵すぎて、あたしドキドキしちゃう♡」

 

「まあ。ミウさんこそ、その髪飾り、とてもよく似合っていますわ」

 

 ミウの至近距離からの甘えを、ヨシノは当然のように受け入れている。

 

 完璧な「ビジネス百合」の画角。

 スタッフが満足げにシャッターを切る。

 

 

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 収録が終わり、駅へ向かう道。

 カメラがなくても、ミウはヨシノの腕を離さなかった。

 

「ねえ、ヨシノさま。この前のルームツアーでも言ったけど」

 

 ミウが小首を傾げて、ヨシノを覗き込む。

 

「今日、あたしの部屋来ない? ヨシノさまなら、いつでも大歓迎だよ♡」

 

 一拍、置いて。

 ミウは、少しだけ声を落とした。

 

「……だって、ヨシノさまがくれたお部屋だもんね」

 

 ヨシノの足が、数拍だけ止まった。

 穏やかな微笑みが、彫刻のように固定される。

 

「……本日は、遠慮いたしますわ」

 

 静かな、拒絶。

 

「夕刻以降に、家の者が参りますの。家族の用事がございますので」

 

「えー、残念♡」

 

 ミウはあっさりと引き下がった。

 その顔に、落胆の色はない。

 拒絶されることには、慣れている。

 

「では――まだ少し時間がございますし、あちらの公園でお話しでもしませんか?」

 

 ヨシノの提案に、ミウは「うん!」と元気よく頷いた。

 

 

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 公園。

 ベンチに座る老人が、ちぎったパンの端を放り投げていた。

 群がる鳩。

 

「……平和だね、ヨシノさま」

「ええ。素敵ですわ」

 

 ミウが、ヨシノの顔を見る。

 

「やってみる? 鳩に餌、あげるやつ」

 

「わたくし、経験がございませんの。ぜひ、ご一緒させてくださる?」

 

 

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 公園近くのコンビニ。

 パンコーナーの前で、ふたりは深刻な顔で対峙していた。

 

「ヨシノさま、こっち。百円ちょっと。コスパ最強だよ」

 

 ミウが手に取ったのは、一番安いプライベートブランド。

 6枚入りで百円。

 ミウにとっては見慣れた数字。

 指先が、その安っぽい感触を覚えている。

 

「まあ。ですがミウさん、鳩さんたちも美味しい方が嬉しいのではありませんか? こちらの『生食パン』の方が……」

「ヨシノさま、鳩だよ? すぐ飲み込まれるんだから安いので十分だってば」

「ですが……」

 

 結局、間をとった百六十円の食パンを購入した。

 

 

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 公園に戻り、袋を開ける。

 ミウは慣れない手つきで、パンを小さくちぎった。

 

(……昔のあたしなら、絶対にやらなかった)

 

 地面に食べ物を放り投げる。

 その「無駄」に、指先が少しだけ震える。

 それを今、「安全の象徴」であるヨシノと一緒に、浪費している。

 意識して、甘ったるい声を出した。

 

「はいっ、鳩さん、どうぞ♡」

 

 一方のヨシノは、食パンを大切そうに両手で持ち、困ったように首を傾げていた。

 

「ミウさん、これ、どのように……あ、あら?」

 

 ヨシノがパンをちぎろうとした、その瞬間だった。

 上質なオーラと、大きなパン。

 鳩たちが一斉にターゲットを定めた。

 

「ちょ、ヨシノさま!? すごい来てる!」

「まあ! わたくし、そんなに歓迎されて……きゃっ、雀さんまで!」

 

 ヨシノは姿勢が良い。あまりにも良すぎる。

 直立不動の姿勢。

 

 肩に鳩。

 頭に雀。

 足元は鳥の海。

 

 ヨシノは、鳥に突かれても微笑んだまま、動かない。

 

「ヨシノさま、動いて! 食べられちゃうよ!」

「ミウさん、助けて……いえ、でも、みなさん一生懸命で……ふふっ、くすぐったいですわ」

 

 完璧な令嬢が、鳥まみれになって困り果てている。

 あまりにマヌケで、優しい光景。

 

「――っあはははは! バカじゃないの!? ヨシノさま、鳥の王様みたいだよ!」

 

 ミウは腹を抱えて笑った。

 鼻にシワを寄せて。

 普段は見せることのない、本当の笑顔。

 

 ヨシノは、肩に乗った鳩の重みを感じながら、ただ、その笑顔を見ていた。

 

 

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 レオナは、紙袋を抱えて公園の脇を通り過ぎた。

 鳥にまみれたヨシノ。

 それを指さして笑い転げるミウ。

 

 ……。

 

 足を止めたのは一瞬。

 すぐに歩き出した。

 大判焼きが冷める。

 

 

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 咲姫の部屋。

 パソコンに向かっている咲姫の肩を、無言で叩く。

 

「ひゃっ……!?」

 

 椅子ごと跳ねる。

 振り返った瞬間の、開いた口。

 そこに、大判焼きを突っ込んだ。

 

「……むぐっ!?」

 

 頬が、もふっと膨らむ。

 

「今日、鳥の王様がいた」

 

 端的すぎる報告。

 レオナは自分の分を齧りながら、

 机と咲姫の間に無理やり潜り込む。

 椅子を後ろへぐいっと押して、自分のスペースを確保した。

 

「…………」

 

 咲姫はムグムグと必死に咀嚼して、やっと飲み込んだ。

 

「……何それ?」

「ヨシノ。鳥だらけ」

「ヨシノ……黛さんが?」

「うん。王座」

 

 レオナはそのまま、当然のように咲姫の膝に頭を乗せる。

 

「2人とも、幸せそうだった」

 

 それだけ言うと。

 レオナは、静かに目を閉じた。

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