タイトルはもう気づいてる人いると思うんですけど、エゴイストサッカーから取りました。
2人にはぴったりすぎて大好きです。
綾小路清隆という男は、神楽移という男を思い出すたびに、ほんの少しだけ人間らしい熱が混ざる。それは恐怖ではなく、ある種の奇妙な高揚感に近いものだった。
そして机の上のスマートフォンが細かく振動した。
画面に表示された発信者は「龍園翔」
綾小路は静かに通話ボタンを押し、耳に当てた。
『……俺だ』
スピーカーから聞こえてくるのは、低く不機嫌そうな、しかしどこか愉しげな龍園の声だった。
「こんな時間に珍しいな、龍園。何の用だ」
『単刀直入に言う。神楽の動きを監視しろ。あのバカが厄介なトラブルに首を突っ込みそうになってやがる』
「神楽を? クラスメイトであるお前や石崎がやればいいはずだ」
『ケッ、言いやがる。あいつが本気で暴発した時、物理的に首根っこ掴んで止められる奴がこの学校に何人いると思う?』
電話の向こうで、龍園がチッと舌打ちをする。
『俺たちの計画はもう始まってんだよ。お前がこの春休みを経て、正式に俺のクラスへ移籍することは確定している。学校側にもクラス間の不和だの何だの適当な理由をつけて承認させた』
「そうか、資金はあるのか?」
『ハッ、せっかく面白ぇことになってんだ。出し惜しみしてる場合かよ。こんなところで下らねぇ挑発に乗って退学になられてちゃ、俺の計画が台無しだ。お前も神楽がここで消えるのは本意じゃねぇだろ、綾小路?』
「…なるほどな。確かにここで退場されるのはオレにとっても都合が悪い」
『だったらさっさと動け。場所は寮への林道だ』
龍園はそれだけ言うと、一方的に通話を切った。綾小路はスマートフォンの画面を消し、上着を羽織って静かに部屋を出た。
彼の胸の中の高揚感が、かすかに火花を散らしたような気がした。
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ホワイトルームで極限まで鍛え上げられた綾小路の肉体をもってしても、神楽の放った一撃は常軌を逸していた。
受け止めた綾小路の両腕は皮膚が裂けて真っ赤な血がじわりと滲み出している。足元のアスファルトは円形に陥没し、凄まじい摩擦熱で白煙が立ち上っていた。
「神楽、これ以上やれば宝泉は本当に死ぬぞ」
綾小路の声は、どこまでも平坦で冷静だった。だがその瞳だけは、目の前を鮮明に観察していた。
神楽の瞳には普段の光など一切残っていなかった。
ただ目の前の敵を駆除するための、暗く、底知れない、漆黒の意志だけが渦巻いている。
「…退けよ」
神楽の声はもはや人間のそれとは思えないほど低く、冷え切っていた。
「そいつはひよりちゃんに手を上げた。俺の…目の前で。生かしておく理由はない」
「落ち着け。もう勝負はついている。それに」
「退けッ!!!」
神楽の踏み込みが綾小路の言葉を遮った。理性を失った怪物にはもはや言葉での説得は通じない。神楽は右拳を引き抜くと同時に、今度は綾小路の顔面に向けて左ハイキックを放った。
綾小路は一瞬で上体を後ろに反らし、その一撃を避けた。神楽の足が通
り過ぎた瞬間の風圧だけで、綾小路の髪が何本か千切れ飛んだ。
(信じられない身体能力だ。やはり純粋な出力だけならオレを上回っているな)
綾小路はバックステップを踏みながら、瞬時に神楽を分析する。
技術がないわけではない。むしろ、無駄な動きが一切ない天性の野生と、限界を知らない肉体が融合した自分とはまた別の人類の最高到達点。
神楽の追撃。今度は凄まじい速度のストレートが綾小路の胸元を襲う。
綾小路はそれを最小限の動きで受け流そうと手のひらを合わせるが受け流しを許さない。ドッ、という重苦しい音が響き、綾小路の身体が後方に数メートル滑り込んだ。
「邪魔すんなら消す」
神楽の全身から立ち上るプレッシャーは、ますます膨れ上がっていく。
このまま戦いが続けば、どちらかが再起不能になるまで終わらない。そして何よりこの場所での騒ぎが学校側に知れ渡れば、神楽の退学は免れない。
綾小路は、神楽の攻撃を回避しながら、静かに最適解を考える。
神楽を物理的にねじ伏せることも不可能ではないが、それには相応の時間がかかり、自身の実力を周囲に完全に晒すことになる。何より神楽の狂気の引き金となっている原因を排除するのが先決だ。
「神楽。よく見ろ」
綾小路は身を翻し、地面に転がっている縄で縛られた椎名ひよりとされている少女の元へと一瞬で移動した。
「触るなァッ!!!」
咆哮とともに神楽が突進してくる。綾小路はその突進よりも早く、少女の乱れた前髪を乱暴に掴み上げ、その顔を強制的に上へと向けさせた。
そして、暗闇の中でもかろうじて街灯の光が届く位置にその顔を晒した。
「目を覚ませ、神楽。お前が命をかけて守ろうとしているその女の顔をよく見るんだ」
「ひよりちゃんに触るな!!」
神楽の拳が綾小路の鼻先数センチのところで、ピタリと止まった。巻き起こった突風が少女の顔を覆っていた髪を大きく払う。
月明かりの下に晒されたその顔は、確かに椎名に酷似していた。
体型や髪型も遠目から見れば見間違えるほどに似ている。
しかし。
「え…?」
神楽の喉から、間の抜けた声が漏れた。
違う。
瞳の形も、鼻の高さも、そして何より彼女から漂う雰囲気が、椎名のそれとは根本的に異なっていた。
縛り上げられ、恐怖でガタガタと震えているその少女は神楽が命よりも大切に思っている、あの穏やかで知的で、本を愛する少女ではなかった。
「コイツは1年Dクラスの生徒だ。宝泉がお前をハメるために、わざわざ椎名に似た体型の女子を用意し、変装させたに過ぎない」
綾小路の声が、神楽の脳内に静かに染み込んでいく。
「…じゃあ、ひよりちゃんは?」
「椎名なら、今頃は自分の部屋で本でも読んでいるだろう。そもそも彼女がこんな深夜に、宝泉たちに易々と拉致されるはずがない。龍園の監視の目もあるからな」
「…………」
神楽は呆然と立ち尽くし、自分の拳を見つめた。
その拳はまだ怒りで小刻みに震えていたが、先ほどまでの殺意は霧が晴れるように急速に引いていった。
「あ…あれ?俺何やって……」
頭を抱え、ふらりとよろめく神楽。
限界を超えて稼働させていた脳と肉体が急激な弛緩によって悲鳴を上げ始めたのだ。
神楽はそのままアスファルトの上に座り込み、深く息を吐き出した。
「なーんだ…ひよりちゃんじゃ、ないんだ。よかった…本当によかった……」
安堵のあまり、神楽の目から涙がこぼれそうになる。
その様子を見て、綾小路は内心でため息をついた。
(本当に椎名のことになると無鉄砲な男だな。だが、だからこそ扱いやすいとも言えるが……)
何はともあれ、最悪の事態は回避された。
綾小路は裂けた腕を整えながら、依然として地面に這いつくばり、血を流している宝泉へと視線を向けた。
「が、はっ……げほっ、ごほっ……!」
数分後、宝泉は自分の腹部を押さえながら、必死に酸素を求めて喘いでいた。これまでの人生で、これほどまでの恐怖と暴力を叩き込まれたことは一度もなかった。
自分こそが最強であり、この学校の連中など全員が生ぬるい温室育ちの雑魚だと信じて疑わなかった。
だが、目の前の神楽移という男は、文字通りの怪物だった。
もし綾小路が止めに入っていなければ、自分は今頃、この世にいなかっただろう。
「宝泉。立てるか」
冷徹な声が宝泉の頭上から降ってきた。
見上げると、神楽の拳を止めた男の綾小路が静かに立っていた。
その瞳には、宝泉への同情も神楽への恐怖も一切ない。ただ淡々とした冷たさだけがあった。
「てめぇ…綾小路…何、すましてやがる……」
宝泉は血を吐き捨てながら、鋭い眼光で綾小路を睨みつける。
神楽だけでなく、その神楽の拳を正面から受け止めて立っているこの男もまた、底が知れない。
「お前が今回仕掛けた計画は、実に合理的だった。神楽の唯一にして最大の弱点である椎名を人質に取る。神楽なら深く考えずに罠に飛び込んでくる。そこを暴力でねじ伏せ、無力化する…計画として悪くない」
綾小路はしゃがみ込み、宝泉と視線を合わせた。
「だが、前提条件が間違っていた。神楽の暴力は、お前たちの手に負えるレベルではない。それがこの結果だ」
「うるせぇ…… ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇぞ…!」
「客観的な事実だ。さて、宝泉。ここで提案がある」
綾小路は懐からスマートフォンを取り出し、画面を宝泉に見せた。
そこには、今回の特別試験のルールと、現在の状況が細かく記録されていた。
「お前は俺を退学に追い込むために、様々な画策をしているようだが…このままでは、お前は神楽に壊されて終わりだ。それはお前にとっても本意ではないだろう」
「あぁ? 何が言いたい……」
「特別試験のペアについてだ。俺は、お前とペアを組む。お前が俺をハメようとしているのは知っているが、それを含めて受けて立とう」
宝泉は目を見開いた。
まさか、自分をこれほどまでに追い詰めた側の人間が、自ら罠に飛び込んでくると言うのか。
「ただし、条件がある」
綾小路は、少し離れた場所でまだぼーっとしている神楽を指差した。
「神楽のペアは、1年Dクラスの成績優秀者である者にすることだ。例えば七瀬だ。これが条件だ。お前が七瀬に指示を出し、神楽とペアを組ませろ」
「……何だと?なんで七瀬を神楽に……」
「神楽の点数は壊滅的だ。この試験を乗り切るためには、優秀な1年生のサポートが不可欠になる。七瀬なら神楽の奇行にもある程度耐えられるだけの冷静さと、高い学力を持っている。そして何より…彼女なら、神楽を監視するのに適役だ」
綾小路の言葉の裏にある意図を、宝泉はすべて理解したわけではなかった。
だが、この状況で拒否権などないことは、身を以て理解していた。
ここで綾小路の提案を断れば、再びあの神楽という怪物の獣が牙を剥く。
悔しいが、今の自分では勝てない。だが負けてやるつもりもない。
「…ケッ、お前と組んでやるよ綾小路。だが、後悔するなよ…テメェを確実に地獄に引きずり落としてやるからな」
「そうか」
綾小路は立ち上がり、ポケットに手を戻した。
「神楽、帰るぞ」
綾小路が声をかけると、神楽は力なく立ち上がった。
「あー、マジで心臓に悪いよ。ひよりちゃん今頃何してるかな…あ、連絡しなきゃ。心配させちゃうし。でも深夜だし怒られるかな……」
先ほどまで世界を滅ぼしそうな覇気を放っていた男とはとても思えない、いつもの駄目男に戻った神楽。
その背中を見送りながら、綾小路は静かに息を吐いた。
(これでひとまずは嵐は去った。だが…)
綾小路の脳裏に、今回の1年生たちの背後に潜む真の敵の影がちらつく。
月城理事長代理、そしてホワイトルームから送られてきたという、刺客の存在。
その牙は、自分だけでなく、神楽移にも向けられているに違いない。
だが自らの平穏を崩そうとする者は、誰であろうと叩き潰すだけだ。
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深夜の特別棟、その一室。
常夜灯の薄暗い光だけが照らす無機質な部屋に、一人の少女が机に腰掛けていた。ツインテールに結った髪を退屈そうにいじっている。
彼女の名は天沢一夏。1年Aクラスに所属している彼女だが、真の顔はホワイトルームの五期生。
綾小路を排除するために、月城によって送り込まれた刺客の一人である。
「うーん、つまんないのー」
天沢は、手元にあるタブレット端末の画面を指先でスクロールしていた。
画面に映し出されているのは、城から送られてきた特別ミッションの詳細情報だ。
「綾小路先輩を退学に追い込んだら、プライベートポイント2000万……ね。うん、それはいいんだけどさ」
天沢はふにゃりとだらしない笑みを浮かべ、画面をさらに下へとスライドさせた。そこには、月城から追加された、もう一つの暗号化ファイルが存在していた。
彼女がそのファイルをタップし、生体認証をクリアすると、画面に一つのプロファイルが表示された。
【ターゲット追加:神楽 移(かぐら うつる)】
クラス:2年Cクラス
「へぇ……神楽移ねぇ、体育祭で綾小路先輩と並ぶ超次元的な記録を出したっていうから、ちょっとは気にしてたけど……」
天沢は、画面に表示された報酬額の数字を見つめた。
綾小路を退学に追い込んだ場合の報酬は、月城から提示された通常通りの額、それでも一般の生徒からすれ夢のような数字だが。
しかし。
「ん…?」
天沢は、思わずその数字を二度見した。
神楽のプロファイルの下に、赤字でデカデカと書かれた報酬額。
【神楽移を退学に追い込んだ場合の追加報酬:50,000,000プライベートポイント】
「ん」
天沢の声が、静かな部屋に響き渡った。さすがの彼女も、この数字には目を見開かざるを得なかった。
五千万プライベートポイント。
この学校において、Aクラスでの卒業を確約される2000万ポイントを凌駕する巨額。
「アハッ、アハハハハハ!!!」
天沢は机を叩いて大爆笑した。
五千万ポイント。これだけのポイントがあれば、この学校のあらゆるルールを捻じ曲げ、クラスごとAクラスに引き上げることも、あるいは他の退学者を全員救い出すことさえ容易に可能になる。
月城がこれほどの額を提示するということは、それだけ神楽移という存在が邪魔であり、同時に危険であるという証拠だ。
彼が学校に存在し続ける限り、綾小路を回収する計画に致命的な狂いが生じる。
だからこそ、手段を問わず、一刻も早く排除したい。月城のその焦りが、この五千万という異常な数字に現れていた。
「いいなぁ、五千万。これ、私が貰っちゃってもいいのかな?」
天沢はタブレットの画面に映る神楽の顔写真を、愛おしそうに、しかし冷酷に指先でなぞった。
「綾小路先輩を退学にさせるのは本命だけど……この神楽先輩を潰すのも、すっごく楽しそう。だって、あの宝泉くんを子供扱いするほどの化け物なんでしょ?そんな強い男が、私の可愛い罠にハマって、絶望しながら学校を去っていく姿……想像しただけで、ゾクゾクしちゃうなぁ」
天沢はツインテールを揺らしながらクスクスと笑い続けた。
「七瀬ちゃんも、宝泉くんも、みんな自分の目的のために動いてるみたいだけど……私は私で、楽しませてもらうよ。ねぇ、神楽先輩?」
暗闇の中で、天沢一夏の悪魔のような瞳が、妖しく輝いていた。
今の所神楽君に惚れてるヒロイン一覧
椎名ひより、軽井沢恵、一之瀬帆波、真鍋志保、伊吹澪、櫛田桔梗