トレーナーと聖蹄祭を回るシオンのお話です。
聖蹄祭の日、トレーナーと会場を回る約束を交わしていたシオン。時間より少し早くに合流した二人は、自分たちなりの距離感で祭りを楽しんでいく。そこには意外な人物たちとの出会いもあり……?
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第1話

 

【1】

 

 平日、少し遅めの朝。少しばかり冷え込む空気の中、悠々とドアを開けて自室を出る。

 腕時計を見ると、時刻は午前9時。いつもであれば、とうに遅刻だ急げなどと焦っている頃だ。では何故そんな余裕なのか、その理由は至ってシンプル。

 

 今日は聖蹄祭。トレセン学園が誇る、秋の一大行事の開催日だからだ。

 

「……ん?」

 

 階段を降りて一階、寮のロビー。

 入口を出てすぐ、建物の前に一人のウマ娘が立っていることに気づいた。

 

「あっ。おはようございます、トレーナーさん」

「シオン……?」

 

 ギョッとする。どうして彼女がここにいるのか。

 いや、今からちょうど会いに行くところではあったのだが。確か、待ち合わせは正門の前だったはず。

 

「すみません、何だか早めに出てきちゃって……せっかくだから、トレーナーさんを迎えに行こうかと」

「そうだったのか。てっきり時間を間違えたかと思った……」

 

 可愛らしい照れ笑いに対して、こちらはホッと胸を撫で下ろす。

 今日は大切な機会だ。わざわざ彼女の方から一緒に回ろうと誘ってもらったのに、遅刻などしていては合わせる顔もなかっただろう。

 よく見ると尻尾もふわふわ揺れている。随分楽しみにしている様子だ。

 シオンがそんなにお祭り好きだとは、ちょっと意外だったが。

 

「じゃあ、さっそく行こうか」

「はいっす」

 

 歩き出すと、足取りの軽いシオンが隣に並ぶ。

 

「クラスのシフト、午後からだっけ?」

「はい。あたしは少し遅めの時間なので、それまでゆっくり見て回れるっすね」

「そっか。それは何よりだ」

 

 学祭となれば、当然生徒たちもクラスや団体ごとに出し物があったりする。シオンのクラスもそれは例外じゃなく、例えば受付など、何らかの役割を交代で担う必要があるわけだ。

 シフトが早い時間なら後で、遅い時間ならその前にまとまった時間ができる。その点、どうもシオンは引きがよかったらしい。

 

 正門前から広場、校舎へと伸びる大通りへ出る。

 たくさんの屋台、色とりどりのテントが立ち並ぶ隙間を、人だかりがびっしりと埋め尽くしていた。

 それなりに覚悟はしていたが、それでもこの風景には毎度圧倒されそうになる。

 

「すごいっすね……まずはどこから回りましょうか?」

「うーん……とりあえず道中のお店を覗きながら、校舎まで行ってみるか」

「そうっすね」

 

 頷くシオンとともに人混みの中へ。中に入ってみれば、確かに人の数は多いが歩けないほどでもない。

 はぐれないよう身を寄せ合い、目的地へ向かって、二人で大通りを進む。

 

「あ、ほらみてこれ。ゴルシ謹製宇宙スケール焼きそばだってっ。ね、行ってみよーよ」

「見るからに量多そうだぞ……ほんとに食べれるか?」

「よゆーだよ。だって、一緒に食べてくれるでしょ?」

「……仕方ないな」

「やった!」

 

 途中で多くの人とすれ違う。そんな微笑ましいカップルの会話なんかも、道すがら聞こえてきたり。

 聖蹄祭をはじめ、トレセン学園のイベントは一般客の参加が認められているものもあまり珍しくない。ウマ娘たちとファンの交流を図ってのことだろうか。

 いずれにせよ、男女が仲睦まじく腕を組んで歩いている光景なんて、敷地内で見られるのはこういう時くらいだろう。

 

「…………いいな」

「シオン?」

 

 ふと後ろを振り返れば、何やらシオンが足を止めていた。

 気になるお店でもあったのかと思いきや、その視線の先にいるのはさっきの……。

 

「もしかして、知り合い?」

「! あ、ちが……いえ、そうかと思ったっすけど、何か違ったみたいっすねー……」

「……」

 

 少し尋ねただけでこの慌てよう。誤魔化そうとして反って裏目に出ている感じだが、一旦その場は深く詮索しないことにした。

 ……やっぱりはぐれそうだよな。

 それよりもそっちの方が気になる。今のタイミングで気づいて振り返らなければ、そのまま見失っていたかもしれないし。

 せめて、手くらいは。

 

「……」

「トレーナーさん?」

 

 それこそ、ここではあまり褒められた行動じゃないだろうな。

 

「ごめん。何でもない」

 

 見つめていた掌を、そっと下げる。

 気を取り直して、今度はなるべく周りをよく見るように配慮しつつ、引き続きシオンと校舎を目指すことにした。

 

 

【2】

 

 果てなく続く人混みを掻き分けて、ようやく校舎の中まで辿り着く。

 途中でいくつかの屋台に立ち寄ったこともあり、その頃にはすでに一時間近くが経っていた。

 

「さすがに、ちょっと大変だったっすね」

「そうだな」

 

 昇降口に設置されたゴミ箱の前。外で最後に食べたクレープの包みを片付けながら、シオンと苦笑いを交わす。

 

「あ、シオン」

「?」

「ここ。クリームついてる」

「!?」

 

 こちらの右頬を指差しながら伝えると、シオンはいそいそとハンカチを取り出す。

 

「い、いつから……?」

「どうだろ。今初めて気づいたし、多分、最後の一口の時じゃないかな」

「っ~~」

「そんなに気にしなくてもいいんじゃないか。お祭りなんだし」

「……そういうことじゃないっす」

 

 微笑ましい気持ちそのままに伝えると、シオンには気まずそうに目を逸らされてしまう。

 クリームは綺麗に拭われていたが、あとには仄かな赤みが残っていた。

 

 ……ちょっと、デリカシーがなかったかな。

 

 もっとさりげない伝え方があったのかもしれない。今の自分には、ちょっと思いつけそうにないが。

 内心反省しつつ、持ってきたパンフレットを取り出す。

 他人事じゃないが、ここまでの移動でシオンも疲れているだろう。喫茶店をやっているクラスなんかもあったはずだし、少し休んでいくのもいいかもしれない。

 

 不機嫌そうに口を尖らせるシオンに促して、いったん手近な教室を目指すことにした。

 

 

 ──────────

 

 

「いやーこれはまた……なかなか迫力があったね」

 

 そんな聞き慣れた声に出くわしたのは、ちょうど本校舎の中に入って間もないタイミングだった。

 

「毅然とせよ。余の臣下(トレーナー)ともあろう者が、よもや作り物などに恐れおののいたわけではあるまい」

「はは、相変わらず手厳しいな」

 

 どうしてか疲れているらしいその声の主に、構わず容赦のない一喝が入る。

 それでも別に言い争いをしているわけではないのだろう。自分の知る限り、あの二人はいつもこんな調子だ。

 

「しかしまあ、それなりの出来ではあったか。姉上に助言を請うただけのことはある──む?」

「!」

 

 黙って立ち去るべきか考えていたところ、獅子を思わせるような鋭い双眸が、突如としてこちらに向けられる。

 

「あれ? どうして立ち止まってるんですか、トレーナーさ──」

 

 ……これは間が悪い。

 自分より少し遅れてやってきたシオン。こちらを心配してか前に進み出てくれるが、その瞬間に彼女と目が合ってしまった。

 金色の暴君オルフェーヴル、およびそのトレーナー。

 まさか、こんなところで鉢合わせることになろうとは。

 

「やあ、偶然だね。二人で聖蹄祭デートかい?」

「さらっとそういうことを言うな。たづなさんや理事長にでも聞かれたらどうする」

「すまない。冗談だよ」

 

 笑って誤魔化される。お前らも大差ないじゃないかと、ついそう言ってやりたくもなったが。

 こんな風に、トレーナー側のやり取りは大体いつも通りだ。レースの世界では敵同士、とはいえ、日常ではそれなりに付き合いのある同期として軽口を交わすこともできる。

 

「っ……」

「……」

 

 問題は、彼女たちの方。

 今のやり取りで少しくらい和んでくれやしないかと期待もしたが、やはりそう甘くはない。

 シオンとオルフェーヴルは、しばらく言葉もなしにじっと睨み合う。

 

「……ふむ、成程。どうやら貴様も、ここの評判を聞いてやってきたようだな」

「……は?」

 

 意外にも、先に沈黙を破ったのはオルフェーヴルの方だった。

 ただあまりにも脈絡のない発言だったので、当然シオンも唖然としている。

 

「このお化け屋敷とやら、姉上の知人が企画した催しでな。存外悪くはなかった。時を割いて立ち寄るだけの価値はあろう」

「お化け屋敷って……」

 

 シオンたちにつられ、自分もすぐ隣の教室を見る。

 ……どうして今まで気づかなかったのか。

 大きな黒の横断幕に、飛び散った血を思わせるような赤ペンキ。よく見れば秋らしくカボチャのランタンも飾ってあるが、それさえ妙に迫力があり、不気味な感じを醸し出している。

 

「あ、あたしたちは別に……お化け屋敷なんて、興味ないですし」

 

 ゴクリと、誰かが息を呑む。シオンが抗議したのはその直後だった。

 

「何だ、臆したか?」

「……!」

 

 彼女の言葉を遮るように、オルフェーヴルは嘲笑うような言い回しをする。

 

「これしき、余に挑むだけの気概を持つ者ならば容易いと思ったが……ふ、存外、見込み違いであったか」

「なっ……誰が、臆してなんて」

「ほう? ならばどうする」

「…………」

 

 もう明らかに会話の流れがおかしくなっている。傍から聞いていればそれは明らかだったが、オルフェーヴルのこの余裕を崩さない態度がそうさせるのだろうか。

 シオンの横顔は、もう真剣そのものだった。

 

「トレーナーさん、行きましょう」

「えっ。いや、でも……」

 

 振り返るやすぐに、シオンはこちらの手を掴んでずんずん進み始める。

 向かう先は、やはりというべきかお化け屋敷の受付。

 

「すみませんっ、あたしたちも参加させてもらえませんか!」

 

 はっきりとした声をかける。その姿は堂々としているようで、実際は何だか空元気にも見えた。

 いや、この際、一緒に参加するのは別にいいのだが。

 

「だ、だいじょうぶ……あ、あたし、だって……」

「二名様、ご案内でーす!」

 

 受付のウマ娘に促され、深い暗闇の中へ足を踏み入れる一瞬。

 青ざめる横顔に、自分はその曖昧な記憶を確信する。

 

 この子、怖いのは苦手だったよな?

 

 

【3】

 

「ひぃっ!!?」

 

 教室内へ足を踏み入れてから、おそらく一分もしないうち。

 あいさつと言わんばかりに上から落ちてきたのは、一分の一スケールの骸骨人形。

 最初に悲鳴を上げたのは、やはりシオンの方だった。

 

「と、トレーナーさ……こ、これ……」

「……よく、出来てるな」

 

 自分も流石にびっくりした。多分手作りだろうが、ボロボロのくすんだ白骨に土のような汚れまでついて、まるでどこかに打ち捨てられていたものが動き出したかのような、そんなリアルな演出が成されている。

 学祭のレベルか、これが。

 開幕からすでにこのクオリティ。シオンはぴったり後ろにくっついていて、その震えがダイレクトに伝わってくる。

 

(早く終わらせた方がよさそうだな……)

 

 引き返すのは原則禁止。ならば立ち止まっていても埒が明かない。

 こちらが進み出せばシオンもついてくるだろう。そう思って、暗がりへもう一歩を踏み出そうとする。

 

 ヒュッ

 

「ひゃぁっ!!?」

 

 二度目の悲鳴。ほとんど同時に視界のすぐ横を何かが横切る。

 ワイヤーで吊り下げられた、あれもまた何かの人形だろうか。それが再び天井へ戻って──

 

 ギュゥゥゥ……メキメキメキ……

 

「ぐはっ……!?」

 

 突如、胸の辺りに強烈な力が加わる。

 それは全方位から包み込むようにして、徐々にこちらの骨と内臓を圧迫していく。

 まるで、背中側から鯖折りを掛けられているような状況だった。

 

「し、しお……くる、し……」

「えっ? ……わ、あぁっ!?」

 

 息も絶え絶えに呼び掛けると、あっさりと拘束から解放された。

 

「す、すみません! 大丈夫ですか、トレーナーさん!?」

「あ、ああ……何とか……」

 

 あと数秒遅かったら、本気で骨の何本かはやっていたかもしれないが。

 

 とりあえず息を整える。だんだん落ち着くに従って、状況も理解した。

 逆鯖折りの掛け手はシオン。多分、先ほどの飛来物に驚くあまり、反射的に前を歩いていた自分に抱きついてしまったのだろう。

 字面だけなら、まあ実に微笑ましいのだが。

 

「…………ほんとにすみません。次からあたし、もう少し離れて歩きますから」

「……」

 

 咄嗟のことでは、その膨大な力の加減も誤ってしまう。彼女もそれを理解しているのだろう。

 できれば受け止めてやりたいが、自分ではそれも難しい。

 

 ……やっぱり、平気じゃないんだろうな。

 

 しょんぼりと頭を下げながら、その身体はずっと震えている。

 後ろを振り返れば、暗闇はまだ長い。おそらくまだ序盤といったところだろう。

 得体の知れない恐怖。その中を、彼女は何の頼りもなしで……。

 

「ほら、シオン」

「……え」

 

 姿勢を正して、後ろのシオンに右腕を伸ばす。

 

「怖かったら、腕、捕まっててもいいから」

「でも、あたし、さっきみたいに……」

「平気だって言っただろ。それに、多分この方が歩きやすい」

 

 精一杯笑ってみせる。それでも、こちらの強がりを察してか、シオンはなかなか近付こうとしなかったが。

 

 ガラガラガラ……ッ

 

「ッ……!!」

 

 通り過ぎた骸骨が振動しながら、凶悪な物音とともにこちらを振り返る。

 ほとんど同時に、シオンは前のめりに一歩を踏み出した。

 

 キュッ

 

「!」

 

 あの一体にどれだけのギミックを仕込んでいるんだ。

 そう呆れる隣で、シオンはしっかり伸ばした腕に抱きついていた。

 

「……」

「シオン?」

「あ、いえ……すみません……やっぱり、このまま」

 

 遠慮がちな声が聞こえてくる。

 同意するように、自分は歩調を合わせてゆっくり歩き出した。

 

「……不思議っす」

「?」

「こうしていると、何だか、さっきまで怖かったのが嘘みたいで」

 

 そう話すシオンの声は、とても穏やかな響きをしていた。

 腕越しに伝わってくる震えも、徐々に収まっていく。

 

 ……流石にちょっと、照れくさいか。

 

 程々の力で、けれどしっかり身を預けるシオンから、無意識に視線を逸らす。

 受付で聞いたところによると、教室内での事故防止のため、一組目が終盤に差し掛かるまで次の客は入れない方針になっているそうだ。

 互いの体温が伝わるほど、ぴったり密着したトレーナーとウマ娘。

 スタッフの子たちに見られてしまうのだけが気になるが、それはもう仕方がない。

 

「……ふふ」

 

 経緯はどうあれ、これはシオンの一つの挑戦だ。

 そのトレーナーとして、彼女の必死な頑張りを手助けせずにはいられなかった。

 

「思ってたこと、叶っちゃったっす」

 

 

 ──────────

 

 

「……ん?」

「? どうかしたっすか」

「いや、今何か」

 

 そうしてしばらく進んだところ。

 言いしれぬ気配を感じ取って、しばし足を止める。

 

 ガラガラガラ……ガタガタガタタガタッ!!

 

 結果的に言えば、それがよくなかった。 

 振り返ると、そこには自立歩行しながら追ってくるあの骸骨。

 左右両手足をバラバラに動かしながら迫るその姿は、もう不気味どころか気持ち悪いことこの上なかった。

 

「ひっ──ぎゃああああっ!!?」

 

 バキッ

 

 そして、もう何度目かも分からない悲鳴が上がる。

 その中に何か一つ、鈍い物音が重なったような気がした。

 

 

【4】

 

 永遠にも思えるほどの長い暗闇を潜り抜けて、差し込む光の下に立つ。

 出口を潜ったその先は、まるで別世界のようで。

 左手で日の光を加減しながら、張り詰めた神経を解きほぐすように、自分は窓の向こうの爽やかな青空を仰ぎ見ていた。

 

「はぁ……はぁ……ようやく、終わったっす……」

 

 そしてその隣で、シオンはすっかり疲れ果てていた。

 

「なかなかよい反応だ。貴様のその姿、姉上へのいい土産話になろう」

「その言い方……あっ、もしかして」

 

 ぴくりと、シオンが顔を上げる。ようやく気づいたようだ。

 

「くっ……やられたっす……」

「そう気を荒立てるな。褒美として、貴様のトレーナー共々茶を馳走してやる。ついてくるがよい」

「ちょ、またそんな勝手に……言っとくっすけどあたしは」

「まあまあ」

 

 さすがに口論になると思ったのだろう。

 オルフェーヴルのトレーナーがすかさずフォローに入る。

 

「まずは焚きつけるような真似をして悪かったね。オルフェもお姉さんに店の評判を伝えたかっただけで……これでも、申し訳ないと思ってるようだから」

「いや伝わらないっすよ!?」

 

 シオンがこれほど声を荒立てるのも珍しい。よほどご立腹のようだが。

 実のところ、どこかの喫茶店へ連れていくというオルフェーヴルの申し出自体は、そう悪くないと思えていた。

 

「せっかくだし、行ってみたらどうかな」

「! トレーナーさんまで……」

「ちょうど休みたいと思ってたところだし」

 

 シオンにそう促しつつ、今度はその隣へ視線を向ける。

 

「悪い、ちょっとの間シオンのことを頼めるか?」

「え?」

「構わないが……君は来ないのか?」

「ちょっとな」

 

 困惑している様子の二人。だが、あまりこの場で大っぴらに話すことでもないだろう。

 片方にだけ伝わるよう、軽く右肩に触れて状況を知らせる。

 

「あー……なるほど、それは仕方ない」

「え、えっ?」

「じゃあまた後で。なるべく早く合流しなよ」

「ああ」

「な、何なんすか……?」

 

 上手く伝わったようだ。当然、シオンは困惑していたけれど。

 

「行くぞ」

「あ、ちょっと待ってください。まだ」

「あの店それなりに混むからね。急がないと」

「トレーナーさん!?」

 

 二人に連行されるようにしながら、不安げなシオンの姿が遠ざかっていく。

 あとでいくから。そんな思いを込めつつ、三人の姿が見えなくなるまで手を振り続ける。

 

「……行ったか」

 

 やがて一息をついて、一人静かに状況を整理する。

 

 上がらない右肩。いくら力を込めても感覚がない。

 パタンと音沙汰のない右腕は、ただ身体の動きに合わせて無機質に揺れるだけだった。

 

「さて」

 

 これ、保健室で治るかな。

 


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