強さはあるのに惰性で生きてきた主人公が、とある少女と出会ってその少女に何かを託して死ぬ話。



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ある男の『終わり』

 

 

 

 

 

「だ、だめ……お願い、死なないで!!!」

 

 暗い暗い地下通路、そこに小さなステッキを携えた少女の悲壮な声が響き渡る。

 

 その声を聞いたのは誰だろう? 

 少女のそばで半身を無くし、死にゆく男? 

 それとも、地上を破壊せんと迫る大量の虫のような魔物? 

 或いは、魔法を通して遠隔でその光景を見ている者達? 

 

 答えは無い。

 全員聞いていて、全員見ている。しかし、全員聞いていなくて、全員見ていない。

 

 誰もが目にして耳にしているのに、誰もが目を逸らし耳を逸らすのだ。

 

「大丈夫、私は死なないよ」

「本当ですか! よかった、何か手がっ──」

「死なない。人が死ぬのは世界からその痕跡が消えたときだからね。忘れ去られたときとも言える」

「そっ、そんなの意味ない!!! 意味ないんです!!」

 

 今の私ではもう、目の前で泣いている少女の頭を撫でてあげることも、抱きしめてあげることも出来ない。それがとてつもなく悔しい。

 死にかけの私がこの娘にしてあげられる最大限のこと、それは言葉を贈ることだけだろう。

 

「覚えているかい? 私と君が初めて会ったときのことを」

「はい、覚えています! 忘れるはずがありません」

「あの時、君は世界に絶望していた。そんな君が、今となってはこんなにも優しい女の子だ。君ならきっと、私の死から立ち直れる」

「そんなの、貴方がいなかったら!」

「大丈夫だよ。大丈夫、君はとっても強い。何よりもその心が」

 

 彼女なら私の死後も上手く立ち直れるだろう。

 ダメそうな時は、また周りの人が支えてくれる。

 彼女は私には勿体ないくらい良い子だから、きっと色んな人が助け、寄り添ってくれる。友人も、同僚も、後輩や先輩も、もしかしたら彼女を好いている子かもしれない。

 

「だから、だからね。今は笑って見送ってくれないかい? 最後に見るのは、笑った顔がいいんだ」

「──! ずるい、ずるいですよ。そんな事言われたら、泣くに泣けないです………」

 

 そう言って彼女は泣き喚いてしまいたいだろうに、目の縁に涙を携えながら、それでも精一杯の笑顔で応えてくれた。

 

 

「………………いってらっしゃい、先生!」

 

 その顔は今まで見た中で疑いようも無いほどに一番の綺麗さを誇る、とびっきりの笑顔だった。

 

「はっ、ははっ…………ああ、これはいい夢が見られそうだ」

 

 本当に、こんな景色が見れるなら転生も悪いもんじゃないな。

 

 ああ、もうすぐそっちに行くよ■■■、■■■。

 

 瞼を閉じた男の意識は深く深く沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……先生? 先生? ………………おやすみなさい、良い夢を」

 

 少女の拙い、しかし心のこもった子守唄が地下通路に響く。

 だが、その時間も長くは続かない。少女と男だったがモノが身を隠していた地下通路に地上を蹂躙していた魔物が入り込んできた。

 

 少女は立つ

 世界を救う使命があるから

 少女は戦う

 教えてもらった技を使って

 少女は救う

 自分のような人を、生み出さないために

 少女は想う

 自分が救われた、あの日のことを

 

 

 

「先生、見ててくださいね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異世界に転生した。それも多分チートを持って。

 

 最初はそれはもうはしゃぎにはしゃいださ。

 前世では夢物語だった魔法が使えて、弱っちかった武術もメキメキと伸びていったんだから。

 転生先が貴族家だったというのもそれを助長した。それも貴族家の中でも上位の侯爵家。

 これで調子に乗らないはずがない。

 鼻が天狗になるどころか、鼻がキリンの首くらいにはなっていたと思う。

 

 魔法を極めて、武術を極めて──────そして、本当の化け物に蹴散らされた。

 

 極めたと思った魔法もそれの使う魔法の前では児戯に等しかったし、世界一と思っていた武術もそいつには全て見切られ対応された。恐らく、どちらも滅茶苦茶に手加減されていた。手加減されていた上で完膚なきまでに敗北して──────心が折れた。

 

 物語の主人公たちなら悔しさをバネにさらなる高みを目指すのだろうが、僕はそんな殊勝な心構えを持っていなかった。僕にできたのはその化物からできるだけ遠く離れた場所に行くことだけ。

 

 その日、私は生まれ育った屋敷から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 夜逃げした僕は、冒険者として生計を立てた。

 屋敷でキリンの首になるぐらいだった鼻は、屋敷外の危険な世界では充分に通用した。それどころか少しオーバースペックだったくらいだ。

 

「やっぱりあの化物が可笑しいだけだ、あんなバグがいるほうが可笑しいんだ」

 

 屋敷に来た化物についてそう結論づけるのに一ヶ月もかからなかった。

 それに、冒険者として生活していく内に屋敷では得られなかった友人を得ることもできた。

 

 その一人が冒険仲間の魔女だった。

 彼女はずっと屋敷にいたことも相まって世間知らずといって差し支えない僕に様々なことを教えてくれた。

 この世界特有の魔力を使った買い物の仕方と値引き交渉の手口、教会と魔術師ギルドの因縁やそれに巻き込まれたときの対処法、果には上手な夜襲の仕方なんてのもあった。

 

 そんな優しくてほんわかした雰囲気を纏いながらも、何処か抜けたところのある彼女に恋に落ちるのに時間はかからなかった。

 

「え〜〜、そんなに私のことが好きなんですか〜〜〜」

 

 私のアプローチを受けてそんな風にいたずらっぽく笑う彼女に、さらに愛しい感情が湧き上がる。気づけば僕は、そんな愛しい彼女のことを真正面から抱きしめていた。

 

「ええっ!? ちょ、ちょっと!?」

「好きです、結婚して下さい」

 

 驚いた彼女は顔を赤らめて声を上げていたが、そんなことは気にしないとばかりにアプローチを超えたプロポーズをする。

 

「は、はぃ…………よろしく……おねがいします」

 

 殆ど衝動で行ってしまったプロポーズだったが、彼女の尻すぼみになっていく声で成功を告げられる。縮こまってしまった彼女を腕の中に抱きしめながら、私は異世界に来れたことを、存在するかもわからない神様に心の底から感謝したのだ。

 

 

 

 

 

 





以前書いたやつ(notリメイク)を色々つけ足しながら投稿していくつもりです。

対戦よろしくお願いします

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