ゆらぎ荘の呪術師君   作:雨を呼ぶてるてる坊主

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失って知る当たり前の有難さ

さて、仲居さんが慰安旅行に出かけて次の日の朝御飯・・・。最初の当番は、夜々であったのだが・・・。

 

 

「朝御飯出来たー」

 

 

そう報告をする夜々のもとに、ゆらぎ荘の面々は集まったのだがその机の上に置いてある"朝御飯"に全員がポカンとする。

 

 

「えっと・・・夜々ちゃん?」

 

 

「これは・・・。」

 

 

「朝御飯ー。」

 

 

そう首を傾げる陽葵とコガラシに、夜々は至極当然かの様にキョトンとしながら声を上げる。そんな彼女の用意した御飯とは・・・。まさかの、猫缶であった。そんな献立に、流石のコガラシも大声を上げる!!

 

 

「猫缶って、書いてあんぞ!?」

 

 

「せめて、人間用を用意してくれ!!」

 

 

そう言いながら苦情を入れる狭霧とコガラシに、夜々は少しだけ不満げな顔をする。折角用意したのに・・・と不満げの御様子。

 

 

「まぁ、夜々ちゃんも悪気があったわけじゃないから・・・。それに、猫缶も食べれない訳じゃないし・・・。」

 

 

学生時代の五条の悪ノリに付き合わされて、一度だけ家入や夏油と猫缶を食べた事がある陽葵は苦笑しながら食べ始めたのだが、一食目にして陽葵を除いた面々は少しだけ絶望し始めた・・・。

 

 

「取り敢えず、今晩の担当は呑子さんだし・・・。呑子さんの、センスに期待かな?」

 

 

「任せて~!とびっきりのを、用意しちゃうわよー!!」

 

 

そして夜に成り、今夜は呑子の番なのだが・・・。全員は、呑子の手に抱えられているのもを唖然としながら見ていた。

 

 

「呑子さん・・・。」

 

 

「どうしたのー?陽葵ちゃん?」

 

 

「これ・・・。スナック菓子ですよね?」

 

 

「そうよー!!私の御勧めは、柿のシード!!」

 

 

そう言いながら、ガサゴソとスナック菓子を開ける呑子。夜間の糖質に脂質・・・、それがどんな結果をもたらすか美容に詳しい陽葵はやんわり辞退したが、朝飯を食べれなかった面々は渋々手を伸ばす。

 

 

「ねぇ・・・。仲居さんが帰ってくるまでの間、もう僕が全部作ろっか?」

 

 

「それは駄目だ、貴様だけに負担を掛ける訳にはいかないからな。」

 

 

「う・・・。」

 

 

そんな、狭霧の正論に押し黙ってしまう陽葵。しかし、一日目にして夜々と呑子以外の面子はこう思った・・・。

 

 

(仲居さん、早く帰って来て・・・。)

 

 

そうして、全員が絶望しきった日の次の日・・・。今日は、どんな料理が来ても驚かないと決めた陽葵達であったが、そんな彼等の目に前に並んだのは・・・。なんと、アサリの炊き込み御飯というマトモオブマトモな朝食である!!

 

 

「わぁ!凄く美味しそう!!」

 

 

「誰が作ったんだ?」

 

 

そう言いながら目を輝かせる陽葵の隣で、狭霧は少しだけ訝しそうに質問を投げ掛ける。そんな彼女に答えたのは、まさかの幽奈であった!!

 

 

「私です~!」

 

 

「幽霊なのに、料理まで出来るのか!!」

 

 

「いっただきまーす!!」

 

 

そう言いながら嬉しそうに食べようとする、こゆずとコガラシの横で狭霧は顔を青ざめておりそんな狭霧を怪訝に思いながら陽葵も口に入れたのだが・・・。

 

 

「んぐっ!?」

 

 

「ブフォ!!」

 

 

おおよそ美少年が出してはいけない呻き声が、陽葵の口から放たれた。そしてコガラシも、男前フェイスが歪んでしまう程顔を顰めて漫画の様に吹き出してしまう!!

 

 

「こ、これ御醤油じゃない・・・。御砂糖?いや、コーラ?」

 

 

そう言いながら、怪訝そうな顔をする陽葵に狭霧は眉間の皺を揉みながら説明を加えてやる。

 

 

「幽奈は、御供えでしか味が分からないからな・・・。味見が出来なかった結果、こうなってしまったんだろう・・・。」

 

 

「で、でも見た目は中々良いよ?うん・・・。」

 

 

「フォローに成っていないぞ、美空陽葵。全く・・・現状マトモに料理が出来るのは、私と美空陽葵だけのようだな。今日の夕飯は期待しておけ、私が振舞ってやろう。」

 

 

「砂霧ちゃん、御料理できるの?」

 

 

(あなど)るな!誅魔の里に代々伝わる、秘伝のレシピを振舞ってやる!」

 

 

そんな彼女の自信満々な態度に他の面々は今までの流れから不安六割、期待四割の気持ちで夕御飯を待つ事に成った。なったのだが・・・。

 

 

「えーっと・・・。狭霧ちゃん?」

 

 

「む?どうした?」

 

 

「これは一体・・・。」

 

 

そう不安げに聞く陽葵の目の前には、ボコッボコッと不自然に泡立つ謎の物体が置かれていた。そこからは、謎の蔓の様な物も生えていた。

 

 

「裏山で採集した、山菜のカレーだ!!スパイスには、雨野流秘伝の生薬を配合した!!見た目や味に難はあるが、良薬口に苦し!!春には苦みを盛れともいう!!偶にはこういう健康食も良いだろう!!」

 

 

「「「健康・・・食?」」」

 

 

いやまぁ確かに、山菜を摂る事は健康食の一環なのかもしれないが・・・。作ってくれた狭霧には申し訳ないが、特級呪物か何かの念を感じてしまう程だ・・・。

 

 

「ま、まぁ・・・。見た目のインパクトが凄いものほど、美味しいとはよく言うしね。」

 

 

「だ、だな。い・・・いただきま・・・。」

 

 

そう呟きながら、陽葵はそのカレーもどきを口の中に入れ・・・。コガラシと夜々は匂いを嗅いだのだが、コガラシと夜々は、匂いを嗅いだだけでノックアウトし・・・。

 

 

「さ、狭霧ちゃん・・・。改良の余地ありだけど、美味しい・・・よ。」

 

 

まるで某ロボット映画の溶鉱炉の沈んでいくシーンを再現したかの様に、サムズアップしながら穏やかな顔で陽葵は眠りに就いてしまった。

 

 

「ど、どうしたのだ皆!!」

 

 

その現場はまるで、殺人事件現場の様・・・。敢えて名を付けるのなら、『怪異!?味見をしない悲劇──誰も悪くないのに沈黙が訪れた、あの夜のカレー』というタイトルで二時間サスペンスドラマでも作れそうだ。

 

 

しかし数分後、段々意識が覚醒した全員はのそりと体を起き上がらせ口直しに水を一杯飲む事にする。そうして、狭霧もその様子から自分の料理の腕が壊滅的と自覚したのか申し訳なさそうにしている。

 

 

「クッ・・・!!己の技量すら量れていなかったなど、一生の不覚だった・・・!!皆、すまないっ・・・!!」

 

 

「夜々、御腹空いたー・・・。陽葵の、御魚食べたい~・・・。」

 

 

そう悲しそうな顔をしながら、正座をする陽葵の膝に猫の様に顎を乗せる夜々。どうやら、先日の一件から完全に陽葵の料理に虜に成ってしまった様なのだが・・・。

 

 

「うーん・・・。取り敢えず、次はコガラシ君の番だし・・・。頼りにしてるからね・・・。」

 

 

「お、おう・・・。取り敢えず、期待に沿えるように頑張るわ。」

 

 

そうして、厨房に入っていくコガラシ。そして、数時間後・・・。全員の前に、陽葵が御盆を持って料理を並べていく。そこにあった献立とは・・・。

 

 

「あら!ヤマメの塩焼きねー!!」

 

 

「こ・・・!このオーラは一体!?」

 

 

そう驚きの声を上げる幽奈の隣で、狭霧はヤマメの塩焼きを一口食べてみる事にする。その瞬間、彼女の舌の味蕾がヤマメの旨味成分をダイレクトに脳に伝達しにいく!!

 

 

「う・・・美味すぎる!!」

 

 

「やっと、美味しい御飯だよー!!」

 

 

「まるで生きているかの様な踊り串も見事という他ないが、何より火の通り具合が神掛かっている!!この焦げ目の異常なまでの、ムラの無さは何だ!?人の手によってなされた技とは思えん!!冬空コガラシ、貴様一体・・・!?」

 

 

そんな狭霧の、テレビレポーターもビックリなほどの流暢(りゅうちょう)な食レポにコガラシはフフンと自慢げな顔で話す。

 

 

「串打ち三年焼き一生・・・一生をかけ、磨き続け、死の瞬間に極めた焼きの奥義を後世に残さんとする伝説の料理人が居た。その霊に憑りつかれ、修行をさせられた事があってな・・・。」

 

 

そう話す彼のもとには、称賛の声の雨あられが降り注ぐ。最早全員が、砂漠で遭難中にオアシスを発見したかのように喜びの表情を浮かべている。

 

 

「さ、流石過ぎますコガラシさん!!」

 

 

「コガラシ君凄いね!!こんな特技があったなんて、知らなかったよ!!」

 

 

「こんな御魚、僕初めてだよー!」

 

 

「ふ・・・。これは、私の完敗だな!」

 

 

「コガラシちゃん!これ、酒の肴に最高ねぇ~!!」

 

 

そう絶賛の声をその身一つに受けるコガラシだったが、何かを思い出したかのように陽葵の方へと顔を向ける。

 

 

「そういや、陽葵も何か作ったらどうだ?今日、仲居さん帰って来ちまうし。」

 

 

「確かに、僕一人だけ何も作らないのもねぇ・・・。みんな、御腹に入りそう?」

 

 

そう質問を投げ掛ける陽葵の言葉に、全員がまともな物を食べていなかったという事も有ってか全力で首を縦に振る。それもそうだろう、彼等がこの数日間食べたのは呑子のおつまみに先程のコガラシのヤマメ焼きだけだからだ。そんな彼等の様子に苦笑すると、陽葵は厨房の中の冷蔵庫や調味料を物色し始める。

 

 

そうして、なにやら調理を始めて完成したものといえば・・・。ホカホカと湯気を立てる肉じゃがに御味噌汁、塩おむすび。法蓮草(ほうれんそう)胡桃和(くるみあ)えの小鉢であった。

 

 

「召し上がれ。と言っても、コガラシ君の料理の後だと少し地味に映っちゃうかな?」

 

 

「んな事ねぇよ!!滅茶苦茶旨そうだ!!」

 

 

「いただきまーす!!」

 

 

そうして、コガラシに続き陽葵の作った料理を食べ始めるゆらぎ荘の面々だったが・・・。そんな彼等は、一口食べた瞬間目頭を押さえ始める!!

 

 

「え!?みんな、如何したの!?」

 

 

そんな彼等の変化にもしかして美味しく無かったのか?とオロオロする陽葵であったが、そんな彼の予想に反して彼等からは称賛の声が溢れる!!

 

 

「うめぇ・・・。うめぇよぉ・・・。」

 

 

「うっ・・・美味い・・・。」

 

 

「実家のような安心感がするわ・・・。」

 

 

そう、陽葵の作った献立は謂わば実家に久しぶりに帰省した時に、御母さんが『最近元気にしてる?ほら、貴方これ好きだったでしょ?いっぱい作ってるから、遠慮なく食べなさい。』と言いながら出してくれる料理そのものだった。

 

 

「ママ・・・。」

 

 

「御母さん・・・。」

 

 

「お袋・・・。」

 

 

そんな各々の涙を流しながらの呼びかけに、ポカンとしていた陽葵であったがプッと吹き出すと苦笑いをし始める。

 

 

「もー・・・。ママでもないし、御母さんでもないからね?」

 

 

そんな陽葵の言葉に、ゆらぎ荘のガールズは陽葵とコガラシを持ち上げて胴上げをし始める。丁度その時に、ちとせも帰って来たのだが・・・。彼女の目の前では先述の通り胴上げが行われており、ちとせはポカンとしているしかなかった。

 

 

「すみません、皆さん!!ただいま戻りました~・・・。何の騒ぎです?」

 

 

「あ!!仲居さん、お帰りなさい!!」

 

 

「おかえりなさーい!!この数日間、大変だったんだよぉ!!」

 

 

そう言いながらちとせに駆け寄る陽葵とこゆずを、彼女は小さい背でありながら微笑みながら抱きしめて二人の頭を撫でる。

 

 

「そうですか。それにしても、美味しそうな肉じゃがですね。私も食べて良いですか?」

 

 

「勿論!!」

 

 

そうして、帰ってきた仲居さんも交えてゆらぎ荘の面々はコガラシと陽葵の作った晩飯を箸で突きながら、和やかな雰囲気で晩御飯を終えたのだった。

 

 

その夜・・・。久しぶりにお腹がいっぱいになった、ゆらぎ荘の面々は就寝していたが・・・。陽葵は眠れないのか、食器洗いをしていた。そんな彼の隣に、ちとせは佇むとそっと囁く。

 

 

「陽葵君、ありがとうございます。食器洗いまで・・・。」

 

 

「いえいえ、気にしないでください。」

 

 

そう言いながら、ニコニコ食器洗いを続ける陽葵にちとせはかつてここに泊まりに来た若き呪術師達の影を重ねる。そうだ・・・、この子の雰囲気はあの子達に似ていると・・・。

 

 

『はい上がりー。五条、ババ抜き弱すぎだろ!』

 

 

『悟は、顔に出過ぎなんだよね。』

 

 

『仮に五条の目の前にババ抜きの呪霊が現れたら、コイツ何も出来ずにボコられるだろうな。』

 

 

『じゃあ、罰ゲームの皿洗い頑張ってー。あ、仲居さん。今日は悟が皿洗いしますから、休んでていいですよ。』

 

 

そう自分に語りかけながら、悪戯に成功したような顔を浮かべつつ未成年飲酒をする少女と、ニヒルな笑みを浮かべる前髪が特徴的な少年。

 

 

『くそっ!明日こそは、罰ゲーム回避してやるよ!覚えとけよ!!仲居さん、乾燥機って何処ー!?』

 

 

そう言いながら、地団駄を踏む勢いで皿洗いをする白髪のサングラスを掛けた少年。そして、酒を嗜む少女はちとせに花火セットをヒラヒラしながら話し掛けてくれる。

 

 

『仲居さーん。五条の皿洗いが終わったら、一緒に花火しましょうよー。』

 

 

その少女の言葉と共に、記憶の風景はゆらぎ荘の縁側で四人で花火大会をする光景へと変わっていく。色とりどりの花火が光る中、ちとせ達は四人で笑い合いながら花火をしている。

 

 

(あぁ・・・。そういえば、あの後は皆で御庭で花火をしましたね・・・。悟君が線香花火で、結局一番最後まで勝ち残って傑君を煽り・・・。術式を多用した、大喧嘩に発展したんでしたっけ?空中での喧嘩でしたので、ゆらぎ荘は吹き飛んだりしませんでしたが・・・。)

 

 

その記憶に浸りながらクスリと笑ったちとせは、かつて出会った呪術師の卵達の姿を、陽葵の背中についつい重ねてしまう。

 

 

(・・・風の噂で、悟君は高専の教師に。硝子さんは、高専の保険医さんになったと耳にしてますが・・・。傑君は一体、今何をしているのでしょうか?)

 

 

その疑問を、目の前で楽しそうに皿洗いをしてくれる陽葵に投げ掛けようとした。だが、今は野暮だと感じ取ったちとせは、暖かい眼差しを向けながら陽葵の背中を見ていたのだった。

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