12月末。
休養していたローリンとグリーンが栗東へと戻り、チーム・ルミナスは久々に五人全員が顔を揃えていた。
だが、今日の舞台はいつものトレーナー室ではない。
都内の高級ホテルで開催される「URA賞授賞式」。
煌びやかなシャンデリアの下、正装に身を包んだ俺たちの視線の先。
隣には、真珠色のイブニングドレスを優雅に着こなすローリンと、慣れない黒のパンツスーツの襟元を「……チッ、窮屈だね」と何度も直す、男装の麗人のようなタイフウがいる。
そして、ステージの上でまばゆいスポットライトを浴びていたのは、新緑の勝負服からライムグリーンのドレスへと着替えた、我がチームの末っ子だった。
「――最優秀ジュニア級ティアラウマ娘。受賞者は、キョウエイグリーン!」
万雷の拍手の中、彼女は満面の笑みでブロンズ像を受け取った。
ファンタジーSを4バ身差で圧勝し、阪神JFで女王の座を射止めたその実績が、最高の形で証明された瞬間だった。
「……あすかさん、見てください。グリーンちゃん、あんなに堂々として。……私まで鼻が高いです」
隣で拍手を送るローリンが、少しだけ潤んだ瞳で俺を見つめた。
彼女自身もカシオペアSでの独走劇、そして鳴尾記念での死闘を経ている。この栄誉は、間違いなくチーム全員で切磋琢磨し、勝ち取ったものだ。
「ケッ、ガキが先に壇上に上がるとはね。……ま、いいさ。あたしの強さは、あんな銅像がなくたって、砂を被った連中が一番よく知ってる」
タイフウが不敵に笑いながら、けれど誰よりも強く、誇らしげな拍手を送っていた。
由衣さんも、感極まった様子で何度もハンカチで目元を拭っている。
◆1971年の終わりの乾杯
授賞式を終え、栗東に戻った大晦日の夜。
俺たちはトレーナー室でささやかな、けれど今までで一番贅沢な忘年会を開いていた。
外は深々と雪が降っているが、部屋の中は温かい。
テーブルには由衣さんが腕によりをかけた年越し蕎麦やオードブルが並び、中央にはグリーンが持ち帰った記念の盾が、黄金の星のように部屋を照らしている。
「……改めて。グリーン、最優秀ジュニア、本当におめでとう。そして、みんな。激動の一年、本当にお疲れ様」
俺の音頭で、五人のグラスが重なり合った。
カチン、という澄んだ音が、静かな夜のトレーナー室に響く。
「えへへ! この盾、トレーナーさんの部屋の一番いいとこに飾ってよね! アタシが一番頑張った証拠なんだから!」
グリーンが頬を赤くして笑えば、ローリンが「ふふ、来年は私の分も飾ってもらいますから、場所を空けておいてくださいね?」と優雅に微笑み返す。
タイフウはと言えば、「あたしのプロキオンSから始まる伝説、しっかり見とけよ」と、蕎麦をすすりながら早くも1月の始動戦に向けて闘志を燃やしていた。
「……あすかさん。本当にお疲れさまでした」
片付けをしながら、由衣さんが静かに、けれど確かな熱量を持って俺に告げた。
新米トレーナーと、個性豊かな三人のウマ娘。そして彼女たちを支える最高の助手。
1971年。大井での旋風、京都での独唱、阪神での戴冠。
そのすべてが、今、俺たちの絆という一本の線となって繋がっていた。
「……ああ。俺たちの『正解』は、まだ始まったばかりだ。来年は、もっともっと眩しい景色を、みんなで見に行こう」
遠くで、除夜の鐘が鳴り始めた。
ゴーン、と重厚な音が夜気を震わせる。
その音に合わせるように、三人の少女たちが小さな声で呟いた。
「……来年は、桜の女王」
「……一番上の栄誉を」
「……砂の絶対王者」
それぞれの願いが、湯気の中に溶けていく。
1972年。
クラシックの熱狂と、シニア級の重圧が待つ新しい年へ。
チーム・ルミナスの放つ光は、さらなる高み、まだ誰も見たことのない頂へと届くだろう。