ウマ娘競バ史   作:geko

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第73話:地球規模の三冠 ※アメリカンオークス

 12月4週、クリスマスイブ。

 カリフォルニア州、サンタアニタレース場は、着飾った紳士淑女と、GⅠ特有の熱気に包まれていた。

 アメリカンオークス。

 

 パドックには、サンタ帽を被った観客の姿も見える。だが、俺たちの周りだけは、真冬のようなピリついた空気が漂っていた。

 グリーンの距離適性は2000mが守備範囲の端だ。おまけに枠順は11番という外枠。

 

「……随分と端っこに追いやられちゃったね」

 

 グリーンが不満げにゲートを見上げる。

 

「作戦は変わらない。スタートダッシュを決めて、すぐに内に入れ。……外を回らされると、スタミナが持たないぞ」

 

「りょーかい。ま、速攻でハナ奪って、最短距離で逃げ切るだけっしょ!」

 

 彼女は軽くウインクをして、ターフへと向かった。

 その背中には、日本で待つタイフウの無念と、チーム・ルミナスの誇りが乗っている。

 

◆アメリカンオークス(GⅠ・サンタアニタ芝2000)

 

 ファンファーレが鳴り響き、ゲートが開く。

 好スタートを切ったグリーンは、即座に内側へ切り込もうとした。

 だが、現地のウマ娘たちがそれを許さない。

 

「No way!(行かせるか!)」

 

 内枠のラグビーエコーやミリーグッドネスが、壁を作るように殺到し、進路を塞いできたのだ。

 強引に入ろうとすれば、激しい接触は避けられない。それはスタミナの浪費を意味する。

 この国の接触は、勝つための手段じゃない。削るための武器だ。

 

(……もう! ここでも通せんぼってわけ!?)

 

 一瞬、グリーンの表情が歪む。

 このまま競り合うか、それとも引くか。

 迷えばバ群に沈む。絶体絶命のコンマ数秒。

 彼女の脳裏に、日本で見送ってくれた先輩の、秋のレースが頭をよぎった。

 

 内に入れないのであれば、自由な外を走れば良い。

 

(そうだよね、ローリン先輩! 外を回ってでも、リズムを守らなきゃ!)

 

 グリーンはふっと力を抜いた。

 そして、競り合いを拒否するように、あえて外側へと進路を取った。

 

 観客席がざわめく。

 距離のロスが大きい外を回るなんて、スタミナに不安のある彼女にとっては自殺行為に見えたからだ。

 だが、俺には分かっていた。

 ラフプレーで削られるよりも、風を受けて自由に走る方が、彼女のリズムには合っている。

 

(あー、せいせいする! 誰もいない外側なら、邪魔者は風だけじゃん!)

 

 彼女は気持ちよさそうに加速していく。

 競りかけようと構えていたライバルたちは、頭上を越えていく「緑の疾風」に呆気に取られていた。

 無駄な力みがない。スタミナの消費は最小限。

 そのまま彼女は、第4コーナーで悠々と先頭に立った。

 

 直線を向く。

 ここからが、本当のショータイムだ。

 

 グリーンがギアを一段上げる。

 並びかけようとする後続。だが、その差は縮まるどころか、絶望的に開いていく。

 1バ身、2バ身、5バ身……。

 

 7バ身差。

 それはもはやレースではない。彼女が叩きつけた答えだった。

 タイムは2分02秒0。

 彼女は誰にも影を踏ませることなく、クリスマスのサンタアニタを駆け抜けた。

 

◆変則のトリプルティアラ

 

 ゴール後。

 ウイニングランから戻ってきたグリーンは、汗一つかいていないような涼しい顔で、俺に向かっていつものピースサインを掲げた。

 

「……ふふん。どう? あすかさん」

 

 そして彼女は三本の指を立てて見せた。

 日本の桜花賞、秋華賞。そして、このアメリカンオークス。

 

「これで、誰にも文句は言われないでしょ? 『トリプルティアラ』達成だね!」

 

「……ははっ。随分と遠回りをした三冠だな」

 

 俺は苦笑しながら、彼女の小さな頭を撫でた。

 日本で二つ、アメリカで一つ。

 地球規模でかき集めた、彼女だけの変則三冠。

 けれど、その輝きはどの宝石よりも眩しかった。

 

「日本のみんなに、最高のクリスマスプレゼントができたな」

 

「うん! ……早く日本に帰って、先輩たちに自慢してやらなきゃ!」

 

 カリフォルニアの青空の下、グリーンは最高の笑顔で笑った。

 チーム・ルミナス、世界への挑戦。

 その第一幕は、これ以上ないハッピーエンドで幕を閉じた。

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