最高傑作を退学に出来るわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)   作:三次創作()

10 / 10
一応完結です
「こんな結果納得いかねぇ!」って人、いるかもしれませんがその気持ちは胸の中で留めておいてください


最終話:終わる者と始める者たち

 

 

 

四月二十六日。今日は誰もが待ちに待った特別試験の日である。二年生と一年生がパートナーを組み行うという前代未聞の特別試験を前にオレ──────綾小路清隆はどこか落ち着いた気持ちで自席に腰掛けていた。

 

今回の試験、オレは数学の点数のみでクラスメイトである堀北鈴音と競うことになっている。堀北が勝てばオレは本来の実力をクラスの為に使う。オレが勝てば堀北は生徒会に入る。そんな賭けを前にしても、オレの内面に緊張はない。理由は単純かつ明快。オレが負けることはあり得ないからだ。

 

今回の試験はOAAで学力Aと判断されている者でも100点はおろか90点代すら取れるか怪しいと言われているレベルの難易度の元実施される。よって、オレたち二人が満点で同率となることもないと踏んで勝負を持ち掛けてきたのだろう。

 

 

「──────勝負の件、忘れないでちょうだいね」

 

 

一年生時とは違い席が隣同士から離れてしまった堀北が、オレの前まで来た。見上げれば、その顔には自信があるようにも見えるが、ないようにも見える。まぁ、これまでオレの実力を垣間見てきたのだから、自信を喪失するのも頷けるが。

 

 

「ああ。しっかりと全力を出すさ」

「ならいいわ」

「…………自信、あるのか?」

「面と向かってあるとは言えないのが現実ね。ただ、全力を尽くすまでよ」

「そうか」

 

 

数学の点数。たったそれだけで、今後の彼女の運命が決定するのかと思うと、どこか重く感じる。だが、堀北がオレに勝ることは絶対にない。少なくとも、現在においてはな。

 

一端宝泉を封じ込めたお陰でこの試験は乗り切れそうだが、未だ現状を打破出来たわけではない。オレとパートナーを組んだからと言って宝泉がWR生でないと決まったわけでもないしな。龍園と同じ出身地だと言っても、それが本人とは限らない。だが、WR生には杜撰な策だったのを考えれば、現状可能性は低い。天沢は宝泉と組んでオレを嵌めようとしたが、2000万と言う大金が動くのだから、充分納得できる範囲。七瀬は計画的な犯行が目立つが、未だに決定打には欠ける。他にも、椿や宇都宮、怪しい人物は尽きない。

 

だが──────すべて、万全の状態で防ぐのみ。ホワイトルーム(あそこ)に、オレより優れた人間はいないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

そして、五月一日。今日は試験の結果発表の日だ。堀北との勝負も、ここで勝敗が分かれる。と言っても、結果は既に決まっていると言えるが。

 

六限目、普段なら焦る様子を見せない茶柱が、今日はやけに焦っているように見える。何か、想定外の出来事でもあったのだろうか。だが、オレが予測できるものではないのだろう。もしそうなら、オレが思いつかない筈もない。

 

 

「──────これから、特別試験のテスト結果を発表する。一応前にも表示するが、各々確認しやすいようタブレットでも閲覧可能だ………」

 

 

オレはタブレットを開き、特別試験の結果に目を通す。まず確認すべきは、退学者の有無だろう。今回の試験、パートナーとの合計点が500以下の場合、二年生であるオレたちは退学する羽目になるからな。一番低い合計点は──────

 

 

──────?!

 

 

「おいおい…………まじかよ」「え? これまじ?」「ヤバくね?」

 

 

オレがその事実に気付くと同時に、周囲もざわつき始める。当然、だな。最早オレが数学で100点を獲り堀北に勝利したという点よりも、そっちの方が影響は大きい。

 

 

 

 

 

 

 

「─────綾小路清隆。お前は退学だ」

 

 

 

──────一番低い合計点は、393点。オレと宝泉のペアの合計点だ。つまり、アイツはオレの予想と反して今回のテストで0点を獲ったということになる。

 

 

「ちょっと!どういうこと!?」

「清隆。これはどういうことだ」

「綾小路くん」

 

 

堀北や啓誠、波留加たちの視線がオレに突き刺さる。しかし、こうなったときの為にオレはあの行動をした。まだこっちには、宝泉に刺されたという事実がある。堀北と須藤以外は、知る由もないことだが。

 

 

「先生。まだこっちには」

「分かってる。分かっているんだ。しかし…………」

 

 

茶柱と真嶋には、既に宝泉との件は話している。対月城用の仲間だが、彼らがここまでに手を打っていないとは考えずらい。つまり、彼女が見せるあの悔しそうな表情は、その残酷な現実を写しているというわけか。

 

 

「綾小路くん、説明してちょうだい」

「…………までもないだろ」

 

 

──────オレが握っていた宝泉和臣の証拠は、無価値となったということ。本来生徒間でのトラブルは、学校側がその正当性を認めた場合のみ裁判に発展する。だが、月城でも、この事実を揉み消すことは難しいはずだ。となると、生徒会側も裁判を見過ごしたということになる。

 

 

「─────来い、綾小路。もう教室に用はないだろう」

「…………」

 

 

オレは黙って席を立つ。この状況、全て仕組まれていると言うのか?0点を獲るという行為は、宝泉のプライドに反するものの筈だ。つまり、能動的にではなく受動的に行動したということ。だが謎なのは、一体誰がそんなことをしたのかだ。弱みを握られていることを察している以上、七瀬が動くことは考えずらい。なら、天沢か?だが、入ってきたばかりの一年生が月城なら兎も角南雲を支配できると思えない。なら、誰が?

 

三年生、二年生の中にオレの退学を目論む者がいる?それか、オレを退学にすべく実施された特別試験の存在を知り、宝泉に接触したのか?どれもあり得る線だが、オレは一年生の間に目立った成績を残していない。知っただけでは褒賞も出ないだろうから、意味を見出すことは難しいはずだ。

 

 

 

 

「──────すまないな」

 

 

廊下を思考しながら歩いていると、茶柱が呟いた。まさか、この人が謝罪する日が来るなんてな。一年生のオレを散々利用しようとした癖に今更よくそんなことが言えたものだ。

 

 

「今更ですが、今回の試験で点数を買うことことは出来ますかね?」

「出来る。だが、合格圏に達しても1点足りない。それに、必要なポイントは1070万。払えないだろ」

「ですね」

 

 

完全に、詰みか。だが、まだ策はあるかもしれない。無駄に得た知識を使い、オレは懸命に思考する。が、最大の切り札である宝泉の弱みの暴露による裁判発展が対策されている時点で、最早打つ手なしか。事前に契約でもしておけば良かったのかもな。オレはこの期に及んでまだ思考が及んでいなかったのか。

 

 

「理事長と何があるのかは聞かないが、生徒会まで牛耳られているのは想定外だ。対策しなかったのか」

「新一年生相手にあの南雲が言うことを聞くとは思えません。それに、どうやらオレを退学にするための特別試験は、彼から存在を明かされたそうですし」

 

 

2000万、その大金のためだけに動くようなヤツに、こんな芸当は出来ない。それに、南雲が協力となると、恐らく脅したと見るのがマスト。だが、アイツに弱みなどないように思える。

 

 

「──────ここまで来てしまった以上、私にはどうにもできない。すまない」

「あなたの所為ではないですから」

 

 

一年生の中に、南雲を脅すための材料をこの短期間で集め、更に宝泉と七瀬を口車に乗せ協力を取り付け、更にはここまでやるとは思えない月城をやる気にさせた奴がいる。そこまで予想し動けなかったオレの負け、か。ポイントで解決する路が途絶え八方塞がり、どうやらオレはここまでらしい。

 

 

 

 

桜が散り少し寂しくなった並木道を歩く。高育とも、これでお別れか。まだ、やりたいことはあったんだがな。学に言われた『生徒の記憶に残ること』、その為に、色々思い付いてはいた。それに、堀北の成長も、これからは見られない。坂柳とは、誰にも邪魔されない環境でもう一度戦ってみても良かった。龍園も、いつか来る熱いリベンジを期待していた。だが、いくら考えてももう遅い。

 

結局、オレが最後に見たクラスメイトの顔は、どれも残念なものだったな。事態を把握できない堀北、不安を見せる佐倉、若干の怒りを見せる長谷部、悲しい顔をする平田。悪く言ってしまえば、オレも記憶に残れたのかもしれないな。

 

──────視界の上に広がる青い空を見上げてから、オレは再び歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────宝泉和臣。テストで手を抜いたな、お前は退学だぞ」

「ケッ、誰がそんなことになるかよ」

 

 

1-Dの教室、今まさに宝泉を司馬が問いただしている最中だ。だけど、この話し合いは無駄。宝泉は俺──────真弓綾斗が救済するからな。契約は絶対、この世のルールだ。

 

 

「…………うるせぇな。真弓、さっさとしろ」

「ああ。そうだな」

「どういうことだ?」

「──────この2000万ポイントを使って、俺が宝泉を救済します」

 

 

クラス内に溢れるどよめきを無視しながら、俺は手続きを済ませる。その光景を、宝泉はどこか満足気に見ていた。

 

 

「…………これでHRは終わりとする。席についておけ」

 

 

司馬はそう言いながら、教室を後にする。これでようやく、全てが終わった。計画も、すべて上手く行ったしな。態々、実力で勝つ必要なんてない。過程は関係ない、どんな犠牲を払おうが構わない。最後に目標さえ達成していればそれでいい。

 

そうだな、分かりやすく言うのなら、俺は『目的』を見失わない。よく、勇者の魔王討伐に例えられる話だ。よく勘違いしている者がいるが勇者の目的は『世界平和』だ。そして、目標がその中間地点である『魔王討伐』。俺の場合は、目的が『自由を手に入れる』こと。そのために設定した目標が『綾小路清隆の退学』だったにすぎない。

 

そして目標が達せられた今、ここにいる意味はもう残っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「綾小路先生との契約は果たされたらしいな」

「ああ。嬉しい限りだ」

「これでまた、三人で楽しい生活送れるね」

「そうだな。一夏、拓也…………」

「「ん?」」

「これからも、よろしくな」

 

 

天気は快晴、気分は上々。つい数時間前に国の誇る最高教育機関を自主退学したばかりの少年少女の楽しそうな会話が続く。

 

 

「まずはどうしよっか」

「ランチでもどうだ? 都心に行けば何かあるだろ」

「ナイス案拓也」

 

 

春の青い風が彼ら彼女らの背中を撫でる。入学式の日と同じバスに乗り込んだその背中には、希望と夢が詰まっていた。

 

 

 

 

 

──────完

 

 




綾小路篤臣と三人の約束は「もし綾小路清隆を退学に出来たなら、お前たちに生涯干渉しない」といった内容です
篤臣目線、まさか退学に出来るとは思ってなかったし、感情を学ばせるために送り出した()息子が格下相手に嵌められて帰ってくるのも想定外でしょうね
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