マコーラです。ほぼオリキャラです。

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優しい心で見てください。


マコーラが召喚された

 

 石造りの召喚実習場。周囲からは次々と強力な召喚獣たちが呼び出され、華やかな歓声が上がっていた。その中で、僕、アルスだけが泥にまみれていた。

 

「……はぁ、はぁ……っ、出てくれ……っ!」

 

 何度目かもわからない詠唱。床に描いた魔法陣は、一瞬だけ弱々しく光っては、すぐに煤(すす)のように消えてしまう。

 

魔力測定値「1」。

 

貴族の証たる召喚獣を呼ぶための異界魔力は「測定不能」

 

零に近いため測定できないのだろうと言われても、召喚獣は呼べないと言われても、それでも僕は諦められなかった。ただ一人父上だけは僕を信じてくれた。だから、すがるような思いで、喉が裂けるまで言葉を紡ぎ、無謀な再試行を繰り返す。

 

「おい、いつまでやってんだよ。目障りなんだよ、無能」

 

 冷ややかな声と共に、鋭い衝撃が僕の脇腹を抉った。カイル・ヴァン・リスターの蹴りだ。僕はたまらず石畳を転がり、血の混じった唾を吐く。

 

「……まだだ、まだ……僕は……」

 

「しつこいぜ、公爵家の面汚しが。お前みたいなゴミが魔法陣を汚してるだけで吐き気がするんだよ」

 

 カイルは嘲笑いながら、何度も何度も僕の背中を踏みつけた。周囲の学生たちはそれを見てニヤニヤと笑っている。そして、監督役である教師のバルガスはといえば、止めるどころか鼻を鳴らして吐き捨てた。

 

「カイル君、あまり床を汚さないでもらいたいな。アルス、貴様の無様な居残りのせいで私の休憩時間が削られているんだ。さっさと退学届を出して消えろ。無能に費やす時間も予算も、この学院にはないのだよ」

 

 バルガスは僕を人間とも思っていないような冷酷な視線で一蹴した。  屈辱と痛みで視界が赤く染まる。

 

(…絶対呼ばないとだめなんだ!父上の信頼を、僕の努力を笑うこいつらを……この腐った状況を、全部、全部、全部!覆せるように……!)

 

 その絶望が極限に達した瞬間だった。  ――カチッ。  頭蓋の奥で、何かが噛み合う音がした。僕の魂の最深部にある「巨大な空洞」に、誰にも暴かれたことのない何かが接続された感覚。魂の鎖を通じて、情報の奔流が僕の唇を震わせた。

 

「……八握剣異戒神将魔虚羅(やつかのつるぎ いかいしんしょう まこら)……」

 

 無意識に僕がその名を呟いた瞬間、世界が静止した。

 

 ドォォォォォォォン!!

 

 魔法陣から噴き出したのは、光を超えた密度の高い影。学院の結界を粉砕し、地響きを立てて現れたのは、筋骨隆々の白い巨躯。眼のない顔。そして背後で神々しくも禍々しく輝く、法陣。

 

「な、なんだ……!? やれ、炎の獅子! 焼き尽くせッ!」  恐怖を振り払うようにカイルが叫ぶ。彼の召喚獣が猛然と牙を剥き、灼熱の火炎を放った。激しい炎が白い巨躯を包み込む。だが、その召喚獣は避けることさえせず、炎の中に立ち尽くした。

 

 ――ガコン。

 

背後の法陣が一回転する。  

次の瞬間、召喚獣は無造作に右腕の刃を振るった。一太刀。それだけで荒れ狂う火炎は霧散し、炎の獅子は悲鳴を上げる間もなく光の塵となって消滅した。  あまりの光景に、バルガスが杖を落とし、腰を抜かして震え上がる。

 

「な、何だその召喚獣は! 不吉な……アルス、貴様、何を呼び出した! おとなしく拘束されろ!」

 

 バルガスが怯えを隠すように叫び、高位封印術の光の鎖を放った。だが、魔虚羅は退屈そうに鼻を鳴らした。  ――ガコン。

鎖はガラスのように砕け散った。

高位封印術の無効化。静寂に包まれるなか召喚獣はゆっくりと僕を振り返り、初めてその口を開いた。

 

「……ふぅ。やっと静かになったマコね。アルス、お待たせマコ!」

 

「……喋った……?」

 

「おーっと、マコーラが喋るのがそんなに意外マコ? 驚きすぎて顔が面白いことになってるマコよ!」

 

 そこへ、異常事態を察知した応援のエレナ先生が駆け込んできた。彼女は惨状を見て絶句しながらも、僕と召喚獣の間に割って入る。

 

「そこまでよ! アルス君、貴方がこれを……? いえ、今はそれが先じゃないわ。カイル君たちの治療と、この場の安全確保が最優先よ。アルス君、事態が重すぎるわ。貴方と、その……『それ』に、召喚実習場からの即時退去を命じます! 指示があるまで自室で待機していなさい!」

 

 僕は隣にそびえ立つ召喚獣を見上げた。

「……えっと、やつかの……ま、魔虚羅? ……」

 

 召喚獣は翼のような突起をピコピコと動かし、呆れたように首を振った。

 

「『八握剣異戒神将魔虚羅』マコ」

 

「八握剣異戒神将魔虚羅…」

「略してマコーラ様マコ。次間違えたら、その時は適応しちゃうマコよ?」

 

 そしてマコーラは、バルガスをゴミでも見るような目で見下ろし、意地悪く笑った。

「先生たち、運が良かったマコ。マコーラ、今日は優しい気分マコ。……じゃあねアルス、また後でマコ!」

 

 そう言い残すと、マコーラは僕の影の中にどろりと沈み込み、姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寮の自室に戻り、扉に鍵をかける。足元から再び影が立ち上がった。

「……ふぅ。やっと二人きりマコね」  影から上半身だけを出したマコーラが、窮屈そうに僕の部屋を見渡す。

 

「……改めて、自己紹介するマコ。正式名称は『八握剣異戒神将魔虚羅』マコ。マコーラの特技は『適応』マコ。」

 

「……僕は、アルス・エヴァンス。エヴァンス公爵家の長男だ。魔力は『1』しかなくて、異界魔力も測定出来なくてみんなにはバカにされてた。でも、父上だけは僕を信じてくれたんだ。だから、君を呼べて……ホッとしてる」

 

「そのおじさん、見る目あるマコ! さすがマコーラの主さまの親マコねぇ!」  

 

マコーラは影の中で身をよじって笑った。

 

「魔力がないなんて関係ないマコ。君の魂の奥底には、マコーラと響き合う最高の『異界魔力』が眠ってたマコよ。測定器なんていう『ざこ道具』じゃ、主さまを測りきれなかっただけマコ!」

 

「僕の……異界魔力が?」

 

「そうマコ。誰にも見つけられなかった君の価値を、マコーラが証明してあげるマコ」

マコーラは影の中で身をよじって笑い、それから急に、眼のない面を僕へと向けた。

 

「さて、アルス。呼び出したからには『契約』が必要マコ。マコーラをこの世界に繋ぎ止めるための、絶対の儀式マコよ」

 

 

 

僕はゴクリと息を呑んだ。

 

召喚獣との契約。教科書にはこうある。

 

――「召喚者は対価として自らの『異界魔力』を召喚獣へ捧げ、その魂を繋ぎ止めるべし」

 

 高位の召喚獣であればあるほど、要求される魔力は膨大だ。僕のような異界魔力不能の人間が、これほど強大な個体を維持すれば、命すら脅かされるかもしれない。それでも‥

 

「……分かってる。僕の『異界魔力』好きなだけ持っていってくれ。それで君を維持できるなら」

 

 覚悟を決め、僕はマコーラに手を差し出した。

 

「あーっひゃっひゃ! 勘違いしないでほしいマコ、アルス。マコーラほどの神将が、そんな安っぽい魔力をちまちま吸って生きるわけないマコ。マコーラは、自分のエネルギーくらい自分で適応して生み出せるマコよ」

 

「え……? じゃあ、対価はいらないのか?」

 

「いーや、契約には『等価交換』が必要マコ。それがこの世界のルールマコね」

 

 マコーラは影から一歩踏み出し、天井に頭をぶつけそうになりながら、僕の顔を覗き込んだ。その不気味な面に、ニタリと邪悪で愛嬌のある笑みが浮かんだ気がした。

 

「マコーラが求める対価はただ一つ。……この世界にある、一番甘くて大きな**『特盛パフェ』**マコ! 毎日欠かさず、マコーラに捧げるマコよ!」

 

「……えっ? パフェ、だけ?」

 

「『だけ』とは失礼マコ! パフェはこの世の至宝マコ! 異界魔力なんていう渋い味のエネルギーより、生クリームと苺の方が一億倍価値があるマコ!」

 

 公爵家としての誇りも、召喚術の常識も、すべてが崩れ落ちていく音がした。  命を懸けた契約。その対価が、まさかのおやつ。

 

「いいマコか、アルス? マコーラは君を助け、君の価値を世界に証明してあげるマコ。その代わり、君はマコーラの空腹を適応し続けるマコ。これがマコーラ式の『契約』マコよ!」

 

 僕は拍子抜けしながらも、思わず吹き出してしまった。  畏怖の対象だった最強の召喚獣が、今は妙に親しみやすく見える。

 

「わかった。契約成立だ、マコーラ。公爵家の名にかけて、最高のパフェを約束するよ」

 

「交渉成立マコ! さっそく厨房へ案内するマコ。マコーラ、もうパフェの口になってるマコよ!」

 

 父上が信じてくれた僕の可能性。そこに現れたのは、最強の力と、甘いものに目が無い風変わりな性格を併せ持った、規格外の召喚獣だった。

 

 

 

 

翌朝、寮の自室でパフェの調達方法をマコーラと議論していた僕のもとに、エレナ先生が来た。昨日の件で学園長室に呼び出されてしまった。

 

「……マコーラ、隠れてて。」

 

「わかってるマコ。マコーラは影の中でパフェの夢を見てるマコ」

 

 僕は足元の影を一度確認してから、重い足取りで学園長室の扉を叩いた。  

部屋の中には、厳格な表情の学園長と、どこか不安げに僕を見つめるエレナ先生が待っていたそしてその傍らには、昨日の傷を癒したカイルと、彼を庇うように立つバルガスが、憎々しげに僕を睨みつけていた。

 

「よく来たね、アルス・エヴァンス君」

 

 学園長が静かに口を開く。その視線は鋭く、僕の魂まで見透かそうとしているようだった。

 

「昨日の実習場での一件、報告は受けている。魔力『1』の君が、カイル君の召喚獣を一撃で屠り、バルガス先生の封印術さえ無効化する召喚獣を呼び出した、と。……君の成長は喜ばしいことだが‥」

 

「学園長! 成長などという生易しいものではありません!」

 

 我慢できなくなったようにバルガスが身を乗り出した。

 

「あれは禁忌の存在です! 召喚獣が言葉を解し、あろうことか教師に牙を剥くなど、正気の沙汰ではない。アルス、貴様、どこでそんな呪わしい契約を交わした! 対価に魂でも売ったのか!?」

 

 バルガスの怒声が響く。本来、マコーラほどの高位の召喚獣との契約には、膨大な『異界魔力』を継続的に捧げ続ける必要がある。僕のような無能がそれを維持していること自体、彼らには「邪道」にしか見えないのだ。

 

「……契約の対価なら、もう払いました」

 

 僕は震える声を抑えて答えた。まさか「パフェです」とは言えず、言葉を濁す。すると、それまで沈黙を守っていたエレナ先生が、心配する目をして問いかけてきた。

 

「アルス君。正直に話して。貴方が呼び出したあの召喚獣……『八握剣異戒神将魔虚羅』とは一体何なの? 私たちの知るどの古文書にも、あのような異形の名は載っていないわ。貴方の体は大丈夫なの? まさか命を削っているんじゃ……」

 

 エレナ先生の心配は嬉しかった。 だが、その時。

 

(……アルス、こいつら失礼マコ。マコーラを『呪わしい』とか呼ぶなんて、マコーラ今すぐこの部屋を更地にしていいマコか?)

 

 僕の脳内に、直接マコーラの不機嫌な声が響いた。足元の影が、微かに、だが不気味に波打つ。

 

「学園長、先生。僕は何も悪いことはしていません。命を削るようなことも‥。マコーラは、僕が……僕が、ようやく出会えた正当な召喚獣です」

 

「正当だと? 笑わせるな!」  

カイルが顔を真っ赤にして叫ぶ。

「そんな不気味な化け物を連れておいて……!」

 

「カイル君、静かに」  

 

学園長が片手を挙げて場を制した。彼は椅子から立ち上がり、僕の目の前まで歩み寄ってくると、僕の足元の「影」をじっと見つめた。

 

「アルス君。君が何を対価とし、どのような異界魔力を覚醒させたのか……今は問わない。だが、あのような力、制御を誤れば学園そのものが消滅しかねない。……よって、当面の間、君とその召喚獣の行動は、エレナ先生の監視下に置くこととする。いいかね?」

 

 事実上の監視宣告。だが、放逐されなかっただけマシだった。

 

「……承知しました」

 

 部屋を出ると、影の中から「あのヒゲの学園長、マコーラの気配に気づいてたマコ。なかなか油断ならないおじいさんマコね」とマコーラが面白そうに呟いた。

 

「それよりアルス、監視とかどうでもいいマコ。約束のパフェ、早く調達するマコ! 監視されてるスリルの中で食べるパフェは、きっと格別マコよ!」

 

 前途多難。でも、僕の影には最強の(そして最高に食いしん坊な)味方がいる。僕は少しだけ肩の力を抜き、エレナ先生の視線を背中に感じながら歩き出した。

 

 

学園長室を後にしてから、僕の背後には常に一定の距離を保って歩く人影があった。担任のエレナ先生だ。

 

「アルス君、どこへ行くの? 寮へ戻るなら逆方向よ」

 

「え、ええと……少し、購買に用事があって……」

 

 嘘だ。僕の脳内では、影に潜む召喚獣が朝からずっと同じ単語をリピートし続けている。 (パフェマコ。糖分が足りなくて適応能力が鈍るマコ。アルス、今すぐ白いクリームと苺を献上するマコ!)

 

 マコーラの「対価要求」は執拗だった。仕方なく僕は、監視の目を引き連れたまま、学園のカフェテリアへと向かった。  運良く放課後のカフェは空いていた。僕は震える指でメニューを指差し、注文した。 「……特盛イチゴパフェを一つ。あと、持ち帰り用の容器に入れてください」

 

 背後でエレナ先生が不審げに眉を寄せる。

 

「アルス君、そんなに甘いものが好きだったかしら? それに、今は自室待機を命じられているはずよ。こんなところで道草を食うなんて……」

 

「これには……深い、深い事情があるんです‥」

 

 僕は店員から受け取った、山のような生クリームがそびえ立つパフェを抱え、早足で寮へ戻った。エレナ先生は当然のように、僕の部屋の扉の前まで付いてくる。

 

「部屋の中まで入らせてもらうわよ。少し聞きたいことがあるの」

 

 万事休す。  部屋に入った瞬間、僕はパフェを机に置いた。すると、僕の返事も待たずに足元の影がドロリと大きく広がった。

 

「遅いマコ! アルス、待ちくたびれてマコーラの胃袋が消滅するところだったマコ!」

 

 影から勢いよく飛び出したのは、筋骨隆々の白い腕。そして、法陣を背負った禍々しい巨躯の一部。

 マコーラはエレナ先生の存在など一瞥もせず、まるで聖遺物を扱うような手つきで、巨大な刃のついた右腕を使って器用にパフェを掴み取った。

 

「なっ……出たわね! アルス君、下がって!」

 

エレナ先生が瞬時に杖を構え、魔力を練り上げる。

 

「その召喚獣、何をするつもり!? 貴方の命(魔力)を奪おうとしているの!?」

 

「あ、待ってください先生! 違うんです、それは――」

 

 僕の制止も虚しく、マコーラは眼のない面をパフェに近づけると、パカッと大きく口を開いた。  

一瞬だった。山盛りの生クリームも、真っ赤な苺も、マコーラの体内に吸い込まれていく。

 

「ふぅ……。生き返ったマコ。クリームは密度が高くて良い適応だったマコ」  

満足げに法陣をガコンと鳴らす召喚獣。

部屋の中に、沈黙が流れた。

 

 エレナ先生は、杖を構えたポーズのまま固まっている。

「……え? ……食べた?」 「……はい」 「今、あの恐ろしい召喚獣が、イチゴパフェを完食したの……?」

 

 先生の視線が、空になったパフェの容器と、満足げに鼻歌(のような振動音)を鳴らすマコーラの間を往復する。 「アルス君、説明しなさい。貴方はさっき、契約の対価はもう払ったと言ったわね。高位の召喚獣が求める『対価』っていうのは、普通は術者の異界魔力や寿命、……まさか、今の……?」

 

 僕は観念して、うなだれた。

「……はい。マコーラとの契約対価は……パフェです。一日一回の、特盛パフェ」

 

「パフェ……」  

 

エレナ先生の杖が、力なく床に下ろされた。彼女の表情は、驚愕を通り越して「この世の終わり」を見たような虚無感に包まれている。

 

「マコーラを馬鹿にするなマコ! パフェは魂の燃料マコよ、先生!」  

 

マコーラが影の中から顔だけ出して反論する。 「魔力なんていう無機質なエネルギーより、この『あまーい』感覚こそが、異界の神将を動かす最高級の対価マコ。わかったら、明日はチョコバナナパフェを用意するマコ、アルス!」

 

「……アルス君。私、学園長に報告しなきゃいけないのよ? 『あの召喚獣は、パフェで世界を滅ぼしかねない力を行使しています』なんて……そんな報告、書けるわけないじゃない……!」

 

エレナ先生は頭を抱えて座り込んでしまった。

召喚術の常識。それらが「パフェ」という甘い暴力によって、粉々に粉砕された瞬間だった。

 

 


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