戦姫絶唱シンフォギア ――黒姫響の物語―ー 作:マスターKU
血の匂いは、もう懐かしい。硝煙、砂埃、焦げた金属。異国の戦場で立花響はそれらに囲まれて立っていた。
嘗て日本で“守られる側”だった少女は、今や戦場で名を囁かれる存在になっている。
――黒姫。
そう呼ばれる理由を、本人は気にも留めていない。黒い装備、感情を殺した瞳、そして敵を逃がさない判断力。それだけの話だ。
響「……終わったな」
響は瓦礫の向こうに倒れた敵を一瞥し、踵を返した。余計な感傷は不要だ。傭兵に必要なのは、生き残るための冷静さだけ。それでも――胸の奥に、わずかな違和感があった。それは、彼女が日本を飛び出した“理由”に根差している。
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回想
――あの日。
迫害。疑念。「化け物」という視線。
守りたかった。でも、自分がそこにいる限り、家族が巻き込まれる。だから響は選んだ。逃げる事ではない。離れる事を。家を出て、国を出て、名前すら置いてきた。そして辿り着いた海外で、彼女は“力”に出会った。
ガングニール。
本来なら、運命が別の場所で交差するはずだった神器は、戦場の真ん中で彼女を選んだ。
歌はなかった。祈りもなかった。ただ、生きるために――拳を振るった、その瞬間。身体を貫く熱と共に、装者として覚醒した。
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現在
?「……無理してる」
背後から聞こえる声に、響は足を止めた。金色の髪。静かな瞳。嘗て世界を滅ぼそうとした錬金術師――キャロル。今は、響の理解者であり、支援者だ。
響「問題ない。いつもの事だ。」
?→キャロル「“いつもの事”を続けているから、体調が崩れる」
キャロルはそう言って、響の手首にそっと触れた。脈を測る仕草は、妙に自然だ。
響「……ありがとう」
短く礼を言うと、キャロルは微笑む。
キャロル「貴女が無茶をする理由は分かっているつもりよ。でも、貴女はもう一人じゃない。」
その言葉に、響はわずかに視線を伏せた。
――一人じゃない。
海外で出会った仲間。救った少女。守ると誓った命。そして、日本に残してきた“あの人達”。
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別の場所・日本
?「……は?」
通信を聞いた瞬間、雪音クリスは椅子から立ち上がった。
?→雪音クリス「海外で活動してる傭兵?しかも、ガングニール装者?」
胸がざわつく。いや、ざわつくどころじゃない。
雪音クリス「……それ、響だろ」
確信に近い直感だった。
雪音クリス「生きてるなら……会いに行くに決まってんだろ」
その横で、小日向未来は黙って画面を見つめていた。表情は険しい。
小日向未来(……馬鹿)
頼ってくれなかった。何も言わず、消えた。その事実が、未来の胸に棘のように刺さっている。知らなかった。守れなかった。それが、彼女を苛立たせていた。
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遠く離れた空の下。黒姫と呼ばれる傭兵は、静かに空を見上げていた。
響「……もうすぐ、か」
原作とは違う場所。原作とは違う関係。けれど――歌姫達の運命は、確実に交差へ向かって動き出している。それは、“黒姫響の物語”が始まる合図だった。
「最初の覚醒」は、すでに終わっている。これは、“黒姫が帰還した後”の物語だ。