ハリー・ポッターの呪われた双子   作:フォンテ

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第13話 飛行術②

 

 飛行術の授業では、早速トラブルが起きていた。

 グリフィンドール生のネビルは気絶して芝生に寝かせられている。少し離れた芝生には彼が乗っていた箒が真っ二つになっていた。

 

「では、彼を医務室に連れて行きます」

 

 飛行術の教師であるフーチはそう言って、周囲を一瞥する。

 

「それまでは待機しなさい。私の許可なく箒に乗った者は、即刻退学です。さもないと、クィディッチのクを言う前にホグワーツから出ていってもらいますよ」

 

 そう言い残して、彼女はネビルを抱えて校庭を後にした。

 

 残された生徒たちは、付近にいる者と視線を合わせるしかない。

 

 スネイプの授業を受けた後だからこそ感じる。地獄のような厳しさはあれど、安全面の配慮、トラブル対応など、それらが授業によって違いがありすぎた。

 

「……すごかったわね」

「……ああ、実力も、勇気も」

 

 ダフネやセオドールも、実家で飛行術を習ったからこそ、ルークの気持ちがわかっていた。

 たとえ事故が起きようと、治せる怪我として見ているような対応だった。

 それに、まず経験の差が大きい基礎教養科目なのにだ。全ての指示において、どれも全員を一斉に実行させていた。飛行技術はプロ級にあるのかもしれないが、初心者教育としては不適切である。

 

 寮を問わず、賞賛のような視線を浴びながらも、ルークが気にせず戻ってくる。

 

「その、ありがとう」

「俺ができることをやった。それだけだ」

 

 アイラが代表するようにお礼を言った。淡々と返事をしてから、ルークは校舎をちらりと見る。その方向にはすでにフーチの姿は見えない。

 

「さーて、というわけで完全待機だ。どうする、芝生で昼寝でもするか?」

 

 それを言う瞬間には、いつもの愉快そうな表情に戻っていた。

 

「一理ある」

「やることないものね」

「そうしましょう」

 

 ルークはさっさと背中をつけてしまい、セオドールやダフネも芝生の上に座る。

 他に何か指示もないので、アイラも座り込んだ。ふんわりとクッションのようで、しかもお昼寝には最高の天気だった。

 

 立役者がそんな流れを作っているため、あちこちから穏やかな私語が聞こえ始める。

 

 だが、ここぞとばかりに、乾いた笑い声が響いた。

 

「おいおい、見たか?」

 

 マルフォイが、わざとらしく声を張った。

 

「さすがグリフィンドールだな。魔法薬学も、飛行も、ろくにできないなんて」

 

 はははと棒読みしながら、クラッブとゴイルが後ろで頷く。

 

「魔法薬学じゃ、おできを量産、今度は箒で落下か?」

 

 マルフォイは肩をすくめながら歩く。

 ネビルが落ちた場所までいって、落ちてきて真っ二つに折れた箒を拾い上げて、それをクラップに持たせて見せびらかすように歩く。

 

「次は何だ? 階段から転げ落ちるか? おや、これはなんだい?」

 

 何人かのグリフィンドール生が言い返そうとするが、言葉が続かない。

 そこに、芝生を踏みしめる音が近づく。

 

 ハリーだった。

 

 顔は強張り、視線はマルフォイの手にあるものを捉えている。

 ネビルが落とした小さなガラス玉だ。

 

「それを返せ」

 

 低い声だった。

 

「なら、どこか木の上にでも置いておくとしよう。たとえ箒に乗れなくとも、木登りなら届くような場所にね?」

 

 マルフォイはにやりと笑う。

 ゴイルに持たせていた自分の箒を取って、彼はそれに跨って飛んでいく。たとえ見つかって退学にされようとしても、自分は父上の権力でどうとでもなる。基礎どころか、中断すらする飛行術の授業に飽きていたところだ。

 

 このままハリーを見下ろすもよし、ハリーを巻き込んで退学になるもよし。

 

「ほしいなら、取りにこいよ、ポッター」

 

 そんな挑戦状を叩きつける。

 次の瞬間だった。

 

「退学になっちゃうよ!?」

「そうよ! 減点どころか退学よ!?」

 

 ロンやハーマイオニーの制止も聞かず、ハリーは箒に跨り、本能的に浮かぶ。もはや誰の制止も届かない。

 

 マルフォイを追いかけるように、一気に上昇した。

 姿勢はまだまだ荒いが、まず恐れがない。

 

 アイラは、思わず息を呑んだ。

 

 速い。

 初めて箒に乗って飛んでいるなんて信じられないほどだ。

 

 ハリーは空中で方向を変えた。

 マルフォイは鼻を鳴らし、箒を軽く蹴って、逃げるように飛び去っていく。

 

「また問題が起きてるわね……」

「マルフォイの悪い癖もあるが……」

「ぅ……兄がご迷惑を……」

「あそこまで飛ばれると無理だぞ」

 

 すでにルークは素早く立ち上がっていて、ダフネやセオドールも動けるようにしている。大半はマルフォイのせいと言っても、すぐ後先考えないで挑発に乗ってしまうハリーにも、多少の原因があるだろう。

 

 校庭の上空で、2人の影が交差する。

 急旋回、急上昇、そして急降下だ。

 

 そしてなかなか食らいついてくることと、スピードを競うには古びた箒の性能が悪いことに、マルフォイは舌打ちした。箒が熱を出しているかのように、限界が近づいている。このまま根比べして勝負がつけるのは、自分の身が危険である。

 

 ならばとマルフォイは、生徒がいない芝生に向かって、ガラス玉を落とす。

 当然ハリーは、地面すれすれで体勢を立て直して、それを追いかけた。

 

 彼は、落ちてくるガラス玉を掴み取ってみせた。

 着地まで本能的にこなしてみせた。

 

 芝生が大きく揺れる。

 一拍遅れて、拍手とも悲鳴ともつかない声が上がる。

 

 アイラは、ただ呆然と見ていた。

 兄が、あそこまで空を飛べることを初めて知った。

 

 だが、フーチに言われたにも関わらず、箒に乗って飛んでしまった。もしバレれば、兄は退学する可能性が高い。

 

「飛行術の天才だったか?」

 

 ルークが、淡々と評する。

 

「お前がそれを言うのか」

 

 セオドールが、ぼそりと返す。

 

「おいおい、そう言われてもな。俺は退学に怖がって、箒に乗って飛ぶ度胸はないぞ?」

「誰が今、飛んでみせろって言ったのよ」

「……冗談でも…イヤ…」

 

 友人がホグワーツから去っていく姿を想像してしまい、アイラは表情を曇らせる。

 空気を変えるためだったとはいえ、ルークは『悪かった』と素直に頭を下げて謝った。

 

 フーチではなかったが、マグゴナガルが足早に駆けてくる様子が見えた。何かを話していて、やがてハリーの腕を引っ張って連れていっている。

 

「おわっ…た……」

「残念だけど1日目でね」

 

 ロンは顔面蒼白で、ハーマイオニーは諦めている様子を見せた。

 アイラもまた俯いた。

 

「いや? 喜びで興奮していたようだぞ?」

「そう見えたわよね」

「マグゴナガル先生は事情を知らない」

「ぇと……なら、退学の話と違う?」

 

 ルークたちの話を信じて思い返しながら、アイラはまだ希望を持つことができていた。

 

 そのとき、鋭い笛の音が響いた。

 入れ替わるように、フーチが戻ってきたのだ。

 

 マルフォイは、満足そうに口元を歪めた。

 『兄のポッタ―の退学』、そんな予想を思い浮かべているのは明らかだったが。

 

「誰も、箒には乗っていないようですね?」

 

「んなっ!?」

 

 マルフォイは声に出して驚くしかなかった。

 フーチがやってきた廊下は、明らかにマグゴナガルとハリーが通ったはずである。

 

「いいですか?」

 

「その…はい……」

 

 しぶしぶ頷きながらも、マルフォイは感じ取っていた。

 これは完全に黙認だ。授業だと厳格だったマグゴナガルが何を思ったのか知らないが、ハリーだけを特別扱いした。そして何よりも、初めて箒に乗ったのに、自分と同等以上の実力を見せた。

 

 フーチは一度深く息を吸い、声を切り替える。

 

「さて、授業を続けます。箒は、ぐらつかないように押さえ、2メートルぐらい浮上して、それから少し前屈みになってすぐに降りてきてください。笛を吹いてからですよ」

 

 それは定型文なんだろうか。

 しかも相変わらずの全体指示である。

 

「まずは姿勢からよ。背筋は伸ばして、足には力を入れすぎない」

「椅子に座るイメージでいい。握る力も最小限」

「わかりました」

 

 ダフネやセオドールが教えてくれる通りに、アイラは慎重に姿勢を整える。隣ではルークもペースを合わせてくれている。

 

 ハーマイオニーもまた、その指示を絶対に聞き漏らさないようにしていた。たとえスリザリン生であれど、基礎はすでに習得していて、しかもフーチ以上に丁寧な説明だ。

 

「次は、箒を浮かせたい高さを想像して。身体が軽くなる感覚でね」

「まだ浮遊だけだから、姿勢は保つ、視線は前だ」

 

「俺たちはリラックスしてればいいか?」

「そうみたいですね」

 

 アイラは、ふわりと箒が浮く。

 

 ほんのわずかな高さだ。

 それでも、確かな浮遊だ。

 

「……浮いた」

 

 声が震える。

 

「できてますか?」

「ほら、怖くないでしょ」

 

 ダフネはほほえんで、同じ高さで浮いてくれる。

 ルークやセオドールも一緒だ。

 

 前にいるハーマイオニーも箒に乗って浮いている。

 最初に見せていた焦りは消え、多少ふらつきながらも、なんとかバランスを取っていた。ロンは手慣れた様子で浮かびながら、心配そうに見ていた。

 

 まだ指示通り2メートルだって飛んでいない。

 それでもこの浮遊感は楽しい。

 

 まだ兄やマルフォイのように、スピードを出して飛び回ってはいない。

 

「私も、自由に飛べますかね?」

「慣れればとても簡単よ」

「それはいいことを聞いた」

「特訓すれば、どんな天候でも」

 

 兄は、飛行術の天才かもしれない。

 自分は、今やっと浮けたくらいだ。

 

 でもそれでいい。

 双子だからと、気にする必要はない。

 

「もし特訓するときは……」

「一緒にやりましょう」

「僕も参加する」

「こういうのは継続してこそだからな」

 

 だって、自分にはこんなにもすばらしい友人たちがいるのだから。

 

 

 

 

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