外来人。幻想郷で、大工をする。――妖怪たちの褻(け)の日の話――   作:ゴケット

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第2話【序章】赤い髪の給仕と巫女の焼き鳥

 

日が落ちる前に仕事を終えたつもりだったが、人里に着く頃にはすっかり暗くなっていた。

帰りがけに渡された「守矢」と書かれた提灯がなければ、いろいろ危なかったかもしれない。

 

人里を囲う板塀を越えると、木戸番が驚いた表情を見せた。事情を話すと、

 

「守矢の神様はご利益があるねぇ」と、提灯に向かって拝まれた。

 

「したたかだね。早苗も…」

 

情けは人の為ならず、だな。

妖怪除けの無料の加護ではなく、宣伝広告費分の料金――“加護”の代わりだ。

 

下宿先に向かおうとしたが、晩飯の準備がないことを思い出す。

遅くなる仕事の時は夕食を断っていたのだ。

 

「しゃあねぇ、居酒屋にでも寄っていくか…」

 

道具箱を担ぎ直し、灯りの漏れる店を探す。

幸い、何度か入ったことのある店ののれんが揺れていた。

 

「結局、いつもの店なんだよな」

 

のれんをくぐると、威勢のいい女の声が聞こえた。

 

「はい、いらっしゃ…!」

 

頭に大きなリボンをつけた真っ赤な髪の女の声が途中で止まる。

女は空腹なのに、苦手な料理を出された時のような顔になり、

 

「なんだ、あんたか…」

 

と愛想のない一言。

なるほど、ではこちらもそれ相応の対応をしてやろう。

 

「おやじ!!この給仕、態度悪いぞ!」

「お赤!!」

 

厨房に向かって怒鳴ると、店主が間髪入れずに怒鳴り返した。

女は手ぬぐいを巻いた首をすぼめたが、すぐに笑顔(有料)をこちらに向ける。

 

「お疲れ様、お客さん。なんにします!」

 

冷ややかな視線で、お赤は言ってくる。

 

「枝豆と鳥の串盛り、あと…」

 

言葉を止めると、

 

「落ち鮎の一夜干しなんてどうだい。燗にいい季節でしょ!」

「お、いいね。それで頼むよ、赤毛さん」

 

そういうとお赤はハッとしたように左右を見渡した。

他の客たちが各々の話に夢中になっていることを確認すると、長めに息を吐く。

お赤はこちらにしか見えない角度で、まなじりを吊り上げる。

早苗のように、日本人にはない髪色をしているのを気にしているらしい。

 

「私はお赤よ。変なこと言わないでちょうだい」

 

お赤はそれだけ言うと、厨房に注文を伝えに行く。

 

(そう、いうことになっているのか)

 

少しばかり、新しい発見だ。

 

「…」

 

ゴトリと串盛りと燗酒が置かれる。

「オマタセシマシタ」一言もなし。完全に機嫌を損ねたらしい。

 

「鮎は?」

「まだよ」

「愛嬌は?」

「あんたには売り出し御法度」

 

お赤がそっぽを向き、他の客の注文の声に合わせて笑顔に切り替える様子は見事だった。

 

肩を叩かれ、近くにいた男が訳知り顔で言う。

 

「袖にされちまったな、あんちゃん」

「はあ?」

 

近くに座っていた客の男がいつの間にやら隣に座り、うなずいていた。

 

「ああいう、きっぷのいい子はなかなかいないからねぇ」

 

どうやら口説いていたと思われたらしい。

冗談ではない。

 

「あんな女、首が取れたってご免だよ」

 

首元の近くで伸ばした指を振り、首切りのジェスチャーをしながら言った。

しかし男はにやにやと笑いながら、肩を叩くのをやめない。

 

「気にするな、あんちゃん。俺も若いころには…」

 

あ、だめだ。聞き流そう。

沈黙を守ろうと、串盛りに手を伸ばす。

だが、いつの間にか2本が消えていた。

 

疑問に思う間もなく、身の失せた串を皿に戻す白い手。

視線で追うと、紅白の色彩――

和洋折衷の巫女服に身を包んだ巫女が、お赤のほうを見ていた。

 

博麗霊夢だった。

反対の手には、焼き鳥がもう一本。

 

「おいおい、巫女さん。それ俺の…」

 

言い終わる間もなく、霊夢が視線だけこちらに向ける。

 

「あんた、知り合いだったの?」

「え?」

 

現れ方も質問も唐突すぎて戸惑う。

隣の男が何度か腰を浮かせるような仕草をした後、元居た席に戻っていった。

 

こちらが質問の意図を理解していないと察した霊夢が、顔をお赤のほうに向ける。

何かを察したお赤がこちらに振り向く。

お赤と霊夢と目が合ったようだ。

 

「…ッ!」

 

お赤は目を泳がせると、

 

「お、おかわりとってきま~す」

 

誰も注文していない酒を取りに行った。

霊夢の視線が再びこちらに向けられる。

お赤と知り合いだったのかと聞いていたようだ。

 

「ここで会うくらいさ。下宿に近くて便利なんだよ」

 

聞いているのかいないのか。

霊夢の串を持った手が動く。

気が付いた時には、初めからそうであったかのような、空の串。

 

「そう」

 

返事はそれだけ。

酒も勝手に注ぐと、当然のようにお猪口を空にする。

 

「ご相伴に預かったわ」

 

身をひるがえした霊夢。

 

「…」

 

忽然と現れては、風のように去ってしまった。

あまりのことにポカンとしていると、

お赤がゴトリとお銚子を置いてきた。

お赤も霊夢の意図が判らなかったのだろう。聞いてきた。

 

「あんた、目つけられているのかい?」

「さあ…」

「…」

 

お赤も考えあぐねているようで、口を閉ざす。

こちらは勝手に置かれた銚子を見ながら口を開く。

 

「…有料?」

「…もちろん」

 

なんで当たり前のことを聞くのか、と言う顔でお赤が返した。

 




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