外来人。幻想郷で、大工をする。――妖怪たちの褻(け)の日の話―― 作:ゴケット
本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』シリーズの二次創作物です。
Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」「新クトゥルフ神話TRPG」
三冊。
古びてはいるが、
保存状態は思ったより悪くない。
小鈴はほとんど反射的に一冊を手に取り、
何ページか流し読みしたあと、重要そうな箇所へ灯りを寄せる。
古いインクの文字が浮かび上がった。
――一冊目より抜粋――
【昭和○○年 五月二日】
課長へ昇進した。
美代子も喜んでくれている。
健一は意味も分からずはしゃいでいた。
今度の休みは家族で動物園へ行こうと思う。
【昭和○○年 六月十五日】
取引先の紹介で古美術商のW・コービット氏と知り合った。
不思議な人物だ。
年齢がよく分からない。
若く見える時もあれば、
老人に見える時もある。
もっとも、それは照明の加減かもしれない。
【昭和○○年 七月二十三日】
コービット氏を自宅へ招いた。
健一が妙に懐いている。
初対面の相手へあそこまで懐くのは珍しい。
本人の話も面白い。
世界中を旅してきたらしい。
【昭和○○年 九月二日】
コービット氏へ地下室を貸すことになった。
倉庫として利用したいそうだ。
費用は全て向こう持ち。
地下への搬入口まで改修してくれるという。
こちらとしては願ったり叶ったりだ。
【昭和○○年 十月十六日】
地下と居間。
地下と寝室。
それぞれを伝声管で繋いだ。
コービット氏の提案だ。
地下で作業中でも声が届く。
便利なものだと思う。
――二冊目より抜粋――
【昭和○○年 三月十八日】
最近、窓の外の景色がおかしい。
林が見える。
翌日には消えている。
疲れているのだろうか。
【昭和○○年 四月八日】
二階の窓から誰かがこちらを見ていた。
子供だった。
しかし羽が生えていた。
見間違いだと思いたい。
【昭和○○年 四月九日】
昨日のことを美代子へ話した。
何も見ていないと言う。
健一は見たらしい。
私とオナじものを。
【昭和○○年 五月二十七日】
家の周囲に知らない茸がフえている。
コービット氏はキにするなと言った。
【昭和○○年 六月?日】
景シキがまた変わった。
ヤマが近い。
こんなバ所ではなかったはずだ。
【昭和○○年 六月?日】
伝せいカンの向こうで声をキいた。
こーびっと氏ではない。
子どものこえだった。
でも健一はここにいる。
――三冊目より抜粋――
【日付不明】
ケンイチがいなくなった。
モリへイくとイってデたままカエらない。
【日付不明】
ケイサツへレンラクした。
ツナがらない。
【日付不明】
デンワセンはイきている。
なのにツナがらない。
【日付不明】
カッパのようなものをミた。
こちらをカンサツしていた。
【日付不明】
テングと思われるショウジョがいる。
向こうもこちらを観察している。
【日付不明】
ここはどこなんだ。
【日付不明】
こーびっとがいた。
【日付不明】
なぜいえのなかにいる。
【日付不明】
ちかからでてきた。
【日付不明】
ナニカシッテイルハズダ。
【日付不明】
ナゼワラッテイル。
【日付不明】
明日問い詰める。
そこで記録は終わっていた。
しばらく誰も口を開かなかった。
静まり返った物置の中で、
小鈴だけが最後の頁を見つめている。
日記の主は何を見たのか。
コービットとは何者だったのか。
そして――。
問い詰めた結果、どうなったのか。
どこにも書かれていない。
小瓶の中の魔理沙が低く呟いた。
「幻想入り、か」
小鈴はそこで頁を閉じる。
「……『明日問い詰める』ってところで終わってます」
重い沈黙が落ちた。
口を開く。
「居間には伝声管があるって書いてあったな」
まましろも頷く。
「下手に声を出したら、地下や寝室にも伝わるかもしれぬでござるな」
魔理沙が引き継いだ。
「なら、探索を続けるにしても静かに行くしかないか」
日記を元の場所へ戻し、
一行は物置を後にした。
左手の部屋を順に確認していく。
物置の隣は廃材置き場。
その先は土間だった。
そして。
勝手口の前で全員の足が止まる。
「……なんだこれ」
誰かが言った。
差し錠。
一つではない。
二つでもない。
後付けされた差し錠が何本も並んでいた。
小鈴の表情が強張った。
「……これ」
そっと指先で差し錠へ触れる。
「閉じ込めるためというより……」
少し考え、
「“入ってこないように”してた感じですね」
と呟いた。
家主が何かを恐れていた。
そう考える方が自然だった。
魔理沙は勝手口を見ながら短く言う。
「開けとけ」
かなり実戦的な口調だった。
「撤退経路は多い方がいい」
誰も反論しなかった。
勝手口に並ぶ差し錠だけが、
家主の恐怖の大きさを物語っていた。
面白かった、つまらなかった、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。
感想、評価、お気に入り登録を頂けましたら、励みになります。
何卒よろしくお願い申し上げます。