外来人。幻想郷で、大工をする。――妖怪たちの褻(け)の日の話――   作:ゴケット

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このエピソードは、『(旧版)クトゥルフ神話TRPG』ルールブック内のシナリオ「悪霊の家」を参考にして執筆しました。

本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』シリーズの二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
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第27話 ― 崩れゆく三冊の手記

 

 

三冊。

 

古びてはいるが、

保存状態は思ったより悪くない。

小鈴はほとんど反射的に一冊を手に取り、

何ページか流し読みしたあと、重要そうな箇所へ灯りを寄せる。

古いインクの文字が浮かび上がった。

 

 

 

――一冊目より抜粋――

 

【昭和○○年 五月二日】

 

課長へ昇進した。

美代子も喜んでくれている。

健一は意味も分からずはしゃいでいた。

今度の休みは家族で動物園へ行こうと思う。

 

 

 

【昭和○○年 六月十五日】

 

取引先の紹介で古美術商のW・コービット氏と知り合った。

不思議な人物だ。

年齢がよく分からない。

若く見える時もあれば、

老人に見える時もある。

もっとも、それは照明の加減かもしれない。

 

 

 

【昭和○○年 七月二十三日】

 

コービット氏を自宅へ招いた。

健一が妙に懐いている。

初対面の相手へあそこまで懐くのは珍しい。

本人の話も面白い。

世界中を旅してきたらしい。

 

 

 

【昭和○○年 九月二日】

 

コービット氏へ地下室を貸すことになった。

倉庫として利用したいそうだ。

費用は全て向こう持ち。

地下への搬入口まで改修してくれるという。

こちらとしては願ったり叶ったりだ。

 

 

 

【昭和○○年 十月十六日】

 

地下と居間。

地下と寝室。

それぞれを伝声管で繋いだ。

コービット氏の提案だ。

地下で作業中でも声が届く。

便利なものだと思う。

 

 

 

 

 

――二冊目より抜粋――

 

【昭和○○年 三月十八日】

 

最近、窓の外の景色がおかしい。

林が見える。

翌日には消えている。

疲れているのだろうか。

 

 

 

【昭和○○年 四月八日】

 

二階の窓から誰かがこちらを見ていた。

子供だった。

しかし羽が生えていた。

見間違いだと思いたい。

 

 

 

【昭和○○年 四月九日】

 

昨日のことを美代子へ話した。

何も見ていないと言う。

健一は見たらしい。

私とオナじものを。

 

 

 

【昭和○○年 五月二十七日】

 

家の周囲に知らない茸がフえている。

コービット氏はキにするなと言った。

 

 

 

【昭和○○年 六月?日】

 

景シキがまた変わった。

ヤマが近い。

こんなバ所ではなかったはずだ。

 

 

 

【昭和○○年 六月?日】

 

伝せいカンの向こうで声をキいた。

こーびっと氏ではない。

子どものこえだった。

でも健一はここにいる。

 

 

 

 

 

――三冊目より抜粋――

 

【日付不明】

 

ケンイチがいなくなった。

モリへイくとイってデたままカエらない。

 

 

 

【日付不明】

 

ケイサツへレンラクした。

ツナがらない。

 

 

 

【日付不明】

 

デンワセンはイきている。

なのにツナがらない。

 

 

 

【日付不明】

 

カッパのようなものをミた。

こちらをカンサツしていた。

 

 

 

【日付不明】

 

テングと思われるショウジョがいる。

向こうもこちらを観察している。

 

 

 

【日付不明】

 

ここはどこなんだ。

 

 

 

【日付不明】

 

こーびっとがいた。

 

 

 

【日付不明】

 

なぜいえのなかにいる。

 

 

 

【日付不明】

 

ちかからでてきた。

 

 

 

【日付不明】

 

ナニカシッテイルハズダ。

 

 

 

【日付不明】

 

ナゼワラッテイル。

 

 

 

【日付不明】

 

明日問い詰める。

 

 

 

 

そこで記録は終わっていた。

 

 

しばらく誰も口を開かなかった。

静まり返った物置の中で、

小鈴だけが最後の頁を見つめている。

日記の主は何を見たのか。

コービットとは何者だったのか。

 

そして――。

 

問い詰めた結果、どうなったのか。

どこにも書かれていない。

 

 

 

小瓶の中の魔理沙が低く呟いた。

 

「幻想入り、か」

 

小鈴はそこで頁を閉じる。

 

「……『明日問い詰める』ってところで終わってます」

 

重い沈黙が落ちた。

口を開く。

 

「居間には伝声管があるって書いてあったな」

 

まましろも頷く。

 

「下手に声を出したら、地下や寝室にも伝わるかもしれぬでござるな」

 

魔理沙が引き継いだ。

 

「なら、探索を続けるにしても静かに行くしかないか」

 

 

 

日記を元の場所へ戻し、

一行は物置を後にした。

左手の部屋を順に確認していく。

 

物置の隣は廃材置き場。

その先は土間だった。

 

そして。

 

勝手口の前で全員の足が止まる。

 

「……なんだこれ」

 

誰かが言った。

差し錠。

 

一つではない。

 

二つでもない。

 

後付けされた差し錠が何本も並んでいた。

 

小鈴の表情が強張った。

 

「……これ」

 

そっと指先で差し錠へ触れる。

 

「閉じ込めるためというより……」

 

少し考え、

 

「“入ってこないように”してた感じですね」

 

と呟いた。

 

家主が何かを恐れていた。

 

そう考える方が自然だった。

 

 

魔理沙は勝手口を見ながら短く言う。

 

「開けとけ」

 

かなり実戦的な口調だった。

 

「撤退経路は多い方がいい」

 

誰も反論しなかった。

 

勝手口に並ぶ差し錠だけが、

家主の恐怖の大きさを物語っていた。

 

 

 

 




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