外来人。幻想郷で、大工をする。――妖怪たちの褻(け)の日の話――   作:ゴケット

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このエピソードは、『(旧版)クトゥルフ神話TRPG』ルールブック内のシナリオ「悪霊の家」を参考にして執筆しました。

本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』シリーズの二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
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第29話 ― 煙と香り

 

 

ゴツ。

 

何か硬いものが扉へ当たった。

 

『来る』

 

そう理解した瞬間、

身体が逆に動かなくなる。

 

逃げなければならない。

 

分かっている。

 

分かっているのに動けない。

 

その時だった。

 

ぐい、と腕を引かれる。

 

玄万だった。

 

バァン!!

 

凄まじい破壊音が廊下へ響いた。

 

反射的に振り返る。

先ほど、まましろが覗いていた部屋。

その扉が内側から蹴り開けられていた。

そこから、白くてごつごつした梁のようなものが出てくる。

 

先ほどよりも力強く、

半ば強引に寝室へ引き込まれる。

 

「っ――」

 

直後。

 

玄万が寝室の扉を閉める。

 

ガチャリ。

 

鍵。

 

そこでようやく小鈴は呼吸を思い出した。

浅く息を吸う。

吐く。

心臓だけが嫌なほど早い。

 

「玄ちゃん手伝って」

 

まましろが既に動いていた。

寝室の寝台へ飛び付く。

 

「馬相手なら、柵と飛び武器でござる」

 

「雑な籠城戦だな」

 

言いながら玄万も加勢する。

二人がかりでベッドを横倒しにした。

簡易バリケード。

少なくとも時間は稼げる。

 

たぶん。

 

「小鈴! 伝声管!」

 

上から声が飛ぶ。

魔理沙だった。

小瓶サイズの魔法使いは部屋の中を飛び回りながら壁を指差している。

 

「わ、分かってます……!」

 

慌てて駆け寄る。

伝声管。

主寝室から地下へ伸びているらしい金属管。

蓄音機の口のような部分に蓋がついている。

 

押し込むように蓋を閉じると、

ベッドを入り口に運んだ玄万が縄を片手にやって来た。

すぐに伝声管の固定具を確かめる。

慣れた手つきで縄を結び付けると、

窓から外へ垂らした。

 

退路。

 

そういうことだ。

少しだけ安心する。

 

その時。

 

ガン!!

 

扉が大きく揺れた。

 

肩が跳ねる。

 

続いて。

 

ガン!!

 

何か硬いものが、

力任せに蹴り付けている音。

嫌な想像ばかり浮かぶ。

 

「降りられますね」

 

思わず口に出た。

 

「最悪の場合は」

 

玄万は短く答える。

妙に落ち着いている。

その落ち着きが少しだけありがたかった。

 

カバンの中から桃シロップの瓶を取り出すと、

まましろがそれをかすめ取った。

 

「魔理沙殿」

 

「おう」

 

「後ろからお願いするでござる」

 

瓶の蓋を外す。

魔理沙の飛行人形へ括り付ける。

魔理沙がにやりと笑った。

 

「いいねぇ、出番じゃねぇか」

 

そのまま窓から飛び出していった。

 

バァン!!

 

扉の一部が吹き飛ぶ。

穴が開く。

 

その向こうに見えたものを見て、

小鈴は息を呑んだ。

 

馬。

 

そう思った。

 

違った。

 

後ろ脚だけだった。

骨盤だけだった。

首もない。

胴体もない。

 

それなのに立っている。

 

それなのに蹴っている。

 

バァン!!

 

また扉が揺れる。

 

「ケンタウロスの逆でござるな……」

 

まましろが拳銃を構える。

 

パン!

 

一発目。

 

外れた。

 

パン!

 

二発目。

 

これも外れた。

 

「当たらん!」

 

「威張るな!」

 

玄万が即座に突っ込む。

その間にも骨は止まらない。

 

そして。

 

パン!

 

三発目。

 

今度は当たった。

骨片が飛び散る。

 

だが。

 

止まらない。

 

バァン!!

 

ついに扉が砕けた。

馬骨が部屋へ侵入する。

そのままベッドへ蹴りを叩き込んだ。

 

ドン!

 

ベッドが跳ねる。

 

ガン!

 

もう一撃。

玄万が体重を掛ける。

 

「押さえろ!」

 

「は、はい!」

 

小鈴も反射的に飛び付く。

 

だが。

 

そこで気付いた。

 

桃シロップ。

 

そうだ。

 

これのために持ってきた。

 

「えいっ!」

 

蓋を外す。

投げる。

瓶が骨へぶつかった。

 

パシャッ。

 

液体が飛び散る。

 

ジュッ。

 

熱した鍋へ水を落としたような音。

 

白い煙。

 

「効いてる!」

 

思わず叫ぶ。

その瞬間。

 

廊下の窓の外から影が飛び込んできた。

 

「今だぜ!」

 

魔理沙だった。

 

急旋回。

 

飛行人形から瓶を振り解く。

勢いそのままに馬骨へ叩き付けた。

 

ガシャァン!!

 

瓶が砕ける。

桃の香り。

 

そして。

 

ジュゥゥゥゥ――――

 

先ほどよりも勢いよく煙が上がる。

馬骨の動きが明らかに鈍る。

 

 ガク。

 

 ガクガク。

 

後ろ脚が痙攣して転ぶ。

駄々をこねた子供のように、

床の上で溺れている。

 

そして。

 

馬骨は解け落ちていく。

乾いた音を立てながら床へ散らばる。

 

静寂。

 

誰も動かない。

 

数秒後。

 

「……効いたな」

 

最初に口を開いたのは魔理沙だった。

 

「思った以上に効いた。

 妖怪か呪物か知らねぇけど、

 少なくとも桃は嫌いだったらしい」

 

小鈴はその場にへたり込む。

 

「よかった……」

 

全身から力が抜けた。

改めて残骸をみる。

ピクリとも動かない。

人の手によって動いていたとしたら……。

どのような秘術なのだろうか……。

少し興味が湧く。

 

 

 

 

 

「待て」

 

玄万は立ち上がろうとした小鈴を止めた。

代わりに近づいて靴先でつつく。

反応はない。

 

「どうですか」

 

「普通の骨だな」

 

「普通ではないと思いますけど」

 

「動いてたことを除けばな」

 

小鈴が呆れたように眉を寄せた。

しゃがみ込むと骨の一つを軽く持ち上げていた。

 

「……ベッドを抑えていた時に気が付いたが、

 思ったよりずっと軽かったな」

 

まましろも頷く。

 

「輓馬の体重が1tとしても…。

 骨だけなら80kg、この場合更に半分でござるね」

 

「だから押さえ込めたのか」

 

そして何気なく視線を動かした。

ちらりと小鈴を見る。

 

「……今、私を見ましたよね?」

 

「気のせいだ」

 

「嘘です」

 

即座に食い付かれる。

 

「絶対何か考えてましたよね?」

 

「別に」

 

「絶対嘘です!」

 

 小瓶の中の魔理沙は即座に察した。

 

「あー」

 

 にやりと笑う。

 

「ちょうどそのくらいか」

 

「何がですか!?」

 

「おまえ、どこの馬の骨だ」

 

「貸し本屋『鈴奈庵』の小鈴です!」

 

魔理沙はけらけら笑った。

小鈴は頬を膨らませる。

 

「というか私そんなに重くありません!」

 

「誰も言ってねぇだろ」

 

「言ってませんけど絶対思いました!」

 

「……思ってない」

 

「今の間は何ですか!」

 

「考えてた」

 

「やっぱり!」

 

魔理沙はけらけら笑う。

どうやら完全に面白がっている。

そして残骸へ視線を向けた。

 

「それにしても、まさとし」

 

「ん?」

 

「外しすぎじゃね?」

 

魔理沙がにやりと笑う。

 

「I HAVE THIS.はどうした」

 

まましろが首を傾げる。

 

「『1ドルの価値』はあるはずなのでござるが?」

 

「ああ」

 

小鈴が反応した。

 

「大井片理(O. Henry)ですね。

 『賢者の贈り物』には、なっていませんけど」

 

『オー、ヘンリー』の名前の逸話を思い出して、肩を竦めた。

 

「今のままだと、『オイ!ままま』だな」

 

一瞬の沈黙。

次の瞬間。

魔理沙が腹を抱えて笑った。

 

「ははっ!

 それはひでぇ!」

 

そして小瓶の中から指をまましろに突き付ける。

 

「窓の外に『最後の一葉』を描いておいてやるから、

 一人で地下室に行って来いよ」

 

「突っ込みが、きびしーー!」

 

まましろが抗議する。

ユーモアが生まれる余裕は長く続かなかった。

魔理沙の視線が床へ落ちる。

 

一階。

 

さらにその下、

 

まだ誰も足を踏み入れていない場所。

 

屋敷の本命が待つ場所だった。

 

 

 





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