外来人。幻想郷で、大工をする。――妖怪たちの褻(け)の日の話――   作:ゴケット

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このエピソードは、『(旧版)クトゥルフ神話TRPG』ルールブック内のシナリオ「悪霊の家」を参考にして執筆しました。

本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』シリーズの二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
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第32話 ― 地下室の対峙

 

 

バールを壁に突き立てると、化粧板があっさりと傾いた。

近づいてみれば、雑な作りだとすぐに分かった。

化粧板を並べて立てただけの、急ごしらえの壁だ。

コービットが隠したのか、それとも別の誰かが後から塞いだのか。

 

バタン。

 

化粧板が倒れる。

 

チュッ! チュチュッ!

 

何かが慌てて逃げていく。

小鈴の持つ電灯が奥を照らした。

隠されていた空間。

そしてさらに奥に、古びた扉。

 

「ねずみ……ですよね?」

 

小鈴が少し肩の力を抜いた。

さっきまで飛ぶナイフに襲われたせいだろう。

普通のネズミが出ただけで安心してしまうのも無理はない。

 

「ほらな、やっぱりあったじゃないか」

 

浮いた人形と瓶がぐいと前に出た。

魔理沙が視線を扉へ向けている。

 

「ナイフなんて前座だったんだ。こっちが本命だぜ」

 

魔力などわからないが、気味の悪い感覚は確かにある。

扉へ向かおうとした瞬間。

扉が、ひとりでに開いた。

 

ギィ……

 

全員の視線が集まる。

最初に現れたのは、保健室で見るような代物だった。

ボロボロの和服を着た骸骨と、ボロボロの洋服の骸骨。

 

(資金ショートしたゴーストタワマンみてぇななりをしてるな)

 

それがのろのろと歩いてくる。

和服の手には山刀。

洋服は木の棒を持っていた。

小鈴が息を呑む。

悲鳴は上げない。

 

「今度は人……」

 

途中で言い直した。人ではない。

 

「刃物はやめようでござる」

 

まましろが傷口をさすりながら言った。

肩はまだ痛むはずだが、声に緊張はない。

 

「待て」

 

魔理沙が急に声を上げた。普段より低い声だった。

 

「あれだけじゃない」

 

小鈴が灯りを向ける。

暗闇の奥に、さらに二つ。

一つは白い影。

馬骨だ。今度は上半身。

肋骨と前脚だけで立っているような異様な姿をしていた。

 

「気持ち悪ぃな」

 

「なんで分かれてるんですか……」

 

さらにその奥。

何か小柄なもの。黒ローブ姿。

考えるより先にまましろが発砲していた。

和服の骸骨に命中。

弾は貫通したが、後続の的を捉えるには至らなかった。

ローブをかすめて、後ろの本棚に当たった。

たじろいだローブが何事かを呟くのをやめた。

そして、ローブを翻し、ドアの正面から姿を消した。

 

舌打ちしたいのをこらえながら、和服の骸骨へ踏み込んだ。

正面から拳を叩き込む。

胸骨が砕ける音がした。

背骨が大きくしなり、耐えきれずに折れる。

 

「問題はあいつだ」

 

魔理沙が小さく呟く。

 

「今ので姿を隠したなら、次は何かしてくるぞ」

 

分かっている。

視線がローブの消えた方向を目で追ってしまった。

その瞬間、

 

ゴッ。

 

鈍い音。頭が揺れる。

洋服の骸骨のすりこ木が、頭に直撃していた。

 

気を取られた。

完全に。

 

仕切り直そうと足を踏み出した瞬間、足裏に硬いものが当たる。

和服が握っていた山刀だ。

バランスが崩れる。

パンチが空を切る。

 

ゴッ。

 

今度は重かった。

頭を振りながら一歩下がる。

 

その時、光が走った。

流星のような弾幕が、骸骨たちの脇をすり抜けた。

爆ぜる。

 

「きゃっ!」

 

小鈴の声。肩に命中したらしく、壁へ手をついている。

 

反射的にまましろが木の盾を構えた。

 

ドン。

 

盾が鳴る。木片が飛ぶ。

 

「ぐっ」

 

こちらに飛んできたのは、籠手で防いだ。

ただし初めての感触に腕に痺れが走る。

馬骨の蹴りやナイフとは違う。

魔法の衝撃だ。

 

「これが、魔法か……」

 

「今のは――」

 

傍らに浮いた瓶から、魔理沙の声がした。

 

「マジックミサイルじゃねぇか」

 

静かな声だった。

自分に向けられる、自分の魔法。

だからこそ逆に反応が遅れたらしい。

 

パキッ。

 

瓶にヒビが入る音がした。

 

 

「玄ちゃん退いて」

 

まましろの声に横に飛ぶ。

 

着地と乾いた発砲音が重なった。

 

洋服の骸骨の胸骨に命中した。

骨片が飛び散り、よろめく。

立て直そうとするが足元がおぼついていない。

その横で、

 

ガシャーン、

 

派手な音がした。

桃の匂いが広がった。

 

「わっ!すみません!」

 

小鈴が顔を赤くした。

当たったと思ったのだろう。

実際、本人が一番驚いている顔だった。

 

「距離が……思ったより難しいです……」

 

「気にするな」

 

小鈴の傍らに浮いた瓶から、魔理沙が声をかけている。

 

「当たる時は当たる」

 

小鈴が前を見る。

拳も、洋服の骸骨のすりこ木も、馬骨の蹴りも、全部空振りだ。

 

「お互い様だ」

 

瓶の中で、魔理沙が肩をすくめた気配がした。

 

「今度こそ!」

 

まましろが再び引き金を引く。

星弾が洋服の骸骨の胸を貫いた。

硬い胸骨が砕け、、肋骨にもヒビが走る。

二、三歩よろめいて、そのまま床へ崩れ落ちた。

 

「討ち取ったり!」

 

「一体な」

 

魔理沙は冷静だった。

その横で馬骨が前脚を振り上げる。しかし。

 

ゴッ!!

 

拳の方が早かった。

面長の頭蓋骨を唐皮が打ち抜いた。

思った以上に軽い感触だった。頭蓋骨が半壊する。

それでも馬骨は立っている。

身体を大きくふらつかせながら、まだ立っている。

 

「まだ立つか!」

 

その時、何かが頭上を飛んでいった。

ガシャーン!

天井近くで瓶が砕ける派手な音。

次の瞬間、桃のエキスが降ってきた。

白い煙が上がった。骨が軋む。前脚が崩れる。頭骨が落ちる。

馬骨は床へ崩れ落ちた。

 

「え?」

 

小鈴の声がした。

 

「当たったんですか?」

 

自分が一番驚いている。狙って当てたのではない。

梁か天井に当たって跳ね返った飛沫が、馬骨を直撃した。

結果オーライという言葉が頭をよぎった。

 

地下室に静寂が戻った。

ほんの一瞬だけ。

暗闇の奥で、光が生まれた。

 

「来るぞ!」

 

魔理沙の警告とほぼ同時だった。

光弾が地下室を横切る。

流星群のように。

今度は見えた。

ローブではなく、飛んでくる弾そのものを目で追う。

身体を捻る。

頭を引く。

まるで試合中のボクサーのような動きで、光が鼻先を掠めて通り過ぎた。

 

「二度も食らうかよ!」

 

傍らでは魔理沙が瓶ごと身体を翻し、光弾の軌道を外していた。

今度は動揺していない。

 

しかし小鈴の反応が遅れた。

まましろが前に出た。

 

「なんと!」

 

まましろが盾を構える。

 

間に合うか。

 

間に合った。

 

ドン。

 

盾が鳴った。

 

そして嫌な音もした。

 

木が割れる。

 

「うわっ」

 

二発目。

盾が砕けて、光弾がまましろの肩口を打った。

後ろへよろめく。

 

「まましろさん!」

 

小鈴が駆け寄ろうとする。

 

「大丈夫でござる」

 

とは言うものの、声に力がない。

かなり痛いはずだ。

まましろの視線が床へ落ちた。

砕けた盾。

浴室から持ってきた、あの木の蓋だ。

 

「惜しい盾でござった……」

 

少しだけ残念そうに言った。

前衛の骨は片付いた。

しかしローブはまだ暗闇の奥にいる。

盾は砕けた。

まましろは二度目の被弾だ。

 

時間はかけられない。

 

意を決して、奥の部屋へとなだれ込む。

扉の影にローブがいる。

踏み込みながら拳を振るった。

ローブが宙に舞った。

速い。

予想以上に軽い動きだ。

 

「そこ!」

 

まましろが正確な照準で引き金を引く。

紙一重でかわされた。

星弾がローブを掠める。

かわした拍子にフードが外れた。

子供。

いや違う。

子供みたいな何かだ。

魔理沙をそのまま三頭身にしたような顔。

人間を見る感覚になれない。

髪の色が燭台の炎に照らされて、赤にも金にも見えた。

 

(なるほど)

 

阿求との口論の理由に合点がいった。

 

「……そうか」

 

瓶の中から声がした。

魔理沙の声だった。

静かだった。怒っているわけでも、動揺しているわけでもない。

ただ静かだった。

 

「やっぱり、お前か」

 

ホムンクルスが魔理沙を見た。

魔理沙もホムンクルスを見た。

その数秒が妙に長く感じた。

 

「散れ」

 

魔理沙が急に言った。

 

「次はスターダストが来るかもしれない。固まるな」

 

感傷は終わりだ。

その横で小鈴がカバンをあさっていた。

瓶を投げても当たりそうにない。

距離も角度も悪い。

ならば別の手だ。

カバンの中を手探りで探って、LEDライトを握り締めた。

 

「そこ!」

 

まましろが星弾を放つ。

狙いは正確だったが、ホムンクルスが身を翻す。

舌打ちしたいところだが、その横で小鈴が動いていた。

カバンから取り出したのはLEDライト。

瓶を投げるのは諦めたらしい。

正しい判断だ。

小鈴がホムンクルスへ向き直る。

 

「ねえ」

 

小鈴が声を掛けた。

 

「あなた、魔理沙さんに似てるって言われない?」

 

ホムンクルスの視線が、小鈴へ向いた。

その瞬間を、小鈴はスイッチをおした。

LEDライトが点灯する。

白い光が地下室を満たした。

ホムンクルスが顔を覆う。

 

「今でござる!」

 

まましろが星弾を放つ。

今度は命中した。

しかも、バランスを崩してこちらの目の前に来た。

 

(狙ってやったとしたら、見事な腕前だ……)

 

よろめきながらも、まだ抵抗しようとしている。

踏み込んだ。

視界の効かないホムンクルスへ。

拳を叩き込む。

 

ゴッ。

 

みぞうちに拳が入った。

ホムンクルスの身体が水平に飛んだ。

壁に叩きつけられ、地面に落ちる。

動かない。

 

地下室に静寂が戻った。

今度は本物の静寂だった。

 

「……終わったか」

 

誰も答えなかった。

しばらく全員、その場に立ったまま動けなかった。

宙に浮く人形の背で、魔理沙だけがホムンクルスをじっと見ていた。

 

 

 




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