外来人。幻想郷で、大工をする。――妖怪たちの褻(け)の日の話――   作:ゴケット

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このエピソードは、『(旧版)クトゥルフ神話TRPG』ルールブック内のシナリオ「悪霊の家」を参考にして執筆しました。

本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』シリーズの二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
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第33話 ― 戦利品と後始末

 

 

地下室は静かだった。

いや、正確には静かになったと言うべきか。

 

机の上には試験管にビーカー。

小さな竈には鍋。

本棚にはアルファベット順に本が収められている。

 

床には、散らばった骨。

そして倒れたホムンクルス。

 

呼吸をしていそうだが、動きそうにない。

 

「……よお、今回はよく当てたじゃないか」

 

一息ついて、皮肉をひねり出すと、

まましろはニカッと笑う。

 

「ふ、今回は覚醒ままま。期間限定SSRでござる」

 

返事の代わりに眉を上げた。

それ以上は口には乗せなかった。

するとまましろは肩をすくめる。

 

「それに今回のMVPは小鈴ちゃんで……」

 

視線を小鈴に移すと、ヘナヘナと座り込むところだった。

 

「わ、大丈夫でござるか?」

 

「緊張の糸が切れたな」

 

そんな小鈴をしり目に……。

 

魔理沙はビンの中で懐をまさぐると、コルク蓋つきのフラスコを取り出す。

ふよふよとこちらに近づいてきて、ビンの蓋をこちらへ向けた。

 

「玄万、蓋を開けてくれ」

 

何をする気だ、と思ったが、聞く前に手が動いていた。

職人の癖というやつで、道具を差し出されると反射的に受け取ってしまう。

ヒビの入ったビンを割らないよう、蓋だけをそっと回す。

 

魔理沙は縮小した手を精一杯伸ばし、

倒れたホムンクルスの口へフラスコの中身を流し込んだ。

 

直後、魔理沙とホムンクルスの両方の体から煙が上がり始めた。

 

「大丈夫なのか」

 

煙の向こうへ声を投げる。

 

「まあ見てろって」

 

見ろと言われても何も見えない。

換気の悪い地下でこれをやるのは正直どうかと思ったが、今さら言っても遅い。

 

煙はあっという間に二人を飲み込み、地下室ごと隠してしまいそうな勢いで広がった。

放心状態だった小鈴もこれには声をあげた。

 

「わ、何ですかこれ?」

 

「大丈夫だと、魔理沙は言っている」

 

「ほ、ほんとに大丈夫なんですか!?」

 

まましろの隣で、小鈴が声を震わせた。

 

俺に聞かないでくれ。

 

冷や汗をかいていたが、辛うじて口には出さなかった。

建築現場でも粉塵は見慣れているが、これは木屑でも石灰でもない。

魔法使いの煙だ。

つまり何が起きるか分からない。

一番対応に困る類の物だった。

 

横の小鈴の顔も曖昧にしか見えないが、身じろぎしたのが分かった。

煙の向こうを見据えたまま拳を握った。

 

ゲホ、ゲホ。

 

煙の奥でせき込む声がした。ホムンクルスが倒れていたあたりだ。

煙が少しずつ薄くなる。

人影が見えた。

うっすらと浮かんできた輪郭は、

普通の少女の体格をしているように見える。

 

煙の中でそれが体を起こした気配がした。

 

「へへ、うまくいったぜ」

 

聞こえてきた声は、ビンの中からのこもった声ではなかった。

煙の中から、ローブの上に腰を下ろした魔理沙が姿を現した。

金髪、普通の体格、白黒の衣装。

トレードマークの三角帽子はなかったが、

どこからどう見ても、いつもの霧雨魔理沙だった。

 

その様子を見て、玄万は肩の力を抜いた。

少なくとも殴る必要はなさそうだった。

 

姿を現した魔理沙は、自分の手を開いたり閉じたりしている。

縮んでいた本人からすれば、元に戻れたことを確かめたいのだろう。

全員の視線が集まっていることに気づくと、二本のビンを掲げて見せた。

 

一本は、キノコやミョウガの切れ端、

ピンク色の絹糸のような花びらが液体の中で揺れるフラスコ。

もう一本は、ヒビの入ったピクルスのビン。

魔理沙が掲げたビンの中では、手のひらにのる大きさになった生き物が四つ足で動いていた。

 

何とも説明しにくい姿だった。

生き物には見える。

だが普通の動物とも違う。

 

「それがホムンクルスか」

 

思わず口を開いたが、魔法の理屈は分からない。

小さくなったそれは、さっきまで飛び回っていた相手とは思えなかった。

 

(少なくとも今すぐ暴れそうには見えねぇか……)

 

まましろが覗き込んで、首を傾けた。

 

「そのモソモソ動いているのが、ホムンクルスでござるか」

 

「ここ数日の経験を忘れさせて、初期化したってところだけどな」

 

魔理沙の言葉に懸念を抱いた。

 

「初期化しても、また暴走するだけじゃないのか」

 

疑問をそのまま口にすると、

 

「さすがに懲りたぜ」

 

珍しく、魔理沙が神妙な顔をした。

 

「ある程度育ったら無色の妖精として放してやるさ」

 

魔理沙はまましろにダクトテープを借りると、

ヒビの入ったピクルスのビンを丁寧に補強し始めた。

 

小鈴がほっと息をついた。

 

「一件落着ですかね」

 

その顔を見て、玄万は少し安心した。

この屋敷に入ってから、小鈴は何度も怖い思いをしている。

それでも最後まで逃げなかった。

好奇心だけでここまで来られるものではない。

思っているより肝が据わっている。

 

出来ればもう少し慎重になってほしいのだが……。

 

「……魔理沙のホムンクルスってことは、金髪が正解だったみたいだな」

 

言いながら、人里を出る前の阿求との口論を思い出した。

証言が食い違っていた理由は、やはり日の加減だったのだろう。

小鈴は一度ほほを膨らませた。が、すぐに切り替えた。

 

「……でも実物を確かめたのは私ですから!」

 

と胸を張った。

 

「だから引き分けです」

 

「そうか」

 

「引き分けです」

 

別に勝っても負けてもいい話だが、小鈴にとっては違うのだろう。

それはそれとして、魔理沙がビンの補強を終えるなり本棚へ飛びついた。

 

「おっ、これは——」

 

年季の入った蔵書が棚に並んでいる。

外来人の古美術商が集めた蔵書。

いずれにせよ、魔法使いと本の虫に見せていい場所ではなかった。

小鈴とまましろも引き寄せられるように本棚へ近づこうとした。

まましろがその一歩目で表情を歪めた。

肩を抑える。

二発目の被弾箇所だ。

 

「あとにしろ」

 

二人に強く言う。

 

「アリスの家に戻ることも考えると、もう引いた方がいい」

 

言いながら額を拭う。

血が付いた。

こちらも無傷ではない。

 

小鈴は素直に頷いた。

さすがに今回は言うことを聞く分別があったらしい。

しかし、魔理沙は欲張った。

 

「一冊、一冊だけだから」

 

そう言いながら本棚から引き抜いたのは、

『植物の園』と背表紙に書かれた本だった。上巻と下巻、二冊組だ。

 

玄万は無言でデコピンを食らわせた。

 

「いてっ、分かったよ。これだけにしとくぜ」

 

魔理沙は不服そうな顔をしたが、

上巻と下巻を脇に抱え直しただけだった。

 

小鈴が笑う。

自身も一冊、こっそり懐にしまいながら。

強引に押し込まれた表紙から、題簽がひらりと落ちた。

 

まましろも肩を押さえながら苦笑した。

 

地下室に残っていた緊張が、

ようやく少しだけ抜けた気がした。

 

「帰るぞ」

 

そう言って階段へ向かう。

後ろから、

 

「お、あれもいいな」

 

という声が聞こえた。

 

……聞こえないことにした。

 

 

 

 





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