外来人。幻想郷で、大工をする。――妖怪たちの褻(け)の日の話―― 作:ゴケット
人里の居酒屋に集まった。
阿求への報告を兼ねた打ち上げのためだ。
一階は大衆酒場。
二階には個室が並び、ちょっとした商談にも使われるらしい。阿求の指定だ。
事件そのものは終わったが、その後の方が案外忙しかった。
回収品の整理。
怪我人の手当て。
関係各所への報告。
人里でも外の世界でも、終わった仕事というのは意外と手間がかかる。
ようやく落ち着いたところで、報告会兼打ち上げである。
阿求は、
「解決したのが、ちゃんと報告してくれる人たちで助かりました」
と、喜んでいた。
霊夢や魔理沙は面倒くさがるらしい。
今回魔理沙は飯につられてきたようだが……。
襖が開いた。
首元にプチスカーフを巻いた娘だった。
娘は料理を載せた盆を運び入れる。
「お待たせしました」
そう言って卓へ皿を並べていく。
愛想は悪くない。
だが特別良くもない。
ごく普通の接客だった。
ところが。
「稗田様、いつもありがとうございます」
阿求には深々と頭を下げた。
比べると分かってしまう。
俺たちへの目線は一段低かった。
魔理沙相手には出方を伺うような態度で、
「あんた、暴れないでおくれよ」
「お前が柳の下で、子供を泣かせていなけりゃな」
「相変わらず、バンカラなのね……」
と、短い会話をするとそそくさと襖を閉めた。
「知り合いか?」
「まあな」
それ以上は説明せずにへらへらと笑っている。
阿求の方も平然と、
「お赤さんは、常連にはあんな感じですよ」
何か引っかかるものがあったが、考えないことにした。
料理が一通り並んだところで、阿求が帳面を開いた。
「では改めて報告をお願いします」
「改まるほどでもないけどな」
魔理沙が言う。
「そう言わずに、さあ……」
阿求は筆を構えた。
報告は小鈴が仕切った。外来人一家の記録から始まり、
残されていた日記、馬骨、地下室の様子、骸骨、ホムンクルスまで順を追って話した。
阿求は盃にも手を付けず、淡々と筆を走らせていた。
……はずだったが、
報告する小鈴の言葉が少し熱を帯びた瞬間、
筆の速度がわずかに遅れた。
阿求の視線は一瞬だけ宙を走り、それから何事もなかったように手元へ戻った。
ときおり阿求が挟む質問に、
小鈴が、何か言いかけてやめた。
代わりに阿求を見た。
阿求は帳面から顔を上げなかった。
日記の話になると、少しだけ筆の運びが変わった。
「その日記は、回収していますか」
「そう来ると思った」
小鈴が風呂敷から三冊を取り出した。
阿求は黙って順番に開いた。
日記の状態を確認した後、
「幻想郷の歴史の一つとして、預かります」
それだけ言った。
「遺体の方は?」
小鈴が尋ねた。
「命蓮寺へ連絡してあります」
阿求が答える。
「おそらく命蓮寺の住職たちが引き取るでしょう」
あの家はキリスト教徒っぽかったが、
命蓮寺というのは門戸の広い寺らしい。
少なくとも放置はされない。
あの屋敷も、ようやく終わる。
そんな気がした。
報告が終わる頃には、外はすっかり夜だった。
魔理沙は追加の料理を注文しようとして小鈴に止められている。
まましろは酒を飲んで上機嫌だ。
その時だった。
「そういえば」
阿求がふと思い出したように言う。
「今日は、霊夢さんがいませんでしたね」
魔理沙が顔を上げる。
「ん?」
「霊夢さんも聞いた方がいいかと、使いを出したのですが……」
「あいつが、まじめに働くわけないだろ」
「ええ、断るだろうなと思ってはいました。
しかし、博麗神社にもいなかったようでして……」
と阿求は続けた。
魔理沙も考え込んだ。
「そういや神社で見たのは、お前たちと会った時が最後だな。
私も研究に入っちまっていたし……」
静かに湯飲みを置いた。
(……どっかの迷子たちを返してやらなきゃいけないからね)
以前、霊夢がそんなことを言っていたのを思い出す。
そういう話だったのなら、今いないのも分かる気がした。
オカルトのことはよくわからないが、結界とやらの仕事かもしれない。
不在になったという妖怪を探しているのかもしれない。
神社の管理と並行だとしたら一人では大変なのかもしれない。
まあ。
騒いでもしかたがないだろう。
「そのうち様子でも見に行くか」
特に深い意味はなかった。
そう考えながら窓の外を見る。
人里の明かりは、外の世界より柔らかだった。
(帰るのはもう少し先か……)
この時はそう思えていた。
面白かった、つまらなかった、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。
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