Nec Plus Ultra,   作:ひがしち

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第23話 職場体験5

一夜明けて、ここは保須総合病院。

 

「よう。元気かケガ人共」

 

「永井くん!」

 

緑谷、轟、飯田の学生3人は、ここに入院患者として一泊していた。俺はリセットの影響で無傷のために入院は回避したが、昨日の影響で職場体験は一旦ストップし、暇になった俺は洸汰くんと一緒にコイツらのお見舞い。

 

「洸汰くん。ご挨拶しようか」

 

「うん……は、はじめまして。泉出洸汰です……」

 

「はじめまして。緑谷出久です」

 

「轟焦凍だ」

 

「雄英高校ヒーロー科、飯田天哉だ。して、洸汰くんは永井くんの……?」

 

「いや、俺の血縁者じゃない。プッシーキャッツマンダレイの従甥だ。ワケあって今はマンダレイが保護者だ」

 

洸汰くんは昨日の今日で随分と俺に懐いた。多分、なにか思うことがあったのだろう。あの難儀な性格は治ったと思っていい。

 

「で、聞いたぞ。お前たち、そんな重症だったのか」

 

「うん……冷静になると、昨日の無茶っぷりがよく分かるよ……」

 

「ああ。勝手に突っ走って……このザマだ」

 

誰も死ななかったとはいえ、こいつらはまぁまぁ重症だ。数箇所の深い刺し傷に裂傷。修善寺の婆さんが出張してくれなければ、あと一月は入院する予定だった。

 

まぁそれでも明日明後日、職場体験が終わる頃まで入院って奴もいる。

なんで俺の同級生ってこんなんが多いんだろうな。

 

「でもまぁ、お前たちは学べるモンも多かっただろ」

 

「でも、ヒーロー殺しは殺そうと思えば、いつでも僕たちのことを殺せたと思うんだ……」

 

「物騒な話はやめろ。子供の前だぞ」

 

そんな物騒な話を聞かせたくて洸汰くんを連れてきた訳じゃない。

 

「洸汰くん……お兄さん達は、ヒーローなんだ。緑の人も、紅白の人も、メガネの人も。君のパパとママと同じヒーローになろうとしてる。でもまだヒーローじゃないんだ。ひよっこどころか卵でしかいなのに、お兄さん達は大怪我を負ってる。きっと、プロになればもっと大きな怪我をするかもしれない……それでも洸汰くんは()()()()()()()()?」

 

昨日の話だ。入院の必要がないとされて、一旦避難所に帰ったとき、洸汰くんが俺に駆け寄ってきて、将来はヒーローになると宣言した。

 

全く子供らしい。

 

全くもって子供らしく、夢ばかりだ。

 

そこで俺は、とりあえずこのバカどもの現状を見せることにした。

 

全く極端な例だが実例としては悪くない。ヒーローになれば、こんな怪我は親兄弟よりも深い関係になるし、なんなら死んでしまうことだってある。俺が証明しよう。

 

「……ヒーローになれば、こんな怪我、日常茶飯事?」

 

「まぁそうだね。君がどの分野でヒーローになるかで変わってくるけど、戦闘系ならまず間違いなくこうなるね」

 

「……」

 

俺の言葉を聞き、現場の状況を見て、洸汰くんは服の裾を強く掴んで黙りこくった。

洸汰くんはまだ5歳だ。現実を知るには少し早すぎたかもしれない。しかし幸にも、洸汰くんはまだ悩む時間がある。あとから必要性に気がついたって遅い。あとからリスクに気がついたって、もう手遅れになる。

 

「洸汰くん。君はまだ子供なんだ。よく考えて、考えて、考え抜くんだ。君には腐ってしまうほど時間がある。今がチャンスなんだ」

 

これは俺の持論だが、人生が上手くいくか……要は望み通りにことを運べるか。それは大体、中学校あたりで決まると思っている。

中学生の時にどれだけ勉強して、どれだけ結果を残したかによって行ける高校のレベルが変わり、行ける高校のレベルで行ける大学、大学のレベルで就職先のレベルも決まってくる。

 

小学校くらいまでならギリ横一線だが、中学以上になってくると学力の差は顕著に現れ、対人能力や語彙にも関係し、積もり積もって就職活動にも影響してくる。

 

「……俺、喜一兄ちゃんがホテルであのバケモンと戦ってたとき、すげぇ怖かったんだ。兄ちゃんはあのバケモンに刺されるし、一緒に落ちちゃうし……でも今なら分かる。兄ちゃんは体張って俺を助けてくれたんだ」

 

だから、と洸汰くんは言葉を続ける。

 

「兄ちゃんが血を流してくれたから、俺が怪我することはなかったんだ。俺も兄ちゃんみたいになりたい……誰かが血ぃ流すくらいなら俺が流す!クソッタレのヴィランのせいで、誰かが傷つくところはもう見たくないんだ!」

 

「……そう。頑張ってね」

 

……最悪……ではないが、俺が望んだ回答ではないな。

 

道を決めて集中するのはいいが、それ以外に盲目するのは宜しくない。

……ま、年重ねれば、色んな道にも気づくか。

 

「おお起きとるな怪我人共……お、お前は」

 

「グラントリノ!」

 

「マニュアルさん……!」

 

「……誰だ?」

 

「僕の職場体験先のヒーローグラントリノさんと、飯田くんの職場体験先のマニュアルさん」

 

「ああ、そういえば昨日いたな」

 

いきなりノックもなしに病室の扉が開けられ、コスチュームの小柄な老人とヒーロー1人が入室した。

 

グラントリノ……か。どっかで見たことあるような……まぁいいか。

 

「小僧。お前にはすごくグチグチ言いたい……が、その前に……来客だぜ」

 

グラントリノの言葉と同時に、今度はれっきとしたスーツ姿で、犬の異形系個性の男性が1人、ポケットに手を突っ込みながら入室した。

こちらは本当に見覚えがない。ヒーロー……でもなさそうだ。

 

てかポケットから手を出せ。子供の前だぞ

 

「保須警察署署長、面構警視正だ」

 

警視正……余計ポケットから手ェだせ。洸汰くんが真似たらどうする。

 

「……そちらの子供は?」

 

「プロヒーローマンダレイの従甥です。今はマンダレイは病院にいるので、自分が預かってます……戻ろうか。洸汰くん」

 

「ああ待ちたまえ。マニュアルくん。この子をマンダレイの病室まで送り届けて欲しいワン。さっき虎とすれ違ったから、そっちでもいいワン」

 

「っは」

 

「……」

 

「洸汰くん。ごめんね。犬の人、僕にもお話があるみたい。青い人と一緒に、先に戻ってて」

 

署長クラスがわざわざなんの用だと思ったら、かなり重要な話らしい。

洸汰くんは俺の言うことを聞き、そのまま無言でマニュアルさんと一緒に部屋を出ていった。

 

「飯田天哉くん。轟焦凍くん。永井喜一くん。緑谷出久くん。君たちが、ヒーロー殺しを仕留めた雄英生徒だワンね」

 

「……はい」

 

「逮捕してヒーロー殺しだが、頭蓋骨陥没や肋骨粉砕などとなかなかに重症で、現在は厳戒態勢で治療中だワン。雄英生徒ならわかってると思うが、超常黎明期、日本国は警察と自衛隊の大きすぎる能力差……というより、それぞれが帯にしては短く、襷にしては長すぎることに気が付き、その中間としてヒーローを認めたワン。容易に人を殺められる力を個人で行使する。本来なら糾弾されて然るべきこれらが現代に認められているのは、先人たちがしっかりルールを守ってきたからだワン。資格未取得者が保護管理者の指示なく個性で他人に危害を加えたことは、立派なルール違反。最悪のケースでは、実刑判決だって有り得る話だワン」

 

とまぁ、と署長は一息ついて、言葉を続ける。

 

「これは警察の公式見解。あくまで公表すればの話だワン。公表すれば、世論は君たちに傾くが、処罰は免れない。一方で、ヒーロー殺しの幸いにも目撃者は極めて限られる。やろうと思えば、この話はなかったことにできるんだワン。だが、君たちの英断も功績も、誰にも知られることはない」

 

どっちがいい、と面構署長は問うてきた。

1人の大人としては、前途ある若者の『偉大な過ち』にケチをつけたくない……と。

 

「飯田」

 

「飯田くん」

 

「ああ轟くん。緑谷くん」

 

俺の後ろでなにか3人が頷きあっているが、なんの話だろうか。

 

「署長。ご配慮ありがとうございます。ですが、この度はそのご配慮。遠慮させていただきます」

 

「……ほぉ」「……へぇ」

 

俺と面構署長で、リアクションが被った。まさかだ。この話は面構署長一存で決められた話じゃない。色んな人が色んなコネを使って、飯田たちの功績と過ちを消そうとしている。

そしてこれは飯田たちにとって都合が良い。自分たちの過ちを公的機関がなかったことにしてくれる。これ以上に社会的に潔白で、ありがたいことはない。

 

だが飯田はこれを辞退した。きっと他二人もこれを承知していることだろう。

 

「私たちがこのままヒーロー科に通い続けるのなら、私たちはその前に自らの身を清めなくちゃいけません。何がどうあろうと、如何なる理由があろうと、無資格個性戦闘は社会に対するルール違反であり、そしてそれを握りつぶすことは、民衆と、正規のヒーローに対する重大な冒涜です」

 

「……それでいいのかワン?」

 

「三人とは既に話し合っています。過ちは過ち。それを認めずに最高のヒーローを志すなど、どうしてできましょうか」

 

……正直見直した。こりゃとんでもない覚悟だ。

 

この話が明るみになれば、飯田たちは処分は免れない。ただ、飯田たちの行動は自分勝手の行動ではなくヒーロー精神に溢れる立派な行動だった。しかし功績と世論を鑑みて、処分内容は軽くなるだろうが……コイツらのキャリアにとっては邪魔になることには変わりない。

 

それを覚悟して、飯田たちは自らの過ちを受け入れ、罰を受け入れようとしている。

 

俺は……飯田たちへの印象を変えなくてはいけないようだ。

 

「……明日、もう一度この時間にここに来るワン。心変わりがあれば、そのときに。永井くんも、同席を頼むワン」

 

「はい。この時間に……」

 

その後、お互いの担当ヒーローと一言二言交わし、署長たちは去って行った。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

次の日。俺と面構署長は同じ時間に病室を訪れたが、飯田たちの意思は変わらず、彼らはその処罰を受け入れた。

2日間の謹慎及び停学処分。それが学校と警察が協議した結果の処分らしい。

 

この署長、意外と食わせ者だ。2日間……それはちょうど、職場体験が終わる日と重なる。つまり飯田たちの停学解除後に、謹慎を知らないクラスメイトたちと登校できる。

自らの罪を周囲に告白するかは飯田たち次第。これはきっと、学校側の配慮と、警察側のせめてもの恩赦なのだろう。

 

そして一番の驚きポイント。それは処罰はひっそりと下され、それでいて功績は大々的に。飯田たちの処罰は学校と警察との間でひっそりと完結され、逆に警察は俺たち四人を勇敢な学生たちとして署長自らの名で表彰したのだ。

 

これで警察は、正しい処罰を下しつつも、勇敢な少年たちの功績を認めたという立場を取れる。

 

まーそれはそうと、俺の職場体験は。

 

「短い間ですが、お世話になりました。ありがとうございました」

 

「こちらこそありがとう。でも後半は後方仕事ばっかでつまんなかったでしょ?」

 

「いえ。とても有意義な時間でした」

 

俺は職場体験も最終日を迎え、俺はワイルドワイルドプッシーキャッツの面々に最後の挨拶をしていた。

職場体験の途中、保須市での騒動で負った怪我のお陰でプッシーキャッツは本来の活動を少し見合わせ、代わりに俺に会計や法規、ご贔屓さんとで関わり方まで教えてくれた。

 

ぶっちゃけこっちの方が楽しかった。

 

だって俺ヒーローになるつもりはないし、むしろこっちの方を本業にするつもりだし。

 

「兄ちゃん!」

 

「……ん?──おっと!」

 

「こら洸汰!いきなり飛びついたら危ないでしょ!」

 

この前の態度から一変子供らしくか活発になった洸汰くんが飛びついてくる。恐れることなく飛び込んでくるなんて、この子には見込みがあるな。

 

「俺!絶対ヒーローになるから!そしたら兄ちゃん、贔屓にしてくれるよな!」

 

「もちろんだよ。世界で一番贔屓してあげる。でもそれまでには、沢山勉強しなきゃだよ」

 

「当然!今文字の勉強してんだ!」

 

「来月から英会話教室にも行くの。この子張り切っちゃって」

 

……まぁ、それならいいか。ヒーローの道がダメでも大元がしっかりしてればいくらでも軌道修正は可能だしな。

ぶっちゃけ俺も、洸汰くんの将来が楽しみではあるし。

 

「永井喜一」

 

「はい。虎さん」

 

「これを」

 

短くト虎さんに呼ばれ、手渡されたのはOD色のTシャツ。胸には中即連の部隊章が描かれている。

これは所謂部隊Tシャツだ。教育隊や小隊中隊で作られる……まぁ、言ってしまえばクラスTシャツと一緒だ。

 

「……これは?」

 

「我がジブチに派遣された時の派遣隊で作った部隊Tだ。永井3佐の名もある。受け取れ」

 

「え、や、でも……受け取れませんよこんな貴重なもの」

 

言うまでもないかもしれないが、この部隊Tシャツは個人で作ったものだから、基本的には非売品であり、言ってしまえば一種の記念品のようなものだ。

それが海外派遣の際の派遣隊Tシャツなどとなれば、記念品としての思いは強いはずだ。虎さんはもう中即連には戻れないから、このTシャツは一生モンのはずだ。

 

しかし……父さんの名前が入っているって言ってたけど、このTシャツは見たことないな。

 

「遠慮するな。永井3佐のものはジブチで消失したと聞く」

 

ああそれで。

 

「いや、でも……」

 

「気にするな。我は10着買った」

 

「ありがたくいただきます」

 

なんでそんなに買ってんだよ。相場は2、3着って決まってんだろ。

 

虎さんからTシャツを受け取ると、裏には当時の派遣隊の名前が連なっていた。指揮官のところには、父さんの名前が。

 

指揮官永井征十郎。下には……

 

「準備8割本番2割……父さんがよく言ってた言葉ですね」

 

「ああ。言葉通り、慎重な人だった」

 

「ありがとうございます虎さん。父の思いを背負い、これよりますますの一層奮励努力します。今までありがとうございました」

 

「貴様が世に出てくる時を楽しみにしている。また」

 

「はい。また」

 

たった一週間。されど一週間。長いとも短いとも、無駄だとも有益だとも感じられた職場体験が、今終わった。

 

──そして舞台は、再び雄英高校へと戻って行く。

 

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