オーバーロードにTS転生者を叩き込んでみた   作:連載として再構築

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第四章 4 モモンガさんは心配性

「さて」

 

兄さんが背もたれに体を預けた。

骸骨の体重が軽いせいか、椅子が軋む音すら立たない。

 

「世界の構造は大体分かった。次は、亜理紗のことだ。この世界に来てから何をしていたのか……お前自身の話を聞かせてくれ」

 

わたしは紅茶のカップを置いた。

陶器がテーブルに触れる、かちりという小さな音。

 

「さっきも少し触れたけど……わたしのアバター、覚えてるわよね。ユグドラシルの最終日にナザリックにあった、あの銀髪の」

「忘れるわけがない」

 

兄さんの声が低く震えた。

ペロロンチーノさんが顔を伏せ、茶釜さんのスライム体が微かに波打つ。

 

「あのアバターには、運営から付与された固有職やワールドアイテムが紐づいていたの。ブリーシンガメン、永遠の歌姫の職業データ、それから最後の日にみんなが供えてくれたアイテムの数々。ワールドアイテムも含めて」

 

わたしは自分の首元に手を当てた。

鎖骨のくぼみに冷たい金属が触れる。

ブリーシンガメンの残滓、この世界でわたしの命を繋ぎとめた首飾り。

 

「転移の時、アバターのデータは完全な形では転移されなかった。わたしの本体――アリサの肉体にインストールされたのは一部だけで、残りは欠片となって散らばったの」

「欠片……?」

 

デミウルゴスが眼鏡の奥で瞳を細めた。

 

「正確に言うとアバターのデータや記憶の断片が、同時に転移してきたユグドラシルの高位アイテムと結びついてしまったの。ワールドアイテムを含む強力なアイテムと、わたしの感情の欠片が融合して、この世界に『災厄』として顕現している」

 

沈黙が落ちた。

暖炉の炎がぱちりと弾ける。

 

「災厄……と仰いましたか」

 

アルベドの声が硬い。

 

「ええ。例を挙げるなら――聖王国のカリンシャという港町で起きた事件。わたしの『嫉妬』や『独占欲』の感情が、ワールドアイテム『ミューズの涙』と融合した欠片が暴走して、街中の人間を精神支配したの」

 

兄さんの眼窩の光がぴたりと止まった。

 

「ワールドアイテムによる広域精神支配……」

「そう。ミューズの涙は対象に強制的な愛情を植えつけるアイテムだった。それがわたしの『嫉妬』や『独占欲』と結びついて、カリンシャの住人たちが正気を失った。わたしの友達も――ネイアという女の子も、操られてわたしを襲ってきた。泣きながら、殺してって叫びながら」

 

カップの中の紅茶が揺れている。

わたしの指が震えているのだ。

気づいて、膝の上で拳を握り直した。

 

「……それは、収束したのか」

 

兄さんの声が慎重だった。

 

「ツアーの始原の魔法で、なんとか」

 

ブレインが壁に背を預けたまま、静かに目を閉じていた。

彼はあの事件の場にはいなかったけれど、後から聞いて拳を壁に叩きつけていたことを、わたしは知っている。

 

「帝国の王都でも似たようなことがあったわ。わたしの『未練』の欠片が廃オペラハウスに巣食って、歌うゴーストとして人を狂わせた。フールーダが送り込んだ魔法使いが何人も廃人になった」

 

ペロロンチーノさんが喉を鳴らした。

嘴の奥で、何か言いかけて飲み込んだような音。

 

「つまり……亜理紗ちゃんの感情の破片が、ワールドアイテムの力で増幅されて、あちこちで人に害をなしてるってことか」

「そういうこと。わたし自身の欠片が、わたしの与り知らないところで人を傷つけている」

 

わたしは目を伏せた。

テーブルの木目が滲んで見える。

 

「……それが、わたしが旅をしている理由」

 

顔を上げる。

兄さんの赤い光を真っ直ぐに見つめた。

 

「最初は違ったの。ブレインが修行の旅に出たのに触発されて、わたしも冒険者として気楽な生活がしたくなった。分身のサリアを使って、王女の責務から少しだけ離れて自由に旅をするつもりだった」

 

ブレインが片目を開けた。

 

「俺のせいかよ」

「きっかけはそうよ。感謝してるわ。あのまま王城に閉じこもっていたら、欠片の被害はもっと広がっていたから」

 

わたしは両手をテーブルの上で組んだ。

 

「聖王国で『歌姫』として過ごしていたときにカリンシャの事件が起きた。それで自分のアバターの欠落が何を引き起こしているか知った。その時にツアーが……白金の竜王ツアーが接触してきたの」

 

ツアーの鎧が微かに軋んだ。

視線をこちらに向けているのが、兜の隙間から漏れるかすかな光で分かる。

 

「ツアーはこの世界の守護者としての立場から、ワールドアイテムの流出を危険視していた。わたしの欠片がその原因だと分かった後は、わたしの旅に同行することになったの」

「正確には、監視の意味も含めてだがね」

 

ツアーが低い声で補足した。

正直に言うところが、彼らしい。

 

「始原の魔法はワールドアイテムの効果に対抗できる数少ない手段なの。わたし一人では欠片を回収しても周囲への被害を抑えきれない。でもツアーがいれば、暴走した効果を封じ込めながら安全に回収できる」

「それで、二人で世界中を回っていると」

 

デミウルゴスが静かに整理するように言った。

尻尾の先がゆっくりと左右に揺れている。

 

「ええ。もう五年になるわ。回収できた欠片もあるし、まだ見つかっていないものもある。ワールドアイテムが絡んでいるものほど危険で、回収も困難になる」

 

わたしは一つ息を吐いた。

次の言葉が、少し重い。

 

「今のところ、基本的にはツアーとの二人旅よ。ブレインは今回、ナザリックに来るために合流してくれたけど」

「姫様の欠片回収の旅自体は、俺が同行しても足手まといになるだけだからな」

 

ブレインが肩をすくめた。

その声には自嘲があったが、同時に事実を受け入れている潔さがあった。

 

「ワールドアイテム相手じゃ、俺の刀は役に立たねえ。竜王殿の始原の魔法がなきゃどうにもならん領域だ」

 

兄さんの骨の指が、テーブルの上でぴたりと止まった。

赤い光がわたしとツアーの間を何度か往復する。

 

「つまり……お前はずっと、このツアーと二人で旅をしているのか」

 

声の温度が、微妙に変わった。

それに気づいたのはわたしだけじゃない。

ペロロンチーノさんの嘴がかちりと鳴り、茶釜さんのスライム体がぴくりと揺れた。

 

「うん。ツアーは信頼できる相棒よ。始原の魔法の使い手がいなければ、欠片の回収なんてとてもできない」

「相棒、ね」

 

兄さんが呟いた。

その一言の中に、複数の感情が折り畳まれているのが分かる。

 

「五年間……二人きりで」

 

ペロロンチーノさんの声が、じわりと低くなった。

 

「男と女が二人きりで五年間も旅を……いやツアーさんはドラゴンだけど見た目はイケメンっぽい鎧だし……いやそういう問題じゃないんだけど……」

「ペロロンチーノさん、何を想像してるの」

 

わたしの声が少し尖った。

 

「い、いやいや! 別に何も! ただちょっと気になっただけで!」

「気になるわよねえ……」

 

茶釜さんが意味深に呟く。

 

「ツアーさん、でしたっけ。鎧の中身はどんな感じなんですか? ドラゴンっていうと、人間形態とかあったりします?」

「……僕はドラゴンだよ。人間形態はない。今この場にいるのも遠隔操作の鎧であって、僕自身の肉体ではない」

 

ツアーが淡々と答えた。

だが、その声にわずかな戸惑いが混じっているのを、わたしは二年の付き合いで聞き分けられるようになっていた。

 

「ツアーとはそういう関係じゃないわよ」

 

わたしは先手を打って否定した。

 

「純粋に、この世界を守るための協力関係。ツアーはこの世界の均衡を保とうとしていて、わたしの欠片がその均衡を脅かしている。利害が一致しているからこそ、一緒に動いているの」

「でも五年だよ、五年」

 

ペロロンチーノさんがなおも食い下がる。

 

「五年も一緒にいたら情だって湧くだろ普通! ギャルゲーなら確実に攻略完了してる期間じゃん!」

「ここでまでギャルゲーの話をしないで!」

 

茶釜さんがスライムの触手で弟の後頭部を叩いた。

べちん、という妙に間抜けな音が響く。

 

「痛ッ! 姉貴、このスライムの触手地味に痛いんだけど!」

「うるさいわね! 亜理紗ちゃんの前でそういう話するの禁止!」

 

兄さんはその騒ぎを横目に見ながら、静かにツアーを見つめていた。

眼窩の光が、品定めをするように動いている。

 

「ツアー殿」

 

兄さんの声がモモンガのそれに戻った。

 

「率直に訊く。貴方は、俺の妹を、亜理紗をどう思っている」

 

空気が変わった。

ログハウスの中の温度が二度ほど下がったような錯覚を覚える。

アルベドとデミウルゴスが背筋を伸ばし、セバスの目が細められた。

 

ツアーは一拍の間を置いてから、落ち着いた声で答えた。

 

「サリアは、僕がこの数百年で出会った中で最も信頼に値する人間だ。彼女は常に自分の欠片が生んだ災厄に対して真摯に向き合っている。同行者として、これ以上の相手はいない」

「……それだけか」

 

兄さんの追及は執拗だった。

 

「ああ、それだけだ。僕は竜だよ。人間の恋愛感情は持ち合わせていない」

 

ツアーの声は揺るがなかった。

嘘をついている気配もない。

 

わたしはこっそり息をついた。

ツアーが変なことを言い出したらどうしようかと思っていたけれど、いつも通りの生真面目な竜王様だ。

 

「もう、兄さんもペロロンチーノさんも。ツアーは本当にただの仲間だから」

「すまん……いや、いやすまなくはないな。妹が年上の男と五年間二人きりで旅をしていたと聞いて、平静でいられる兄がいるか」

 

兄さんの声に、珍しく弁解するような響きがあった。

感情抑制がなければ、たぶんもっと取り乱していたのだろう。

 

「数百年の年上なんだけどね……」

 

わたしは小さく苦笑した。

 

「……話を戻すわ。欠片の回収はまだ道半ばなの。ワールドアイテムと融合している可能性も高い」

 

兄さんが腕を組み直した。

先ほどまでの兄としての感情は、支配者としての思考に切り替わっている。

 

「亜理紗。俺たちも同行させてくれ」

 

その言葉が出るのは、予想していた。

 

「欠片の回収は、お前の安全に直結する。お前一人にやらせるわけにはいかない」

「一人じゃないよ、ツアーがいる」

「ツアー殿には失礼だが、身内の問題に他人任せにはできない。それに、ナザリックにはワールドアイテムに対抗できるアイテムもある」

 

ペロロンチーノさんが身を乗り出した。

 

「そうだよ、亜理紗ちゃん! 俺たちだって力になれるはずだ! ワールドアイテムの知識なら、ユグドラシルで散々調べたし!」

「わたしも行くわ。亜理紗ちゃんを五年間も知らない男――いえ、竜と旅させてたなんて、もう耐えられない」

 

茶釜さんの声には本気の感情が滲んでいた。

 

わたしが答える前に、背後から冷ややかな声が響いた。

 

「お待ちください」

 

デミウルゴスだった。

眼鏡を押し上げ、一歩前に出る。

その立ち居振る舞いには、知略家としての冷徹さが完全に戻っていた。

 

「モモンガ様、ペロロンチーノ様、ぶくぶく茶釜様。差し出がましいことを申し上げますが、御三方が直接危険地帯に赴かれることには、断固として反対いたします」

「デミウルゴス」

 

兄さんの声にわずかな苛立ちが混じる。

 

「理由を聞こう」

「まず第一に」

 

デミウルゴスは指を一本立てた。

 

「『歌姫』様が分身でいらっしゃるのに対し、御三方は本体そのものです。万が一の事態が起これば、ナザリックは至高の御方を失います。これはナザリックの存亡に関わる問題です」

「ぐ……」

 

兄さんが言葉に詰まった。

デミウルゴスの指摘は正鵠を射ている。

 

「仰る通りです、モモンガ様」

 

アルベドが追撃するように口を開いた。

 

「ここにいる『歌姫』様は『アバター・プロジェクション』による分身体。仮にサリアとしてのお体が損なわれても、本体のアリサ様には影響がないと理解しております。ですが、モモンガ様たちは違います。御身は一つしかございません」

「それに」

 

デミウルゴスが二本目の指を立てた。

 

「ナザリックはこの世界に転移して間もありません。守護者たちの配置、周辺の安全確保、情報収集……やるべきことは山積しております。御三方が不在となれば、ナザリックの運営に重大な支障をきたします」

 

三本目の指。

 

「さらに申し上げれば、欠片やワールドアイテムとの交戦経験において、御三方よりも白金の竜王殿と『歌姫』様の方が遥かに実戦経験をお持ちです。五年間の実績がそれを証明しております。素人が急に加わっても、連携を乱す恐れがございます」

 

沈黙が降りた。

暖炉の薪が崩れ落ちる音が、やけに大きく聞こえた。

 

ペロロンチーノさんが何か言いかけた。

けれど、嘴を開いたまま、言葉が出てこない。

デミウルゴスの論理に反駁できるだけの材料がないことを、彼自身が一番よく分かっているのだろう。

 

茶釜さんのスライム体が、しゅんと小さくなった。

 

兄さんの骨の指がテーブルを叩いている。

こつ、こつ、こつ。

一定のリズム。

思考のリズム。

 

「……デミウルゴス。お前の言うことは、全て正しい」

 

兄さんの声は平坦だった。

感情抑制が効いているのか、それとも本心から冷静なのか、判別がつかない。

 

「正しいが、納得はできない」

 

兄さんがテーブルから手を離し、わたしを見た。

 

「亜理紗。せめて一人だけでも、同行させるわけにはいかないか」

 

わたしは唇を噛んだ。

兄さんの気持ちは痛いほど分かる。

十五年間、死んだと思っていた妹がやっと目の前にいるのに、また離れなければならない。

しかもその妹は、自分の欠片が生んだ災厄を鎮めるために、世界中を飛び回っている。

 

放っておけるはずがない。

 

「兄さん……」

「頼む。俺個人の我が儘だと分かっている。でも、お前をまた送り出すだけなんて、俺には——」

「モモンガ様!」

 

アルベドの声が鋭かった。

守護者統括の美貌に、はっきりとした苦悶が浮かんでいる。

主の願いを叶えたい忠誠心と、主を危険に晒せない使命感が、真正面からぶつかり合っているのだ。

 

「アルベド、分かっている。分かっているんだ」

 

兄さんが片手を上げてアルベドを制した。

 

「亜理紗の意見を聞かせてくれ」

 

わたしは数秒、考えた。

暖炉の火が揺れて、壁の影が形を変える。

紅茶の湯気が細く立ち昇って、天井の梁の手前で消える。

 

「正直に言うわ」

 

わたしは真っ直ぐ兄さんを見た。

 

「一人でも本体が来るのは、デミウルゴスの言う通り危険が大きい。ワールドアイテムの暴走は予測がつかないし、わたしとツアーの二人だからこそ対応できている場面も多いの」

 

兄さんの眼窩の光がちかりと揺れた。

 

「でも」

 

わたしは続けた。

 

「それはわたしの欠片回収のメインの旅に同行する場合の話。回収以外の場面で合流する方法なら、あるかもしれない」

「例えば?」

 

デミウルゴスが即座に食いついた。

 

「欠片の所在が判明して、回収作戦を練る段階で情報を共有する。ナザリックの知識や資源で支援してもらう。回収した欠片やアイテムの分析をナザリックで行う。直接の危険地帯に入るのはわたしとツアーだけど、後方支援として連携する形なら」

 

ツアーが小さく頷いた。

 

「それなら僕も異存はない。情報面での協力は、むしろ歓迎する」

 

デミウルゴスの尻尾が、今度は満足げに揺れた。

 

「なるほど。ナザリックの情報収集能力と『歌姫』様の現地での行動力を組み合わせる……理に適っておりますな」

「でも、それだけじゃ……」

 

ペロロンチーノさんが食い下がった。

嘴の奥の瞳に、揺らめくような光がある。

 

「結局、亜理紗ちゃんはまたツアーさんと二人で行っちまうんだろ? 俺たちはここで待ってるだけかよ」

 

その声に、わたしの胸が軋んだ。

龍也の、幼馴染としての率直な感情がそのまま出ている。

 

「ペロロンチーノさん……」

「龍也でいいって。今は、そう呼んでくれよ」

 

わたしは目を伏せた。

テーブルの木目を指でなぞる。

乾いた木の感触が、指先に残る。

 

「……龍也。ごめんね。でも、欠片はわたしの問題なの。わたしのアバターから生まれた災厄を、わたしの手で収めなきゃいけない。それはわたし自身が決めたことだから」

「だったら尚更だろ! お前の問題を、お前一人に背負わせるなんて」

「一人じゃないわ。ツアーがいる」

「だからその竜野郎じゃなくて俺たちが——」

「龍也」

 

兄さんが静かにペロロンチーノさんを止めた。

 

「亜理紗の言葉を、最後まで聞け」

 

ペロロンチーノさんが口を閉じた。

黄金のアーマーの内側で、鳥人の胸が大きく上下している。

わたしは椅子から少しだけ身を乗り出した。

 

「欠片の回収が終わったらちゃんと帰ってくるわ。ナザリックに。兄さんたちのところに。約束する」

 

わたしの手が、無意識にテーブルの端を掴んでいた。

木の角が掌に食い込む。

 

「……みんな」

 

声が掠れた。

一度咳払いをして、整え直す。

 

「わたしは今、自分の意志で旅をしている。逃げてるんじゃない、立ち向かってる。そしてわたしには帰る場所がある」

 

茶釜さんのスライム体が、ふるりと震えた。

 

「帰る場所って……ここ? ナザリック?」

「ここも。王国の王城も。聖王国の友達のところも。全部、わたしの帰る場所よ」

 

わたしは微笑んだ。

自分でも驚くほど、穏やかな笑みが浮かんだ。

 

「でも、兄さんのそばが一番安心するのは、変わらないけどね」

 

兄さんの眼窩の光が大きく揺れた。

感情抑制の緑が一瞬だけ瞬いて、すぐに消えた。

抑制するほどの激情ではなく、もっと静かな、温かい何か。

 

「……分かった」

 

兄さんが、低く、けれど確かな声で言った。

 

「同行は諦める。だが、条件がある」

「条件?」

「定期的に連絡を寄越せ。どこにいるのか、何をしているのか、無事なのかどうか。最低でも月に一度は報告しろ」

「メッセージの魔法で?」

「そうだ。通信手段は確保できるな?」

「うん、大丈夫。ツアーの魔法とわたしのスキルを組み合わせれば、距離に関係なく通信できるわ」

 

兄さんが頷いた。

骨の顎が、かちりと音を立てる。

 

「それから、もう一つ……」

 

兄さんの赤い光が、わたしを射抜くように見つめた。

 

「帝国の皇帝には近づくな」

 

「……は?」

 

「聞こえただろう。あの鮮血帝とやらの近くには絶対に行くな。五年もストーキングされているんだ、次に何をされるか分かったものじゃない」

「兄さん、帝国にもまだわたしの欠片があるかも——」

「ならば帝国の分はナザリックが回収する。デミウルゴス、手配しろ」

「畏まりました」

 

デミウルゴスが即座に頭を下げた。

明らかに嬉々としている。

帝国への介入の口実ができたことが、知略家にとっては願ってもない展開なのだろう。

 

「ちょっと待って兄さん、帝国の件はそんな単純な話じゃ——」

「単純だ。妹に手を出す男のところに、妹を近づけない。極めて単純な話だ」

 

反論を封じるように、兄さんが断言した。

その横で、ペロロンチーノさんが腕を組んで深く頷いている。

 

「モモンガさんに一票。つーか俺が帝国に行って皇帝の顔面に矢ぶっ刺してきていいかな」

「ダメに決まってるでしょ」

 

茶釜さんの触手が弟の嘴をぺしんと叩いた。

 

わたしは額に手を当てた。

こうなると兄さんは梃子でも動かない。

現実世界でもそうだった。

不良に絡まれた時も、現場に変な客が来た時も、兄さんは嘘のように頑固になった。

 

「……分かったわよ。帝国の件は相談しながら進める。それでいい?」

「独断で帝国に潜入しないと約束しろ」

「約束するわ。でも兄さんも独断で帝国に宣戦布告とかしないでね」

「それはデミウルゴスの判断次第だ」

「デミウルゴスの判断に任せるのが一番怖いんだけど!」

 

わたしの叫びに、デミウルゴスが澄ました顔で眼鏡を押し上げた。

 

「ご安心ください、『歌姫』様。わたくしは常に最善の策を——」

「その最善が怖いのよ……」

 

ブレインが壁際で小さく笑った。

この場で唯一、利害関係のない第三者として、俯瞰的にこの騒動を眺めている。

 

「しかし、良い兄妹だな」

 

ブレインの呟きは小さかったが、わたしの耳には届いた。

彼の口元に浮かんでいるのは、からかいではなく、どこか羨ましそうな微笑みだった。




よし、ナザリックへの状況説明は一通り終わったな!

読者皆様のアリサの相手候補の意向確認

  • モモンガ
  • ペロロンチーノ
  • ジルクニフ
  • ガゼフ
  • ラナー
  • クレマンティーヌ
  • イビルアイ
  • ラキュース
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