ベル・クラネル
Lv.1
力:I0→32 耐久:I0→72 器用:I0→48 敏捷:I0→58 魔力:I0
《魔法》
【】
《スキル》
【
・対女性戦闘時における、全アビリティの大幅減少。
・窮地における全能力超高補正および、発展アビリティ『治力』『魔防』の一時発現。
【
・早熟する。
・懸想が続く限り効果持続。
・懸想の丈により効果向上。
―――――
「えっ?」
【フレイヤ・ファミリア】に入団してから初めての【ステイタス】の更新。
僕は神様から受け取った用紙に目を落として思わず声を漏らした。
スキルの欄に新たに刻まれた【憧憬追走】という文字。
スキルとは本人に強く影響を与えた経験や想いを反映したものだ。
ステイタスを刻んだと同時に発現した【聖母加護】がその最たる例で、アルフィア義母さんとの村での訓練で経験した女性への
(っていうか、我ながらスキルになるくらいの訓練によく耐えられたな……)
【憧憬追走】も例に漏れず僕がリューさんに抱いている憧れとか恋心を可視化したもので……。
それを理解した瞬間、顔が熱を帯びる。
なんだよこれ。自分が単純だってことは重々承知しているが、なにもスキルになるなんて……!
決めたぞ。このスキルのことは絶対に誰にもいうまい。僕だけの秘密にしよう。
こんな黒歴史みたいなスキルを誰かに見られたりでもしたら……死にたくなる!
……。
…………いや、いる。
僕以外にもこのスキルの正体を知る
振り返るとはニマニマと笑みを浮かべる女神の姿。
そして一言。
「アナタみたいに純粋で一途なコも今時珍しいわよ」
よし、死のう。
僕は逃げるように
そして一番近くの廊下の窓から身を投げようとして――その毒のような視線に射抜かれ、足が止まった。
「……」
顔の半分を覆い隠す灰色の髪に塗りつぶしたような漆黒の瞳をした人間の女性。
確か名前はヘルンさんだったっけ……。
無言で僕を睨みつける彼女は神様の身の回りのお世話をしているらしい。
一介の団員でしかない僕とは関わる機会はないはずだが、向けられる鋭い視線には何かしらの感情を孕んでいるように感じる。
「あ、あの……」
「――チッ!」
無言の圧に耐え切れず話しかけようとしたら僕にも聞こえるような音の舌打ちを残して廊下の奥に姿を消してしまった。
なにあれ怖い。
スキルがバレた恥ずかしさとかどうでもよくなってしまった。
【ガネーシャ・ファミリア】が主催する催しで、年に一度モンスターをダンジョンから連れてきて調教する様子を闘技場で見世物にするらしい。
あんな獰猛なモンスターを調教だなんてあまり想像つかないが、祭りと聞いて僕は浮足立っていた。
「わっ……!」
大通りを見渡せば人、人、人と一面が人間の海。
――これが怪物祭!
故郷の村でも祭りのようなものはあったのだが、まるで規模が違う。
「怪物祭限定! じゃが丸くんモンスターサイズはどうですか~!」
通りの出店もいつも以上に盛況でなんと怪物祭限定商品なんてものもあるらしい。
つい限定と聞くと財布の紐が緩んでしまいそうになるが、ここはぐっと堪え闘技場へと歩みを進める。
そういえば、こんな感じで街を歩いたのはなんだかんだで初めてだ。
オラリオに来てからというものすぐに【フレイヤ・ファミリア】に入団して訓練漬けの毎日だったから新鮮に感じる。
数分程、メイストリートを人の流れに沿って歩いていたことで違和感を覚える。
……見られている?
無数の視線が絶え間なく僕に向けられているという事に気づいた。
最初こそ自意識過剰だと思っていたがこうも視線を感じる時間が続くと流石にそうではないと理解する。
ものめずらしさにどこそこ見ていたから田舎者だと思われたのかな……。
「うわっ!」
考え事をしていたせいか、横の小道から出てきた人影に気づけずぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい! 大丈夫です、か……?」
ぶつかった相手は
慌てた様子で僕の顔を覗きこみ様子を伺ってくる。
「いえ、僕こそよそ見をしてたので……」
そこまで言って気が付く。
少年の顔。黒髪の間から覗く瞳が慌ただしく揺れていた。
まるでモンスターに怯えている子供のよう。
「――ふ、【フレイヤ・ファミリア】ッ!」
そこで僕はやっと気づいた。
先ほどまでの妙な視線の正体を。
皆、僕を見ていたんじゃない。
僕が身にまとう白を基調としたファミリアの制服を見ていたんだ。
「ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
土下座をするような勢いで平謝りをする少年の姿に絶句する。
僕が所属するファミリアがここまで周囲の人々に影響を与えるものだとは思わなかった。
周囲の視線は少年に対しての憐憫や同情という感情が乗っている。
まるで自分が悪者になったかのような気分。喉が渇き心臓がバクバクと鼓動を強める。
「……ッ!」
その視線に耐え切れず僕は少年が出てきた細道に逃げ出した。
メインストーリートとは打って変わって裏路地には人の気配はなく、遠くから街の喧騒が聞こえる程度で静けさが漂っていた。
走り続けた僕はその静けさに安心して壁にもたれかかる。
ひんやりと詰めたい石の壁が僕の背中に触れ熱を取り払う。激しく脈打っていた心臓の鼓動も落ち着きを取り戻してきた。
馬鹿だ。僕は馬鹿だ。
二大派閥という看板が持つ責任と重さ。それを全く理解していなかった。
いつものようにファミリアの制服に袖を通した朝の自分が嫌になるせめて私服で来ていればこんな思いはせずに済んだのに。
帰ろう。今日はもうお祭りの気分にはなれない。
「あ、あの……」
しゃがみ込む僕に声を掛ける人物がいた。
見上げるとそこにいたのはさっきの少年。黒色の兎耳をしならせ、申し訳なさそうにしている。
追いかけてきたのか……。
よく見たら彼は腰に長剣を携えている。どうやら彼も冒険者。
僕に追いついたのも納得だ。
「謝らないでください。僕が、他所見をしていたのが悪かったんですから。むしろ謝るのはこっちで……」
「でも……」
僕の言葉にも引こうとしない少年。彼の立場を考えればここで荒波を立てたくない気持ちは理解できる。
でも、悪いの僕自身で彼に謝らせることはしたくない。
どうすればいいだろうか。
思考を巡らせ周囲を見回す。
ふと、一軒のお店が目に入った。鳩のマークを象った看板でどうやら喫茶店のようだ。
「な、なら、ここは謝罪の代わりに少しだけお話に付き合ってもらえませんか?」
これが僕の精一杯のやり方。
不器用で下手くそな誘い文句に兎人の少年は少し間を開けて頷いた。