超常社会の無法者   作:シールド・ゴー

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プロローグ

夜の街は、いつだって騒がしい。

 

 

車が鳴らすクラクション。

 

 

貨物船の警笛。

 

 

踏切の遮断機の降下音。

 

 

繁華街を満たす人々の声。

 

 

そしてそこに紛れ込む助けを求める悲痛な叫び、敵が叫ぶがなり声。

聞くに耐えないそれは、すぐに野次馬の歓声に塗り替えられる。

 

俺はビルの屋上の手すりに寄りかかり、スマホのニュース映像を冷めた目で見ていた。

 

『本日午後8時頃、都心部で発生した連続強盗事件。

新進気鋭のヒーロー“ガリオン”の迅速な対応により、犯人グループ3名を制圧。市民の被害は最小限に抑えられました。

負傷者は12名、うち重傷2名に留まり──』

 

「最小限、か」

 

画面の隅に映った瓦礫の下で、ヒーローに救出されなかった子供の靴がチラリと見えた気がした。

すぐに映像は切り替わり、ガリオンがカメラに向かってキメ顔を決めながらインタビューに答えている。

 

「……ふざけた話だ」

 

思わず呟いた声は、夜風に掻き消された。

背後で、静かに扉が開く音がした。

 

「兄貴、やっぱりここにいたか。ちょっと来てくれ、カツキングのやつがブリティッシュと───またそんな暗い顔して……」

 

振り返ると、そこには黒のスーツに身を包み、片手に缶コーヒーを持った燃えるような赤い髪に赤と青のオッドアイを持つ男が立っていた。

いつものように、俺の隣に並んで手すりに肘をつき、俺のスマホを覗き込む。

 

「またニュースを見てたのか?笑っちまうよな、またヒーローの大勝利だそうだぜ」

 

俺は苦笑して、スマホをポケットにしまう

 

「ああ。被害は最小限だってよ」

 

溜息を吐きながら、俺は遠くの街を見下ろした

 

「……俺らが見た現場じゃ、違う話だったけどな」

「……」

 

三時間前。

俺たちは、その事件の裏側にいた。

ヒーローが“迅速に対応”するまでの隙間に、巻き込まれた三人の一般人を、俺たちが助け出した。助け出そうとした。

そのうち一人は、もう息をしてなかった。

子供を守ろうとしたのであろう父親は、無惨にもズタズタに切り裂かれて亡くなっていた。

残りの二人も意識がなかった。

母親は強く後頭部を殴打されたのか地面に倒れ伏し、子供は布を噛まされ、後ろ手できつく縛られ転がされていた。

ヒーローは来なかった。

来るのが遅れた。聞き耳を立てていた感じ、出動までの準備……ヘアセットに手間取っていたんだそうだ。

 

「ジャッキー、あの親子、どうなると思う」

「さてな、兄貴みたいにヒーローに失望するか、生きる気力を失うか……いずれにせよ、暫くは病院だ。世界に絶望しないといいんだが」

「……そうか」

 

彼女達は目覚めただろうか。

目覚めることができたとして、父親が亡くなったという現実に、耐えることができるだろうか。

いつものことだ。俺は目を閉じた。

 

十年前、あの日も同じだった。家族が目の前で引き裂かれたとき。

ヒーローは来なかった。

ヴィランが出ていくまでをただ震えながら隠れて見ているしかなかった俺に、全てが終わった後にやってきて「申し訳ありません」と頭を下げただけだった。

本心ならばまだよかった。その瞳は冷めきっていた。

『めんどくさい』が全面に出ていた。

所詮子供だからと、乱雑な丸め込みでなあなあにしようとする意思が透けて見えていた。

だから俺は、ヒーローを信じるのをやめた。

助けを待つのをやめた。

手を伸ばして待つのではなく、手を伸ばし叫ぶ人の声を聞き漏らさぬよう駆け回る。そんな組織を立ち上げた。

法が無視する弱者を助け、守り、法が裁けない悪を殴り倒す。

その考えを軸に活動する組織だ。

合法か?と聞かれれば答えはNO。

完全に非合法(イリーガル)な集団、特殊なヤクザや暴力団のような存在だ。

 

「ま、なんにせよ終わった話だ。それより人間には寒いぞ、風邪ひくぜ?」

「もう中に戻るさ。で、カツキングとブリティッシュがどうしたって?」

「……ボードゲームでカツキングが不正したしてないで殴り合いが始まった。周りは賭け始めたぞ」

「それを先に言わねぇか!事務所がぶっ壊れるぞ!というか時折下から聞こえてた破壊音それか!?さっさと気付きゃよかった!」

 

俺は黒崎 剣。

こいつらの兄貴分であり、こいつらを束ねる組長であり、主人だ。

 

中国で"光る赤子"が誕生してから百年と少し。

世界には"個性"と称される超常が溢れ、かつての空想は現実となった。

かつては超能力、あるいはスーパーパワーと呼ばれたそれは、最早一般的に持っているのが当たり前の個々人の身体能力として定着した。

 

俺の個性は"絵札"改め"無法者《アウトレイジ》"

個性として出すことのできたカードから《アウトレイジ》と名乗る仲間を召喚し、使役することができる能力。

元は絵の着いたカードを出すことができるだけの、所謂"没個性"だった。

しかし、俺の命の危機と、このヒーロー社会への失望と、頼ることのできない寂しさ、それらがぐちゃぐちゃに混ざりあい、なんの偶然か描かれた彼らが飛び出してくる、そんなものへと進化した。

 

俺は、そいつらを仲間として……家族として迎え入れ、俺を頭としてここを作ったんだ。

 

「オラァ!兄貴が戻ったぞォ!」

「バカなことで殴りあってんじゃねぇぞ阿呆!壁だって普通の建築素材なんだからぶっ壊れち……ま……」

 

扉を開け放つとまず目に入ったのはお互いに人間サイズに縮小されつつもクリーチャー体のまま殴りあった状態でこっちを見て固まるカツキングとブリティッシュ(馬鹿共)

次にそんな二人を肴に酒を飲んでいたその他アウトレイジ衆(馬鹿共)

そして風通しが非常によくなった(バカデカイ穴が空いた)事務所の壁

普通に我慢の限界だった。

とりあえず二人には一発入れてマスコット調の状態にし、全員を並べて正座させる。

 

「よぉうしいい度胸だなてめぇら座れ。そこ正座だ。

見るだけ見て立ち去ろうとするんじゃねぇ飲んで笑ってた馬鹿共もだ座れ馬鹿野郎共ーッ!!!」

「ゲェッ剣ィ!?いや、違うんや!これはブリティッシュがゴフォッ!?」

「えっ違……話を聞いてくれブリ!これはカツキングがファッ!?」

「俺達もかよ!?」「横暴だー!」「私もー?」

 

「じゃかぁしい!さっさと座りやがれ馬鹿共ォッ!!」

 

聞いた話、こいつらアウトレイジはクリーチャーワールドなる場所で神に反抗し、あまつさえ殴り倒して和解した漢達なのだという。

非人道的で徹底的に管理された秩序を嫌い、その管理者たるオラクルとかいう奴等を殴り飛ばしたんだとか。

まぁそりゃ秩序だなんだと縛り付けられるのは嫌いだろうなぁ、なんて雷を落としながらも漠然と考える。自由が身体と力を獲得したようなのがこいつらだし……

まぁそれ以上に自由を愛しすぎるせいで俺が雷を落とすようなことがしょっちゅう起きるのは勘弁してほしいんだが。

気に入らないことがあれば手が出る、殴りあってわかりあうとかいうパワーイズパワーみたいな頭が痛くなるような理論をよく持ち出してくるせいで大体2週間に1度は事務所が半壊する。

毎度本人達に直させるが、頭痛の種であるのはまあ間違いない。

溜息をついて掃除と修理を指示し、自分は就寝のために部屋を出る。

 

……そんな騒がしいこいつらだが、どうにも嫌いにはなれない。

10年来の付き合いだからか、個性の産物とはいえ家族のように接しているからか、はたまたその両方か。

毎日が騒がしくて中々飽きない生活は送らせてもらっている。

 

 

 

 

 

 

───────翌日・組長室───────

 

 

どんちゃん騒ぎがあり、カツキングとブリティッシュが壁を修理しているのを横目で見ながら執務をしていると、男女の二人組が入ってくる。

此方はジャッキーやカツキング、ブリティッシュと違い素で人の姿クリーチャーだ。

黒いスーツを身に纏う白い髪の青年、テスタ・ロッサと

青みがかった女性用スーツに青く長い髪の女性、アリスである。

「お疲れ様っす、兄貴」「お疲れ様です、組長」

二人が報告がある、と先程連絡を入れてきたのだ。

 

「二人ともお疲れさん。二人に任せてたのは八斎會についてだったな?報告があるってのは?オヤジさんは元気だったか?」

 

死穢八斎會……自分の個性だけで構成した……言っちゃ何だがなんちゃってヤクザみたいなウチとは違い、古くから存在するマジの極道である。

そこの組長には子供時代に大変に世話になった。

実の親のように子供の俺を育て上げ、この組の立ち上げを後押ししてくれた恩人である。それ故に薄くない縁が存在する集団だ。

古き良き『仁義』を重んじる侠客で、決して汚い商売には手を着けない"本物"だ。

俺は組長が倒れたと聞いて急いで見舞いに行こうとしたが、その際に拒まれてしまった。

数日間も予定にない空白日程を俺が空ける訳にはいかないため、交渉役として向かわせたのである。

 

問いかけると、二人は気まずそうな顔を合わせ、何拍か置いて口を開く。

「すんません、兄貴。本当はこんな知らせを持ってきたくなかったんすけど……」

「八斎會の組長は現在、意識不明の重態です。死穢八斎會本拠地の奥の部屋で、医療機器に繋がれながら眠っています。

聞いた話では病気という話ですが、あれは治崎が「あ"?」ッ……!」

 

後でテスタに聞いた話、この時の俺は過去トップクラスでドスの利いた声だったそうだ

 

「悪ぃな、俺の耳がおかしな異音を拾っちまった。……なんだと?」

 

「恐れながら申し上げます。組長の昏睡の原因は、治崎の個性の影響で間違いないと思われます」

 

アリスは俺の怒気に当てられながらも、淡々と報告してきた。

俺は、自分の声が震えているのがよく理解できてしまった

 

「……あいつは、廻はオヤジさんを慕ってた。俺の兄みたいな奴で、いかに組がすごくて、オヤジさんがかっこいいかを俺に語ってくれたんだ。その廻が、オヤジさんを昏睡状態にしたと、そう言うのか」

 

「……えぇ、まず間違いなく。頑なに私達を通そうとしない組員をテスタが引き付け、私が単独で組長の部屋に潜り込み、医療機器に繋がれた組長を発見。不審に思い検査したのですが……」

「……結果、脳の部分部分が局所的に欠損してたんす。確認したのはアリスですけど、俺も画像をみればその程度はわかります」

 

そう言ってテスタが提出してきたのは、MRIにも似た脳の写真。

見ると脳……正確に言えばその全体を覆っている『大脳皮質』という器官の複数箇所が不自然に破壊されている。

 

「私の診断としては遷延性意識障害……所謂植物人間状態だと思われます。大脳皮質のみにダメージを与え、脳幹には一切のダメージが見られませんでした。加えて彼の身体に外傷は見られず、彼が表に出なくなる前にそれを引き起こすレベルの大きな事故があったという記録もありませんでした」

 

……廻の個性、オーバーホールは触れたものを自由に解体、再構築ができるものだ。それは人間の脳のような科学医術では回復させられない器官も同じ。それを回復させないということは……

 

「……そうか」

 

まず間違いなく、廻がオヤジさんを手にかけたのだろう。

だが何故?

 

「報告感謝する。二人は八斎會の調査を続けてくれ」

「組長!」「兄貴!」

 

「あいつの……廻の狙いを探ってこい。あいつがオヤジさんを手にかけてまでやりてぇことがあるはずだ。他の奴等も好きに使え……ウチの方針はわかってるな」

 

一般人(カタギ)を巻き込むのは御法度」

「弱者と子供は絶対に守れ……っすね」

 

「わかってるならいい。行け」

 

二人を下がらせる。なにか言いたげだったが……

まあいい。廻……お前の狙いが何かは知らねぇ。

知らねぇが……

 

「ケジメは着けてもらわねぇとな」

 

 

そして後日、治崎の狙い、そしてその手段を知り。

その怒りが臨界を迎えることになるが……それはまた、別の話







どこぞのスジモン見てたらこっち系のが書きたくなって書きました。反省はあるが後悔はしてない。
時系列的には原作死穢八斎會編の少し前です。
好感触なら続くかもしれない
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