魔法文明が衰退していく世界で、文献修復士が「魔導書」を作ったら人類最強になった   作:菊池 快晴

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第10話 歴史を変える

「……お前が、ラルフなのか?」

「え? は、はい……そうですが」

「ラルフ・イーターか?」

「はい」

 

 え、なんで知ってるの!? 怖い、怖いんだけど。

 いつのまにか極悪人として指名手配されてたとかそんなんじゃないよね?

 ドルチェのやつ、そこまでの悪党じゃないよな……? いや、やりかねんぞ。

 

 報奨金はいくらだ? デットオアアライブではないことを祈る。

 

 するとシルヴィアさんは、突然笑い始めた。

 

「ふふふ、ははは、何ということだ――これほど驚いたのは久しぶりだ」

 

 なになに!? 怖いんですけど!?

 

「あ、あの……?」

「すまない。訳が分からなかったな。私は、君が修復した火の文献を読ませてもらったんだ。あれほど素晴らしい復元は見たことがない。魔法本を作ったことにも、すべて繋がった。君なら、可能だと思える」

「……え?」

 

 この人、何を言っているんだろう。

 走ったら逃げられるだろうか。

 いや、待て。火の文献って――。

 

「もしかして、魔導終焉戦争(マギ・アポカリプス)の……ですか?」

 

 俺が尋ねた瞬間、またピピピと鳴き声が聞こえた。

 場所は何となくわかるが、遠い。

 すっかり日は暮れていて、森が真っ暗なことに気づく。

 

「話はあとだ。国へ戻りたいところだが、森には夜行性の魔物が多い。このあたりで野営し、明日の朝に出るとしよう」

「え、一泊……ここで!?」

「心配するな。私がいる。まあ、君に手助けはいらないかもしれないがな」

 

 まさかこんなことになるとは……でも、この人、俺の火の文献を見てくれたのか。

 それが、凄いって……嬉しいな。

 

 とはいっても、野営なんてしたことがない。

 不安だったが、シルヴィアさんはテキパキと動き、木を持ってきて石をカチカチして焚火も付けてくれた。

 大きい木も持ってきてくれて、何に使うのかと思ったら、椅子にしろと。

 

 ……しごでき女性だ。

 

「それで、話の続きだが――」

 

 それから俺は、シルヴィアさんが火の文献を国経由で見たことを教えてもらった。

 驚いたことに、ドルチェについても叱責してくれたそうだ。

 ただ直接の上司ではないため、所轄に任せているところらしい。

 しかし――。

 

「ドルチェの両親が神聖魔導院に所属してるんですか」

「そうだ」

「……ええと、神聖魔導院って?」

「本当に現代に生きてたんだよな?」

「一応、地下室では」

「はあ……魔導終焉戦争(マギ・アポカリプス)以降に設立された教会だよ。魔法使いは天から選ばれた特別な存在だと信じてる。過激な一面もあって、かなり厄介な連中だ」

 

 俺の知らない間にそんな教会ができていたのか。

 しかし、ドルチェの感性というか、なぜあそこまで頑ななのかが良く分かった。

 魔法は確かに強力だ。それこそ、実践経験もない俺が魔物を倒せてしまうくらいに。だからこそ、選ばれた人間だと勘違いしてしまう。

 

 でもこれは、俺にも言えることだ。

 これから気を付けよう。

 

 それにシルヴィアさんみたいに優しい魔法使いとも出会えてよかった。

 

「それで君に折り入ってお願いがあるんだ」

「ええと……何でしょうか?」

「――私と専属契約を結んでもらえないだろうか。私は魔族を追っている途中で、魔法についての文献を見つけることもある。その際、君に復元をお願いしたい」

「え、お、俺ですか?」

「君しかいないだろう」

 

 まさかの言葉に驚きが隠せなかった。

 専属契約? 俺に?

 

 ……嬉しい。

 

「契約金は言い値で構わないが、手付金として金貨100枚はどうだろうか。当然、成功報酬も別途で払う」

「き、金貨100枚!?」

 

 金貨1枚であの宿が一カ月で飯つきだから

 ええと、100カ月……!? さらに別途報酬!?

 

「凄すぎます……ただ、一つお聞きしたいんですが」

「何でも言ってくれ」

「専属っていうのは、シルヴィアさん以外からもらった文献は修復できないってことですか?」

「その通りだ。君の力は凄まじい。私が気づいたように、ほかの誰かがその凄さに気づけば君を手元に置きたいと願うだろう。それを防ぐためにも、だな。すまない、すべて私都合だ」

 

 いや、ありがたいことでもある。

 復元の仕事ってのは出来高制で仕事が来ないが多い。

 それでも給料を頂けるなんて……でも。

 

「シルヴィアさん、正直、めちゃくちゃありがたいです。お金よりも、俺の技術を、褒めてもらえてることが」

「そうか、それなら――」

「でも、申し訳ないです。俺は、もう誰の下にもつかないって決めたんです。もちろん、文献を持ってきてもらえれば復元はします。ですが、専属にはなれないです」

 

 今回、俺は身にしみてわかった。他人に人生をゆだねていることの危険性を。

 あの日、俺は寒空の下で死んでもおかしくなかった。これは、冗談でもなんでもない、事実。

 

 シルヴィアさんはいい人そうだし、もうあんなことにならないとは思う。

 それでも、俺は自分で人生を生き抜くと決めた。

 

「……それと、俺がやる復元の仕事は色んな人から依頼があるんです。日記が燃えちゃったとか、お爺ちゃんの秘伝のレシピが風化してみれないから、なんて。そういうのも、楽しくて」

「……そうか、残念だが仕方ない。だが、私が持ってきた文献は修復してくれるんだろう?」

「それはもちろん、俺にとってもありがたいですから」

「なら無理は言わないよ。色々と突然すまなかったな」

「い、いえ。こちらこそ、ありがとうございます」

「しかし……魔法本については今だ衝撃が抜けない。いやまて……その本……もしかして誰でも扱えるのか?」

 

 そういえば考えたことがなかった。

 術式の理論の構築や改ざんは俺でなければ難しいかもしれないが、本を片手に詠唱することは問題ないだろう。

 それを伝えると、シルヴィアさんが目を見開いていた。

 

「……本当なのか?」

「え、わかりませんけど、多分。そんなにヤバイですか?」

 

 すると、顎に手を置く。

 

 え、俺何かそんなヤバイのか?

 

「……ヤバイなんてもんじゃないぞ。このことが明るみなれば歴史が変わる……世界が、凄いことになるぞ」

「そんな、大袈裟ですよ」

 

 俺がまたまたーというと、シルヴィアさんの目はマジだった。

 この人、ちょいちょいガチで怖い。

 

 

 

 

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