魔法文明が衰退していく世界で、文献修復士が「魔導書」を作ったら人類最強になった 作:菊池 快晴
「ラルフ、魔法はできるだけ人前で使わないほうがいい。もしバレたとしても、絶対に自作したとは言うな。魔法使いだと名乗ったほうがいい」
「ええ、でもそれって嘘じゃ……? 俺、嘘はついちゃダメって教えられてきたんですが」
シルヴィアさんが真剣な瞳で心配してくれていた。
なので、俺も真剣に返すとちょっとだけ頬がピクっとしていた。
冗談だと思われてる!? いや、ガチなんですけど!?
「そんな技術を持っているとバレれば、世界中の国が君を欲しがるだろう。だがそれは、決して良い話ばかりではない。力業で、君の身柄を確保する輩も出てくるはずだ」
それは大袈裟ではないだろうか。
確かに魔法本は作れたし、火の魔法が詠唱できるようになった。
でも、生まれながらにして魔法を扱える人はいるのだ。
それと、そこまで違うだろうか?
「いいか、ラルフ。魔法使いは、長い年月をかけて魔力を練り上げる「剣の達人」のようなものだ。誰もがなれるわけじゃない」
「……はい、それはわかりますが」
「だが君の本はどうだ? それがあれば、「子供」ですら言葉だけで達人すら殺せてしまうだろう」
「……あ」
「才能も、努力もいらない。ただ「読むだけ」で誰でも魔法が扱える。それが、どれほどものかはわかるだろう」
そう言われるとめちゃくちゃヤバイ気がしてきた。
俺、とんでもないもの作ったのか? え、ど、どうしよう。
監禁とかされちゃう? いや、引きこもるには慣れているけれど。
いや、これはガチだ。
彼女の言う通り気を付けよう。
人前ではできるだけ使わない。もしバレたら魔法使いだという。
ただ嬉しくもあった。
今まで一人で黙々と続けていたことが、こうやって世界を変えるほどのものだと賞賛されたことが。
復元の仕事も、新しく生み出すことも、すべて、繋がっている。
今までは、無駄じゃなかったんだ。
――ぐう。
するとそこでお腹が鳴った。
そういえば、何も食べてない。
「……すいません」
「いや、いいだろう。色々疲れたしな。少し待っててくれ。食べれそうなものを見繕ってくる」
「え、でも夜は危ないんじゃ……」
「私は慣れてるよ。そこで待っていてくれ」
できる女性、カッコイイ。
やっぱり専属を断ったのもったいなかったかも。
しかし、闇夜は怖かった。
焚火があるとはいえ、魔物は火だけで逃げるとは思えない。
何か気を紛らわせたいと思っていたら、シルヴィアさんが置いていった上着から何かが落ちていた。
「……ノート、か? やけにボロボロだな」
結構古いが、貴族がよく使っていた魔法の羊皮紙だ。数十年前によく使われていた。
しかし焼失が酷いな。これも、どこからから見つけてきた物だろうか。
そのとき、変な生き物の泣き声が聞こえた。
俺は、気を紛らわすように仕事道具を取り出す。
待っている間に、お礼として修繕しておくか。
――この瞬間、音が消え去る。
現存している羊皮紙の手触りからすると「ミッドガルド製法」だな。
となると、インクは「ラルド地方」のものだろう。
新品の羊皮紙を本の背に合わせて、裁縫で綺麗に縫う。
全体的に魔力インクを垂らすと、本の背の記憶からうっすらと文字が浮かびあがってくる。
非常に薄いが、俺には見える。
よし、何とかできそうだ。
シルヴィアさんが獲物を抱えて戻ってきた。
手頃な兎のような動物だ。凄いな。
しかし、なぜか驚いているような。
「……ラルフ、それは」
「ボロボロだったので修復しておいたんですけど……よく考えたら勝手にしちゃまずかったですよね………すいません」
俺の悪い癖だ。気を紛らわすため、勝手なことをしてしまった。
申し訳ないと思っていたら、突然、シルヴィアさんの目から涙が零れ落ちた。
え、なに、ど、どうしたの!?
「いや、怒ってなどいない。むしろ、感謝している。――これが、修復できるとは思わなかった」
「焼失してましたけど、本の背には記憶されてたみたいで……」
魔法本を作ったときに術式について詳しくなったおかげで、俺の能力も上がったみたいだ。
以前なら、多分できなかっただろう。
ノートを手渡すと、シルヴィアさんはその場で読み始めた。
復元している途中は夢中になりすぎて覚えていないことも多いが、内容は料理のレシピだった。
そんなに秘伝のものなのか?
「……隠し味はハチミツだったのか」
「え?」
「このノートは妹の物なんだ。昔、よく作ってくれた」
大粒の涙が、修復したばかりのページに落ちる。 慌てたが、魔法加工した紙は涙を弾いて滲まなかった。
「……ありがとう。本当に」
そんな料理が上手だったのか。涙を流すほど。
「妹さんの料理、俺も食べてみたいです」
「悪いがそれは無理なんだ。妹は、魔族に殺されて亡くなった」
気まずい。
気まずい雰囲気が流れる。
しかし、シルヴィアさんはふっと笑みを浮かべる。
「気にするな。随分と前の話だ。それより、本当にありがとう。まさか、ここまでしてもらえるとは思わなかった」
「え、い、いえ……こちらこそ勝手にすみません」
しかし、シルヴィアさんはそれ以上レシピは見なかった。
色々あったんだろうな。
もしかして魔族を追いかけてるのは……そういうことなのか。
「ラルフ、これから先、君はその魔法本で危険な目に遭うかもしれない。でも、そのときは私が命にかけて助けよう。これは、それほどの恩だ」
「え、いや勝手にしただけなんで!?」
「いや、私にとっては命と同じくらい大切なものだった。それを、本当にありがとう」
「……そうですか、そこまで言ってもらえると嬉しいです。でも、ほんと無理しないでいいので」
「私はただの魔法使いだが、沢山の国の繋がりがある。何でも言ってくれ。ドルチェについては、引き続き注意しておくが」
本当にいい人だな。
その日はそのまま野営した。怯えて眠れないと思っていたが、思いのほか疲れていたのか気づいたら眠っていた。
朝目を覚ますとシルヴィアさんはすでに起きていた。俺の護衛してくれていたらしく、何ともいい人だなと再認識した。
俺は宿を伝え、今後また連絡を取ろうとなった。
といっても、すぐには復元の仕事はこないだろう。
しかし帰り際、ふと思いつく。
専属契約は断った。誰かの下につくのはもうやめたからだ。
でも、取引ならどうだ、と。
俺の仕事は、あくまでも人がいなければ成立しない。
もし誰も依頼を持ってきてくれなければ、仕事はできなくなってしまう。
だからこそ、今できることは――。
「シルヴィアさん、魔法本をいくつか作ってみるので、信頼できる人に販売してもらえませんか?」