魔法文明が衰退していく世界で、文献修復士が「魔導書」を作ったら人類最強になった   作:菊池 快晴

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第11話 シルヴィアと取引

 「ラルフ、魔法はできるだけ人前で使わないほうがいい。もしバレたとしても、絶対に自作したとは言うな。魔法使いだと名乗ったほうがいい」

「ええ、でもそれって嘘じゃ……? 俺、嘘はついちゃダメって教えられてきたんですが」

 

 シルヴィアさんが真剣な瞳で心配してくれていた。

 なので、俺も真剣に返すとちょっとだけ頬がピクっとしていた。

 冗談だと思われてる!? いや、ガチなんですけど!?

 

「そんな技術を持っているとバレれば、世界中の国が君を欲しがるだろう。だがそれは、決して良い話ばかりではない。力業で、君の身柄を確保する輩も出てくるはずだ」

 

 それは大袈裟ではないだろうか。

 確かに魔法本は作れたし、火の魔法が詠唱できるようになった。

 でも、生まれながらにして魔法を扱える人はいるのだ。

 それと、そこまで違うだろうか?

 

「いいか、ラルフ。魔法使いは、長い年月をかけて魔力を練り上げる「剣の達人」のようなものだ。誰もがなれるわけじゃない」

「……はい、それはわかりますが」

「だが君の本はどうだ? それがあれば、「子供」ですら言葉だけで達人すら殺せてしまうだろう」

「……あ」

「才能も、努力もいらない。ただ「読むだけ」で誰でも魔法が扱える。それが、どれほどものかはわかるだろう」

 

 そう言われるとめちゃくちゃヤバイ気がしてきた。

 俺、とんでもないもの作ったのか? え、ど、どうしよう。

 監禁とかされちゃう? いや、引きこもるには慣れているけれど。

 いや、これはガチだ。

 

 彼女の言う通り気を付けよう。

 人前ではできるだけ使わない。もしバレたら魔法使いだという。

 

 ただ嬉しくもあった。

 今まで一人で黙々と続けていたことが、こうやって世界を変えるほどのものだと賞賛されたことが。

 復元の仕事も、新しく生み出すことも、すべて、繋がっている。

 

 今までは、無駄じゃなかったんだ。

 

 ――ぐう。

 

 するとそこでお腹が鳴った。

 そういえば、何も食べてない。

 

「……すいません」

「いや、いいだろう。色々疲れたしな。少し待っててくれ。食べれそうなものを見繕ってくる」

「え、でも夜は危ないんじゃ……」

「私は慣れてるよ。そこで待っていてくれ」

 

 できる女性、カッコイイ。

 やっぱり専属を断ったのもったいなかったかも。

 

 しかし、闇夜は怖かった。

 焚火があるとはいえ、魔物は火だけで逃げるとは思えない。

 

 何か気を紛らわせたいと思っていたら、シルヴィアさんが置いていった上着から何かが落ちていた。

 

「……ノート、か? やけにボロボロだな」

 

 結構古いが、貴族がよく使っていた魔法の羊皮紙だ。数十年前によく使われていた。

 しかし焼失が酷いな。これも、どこからから見つけてきた物だろうか。

 

 そのとき、変な生き物の泣き声が聞こえた。

 

 俺は、気を紛らわすように仕事道具を取り出す。

 

 待っている間に、お礼として修繕しておくか。

 

 ――この瞬間、音が消え去る。

 

 現存している羊皮紙の手触りからすると「ミッドガルド製法」だな。

 となると、インクは「ラルド地方」のものだろう。

 新品の羊皮紙を本の背に合わせて、裁縫で綺麗に縫う。

 全体的に魔力インクを垂らすと、本の背の記憶からうっすらと文字が浮かびあがってくる。

 

 非常に薄いが、俺には見える。

 

 よし、何とかできそうだ。

 

 

 

 

 シルヴィアさんが獲物を抱えて戻ってきた。

 手頃な兎のような動物だ。凄いな。

 しかし、なぜか驚いているような。

 

「……ラルフ、それは」

「ボロボロだったので修復しておいたんですけど……よく考えたら勝手にしちゃまずかったですよね………すいません」

 

 俺の悪い癖だ。気を紛らわすため、勝手なことをしてしまった。

 申し訳ないと思っていたら、突然、シルヴィアさんの目から涙が零れ落ちた。

 え、なに、ど、どうしたの!?

 

「いや、怒ってなどいない。むしろ、感謝している。――これが、修復できるとは思わなかった」

「焼失してましたけど、本の背には記憶されてたみたいで……」

 

 魔法本を作ったときに術式について詳しくなったおかげで、俺の能力も上がったみたいだ。

 以前なら、多分できなかっただろう。

 

 ノートを手渡すと、シルヴィアさんはその場で読み始めた。

 復元している途中は夢中になりすぎて覚えていないことも多いが、内容は料理のレシピだった。

 そんなに秘伝のものなのか?

 

「……隠し味はハチミツだったのか」

「え?」

「このノートは妹の物なんだ。昔、よく作ってくれた」

 

 大粒の涙が、修復したばかりのページに落ちる。 慌てたが、魔法加工した紙は涙を弾いて滲まなかった。

 

「……ありがとう。本当に」

 

 そんな料理が上手だったのか。涙を流すほど。

 

「妹さんの料理、俺も食べてみたいです」

「悪いがそれは無理なんだ。妹は、魔族に殺されて亡くなった」

 

 気まずい。

 気まずい雰囲気が流れる。

 しかし、シルヴィアさんはふっと笑みを浮かべる。

 

「気にするな。随分と前の話だ。それより、本当にありがとう。まさか、ここまでしてもらえるとは思わなかった」

「え、い、いえ……こちらこそ勝手にすみません」

 

 しかし、シルヴィアさんはそれ以上レシピは見なかった。

 色々あったんだろうな。

 

 もしかして魔族を追いかけてるのは……そういうことなのか。

 

「ラルフ、これから先、君はその魔法本で危険な目に遭うかもしれない。でも、そのときは私が命にかけて助けよう。これは、それほどの恩だ」

「え、いや勝手にしただけなんで!?」

「いや、私にとっては命と同じくらい大切なものだった。それを、本当にありがとう」

「……そうですか、そこまで言ってもらえると嬉しいです。でも、ほんと無理しないでいいので」

「私はただの魔法使いだが、沢山の国の繋がりがある。何でも言ってくれ。ドルチェについては、引き続き注意しておくが」

 

 本当にいい人だな。 

 

 その日はそのまま野営した。怯えて眠れないと思っていたが、思いのほか疲れていたのか気づいたら眠っていた。

 

 朝目を覚ますとシルヴィアさんはすでに起きていた。俺の護衛してくれていたらしく、何ともいい人だなと再認識した。

 

 俺は宿を伝え、今後また連絡を取ろうとなった。

 といっても、すぐには復元の仕事はこないだろう。

 

 しかし帰り際、ふと思いつく。

 専属契約は断った。誰かの下につくのはもうやめたからだ。

 でも、取引ならどうだ、と。

 

 俺の仕事は、あくまでも人がいなければ成立しない。

 もし誰も依頼を持ってきてくれなければ、仕事はできなくなってしまう。

 だからこそ、今できることは――。

 

「シルヴィアさん、魔法本をいくつか作ってみるので、信頼できる人に販売してもらえませんか?」

 

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