魔法文明が衰退していく世界で、文献修復士が「魔導書」を作ったら人類最強になった   作:菊池 快晴

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第7話:誘導魔法

「グオオオオン!」

 

 生い茂った森の中、俺の目の前にいるのは軍狼(ぐんろう)と呼ばれる魔物だ。

 名前の通り統率の取れた行動で襲いかかってくる。

 牙には人間を麻痺させる毒があり、かすり傷でも致命傷となってしまう。

 魔導終焉戦争(マギ・アポカリプス)以降、熾烈を争っている魔物でも強い個体種だ。

 

 すると、俺を囲むように同胞が現れた。

 俺は本を片手に冷静に魔法を詠唱する――。

 

「なんて、できるかよおおおお」

 

 急ぎ、背中を見せながら走る。

 この魔物のことは知っていたが、もっと深い場所にいると生態系に書いていた。

 よって、戦う予定にはない。

 軍狼(ぐんろう)は俺のような獲物が初めてなのかすぐには襲いかかってこなかった。

 だがリーダーと思われる一匹の軍狼が叫ぶと、一斉に追いかけてくる。

 

「に、逃げ切れるわけねえよな!?」

 

 俺は、背を向けたまま魔法を詠唱した。

 火が出現すると、空気中の魔力を吸い取って大きくなる。

 

 そしてすぐに振り返ると、一気に放つ(シュト)

 

 すると炎は、いつもとは違う挙動を見せた。

 炎がまるで生きているかのように蛇行し、分かれ、軍狼にぶち当たったのだ。

 何匹かの魔物がぎょっとして逃げているが、炎は俄然として軍狼を追いかけていた

 やがて追いつくと、軍狼は黒焦げとなり地面に倒れこむ。

 

「ふう……よかった追尾術式を追加してて……」

 

 以前、リスの魔物に噛みつかれそうになった。

 殺されることはないと思うが、念のため、、数日掛けて術式に追加魔法を付与した。

 新しい魔法のページを増やすべきか悩んだが、一カ月ほどかかって、土壇場でアタフタするのはごめんだ。

 さっそく、その効果が発揮できた。

 

 参考にしたのは、20年前のロヅリ村の民族の魔法だ。

 ねずみに食べ物をよく盗られてしまうため、逃げる相手に有効な魔法を編み出した。

 文献の記憶を思い出しながら、追尾術式だけを抽出、火の魔法に加筆した。

 思えばこの魔法はもう誰も使っていないだろう。

 魔法を蘇らせていることも修復、復元の仕事だと思ったら嬉しくなった。

 

「しかし、相変わらず火力が凄すぎるなあ」

 

 軍狼に近づいて確かめてみるが、やはり真っ黒こげだ。

 魔石も同じようになっているので、今回もお爺さんへ持っていくしかないな。

 騙しているみたいで申し訳ないが、軍狼(ぐんろう)なら少しは胸を張れるか。

 

 ただ、俺みたいなニセモノと違って本当の魔法使いはもっと凄いんだろうな。

 生身の体だけで戦っている冒険者ですら、あれだけ強い魔物を倒せるんだから。

 

「よいっしょっと」

 

 焦げ焦げの魔石を鞄に入れていく。

 かつて人類を倒した西の勇者は、魔法鞄(アイテムバック)なる物を持っていたと文献に書いていた。

 何でも、物がたくさーん入るとか。

 おそらく魔法の一種だろうし、もしかしたら術式さえ分かれば可能かもしれない。

 思えば、東大陸の大国で似たようなのがあったような――。

 

「グルルル」

「……へ?」

 

 そのとき、目の前の軍狼(ぐんろう)と目が合う。

 え、な、な、なんで!? 全員殺したはずじゃ!?

 

 ――そうか、リーダーだけはどっしり構えて追いかけてこなかったんだ。

 軍って名前がついてるくらいだし、司令塔の役割なんだろう。

 

 俺が倒したのは兵士ってことか。捨て駒みたいで嫌だな。

 

 あれ、なんか凄く思考がゆっくりじゃないか? 

 これまさか、死に間際に見える走馬灯というか、時間がゆっくりになるやつじゃ……。

 すると軍狼(ぐんろう)は、大口を開けて俺に嚙みつこうとした。

 少しでも当たればアウト。俺は、麻痺してから生きたまま食べられて、死ぬ。

 

「グォォオオン!」

「ひ、ひぃ、やめてお願いいいいいいいい!」

「――雷瞬(らいしゅん)

 

 しかし次の瞬間、軍狼の頭部に雷が一閃走った。

 俺の髪の毛がフワッと逆立つ。

 

 次の瞬間、軍狼(ぐんろう)は身体が内側から弾け飛び、その肉片が空から降り注いできた。

 

「ひ、ひぇぇぇぇぇ!?」

 

 あたり一面が血なまぐさくなり、体は血だらけになる。

 ポテッと頭部に落ちてきたのは、何と目玉だった。

 

「ひゃっひゃっ」

 

 慌てて投げ捨てると、焦げ臭いにおいがする。

 新たな敵が現れたのかと思ったが、人間の足音がした。

 

「すまない。緊急に見えたので加勢させてもらった」

 

 少し離れた場所から現れたのは、金髪の女性だった。

 何というか、こういった場所にはそぐわないようなほど美形だ。

 赤い目は宝石のように綺麗で、肌は真っ白。

 冒険者……か? いや、でも今のは――そして、俺の心臓の鼓動が鳴りやんでいない。

 興奮ではなく、これは――。

 

「立てるか? 君は……冒険者でもないみたいだが、こんなところで何をしてるんだ?」

「あ、あの……あの……」

 

 女性は、優しく右手を差し出してくれている。

 しかし俺はその手を掴むことなく後ずさりした。

 

 人と話すのは苦手だ。

 しかし、命の恩人に対して失礼なことをするほどじゃない。

 

 なのになぜ俺はこんなことをするのか?

 

 それは――。

 

「どうした? 怪しい者じゃない。私の名前はシルヴィ――」

「心臓が痛むので、俺から離れてもらえませんか……」

 

 この女性の魔力が高すぎるせいで、めちゃくちゃ心臓が痛い。

 

 もちろん、もの凄く眉を顰められた。

 

 

 あの、お願いします。俺に雷瞬(らいしゅん)はしないでください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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