魔法文明が衰退していく世界で、文献修復士が「魔導書」を作ったら人類最強になった   作:菊池 快晴

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第9話:ラルフ・イーター

「お前――今、何をした?」

 

 シルヴィアと名乗った魔法使いの女性(美人で強くて魔族を許さない正義感の持ち主)が、俺を警戒している。

 その手には、触れるだけで絶命してしまいそうな紫電を纏った剣を構えていた。

 心臓が痛い。あれ? でもさっきよりは痛くない。

 もしかして魔法本を手に持っているからか? この本にはまだ魔力が残っている。

 それが、防御壁のようになっているのかもしれない。

 いやいやいや、今そんなことどうでもいい。

 ついこうやって別のことを考えてしまうのが俺の悪い癖だ。

 まずは怪しい本ではないことを伝えるべき。あと、俺が怪しい人物ではないことも大事。

 

「え、あのいや……その、さっきもお伝えしたようにこうやって魔法を放ち、魔物を倒してただけで、決して危害をくわえようなんて思っていなくて!?」

 

 だがそんな流暢に話せるわけがない。

 言葉を一つ間違えたら死んでしまうかもしれないのだ。

 震えてながら語尾だけ大きくなり、逆に怪しくなってしまう。

 本をしまうか? いや、下手に動いて勘違いされると困る。

 

「……その本は何だ? どこで手に入れた? 正直に答えろ」

「て、手に入れたじゃなく、自分で作ったんです!」

「……作った?」

「ええと、その……いいですか? 何もしないので」

 

 俺は、本のページを開いて見せようとした。

 シルヴィアが少し警戒する。

 

 俺は、ビッシリ細かい文字で術式が書かれているページを見せた。

 シルヴィアは魔法使いだ。ならば、その原理がある程度は理解できるだろう。

 上から順に説明していく。

 

「この本は、古い文献を参考に作りました。術式が書いてあるのがわかりますか?」

「……わかるが、お前から一切の魔力は感じない。なのに、どうやって魔力を操作している?」

「ええと、空気中の、周囲の魔力を吸い込む術式を記しました。わかりやすく説明すると、この本が魔法使いのような役割をしている感じです……」

 

 この説明、もしかしてちょっと失礼じゃないだろうか。

 シルヴィアは未だ疑っているみたいだ。

 

「……もう一度、魔法を放ってみろ」

「え、ど、どこにですか」

「どこでもいい。この目でしっかり確かめる。怪しい動きをしたら、わかるな?」

「は、はい」

 

 本気だ。怪しい動きをしたら、俺は死ぬ。

 

 怖い。

 でも、言われた通りにしよう。

 前置きもなしに魔法を放った俺が一番悪いもんな。

 

 といっても目標がなければ困るな。

 よ、よし、やったことはないが、空に放ってみよう。

 

 俺は、静かに魔法を詠唱した。

 できるだけわかりやすいように魔力を貯めていく。

 

「……そんな、ありえない。これは、どういうことだ」

「え、えへへ……信じてもらえましたか?」

「…………」

 

 なんでそこで返事が返ってこないの!?

 

「ちょっとまて、この炎……どこまで大きくなるんだ?」

「……へ?」

 

 見上げると、炎は凄まじいデカさになっていた。

 魔力を吸い込む限界を術式を入れ込んでないからだ。

 

 ひゃ、ど、どうしよう!?

 

 そ、そうだ――空に放つ(シュト)

 

 すると炎は凄まじい勢いで飛び上がった。

 少し暗がりになってきていたからか、炎が光の役割をして森が一斉に明るくなる。

 しかしまだまだ空へぐんぐん上がっていく。

 

 そういえば距離の限界は俺も知らないな。

 このまま太陽までぶち当たり――なわけないか。

 

 すると、ある一定のところ爆散した。

 ボルド国では夏に花火があるが、それと似ている。

 しかしそれよりも凄まじい広がりを見せていく。そして、ボンっと破裂音が遅れて聞こえてきたかと思えば、突風のように森が風で揺れる。

 

 さらにヤバイのは、炎が枝分かれしていくつも落ちてくることだ。

 

 ……え、なんで消えないの?

 

「え、え!?」

 

 高密度な炎になりすぎたせいで、あの距離ではまだ分散されないのか。

 森は燃えないかもしれないが、もし誰かの頭上へ落ちたら……。

 

「こっちへ来い!」

 

 するとシルヴィアが叫んだ。

 俺はひゃっと近づく。彼女は、真上に剣を構えた。

 そして、ビリビリと魔力を漲らせる。

 

 俺は頭を抱えてしゃがみ込んだ。彼女の白い太ももが見える。

 こんなときに本当になんだが、美しすぎる大腿四頭筋だ。

 昔、筋肉が大好きな歴史の文献を修復したことがある。

 よく見ると文字が書いている。

 なんだこれは刺青(タトゥー)か? いや、魔力が浮き出ているようだ。

 

 確か……魔導紋(スティグマ)と呼ばれる紋章だ。

 優れた魔法使いにのみ現れる、力の象徴。

 魔導終焉戦争(マギ・アポカリプス)の時代にしか存在しないはずと書かれていた。

 

 しかし、美しい。幾何学模様に見えるが、これは超高密度の魔術回路だ。

 おそらく『増幅器』として機能させている。

 まるで、細い導線に雷を流しているようなものだ。

 しかし、激痛も伴っているだろう。内側から焼かれているように脈動している。

 

「――散れ(ディスパ)!」

 

 俺が呆然としている間に、シルヴィアが剣を振るった。

 瞬間、太ももの紋様がカッと強く発光する。

 剣から放たれたのは、紫色の稲妻だった。

 無数に枝分かれし、空から降り注ぐ炎の雨を一つ残らず正確に迎撃していく。

 ドオン、ドオン! と空中で爆発音が連続し、炎は煙となって消え失せた。

 ……凄まじい精度だ。

 俺の炎の長所が威力だとしたら、彼女の魔法は正確無比だ。

 

 やがて静寂と、焦げ臭さだけが残った。

 

「……はぁ、はぁ」

 

 シルヴィアは剣を下ろし、肩で息をしている。

 太ももの光は徐々に収まっていったが、よく見ると肌が赤く爛れているようにも見えた。

 彼女は、キッと俺を睨みつける。 その目は、さっきまでの警戒心とは違い、呆れと怒りが入り混じっていた。

 

「……お前、馬鹿なのか?」

「す、すいません!!」

「自分の魔法の威力も把握していないのか!? 私が落とさなければ大変なことになっていたかもしれないぞ!」

「まさかあんなに飛ぶとは思わなくて……」

 

 俺は勢いよく謝罪した。弁明の余地がない。完全に俺のミスだ。

 

「はぁ……。だが、信じられん。お前の言う通りだった。本当に、魔力がないにもかかわらず魔法を使った」

 

 

 シルヴィアは剣を鞘に納めると、俺がまだ持っている本に視線を向けた。

「ええと、その……信じてもらえましたか? 俺が作ったってこと」

「信じるも何も、この目で見てしまったからだ。魔力を持たない人間が、あれほどの魔法を使用するなんて……常識がひっくり返るどころの話じゃないぞ」

「あ、良かったです」

 

 良かった。色々あったが、信じてもらえたようだ。

 うむ、これでなんとかなるな。

 

 しかし、反対に色々聞きたいことが出てきた。

 魔導紋(スティグマ)についてだ。これは明らかに後から(・・・)付いたものだ。

 まるで、俺が本に術式を記したような。

 

「……お前は変態なのか?」

 

 気づけばずっと太ももを見ていたらしい。消えていく魔導紋(スティグマ)に悲しくなる。

 気になってみていたら、ビクっと離れた。

 

「やめろ」

「す、すいません。ただ知的好奇心で!?」

「……変なやつだな、お前は」

「たまに言われます」

 

 ニカッと笑うと、余計に引かれた。

 いや、ごめんなさい。

 

「聞きたいことは山ほどある。魔法本も、お前のことも。だが、まだ名前も聞いてなかったな」

「あ、す、すいません。失礼しました……。俺の名前は、ラルフです」

「……ラルフ、だと?」

「はい。元々は文献の修復の仕事をしていたんですが――」

 

 ん、シルヴィアさん、なんでそんな驚いた顔をしてるの?

 

 やっぱり俺のこと、魔族だと勘違いしてない!?

 

 切らないでね!? 

 

 

 




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