魔法文明が衰退していく世界で、文献修復士が「魔導書」を作ったら人類最強になった 作:菊池 快晴
「お前――今、何をした?」
シルヴィアと名乗った魔法使いの女性(美人で強くて魔族を許さない正義感の持ち主)が、俺を警戒している。
その手には、触れるだけで絶命してしまいそうな紫電を纏った剣を構えていた。
心臓が痛い。あれ? でもさっきよりは痛くない。
もしかして魔法本を手に持っているからか? この本にはまだ魔力が残っている。
それが、防御壁のようになっているのかもしれない。
いやいやいや、今そんなことどうでもいい。
ついこうやって別のことを考えてしまうのが俺の悪い癖だ。
まずは怪しい本ではないことを伝えるべき。あと、俺が怪しい人物ではないことも大事。
「え、あのいや……その、さっきもお伝えしたようにこうやって魔法を放ち、魔物を倒してただけで、決して危害をくわえようなんて思っていなくて!?」
だがそんな流暢に話せるわけがない。
言葉を一つ間違えたら死んでしまうかもしれないのだ。
震えてながら語尾だけ大きくなり、逆に怪しくなってしまう。
本をしまうか? いや、下手に動いて勘違いされると困る。
「……その本は何だ? どこで手に入れた? 正直に答えろ」
「て、手に入れたじゃなく、自分で作ったんです!」
「……作った?」
「ええと、その……いいですか? 何もしないので」
俺は、本のページを開いて見せようとした。
シルヴィアが少し警戒する。
俺は、ビッシリ細かい文字で術式が書かれているページを見せた。
シルヴィアは魔法使いだ。ならば、その原理がある程度は理解できるだろう。
上から順に説明していく。
「この本は、古い文献を参考に作りました。術式が書いてあるのがわかりますか?」
「……わかるが、お前から一切の魔力は感じない。なのに、どうやって魔力を操作している?」
「ええと、空気中の、周囲の魔力を吸い込む術式を記しました。わかりやすく説明すると、この本が魔法使いのような役割をしている感じです……」
この説明、もしかしてちょっと失礼じゃないだろうか。
シルヴィアは未だ疑っているみたいだ。
「……もう一度、魔法を放ってみろ」
「え、ど、どこにですか」
「どこでもいい。この目でしっかり確かめる。怪しい動きをしたら、わかるな?」
「は、はい」
本気だ。怪しい動きをしたら、俺は死ぬ。
怖い。
でも、言われた通りにしよう。
前置きもなしに魔法を放った俺が一番悪いもんな。
といっても目標がなければ困るな。
よ、よし、やったことはないが、空に放ってみよう。
俺は、静かに魔法を詠唱した。
できるだけわかりやすいように魔力を貯めていく。
「……そんな、ありえない。これは、どういうことだ」
「え、えへへ……信じてもらえましたか?」
「…………」
なんでそこで返事が返ってこないの!?
「ちょっとまて、この炎……どこまで大きくなるんだ?」
「……へ?」
見上げると、炎は凄まじいデカさになっていた。
魔力を吸い込む限界を術式を入れ込んでないからだ。
ひゃ、ど、どうしよう!?
そ、そうだ――空に
すると炎は凄まじい勢いで飛び上がった。
少し暗がりになってきていたからか、炎が光の役割をして森が一斉に明るくなる。
しかしまだまだ空へぐんぐん上がっていく。
そういえば距離の限界は俺も知らないな。
このまま太陽までぶち当たり――なわけないか。
すると、ある一定のところ爆散した。
ボルド国では夏に花火があるが、それと似ている。
しかしそれよりも凄まじい広がりを見せていく。そして、ボンっと破裂音が遅れて聞こえてきたかと思えば、突風のように森が風で揺れる。
さらにヤバイのは、炎が枝分かれしていくつも落ちてくることだ。
……え、なんで消えないの?
「え、え!?」
高密度な炎になりすぎたせいで、あの距離ではまだ分散されないのか。
森は燃えないかもしれないが、もし誰かの頭上へ落ちたら……。
「こっちへ来い!」
するとシルヴィアが叫んだ。
俺はひゃっと近づく。彼女は、真上に剣を構えた。
そして、ビリビリと魔力を漲らせる。
俺は頭を抱えてしゃがみ込んだ。彼女の白い太ももが見える。
こんなときに本当になんだが、美しすぎる大腿四頭筋だ。
昔、筋肉が大好きな歴史の文献を修復したことがある。
よく見ると文字が書いている。
なんだこれは
確か……
優れた魔法使いにのみ現れる、力の象徴。
しかし、美しい。幾何学模様に見えるが、これは超高密度の魔術回路だ。
おそらく『増幅器』として機能させている。
まるで、細い導線に雷を流しているようなものだ。
しかし、激痛も伴っているだろう。内側から焼かれているように脈動している。
「――
俺が呆然としている間に、シルヴィアが剣を振るった。
瞬間、太ももの紋様がカッと強く発光する。
剣から放たれたのは、紫色の稲妻だった。
無数に枝分かれし、空から降り注ぐ炎の雨を一つ残らず正確に迎撃していく。
ドオン、ドオン! と空中で爆発音が連続し、炎は煙となって消え失せた。
……凄まじい精度だ。
俺の炎の長所が威力だとしたら、彼女の魔法は正確無比だ。
やがて静寂と、焦げ臭さだけが残った。
「……はぁ、はぁ」
シルヴィアは剣を下ろし、肩で息をしている。
太ももの光は徐々に収まっていったが、よく見ると肌が赤く爛れているようにも見えた。
彼女は、キッと俺を睨みつける。 その目は、さっきまでの警戒心とは違い、呆れと怒りが入り混じっていた。
「……お前、馬鹿なのか?」
「す、すいません!!」
「自分の魔法の威力も把握していないのか!? 私が落とさなければ大変なことになっていたかもしれないぞ!」
「まさかあんなに飛ぶとは思わなくて……」
俺は勢いよく謝罪した。弁明の余地がない。完全に俺のミスだ。
「はぁ……。だが、信じられん。お前の言う通りだった。本当に、魔力がないにもかかわらず魔法を使った」
シルヴィアは剣を鞘に納めると、俺がまだ持っている本に視線を向けた。
「ええと、その……信じてもらえましたか? 俺が作ったってこと」
「信じるも何も、この目で見てしまったからだ。魔力を持たない人間が、あれほどの魔法を使用するなんて……常識がひっくり返るどころの話じゃないぞ」
「あ、良かったです」
良かった。色々あったが、信じてもらえたようだ。
うむ、これでなんとかなるな。
しかし、反対に色々聞きたいことが出てきた。
まるで、俺が本に術式を記したような。
「……お前は変態なのか?」
気づけばずっと太ももを見ていたらしい。消えていく
気になってみていたら、ビクっと離れた。
「やめろ」
「す、すいません。ただ知的好奇心で!?」
「……変なやつだな、お前は」
「たまに言われます」
ニカッと笑うと、余計に引かれた。
いや、ごめんなさい。
「聞きたいことは山ほどある。魔法本も、お前のことも。だが、まだ名前も聞いてなかったな」
「あ、す、すいません。失礼しました……。俺の名前は、ラルフです」
「……ラルフ、だと?」
「はい。元々は文献の修復の仕事をしていたんですが――」
ん、シルヴィアさん、なんでそんな驚いた顔をしてるの?
やっぱり俺のこと、魔族だと勘違いしてない!?
切らないでね!?
評価いただけると幸いです。