喝采が聞こえる。
まだ姿を見せていないはずなのに、城内まで聞こえるほどの歓声が轟く。
その歓声に思わず進んでいた足が止まる。
ふと、近くの窓から城下を見下ろす。
そこには数え切れないほどの数の民衆が、俺が姿を現すのを今か今かと待っていた。その圧巻の光景に俺は思わず「まるで、人がゴミのようだ」と、口に出してしまう。
まさかネタ抜きに正しい場面でこの言葉を使うとは
そんなことを考えていると目の前から一人の老翁が近づいてきて、俺の傍で恭しく頭を垂れる。
「聖王陛下、お時間となりました。どうぞ私とともに王の御座へ」
その老翁は立派な祭服を纏っており、一目でよほど位の高い聖職者であることが分かる。
まぁ、実際そうなのだが。
「顔を上げてくれ、レフ・グリモル教皇。貴殿は俺を困らせることが好きなのか?」
俺がそう告げると、レフは頭を上げその顔は優しい笑顔をしている。
「ハハハ、そうですな。今まで聖王陛下に困らせられた分だけ、これからは私が困らせてやろうという腹積もりでございます」
「ほぅ、貴殿はいい趣味をお持ちのようだ」
「どちらかと言えば陛下のほうがより良い趣味をお持ちでは?」
互いに笑いがこぼれ、静かな廊下に響き渡る。
一見、一回りどころか孫と祖父にしか見えない両者だが、まるで幼馴染かのように軽口を叩き合っている。
「さて、冗談はここまでにして王の御座へと向かおう。レフ、案内を頼む」
俺がそう言うとレフは「かしこまりました」と告げ俺の前を歩き始めた。
「そう言えばレフ、貴殿は何時になったら息子に教皇の座を渡す気だ?」
「ぬ?陛下は私に早く退けとおっしゃりたいのですか?」
レフがいたずらっぽく俺に聞き返してくる。正直、この老翁がそれをするのはキモいの一言に尽きる。
「そういうわけではない。ただ、貴殿の息子のハリー・グリモル枢機卿もそろそろ不憫に思えてきてな」
「あの愚息は確かに実力は申し分ありませんが、私自身がまだ仕事ができますので当分教皇の座を譲る気はありませんよ」
「いや、貴殿この間曾孫が生まれているだろう。俺自身も貴殿にもうそろそろ休んで欲しいのだが?」
俺がそう返すとハハハと声をあげて笑い出す。ここだけ見れば一回りか二回りは若く見える。
だが本当にこの老翁何時になったら教皇辞める気だ?
確か
このままだと原作が崩壊、、、とは思ったが俺のこの存在とやらかした諸々でとっくに崩壊してはいるか。
なら大丈夫か、と自分を無理やり納得させ現実から目を背ける。
「そうそう、お伝えするのが遅れましたが聖王妃様もすでに席に座られています」
「なっ?!それを早く言え!!俺が彼女に怒られるだろう」
「それともう一つ聖王妃様から伝言です。今夜は覚悟するように、と。……陛下、何をやらかしたんですか?」
「いやぁ、うん。多分、昨日の盗み食いがバレたんじゃないかなぁ〜?」
俺は明後日の方向を見ながら答える。
「今回で何度目ですか?全く、民衆や信徒がこの姿を見たら幻滅しますね」
「だから以前から言ったろう?俺はそういうのは向いてないんだよ。ちなみに多分21回目だ」
「にじゅっ!?……まぁ、これに関しては聖王妃様にお任せします。そうこうしているうちにほら、着きましたよ」
そう言われ前を見ればいつの間にか王の御座の前に着いていた。
必然的に先程まで聞こえてきた歓声がよりよく聞こえてくる。
思わず足が竦んでしまう。
「大丈夫です陛下。これしきのこと今までの陛下の成したことに比べれば陛下にとってはへっちゃらです」
「へっちゃらって、お前もういい歳だろう?」
お茶目なのが私の特徴ですので、と言われ思わず微笑してしまう。
だけどそのおかげで―――
「―――ありがとう、レフ。もうへっちゃらだ」
俺は満面の笑みでレフに答える。すると一瞬レフはポカンとした表情をするがすぐに笑い出す。
「ハハハ、成る程。ならばいいでしょう」
そう言うとレフは直ぐに真剣な顔に戻し、口を開く。
「―――フェル・ミリス・ログレス聖王陛下。行ってらっしゃいませ」
俺はその一言を受け、ただ一言
「―――行ってくる」
と告げ、歩みだした。
今思えば、長いようで短い16年だった。
16年前は自分がこんな事になっているとは夢にも思っていなかったが。
しかし実に濃い16年であったことは疑いようもない。
後悔がないわけではない。なんなら後悔しかない。
でも手に入れたもののほうが多い。だから、前を向く。
たとえ分不相応な立場であっても俺はこの地位に立ち役割を果たす。
そして、より良いハッピーエンドに手を伸ばそう。
しかしこれから先の未来を進めるには少し今までのことを振り返らなくてはいけないが、その前に一つ宣言をしなくてはならないな。
仮に、俺の人生が一つの物語であったのなら読者の皆様にはこの言葉を覚えていただきたい。
「―――ここに、【聖王】フェル・ミリス・ログレスが宣言する。ミリス神聖王国の生誕を!!!」
改めて。
これは大好きだった物語『無職転生』の世界に異質な立場で転生を果たしてしまった一人の人間が泥臭く頑張りながらもより良いハッピーエンドを目指す物語である。
どうも、大戦士です。
そこの貴方、『願望転生』はどうしたかって?御名答。
こちらの作品は『願望転生』を書いてるときに脳裏にちらつき思わず書いてしいました。
引き続き『願望転生』の方も書いていこうとは思っていますのでご安心ください。
また、『願望転生』を知らない方がおりましたらぜひ一度拝読していただけましたら嬉しいです。
また、感想、誤字・脱字報告、評価の三点を是非お気軽にしていただけましたら幸いです。
これから是非とも『聖王転生』をよろしくお願いいたします。