滅びゆく帝国を眺めているお話。僕と皇子の馴れ初めでもあるね

あ、当然だけど卓独自の情報とか無いと面白くないと思うよ?それでもいいなら、楽しんでくれると結構だ。

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破滅型の道化は楽しみを求めて

男は観察をしていた。遠く離れた帝国が今まさに蹂躙されている様を。何処かの神の兵団のつもりだろうか。騎士の姿をしたロボット達が槍から灼熱の嵐を吹き出し、全ての命を、文化を、大地をも分け隔てなく包みこんでいく。一つの社会的集団が圧倒的な武力によって終わる。なんと劇的で刺激的で情熱的な瞬間だろうか。

「はーっはっはっはぁあ!??!!なんて素晴らしいエンターテイメントなんだろうね!」

ド派手な赤い背広を着た長身の男は興奮冷めやらぬまま、乾いた血の色の蝶ネクタイを直し、叫んだ。目の前の滅びゆく国でキャスターを務めていた時のように七色の声を存分に使って。

「そうだ。これも私が望んでいた結果、景色だよ!!!ご覧の皆様、是非とも手に持ったマグカップやポップコーンをを口に運ぶことのないように!これは直ぐに終わってしまいます!見逃すなんて勿体無いですからねぇ?ゲェーハッハッハァ……!」

映像配信もラジオ放送もしていない空虚な語りは確かな熱を孕み背広男の喉を高らかに通っていく。しかし、手に持ったマイクにそう嘯く男の顔は苦い虫でも噛んだかのような苦悶の形に歪んでいる。何故ならこの状況の全てが望んだ結果になっているわけではないからだった。

「…………全く、何処の誰だか知らないけど、ここまで急に終わらせるなんて本っ当に勿体ない。僕が事前に準備させていた左翼団体の活動から始まるドミノのように速く!!……しかし長く続いただろう足元からの国家崩壊のがもっと良かったに違いない!楽しみは、長く続けたいものなのだからねぇそう思うでしょう?」

赤い男の計画は打ち上げ花火のように短くド派手に消化するものではなく、どちらかといえば線香花火のように少しづつ燃えるさまを楽しむものであった。そのための根回し、扇動、焚き付け、分断。活動するのに必要な自身の社会的地位が揺らがない程度に男は働きかけた。しかし、それらは実を結ぶことはもうない。何故ならいま繰り広げられている目の前の破壊により全て燃えてしまっている。完全なる予想外の自体だった。

「駆逐用に調整されているグラムメタル級ガーディアン。それもこれだけの数を一気に送り込めるとなるとドラグエフィル……ここまで用意周到だったとはね。にしては全然情報が流れてこなかったけど……それとも、もしかして至高王の軍団かな?…………まさかね!?」

「そのまさかだ。くそったれのニュースキャスター。」

背後から掛けられた声に反射的に振り向き、一瞬だが男は固まらざるを得なかった。そこには崩れた城に埋もれているはずの第一王子がいたからだ。どうしてこんな場所に!?

「これは……これはこれは!エイダロータ皇子ではありませんか!よくぞご無事で!私は運よくここまで逃げられましたが、まさか皇子も無事だったとは。このアノスレッデン、望外の喜びでいっぱいです!」

「口を開くな下衆め。我は滅びようともラエグスタ帝国第一皇子、エイダロータである。国賊に敬われる筋合いも心持ちもない」

アノスレッデンは露骨に舌を打った。どうやら聞かれていたようだ。そして、こちらに殺気を向けている皇子は見るからに身体のあちこちから出血をしている。やるのならば、恐らく今しかない。

「はぁ……何処までか知らないけど、聞かれていたのならしょうがないね。このままだと死にそうだけど、僕もここで終わるのは本望じゃない。残念ですが……貴方を始末させてもらいますよ皇子。悪く思わないで欲しいね。」

そう言うとアノスレッデンは懐から銃を取り出した。少々の憧れと確実な動作を目的とした回転式拳銃だ。アノスレッデンはこうした争いごとは決して得意とはしていなかったが、目の前の皇子は明らかに弱っている。そしてあちらからは離れているが銃であればこの距離は至近と言える。皇子が離れた場所から話を掛けてくれて本当に良かったとアノスレッデンは安堵した。もし近ければ勝てはしなかっただろう。

「さようなら、皇子。せめてあっちでお姫様によろしくね。」

パァン……と軽い音をたてて放たれた弾丸は軽い音を立てて、弾かれた。

「!?」

いつの間にか目の前の皇子の手には実剣が握られており、それで弾いたようだ。そう、目の前である。

「なぁっ!??!!」「ハァッ!!!」

一瞬で距離を詰めてきた皇子に銃も吹き飛ばされ首元に切っ先を突きつけられた男は腰が砕け、もう尻もちをつくしかなかった。

「ボロボロの我ならば容易いとでも思ったか?道化が。我は皇帝代理騎士よ。如何にお前らに箱庭育ちと笑われようが任された事をこなせぬ程怠けてはいない。つまりだ。飛び道具に頼らねばいけぬ輩に負けるほど弱くはないし、なんならファイサート姫はまだ生きてるわ間抜けが!」

「は、ハハハ。参った参った、降参するよ。まさかここまで強いとはねぇ。」

そう言いながらアノスレッデンは手札を思い浮かべる。幸いマイクはまだ手元にある。レムリアで学んだ魔法を使えばこの状況を逆転出来る。無詠唱は難しいが出来なくはない。いや、殺るのだ。やらねばいけないのだ。せめてこの皇子だけでも自身の手で殺さなければプライドが許さない。

「…………何か企んでいるな。」

「何のことでしょう?この負けの状況で何が出来るも何も無いですよ皇子。」

努めてあっけらかんと話すが、何処までふりを出来ているかもはやアノスレッデンに気に掛ける余裕はなかった。

「そうか。ならそのマイクを遠くへ投げろ。10秒やる。それ以内に手放さなければスパイドをオーバーロードさせてお前の顔をプラズマで吹っ飛ばす。」

「え、じょ、冗談ですよねぇ?皇子ともあろうお方がそんな酷いことを」

「1……2……3……4……。」

「あーもう本当に降参さ!ほら投げましたよほら!もう手札はないです!あぁぁぁこんなところで人生終わりだなんて……!」

アノスレッデンは杖代わりのマイクを遠くへ投げた。もう殺す手立てはない。完全に負けてしまった。

「そうだ。お前は我とファイサート姫に負けたんだ。せめてもう少し楽しませてくれれば良かったのだがな。」

聞き捨てならない言葉だった。ファイサート姫に負けた?この僕が?いつ?そういえばまだ生きているとか言っていたな。

「一つだけお聞きしたいことがあります。私はお姫様と面識がなくてですね。ですから当然、勝負事をしたこともないのですが、負けたとは一体どういうことですかな?気になって仕方がありません!」

「簡単な話だ。今、ラエグスタ帝国を滅ぼしているグラムメタルは姫が呼んだのだ。我を救うために。」

「………………はぁ?????」

寝耳に水とはこのようなことを言うのだろうと呑気に思ってしまう程度にはあり得ない答えが返ってきて、アノスレッデンは首を傾げにかしげた。姫が手引きをしたまでは何とかわかる。だがそれがどうしてエイダロータ皇子を救うことになるのかがわからない。

「色々省くが……お前が革命か何かを企画していなくても、ラエグスタ帝国は滅びていた。今日、同盟締結のために来てくれたドラグエフィル帝国の手によって。そういうことだ。」

アノスレッデンは笑うしかなかった。自身が企画していたものは失敗する定めにあったというのだから。まさかこの同盟そのものが本当に罠だったとは思っても見なかった。

「なんと……じゃあ本当に僕は道化だったと?」

「そうだ。」

「ああなんて……なんて素晴らしいんだ!!!!!」「?!」

アノスレッデンは心から素晴らしいと、そう思えた。自らが計画したことが順調に運ぶことも、全然計算と違う事象が発生し失敗することも。彼が生きて行動した結果であり生きた証拠であるのだから。やはりこの世界という舞台は一筋縄では行かない。

「ああ、やはりこの世界は面白い!どれだけ賢く動いても全てが思いのままになんて行くわけがない!だからこそ僕らは舞台の上で必死に足掻くのです!貴方もそうでしょう!?……皇子様。」

そう問われたエイダロータ皇子は釈然としない表情でこちらを見つめていた。

「一緒くたにされるのは非常に遺憾だが……そうかもしれないな……これからもその気はあるか、アノスレッデンよ。」

「これからって?どういうことですかな。私を始末する気はないと?」

「我はラエグスタ帝国第一皇子だ。国が滅びようと、それは変わらない。だから我は国を興す。どうだ、ついてきてはくれまいか。」

アノスレッデンは再び首を傾げることになった。いま目の前の阿呆は何を言った?自分についてきてほしいと言った。今殺そうとした男に?なんと馬鹿げた提案だろうか!?

「それは、素晴らしい提案だ!でも皇子様一つ忘れてないかい?僕は君を殺そうとした男だよ?どうしてそんな僕が君についていくと思えるんだい?」

「我の旅は艱難辛苦に溢れるに違いない。だがそれは時に、読んでいる者の胸を躍らせる事でもあるだろう。冒険活劇とはそういうものだ。苦難を乗り越えるさまは読んでいて楽しいのだ。お前はそれを特等席で見られるのだぞ?ついてくる条件としては破格ではないか?」

「なんとなんと!貴方の旅を見られるのですか!それは実に……楽しそうだぁ………………しかし、そうなると私は何をすればいいのですかな?私はしがないニュースキャスターなものでして出来ることはそう多くはないものですから……。」

わざとらしく振る舞うアノスレッデンに皇子は命令を下した。

「アノスレッデン、貴様に命を下す。これからお前は我の旅路の行く末を書き記し、援助するのだ。お前の出来ること全てを賭して、だ。時には……表に出せないこともあるだろう。だが、我は手段を選んでいられない。道化師として我の役に立て。」

この言葉にアノスレッデンは顔をくしゃくしゃにして答えた。

「では、人死になどは出来る限り出さない方向に……それで、契約成立かな?」

アノスレッデンは手を差し出した。握手でもしてくれればその瞬間に呪文を刻めるだろう。

「……目は口ほどに物を言うものだ、覚えておくといいアノスレッデン。握手はしない。これは皇子としての命令だからね。」

「hmm…………及第点だね。果たして何処まで続くかな?」

「貴様が満足するまでじゃないか?さぁ……早速行くぞ。貴様用のランドブースターをかっぱらって来なくちゃならない。」

「おやおや。これは忙しくなりそうだね!?」

「これからはずっとそうだろうな。期待しているぞ。」

「なら、これからずっと僕を楽しませるんだね。エイダロータ皇子?」


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