漸くプロローグも佳境に。
え、もうすぐ10章始まるってマ?
「全く…おいビスカ、説明しろ」
「えぇ、これはなんと言いますか、その…」
さて、三勇教教皇こと、ビスカ=T=バルマスがまごついてる内に状況を整理しようか。
一気呵成に奇襲を仕掛け、かつての悲劇の再来だけはかろうじて防いだ私こと【黒猫】。
盾の勇者と教皇を逃し、残りの黒い外郭の亜人を討伐すべく、習作【ヒューメラス】を手に取る。
危なげなく亜人を現代アートに変え、ついでにメルロマルク王、オルトクレイを救出。
だが、空気も読まず私を敵と勘違いした槍の勇者達が強襲するも、三尾の尾刃で迎撃。
短い攻防の末、感じ取った違和感を払拭する為、彼らの姿を凝視すれば…獣臭い第二王女、そして取り巻きの女供を守る騎士さながら仁王立ちするメカメカしい槍の勇者の姿が。
視線を下に向ければあちこちぼろぼろな盾の勇者のあられも無い姿。
機械人形の槍の勇者に、乱暴な扱いを受けた女の盾の勇者。
「俺の名前は北村元康!! やいそこのバケモノ!! 本当に痛い目に遭いたくないなら尚文ちゃんから離れろぉ!!」
そして今現在、両者睨み合いの状況に至る。
結論から言えば一触即発の危機だった。
よりにもよってこのタイミングで1番話の通じない奴が来やがった。
北村元康。
仲間想いで情に篤い純度100%の
女の事を天使の様に持て囃し、女達の言う事は絶対に聞くというが、実際には女の負の性欲に振り回され、女に搾取される事から目を逸らしているだけの哀れな幸福の王子。
今、斯様に私をバケモノと呼び、女の味方であろうとするのも、自らに被害が及ばない様に振る舞っているだけの防衛本能であろう。
「隠れて隙を伺っていた様だからもう一度だけ忠告しておく、今すぐそのゴミ箱と要人供を連れて逃げろ、失せないのなら…その首をへし折られない内に失せろ」
地面に突き刺さったままの尾刃を引き抜きながら警告するが……。
「俺はお前みたいな女の子を傷付けるバケモノの言う事なんか聞かないぞ!!」
あのザマだ。
0か1かでしか判断出来ない断定した物言いは旧世代AIの思考ルーチンを思わせる。
「…私は何度も同じ事を言わせる頭の悪い馬鹿が嫌いだ、もう一度だけ忠告してやる」
「今すぐ、ソイツらを、担いで逃げろ」
私の意図をいち早く察したのか、マルティが元康の肩を掴み、急いで警鐘を鳴らす。
「元康様!! 【黒猫】は味方です! 」
「いいや!! 俺はお前なんか怖くないしお前のやった事を見て逃げたりもしない!! どんな奴が相手でも絶対に女の子を守ってみせるんだ!!」
「優先順位を見誤らないで下さい!! 先ずは盾の勇者と教皇を救出する為に彼に身柄を引き渡してもらうのが先決でしょう!?」
第二王女の必死の警告にも耳すら貸さず、元康は彼女に目線すら合わせないまま自分の世界に陶酔してしまっている様だ。
まさかとは思うが、自分こそがこの世界の主人公で物事の全てが自分に味方してくれると考えているのだろうか。
そんな主人公補正の様なものがあったら、私は全てを切り捨てる様な『不五常』極まりない選択ではなくせめて『仁』だけでも為せた選択を……。
「あぁ、もう…! こんな阿婆擦れみたいな事言いたくないんだけど…! 元康様!! 一体貴方は盾の勇者と私達どっちの味方のつもりなのですか!?」
「何を言ってるんだマイン!? 女の子の味方に決まっているだろう!?」
……ああすまない、思考が逸れたな。
やり取りを聴く限り、質問に対しての回答に見当違いな発言が生じているのがはっきりと聞きとれた。
会話はかろうじて成立こそしているが、互いの意思疎通が取れているのか怪しい。
さてはコイツ、女の話を全く聞いていないな?
「いくぞ!!皆の力を合わせれば世界だって救える筈なんだ!! 産まれてくる子供の未来の為に、お母さんになる人を助けるぞ!!」
敵(味方)がいるにも関わらず、第二王女とへたり込んだ取り巻きに対して、元康は彼女達の心境なぞお構いなしに彼女達を鼓舞しながら槍を掲げた。
どうやら私が何者なのかと今起きた惨事から予想出来るであろう、赤黒髪の女の胎の中身は既に彼の思考に無い様だ。
そんな二人の口論を横目に取り巻きの様子を伺えば…うむ、全員引いてるな。
歯牙にもかけてもらえてすらないのにまだそんな事言える? というか私は? 思いっきり重傷なんですが?
と、でもいいたげなくらい呆然としている。
取り敢えず、肩口からバッサリいった魔術使いらしき女と未だ腰を抜かしたメルロマルク王ことオルトクレイを尾刃で器用に引き寄せながら、次元収納から緑色の弾丸を取り出す。 ヘラポリオス弾。
通称HP弾と呼ばれるソレを指弾で魔術使いに打ち込んでやる。
「きゃっ…!? あれ、痛く…ない…?」
「お前レスティに何をしたぁ!!!」
「ただの治療薬だ、相当値を張る代物だが…まぁ彼女に関しては事故の様な物なのでな、非が此方にあるなら金は惜しまん」
レスティと呼ばれた魔術使いの傷が完全に塞がり、切り裂かれたローブも修復された事を確認した後──
「…やった張本人が宣うのもアレだが、既にお二方の存在は終わった問題として片付けられていると思うぞ」
──と耳打ちしてやると2人揃ってみるみる表情が怪訝な物になっていった。
ここから歌えるサラジネがあるんですか? と問われてあるワケねぇだろそんなもんと答えるのが当然の理という物であろう。
向こうのヤツは知らん。
理以前に理性の概念が違うだろうし、そもそも理性と呼べる物すら無いのかもしれん。
視線を再び赤黒髪の女に戻していく。
槍の勇者がまた何かしらロクでもない失礼な台詞を吐こうとしたのであろうか、遮る様にパァンッ!!というアルミ製のハリセンでひっ叩いた様な喧しい金属音と、後に続いてゴンッ!!と地金を叩き付けた様な鈍い金属音が、私の首の後ろから振動を伴って聴こえてくる。
「はぁぁ…………」
今日一日だけでも、1ヶ月分は吐いたであろう溜息をまた吐きながら左手の【ヒューメラス】の筆先を赤黒髪の女の頭に定めキッチリ三発撃ち放つ。
肉が貫かれ、頭蓋骨の砕ける音が三度響き渡った。
流石に絶命しただろう……これで死んでなかったら、ソイツは元から人間では無かったという事で盾の勇者の冤罪も有耶無耶になるだろう。
「ほら、選ぶ必要性すら無かった選択肢を一つにしてやったぞ、分かったらとっととそこにいる奴らを全員連れて外に──おい、何ボーっとしてる、私の話が聞けないのか?」
「な、なぁ……」
「あ゙? 今度はなんだ?」
口籠もりながら元康がぎこちなく私の向こう側、先程仕留めた赤黒髪の女を指差す。
その人形にしては表情豊かな顔からは明らかに恐怖の感情が浮かんでいた。
「人ってさぁ……頭無くなっても身体は動くものだっけ……?」
急いで女の方を見遣る。
動いている。
ビクンビクンと、激しく痙攣を起こしながら。
ドタマを吹き飛ばし、蘇生も出来ない筈の死体が。
メキメキ、バツン。
と筋繊維や靭帯が断裂し、骨格が軋んであちこちから骨折する音を響かせながら、ヤツは突き刺さった剣に手を伸ば──。
「──チィッ!!。」
苛立ち交じりに舌打ちしながら咄嗟に右手の【ヒューメラス】をインペイラーに戻し、引鉄を引く。
しかし放たれた骨杭は肉体を貫く事叶わず、見えない壁の様な物に弾かれてしまった。
近づこうにも今度は謎の波長が此方を阻み、押し返されてしまう。
「クソッ近づけない!? おい!? 一体どうなってるんだ!?」
元康が事態を把握しようと此方を呼びかけているがそんなもんに構っている暇は無い、その歳? にもなって他人、しかもついさっき攻撃を仕掛けた奴に問い掛けて必ず返答が来る訳ない事をいい加減理解しろと言いたい。
私は波長の正体を掴む為、更に奴を凝視する。
「……視えた、アレは……糸か。」
死体の全身を雁字搦めに拘束する悪趣味な迄に金色の光沢を放つ糸。
何処へとも知れない虚空から伸びる数多のその糸が、両手首に一際強く絡み付き、膨れ上がった身体の可動域を無視して操っていた。
まるで得体の知れない上位存在が手前勝手に死体を弄ぶ様に。
そして胎の中心。
彼女だったモノの心臓と繋がる、縄としか形容し難いどす黒く穢れた血の赤糸が中にいる筈の赤子としっかり繋がっているのが見て取れた。
少なくとも複数の存在による純粋な悪意によって、これから起きる惨劇が始めから予定された本命であり、この事実から王の眼を逸らす為に盾の勇者の冤罪裁判という茶番劇が行われた事は間違いないだろう。
そして、ユーザビリティなどクソ程も考えられてなさそうな時代遅れのステータス魔法のUIから糸を辿った私だけに表記される……ああ、クソ──。
赤子の名前から、その動機がしょうもない嫉妬から生じた最悪の嫌がらせ以外の何物でも無い事を如実に悟った。
「結局、こういう『流れ』になる訳か……」
剣が引き抜かれ、傷口から噴き出す温い水の臭いが一層キツくなる。
「全員よく聞け!! 死にたくないなら今すぐ全力で扉まで走れ!! いいか振り向くんじゃないぞ!!」
……聴覚の施術はもう切ってある、だからもう無線機の向こうにいるシーチュン達には勿論、私にも聞こえていない……聞こえていないと言ったら聞こえていない。
「ぐっ…盾の悪魔なんぞ放っておけば良い!!」
「そんな事言える立場か!? 死にたいならお前だけでくたばってくれ!!」
「おい! マインちゃんのお父さんに対してそんなキツい言い方は無いだろ!?」
「「
バシャバシャと床を打つ、水の音も。
ズルズルと掻き分け、中から這い出そうともがく粘液質な音も。
出られないと本能で察したのか、肉を引き裂き胎を食い破る音も。
「はぁ……いい加減にしろ
「───!!!!」
聞けば確実に、
しゃしゃり出て来たバカに釘を刺しつつ言い放った私のルージュと家族という単語に、一瞬正気に戻ったのか、そんな力が何処にあったのやら尚文を担ぎ上げて全力で走りだし、残りの者達もオルトクレイを追いかけて扉の方へ走り去っていく。
「漸く全員避難したか、まったく…喧しいのは親父の声だけにしてくれ…」
三度、次元収納から徐に煙草を取り出す。
何処にでも売っている、安物の煙草。
ソイツの先端に贈り物のジッポライターで火を付ける。
ジッポライター特有のオイルの燃える香りと煙草の紫煙が鼻腔をくすぐり、あの湿った匂いをかき消してくれる。
それと同時にヤツも腹を食い破り、母体を浸食しながら遂にその正体を顕し始めた。
真っ先に出て来たのは黒く滑った筋肉質の触手。
ソイツが幾つも束になって巨大な両腕を形成していき、出来上がった腕を乱雑に引きずって本体が腹から這い出て来る。
その本体は、中途半端に形成された未成熟児の下半身から無数の獣毛交じりの触手が犇めいていた。
杜撰な製法で作った粗悪品。
それを徹底的に選別し、一際質の悪い物を正規の使用法を故意的に全て無視して使った事が見て取れる。
「人間擬きの胎にウロボロス劇毒を羊水代わりに満たして育てた……黒獣のミックスか」
悍ましいという他ない、生命への冒涜そのものと言っても足りないくらいの怪物。
一体どれ程の人間性と道徳心を捨てればこんな物を生み出す事を思いつくのか。
……いや、逆か。
ただその場限りの幼稚な嫉妬心。
女の敵は女を体現したかの如く、先の事など微塵も考えていない想像力の欠如した醜い女の負の性欲。
或いは長年魔物呼ばわりされ続け、世代を超えて染み着いた被害者意識から来る人間に対する支配願望。
「ふーーっ……」
人らしく生きれば地獄。鬼らしく生きれば極楽。
「
真っ当な奴の足を引っ張る事しか能の無いメルロマルクのクソアマ共も。
暴悪な本能と繁殖欲一つ抑えられないシルトヴェルトの盾畜生共も。
そんな者達のエゴを産まれたばかりの、無垢であるが故に。
まるで親の期待に純粋に応えようとする子供の様に。
赤子の口からは想像もつかない、悍ましい喃語を叫びながら、後期人亜戦争最悪の負の遺産が、再び戦争の被害者達に牙を向こうとしていた。
次回──。
貴方が一番大切にしてる物は?
-
礼
-
信
-
義
-
智
-
仁