これは、とある二人が姉弟だったら、なんていうifのストーリー

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記憶は焔朧のように

 あの日、()が失った家族。

 懐かしき思い出、空像かと思うほど、簡単に失った、父と母。

 愛したものはもうそこにはおらず、空に手を伸ばし掴めたものがなんなのか、()は知らない。

 

 

「──アクロの丘、始まりの火。祈り続けていた男は炎剣を抜き、英雄を始めた」

 

 豊かな草原が広がる中、静かに響く美しい声。

 長い金髪を背に流し、一本の大樹に身体を預ける女は兎のような白い髪を持った子供を膝に乗せ、英雄譚を読み聞かせている。

 

「滅した魔物は万軍では足りず。覇者は唯一人、希望(エルピス)を齎す!」

「おー!」

 

 無邪気に笑う少年は女に早く早く、読んで! と笑いながら嬉しそうにせがむ。少しの困り顔を浮かべるも、同様に笑みを浮かべながら、読み聞かせを続ける。

 

「絶望を忘れた都は、勇者の凱旋に歓声を上げた。男は、丘の上で涙し、微笑みを讃えた」

「ジー」

 

 それをキラキラした目をしながら、聞いていると物陰から視線が送られている事に気づく。

 すると、女は一度本を置き、物陰に隠れる少女に声をかけるために近づく。と、気づかれた! なんて驚愕を全面に出しながらも、こちらをじっと観察している。

 

アイズ、見たいのならこっちへいらっしゃい? 気になるのでしょう?」

「で……も、ベルのためにだし……」

 

 指先をちょんちょんとつつかせながら、言い訳がましい事を並べる少女。それに微笑を浮かべる女は振り向いて、少年に尋ねる。

 

「じゃあベル、お姉ちゃんは見ちゃダメかしら? 来ちゃダメ?」

「ううん! きてほしい!」

 

 足をおり、少年と同じ目線で話す。すぐさま少年は、それを否定し、笑顔で少女に向かって声をかける。

 

「! ──やったぁ!」

 

 良かった! そう言わんばかりに、全身で喜びを表現する少女は、少年を抱きしめる。少年も嫌ではないのか、少女の背に手を回して抱き返す。

 

「えへへ〜、いたいよぉ……」

「はなさないから!」

 

 シスブラを拗らせた姉弟は抱きしめ、笑いあっている。それを見た女は微笑むと、2人に声をかけて読み聞かせを再開する。

 

「ふふ、つづきを読むわね?」

 

 永遠ともとれるほど、長く女の声はその場を優しく包む。少女と少年は二人静かに聞いていた。

 

「エピメテウスは魔物から亡国を取り戻した! 

 ──嗚呼、エピメテウス。汝こそ真の勇者なり!」

「ぉお…………えぴめてうす、かっこいい!」

 

 その言葉は大英雄と言われるエピメテウスを称える言葉。その言葉で締めくくられると、少年は笑顔を咲かせ、拙いながらに感情を表現する。

 

「ふふ、ベルはエピメテウスがだいすきね」

「うん! かっこいいもん! ぼく、おとうさんみたいなえいゆうになってみんなをすくうんだ!」

「わたしはえいゆうがすき! ……でも、なりたいとはおもわない」

 

 優しく二人の頭を撫でる。

 二人は真反対にも思える主張をしながら、甘えたいという思いは一致していた。

 

「もしかしたら、二人は英雄とお姫様かしら?」

「「!!」」

「いい! すごくいいね! だったらぼくがアイズをまもるね!」

「やくそく! えへへ……!」

 

 指を重ねて二人は笑う。約束と、結ばれた小指は少したって、ゆっくりと離される。

 この幸せは永遠だとすら、思っていた。

 

 

 ■

 

 

 

 二人の父親は、英雄だった。

 死を危険が伴う男は危惧していた。それが、自身の愛すものたちにも及ぶことを。

 

「……俺は、お前たちの英雄になれない」

 

 ──だから、だから。 子供たちだけでも。

 

「────────────」

 

 そう言うと、少女はもっと、ずっと抱きしめる力を強める。父である彼を失いたくないから。

 

「でも、いつか────お前たちの英雄が現れるといいな」

「!」

 

 そして、少年の頭に手を置く。

 

「英雄になってみろ」

 

 だが、世界は無情だった。

 黒き龍、吹くはブレス、理想叶えし英雄は精霊と共に歩む。泣くは二人、幼い子。

 

「すまない、()()()()()

 

 記憶に刻まれし、怖い記憶(トラウマ)

 伸ばした手は届かず、まるで泡沫のように消えた二人は双子の手を取らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「盾構えぇ─────!!」

 

 剣と魔法、血飛沫が舞う戦場で一人の男の声が鮮明に大きく響き渡る。杖を持ち、弓を構え、剣を振る。

 そんな騒然とした戦いの糸を引き、盤面を掌握し的確な指示をもたらす。

 

「前衛、密集陣形(たいけい)を崩すな! 後衛組は攻撃を続行!」

 

 滑稽な笑みを浮かべる道化師のエンブレムが刻まれた旗を持つ男の名は、フィン・ディムナ。

 神々から勇者(ブレイバー)の二つ名を賜った、英雄都市オラリオの二大巨頭と言われるロキ・ファミリアの団長。

 

「ティオナ、ティオネ! 左翼支援急げっ!!」

 

 彼の采に狂いがあることもない。

 

「あ〜ん、体がいくつあっても足らなーいっ!」

「ごちゃごちゃ言ってないで働きなさい」

 

 命を受けた褐色肌のデミ・ヒューマン(アマゾネス姉妹)は戦場を疾走し、目の前に現れる敵を即時、切り伏せる。

 だが、屠れど屠れど溢れ出すモンスターの大群を前に亜人(デミ・ヒューマン)一行は間違いなく押されていた。

 

「リヴェリア〜ッ、まだぁ〜!?」

 

 アマゾネスの少女の声は後方にいる美しい翡翠色の髪を持つ、魔導士へと向いていた。絶世とも言える美貌を有す彼女から紡がれる詠唱(ウタ)の完成を、誰もが待ちわびる。

 

「【───間もなく、()は放たれる】」

 

 決定打となるそのエルフの魔法を、今か今かと待ち、そして守る。杖を構え、剣で斬り、大盾で耐え、弓で射抜く。そんな当たり前を繰り返して、彼等は勝利をもぎ取る。

 それこそが勇者の描く、勝ち筋(シナリオ)でありそこに障害を残さぬための連携を行う。

 

「【忍び寄る戦火、(まぬが)れえぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む】」

 

 美しい音色で、凛とした声で、続く詠唱の終わりを、誰もが渇望する。一節一節を丁寧に、されど力強く紡ぐ彼女の詠唱(ウタ)に少しをの安心感を覚える。

 

「【至れ、紅蓮(ぐれん)の炎、無慈悲の猛火】」

 

 だが、膠着状態は長く続かない。

 この戦線が守られているのは、紛れもなくフィンの指示と答える皆のお陰に過ぎない。それが上手く噛み合い歯車となって、戦闘は保たれている。

 というより、死人などが出ていない。

 

『───オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウッッ!!』

 

 ただ、モンスターにそれは当てはまらない。大群の中から『フォモール』が咆哮をあげる。一際目立つ巨体が仲間も敵もお構い無しに突撃し、自身の得物を振り上げる。

 前衛はその盾の隙間から悪夢を見たかのように瞑目する。その圧倒的な力は周囲を巻き込んで、大盾の鉄壁に穴を開ける。

 

「───ベート、穴を埋めろ!」

「ちッ、何やってやがる!?」

 

 こじ開けられた防衛戦、勇者は遊撃を務めるベートを向かわせるが、間に合わない。前衛の影に隠れて、詠唱を進めていた魔導士達、一団へと迷いなく進んでいくモンスター達。

 フォモールの攻撃が炸裂する。

 

「レフィーヤ!?」

 

 狙われた一団にいた魔導士の少女が吹き飛ばされる。咄嗟の判断で直撃は免れたものの、鈍器よりも重いその一撃に少女──レフィーヤは震え上がっていた。

 

「───ぁ」

『フゥーッ……!』

 

 目の前に迫り来るモンスターに、レフィーヤの体を包むほど大きな影を落とす存在に、恐怖する。地面に転がり、詠唱も辞めた彼女は赤い目玉に射抜かれて、動けなくなる。

 

「えっ?」

 

 その直後、風が吹き、稲妻が走る。剣戟が響く。フォモールを、的確に斬り殺し、血飛沫が舞う。

 振り下ろさんとしていた腕が宙を舞い、地に落ちる

 

「……ベル、邪魔」

「いや、アイズ……僕が今の斬ったから」

「違う、私」

 

 呆然と視線を少女と少年に送る中、目の前で口論(?)を繰り広げる二人。流石の事にレフィーヤは開いた口が塞がらなかった。

 

「アイズ! ベル!」

 

 一部始終を見ていたアマゾネスの少女は歓喜の声をあげる。アイズと呼ばれた少女は口を尖らせ、ムスッという顔をする。

 そんな抗議の視線を一心に受け、涼しい顔で流す少年は尻もちをついて二人を凝視するレフィーヤに手を差し伸べる。

 

「大丈夫? レフィーヤ」

 

 差し伸べ、優しい笑顔で微笑む少年にドキリとする。

 

「は、はい!」

 

 慌てて手を取ると、杖を渡される。

 お礼を言おうとするが、既に姿はない。どうやら、アイズと呼ばれる少女とどちらが多くのモンスターを斬り殺せるかという勝負を行っているようだった。

 防衛線を突破したウォモールを全滅させる。

 

「ちょ、アイズ、ベル、待って!?」

 

 制止の声も聞こえないように、突進していく。フィンの声ですら、もはや効力はない。

 

「……すげぇ」

 

 二人は無遠慮にお互いが斬り合うも、傍から見れば完成された連携にしか見えない。互いが互いを見ずに行う二人だからこそ出来る芸当。考慮にも入れず、前しか見ない。冒険者から言わせれば、ただの無謀。

 

「フンっ!!」

 

 剣を振るい、ナイフで斬る。

 この二人にとって当たり前のこと。だが、美しい剣戟に、舞いのような戦闘に見惚れ、その力に畏怖を抱く。

 

「【(なんじ)業火(ごうか)の化身なり】」

 

 ベルは、その詠唱をまるで子守唄のように聞き流しながらも、その口角を上げていた。

 

「【ことごとくを一掃(いっそう)し、大いなる戦乱に幕引きを】」

 

 莫大な魔力の高まりを肌に感じながら、長い長い詠唱の完成を至ろうとすることを実感する。

 

「アイズ、ベル! 戻りなさい!」

 

 二人は後ろを一瞥し、巻き込まれないように宙を飛ぶ。アイズの首根っこをベルが掴んで、空中に弧を書くように舞う。仲間のいる防衛線の中央に着地をし、掴んでいた手を離す。

 

「【焼き尽くせ、スルトの(けん)──我が名はアールヴ】」

 

 まるで、高らかにその身を宣言するかのような詠唱の完成に、全員が待っていましたといわんばかりの顔をする。弾ける音響と共に魔法円(マジックサークル)は拡大し、アイズ達より遠くのフォモールの足元まで及ぶ。

 

「【レア・ラーヴァテイン】!!」

 

 業火が階層全体を包む。

 魔法円(マジックサークル)から伸びる炎柱がアイズ達を避け、モンスター達をやき尽くす。絶叫が響き、極太い炎柱はモンスターを丸呑みにする。

 たった一人のエルフが放つ、高威力の広範囲攻撃魔法に、気圧されて皆は静かにただ見ていた。

 

 

 

 ■

 

 

 あのあとから、なんねんもたった。

 だけど、おとうさんはあらわれなかった。

 

 かなしくて、つらくて、よくおかあさんがよんでくれた『えーゆうたん』のかみきれをにぎりしめて、ないていた。

 こわくて、くらいくらいばしょにいた。

 

 ひゅーひゅー、とふくかぜもなくて、ぴかぴかとてらすおひさまもない。こわくてくらい、ずーっと、ぼくたちは()()()でいきてきた。

 ……だからぼくが、このこをまもる。

 

「───────ル、ベル?」

 

 ─────! 

 

「……な、なに?」

 

 声を掛けられ、ガバッと顔をあげる。そこには、心配の色を見せながらも、呆けているベルを見てため息をつく三人の姿があった。

 

「何って……君ねぇ、お説教受けてる自覚ある?」

「き、聞いてなかった……ごめん」

 

 ベルの発言によって、更に皆は深いため息をつく。

 こめかみを押さえて、頭を痛そうにしている翡翠の髪をしたエルフが一歩前にでて、話し出す。

 

「なぜ、あの時アイズと共に前線維持の命令を破った? フォモールを迎撃するのに、中に突っ切っていく必要はなかっただろう?」

「うぐつ……そ、それは……」

 

 正論を突きつけられ、苦い声を出しながら視線を右往左往させる。そんな姿に、翡翠の髪のエルフ、ことリヴェリアは何度目かも分からないため息をついた。

 

「……アイズが突っ走ってたから」

 

 苦し紛れの言い訳を、三人の前で披露するベルは、完全に脳内がパニくっていた。

 

「だから、お前も指示を無視したと?」

「そうだね、それはあまりにも……苦しいかな?」

 

 あはは、なんて苦笑いとも取れる乾いた笑いをする。

 

「全くだ。言い訳にもならん」

 

 唯一、笑わずに怒っているのはリヴェリアだ。フィンと、もう一人のガレスは何かとベルに甘い、本人も少し自覚しているくらいだ。

 

「……焦りすぎだ、馬鹿者」

「──────────」

 

 当たり前のように、心を見透かしてくる。

 三人とは、長い付き合いだからか、言葉にしなくても分かった。三人は僕のことを、理解しているのだと。分かった上で、口にしないのだと。

 

「もう少し頭を冷やせ」

 

 正座をしている中、膝に置いていた拳をより強く握りしめる。爪が食い込むのではないかと思うほど。リヴェリアの言葉は、エコーでもかけられたかのように、ベルの頭の中に響いた。

 

「そうじゃな、お主はちと焦っておる」

「……ガレス」

「そうだね。リヴェリアとガレスの言う通りさ」

 

 二人は、笑っていた。

 それを、リヴェリアは注意する。ベルは虚をつかれたように固まって、その光景に、ほんの少しの懐かしさを感じていた。

 

「だがベル、()()()()()()()()()。何が起きるか分からない。そして、レフィーヤ達全員が君のように動けないし、戦えない。それだけは心に留めてほしい」

 

その瞬間、言葉を失った。

失念していた。ロキ・ファミリアにはいって、自身より強い彼等と戦って、緩んでいた意識が引き戻される。

 

「窮屈かい?今の立場は」

「……ううん、そんなことない」

 

即答、にはならなかったが、ベルは首を横に振った。

その行動に、言葉に、三人は一瞬だけ目を細めたが、すぐに優しい笑みになった。

 

「……なら、いい。戻っていいよ」

 

もう言うことはない、と静かに告げるフィン。三人に対し、軽くお辞儀をして、幕屋を出る。

 

「……逸っているね」

「間違えなくな」

 

ベルの出ていった幕屋の中で、三人は少し悲しい顔を浮かべた。わかってた、彼がより高みを目指していることなど。だから、無理やりにでもファミリアという鞘に(ベル・クラネル)を押し込めた。

 

 




あとがき

はーいども、長らく書きたいものがかけた!
ベルとアイズが姉弟のやつが少なかったから、自分で書きました!いえーい。

ま、短編ですけどね

そんでは、またね〜

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