ポケモン最強トレーナー・サトシ、バレンタインで好感度が限界突破している件 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
賑やかな食堂を後にしたオレたちは、テラリウムドームのセンタースクエアへと続く長い回廊を歩いていた。
頭上を覆う巨大な強化ガラスの向こうには、イッシュの高く澄んだ青空が広がっている。
人工的に管理されているはずのドーム内だが、今日の風はどこか春の息吹を孕んでいるように感じられた。
ガラス越しに差し込む強烈な陽光が、真っ白な床の上に複雑で美しい幾何学模様を描き出し、オレたちの足元をスポットライトのように照らしている。
隣を歩く足音。
それは、かつての旅で聞いたものよりもずっと力強く、それでいて、不器用なオレの歩幅にどこまでも寄り添うように優しく響いていた。
そのリズムを聞いているだけで、これまでの険しい道のりも、すべてはこの瞬間に繋がっていたのだと確信できる。
「……なあ」
オレは、前を見据えたまま、噛み締めるように口を開いた。
「オレさ、この学園に来たばかりの頃は、ただ『もっと強くなりたい』、誰も辿り着けない『ポケモンマスター』になりたいってことしか頭になかったんだ」
肩の上で、ピカチュウがオレの頬に自身の顔を寄せ、同意するように「ピカァ……」と、優しく、短く鳴いた。
相棒の温もりが、言葉以上に心に沁みる。
「シンジに『ぬるい』って突き放されて、シゲルには世界チャンピオンとしての『王者の責任』を突きつけられて……。正直、どうすればいいのか分からなくて、戸惑ったこともあった。でも……」
オレは、回廊の途中で足を止めた。
「ゴウやアランが、迷いながらも自分の気持ちに真っ直ぐに向き合ってさ。コハルやマノンと一緒に、新しい一歩を踏み出すのを間近で見て……ようやく、本当の意味で分かったんだ」
オレはゆっくりと向き直った。
目の前に立つその人は、逆光の中で少しだけ眩しそうに、だけどオレの言葉を一つも逃さないという強い眼差しでこちらを見つめていた。
「最強っていうのは、たった一人で勝つことじゃない。自分を信じてくれるみんなの想いを背負って、どんな壁にぶつかっても、それでも笑って前を向くこと。そして……」
オレは、少しだけ震える手で、その柔らかな、それでいて芯の強さを感じる手を包み込んだ。
「……誰よりも幸せにする。それが、今のオレが見つけた、最高の『答え』だ」
見上げた瞳の中に、真っ直ぐにお前を見つめるオレ自身の姿が映り込んでいる。
涙で潤んでいながらも、世界で一番綺麗なその瞳を見て、オレはもう一度、腹の底から湧き上がる想いを言葉に乗せた。
「愛してる。……言葉にするのはまだ照れくさいけど。これからも、ずっと、ずっとオレの隣にいてくれ。一緒に飯を食って、一緒に旅をして、誰も見たことがない新しい景色を、一生、一緒に見に行こうぜ!」
真っ直ぐな告白。
一瞬の静寂の後、返ってきたのは、言葉を遮るように力強く握り返された手の感触と、震える声での、切実で幸せに満ちた返事だった。
その瞬間、オレの胸の中にあった最後の欠けていたピースが、カチリと音を立てて嵌まった。
世界が、それまで以上に鮮やかな色彩を持って輝き出したような感覚。
ふと空を見上げれば、テラリウムドームの天井……世界の境界を彩るように、鮮やかな七色の虹が架かっていた。
このブルーベリー学園での物語。
すべての旅で出会った仲間たち。
ライバルたちとの死闘、ゴウやアランたちの恋の進展……。
そのすべてが、この虹を架けるための、かけがえのない大切な欠片だったんだ。
「さあ、行こうぜ、ピカチュウ! 最高の仲間と、最高に大切なパートナーと! オレたちの伝説は、ここからまた新しく始まるんだ!」
繋いだ手を決して離さないまま、光り輝く水平線へ向かって、オレたちは走り出した。
物語はここで一度、幕を閉じる。
けれど、オレたちが共に紡いだこの「絆」の物語は、この虹の向こう側で、永遠に、どこまでも鮮やかに続いていく。