太一も見つからず、ゲンナイからのコンタクトもない。そんな状態で三ヶ月もの時が過ぎてしまった。子供たちは疲れと不安で精神不安定になり、このところ笑顔を見れていない。唯一タケルくんだけはデジモンたちと楽しそうに遊んでいる姿を見せてくれる。今の俺にはそれだけが救いだ。
この三ヶ月、俺は主にデジタルワールドの調査と新たな敵に関する情報収集を行なっていた。そこで分かったのは、エテモンという分かりやすい悪の裏側で淡々と狡猾に力をつけていたデジモンの存在だった。
ヴァンデモン。ドラキュラのような見た目をした完全体のデジモン。俺の知っている作品ではあまり表立って出てきた覚えのないデジモンだ。
このデジモンの脅威度は今のところまだ未知数。というのも、ヴァンデモンは裏に控えて状況を操るタイプのようで、エテモンのように直接俺たちや子供たちを追い回すことはなく、偵察を送って情報収集をしているからだ。奴はまだ姿すら見せていない。
ピコデビモンはもちろんのこと、他の闇に属するデジモンに加え、データ種や中にはワクチン種のデジモンすら配下に置いているらしい。
こちらの探索時に偶然ヴァンデモンの配下のデジモンを捉えて情報を聞き出したところによると、ワクチン種は少ないがウイルス種を軸とした全体的な配下の数は相当なものだった。
「ヴァンデモン、完全体か……」
エテモンの例から見るに、ヴァンデモンは暗黒の力で普通の完全体よりもかなり強くなっていることだろう。対してこちらはスティングモンとエクスブイモンがジョグレス進化したディノビーモンしか完全体になれない。最近は多少理性を残して動けるようになったとはいえ、エテモン以上の強さのデジモンを相手にするなら厳しい戦いになるだろう。
何より敵に完全体が他にもいないとも限らない。
今はまだ動くべきじゃない。聞き出した情報から特定したヴァンデモンの城のありか、こちらのレジスタンス本部の場所も敵には知られているだろう。このまましばらくは互いに探り合いを続ける方向に持ち込むしかない。
戦力の増強と子供たちやデジモンたちとの交流。どうすれば彼らのパートナーデジモンが完全体になれるのか。同時に動くことが多すぎて、俺は休むまもなく動き続けている。
「ふぅ……」
レジスタンス本部、第一倉庫。ここは最初に作った倉庫で、いざという時の非常口も設置されている。この倉庫に置かれているものは保存のきく食料と、何かに役立つかもと持ち寄られた遺跡からの発掘物の一部。現在俺はこの倉庫の物資の記録を見直して整理を行っていた。
重要なものは拠点の奥にある別の倉庫に置かれ、ここはさほど重要ではないものの、脱出時に持ち出す非常用食はしっかり管理しておかなければならないし、この場所が大したものを置いていないどうでもいい場所であると思わせるためのカムフラージュ用の用途不明のガラクタの配置も重要だ。一つだけ本当に貴重なものを隠してあるからな。
食料はキチンと揃っているし、ガラクタもすぐさま崩して非常口の存在を隠すように配置されている。もちろん普段の安全性は確保されるようになっているのも確認済みだ。
「あとは非常口が開くかどうかと、出た先の確認だな」
非常口の取っ手を回すと、扉はすんなりと開いた。奥にはドリモゲモンがくり抜いたそのままの土壁の通路が続いている。その通路をしばらく歩くと、やがて奥から微かな光が見えてきた。生い茂った葉っぱの隙間から溢れた光だ。
非常口先の通路の出口は実態のない背の高い草で隠れている。ファイル島にも外側から見ればただの木なのに、触ると腕が突き抜けるような実態のない外装レイヤーだけの植物があったが、この草はそれと同じ仕組みで意図的に作ったものだ。
中からは外の様子が見える、外からは洞窟の脇に生えた草にしか見えない。そこから外の様子を伺うと、そこは特に何の変化もなかった。デジモンも全くいない。レジスタンス所属のデジモンたちにはあまりこの辺をうろつかないように言っていたからな。所属してないデジモンはうちの拠点近くにはあまり近付いてこないし。
と思っていたのだが、ふと視界に青い毛皮を纏ったデジモンが映った。あれは、ヤマトのガブモンだ。どうやら森で何かを探しているらしい。
俺は気になってガブモンのあとを追った。どうも探し物は木の上にあるらしく、上の方をキョロキョロと見ている。
「ガブモン、こんなところでどうしたんだ?」
「えっ? あ、シンイチ。オレはちょっときのみを探してて」
「きのみを? ヤマトくんにあげるの?」
「うん。最近ヤマト元気ないから……でも、きのみなんかじゃ元気でないよな。ここはもっと美味しいご飯出るし」
「そんなことないさ。美味しいかどうかより、誰かの気持ちがこもったものの方が100倍嬉しい。きっとヤマトくんも喜んでくれるよ」
「そ、そうかな? そうだと良いな」
「でもガブモン、この辺りはあまり近づいちゃいけない場所だ。今回は多めに見るけど、今後は気をつけるんだよ」
「あっ、そ、そうだった。ごめんシンイチ。オレ別の場所に行くよ」
「いや、行かなくていいよ。それよりヤマトくんが早く元気になるようにきのみを集めよう。オレも手伝うよ」
「いいの?」
「いいよ。俺もヤマトくんに早く元気になってほしいしね」
それから俺とガブモンはそれぞれ少し離れてきのみを探した。デジタルワールドには地球で見たようなきのみもあれば、混ざったようなものもある。果物というと頭をひねってしまうものもあるので、全て統一してきのみと呼んでいる。
しばらく探し回って、みかんもどきのようなきのみを収穫していると、不意に後ろから背中を叩かれた。
「ガブモン、ちょうどこのきのみを見つけたところだったんだ。そっちは見たかったか?」
ガブモンだと思っていた。けれど、振り返ってみればそこに居たのは予想外のデジモンだった。
「テイルモン?」
「ピコデビモン、こいつで間違いないのか?」
「そうだ。こいつがレジスタンスのリーダーだ。さっさと気絶させてヴァンデモン様の城へ連れて行くぞ」
「うるさい。お前が私に命令するな」
テイルモンのパンチが俺の腹に刺さる。
「なっ!? ぐっ……」
あまりの痛みに意識を失う最中、俺は何とかこの事を伝える手段がないかと足掻いた。しかし、健闘も虚しくポケットからスマホを取り出すことさえ出来なかった。
◇
ガブモンはヤマトを元気づけるためのきのみ採取の成果を見せるため、シンイチを探していた。ところが先ほどまでこの辺りに居たはずのシンイチの姿が見当たらない。
自分を置いて先に帰ってしまったのかと思いかけるも、これまで見てきたシンイチの性格から考えるとそれはなさそうに思える。もし先に帰るにしても目立つように帰ったことを伝えるものが近くにあるはずだ。
呼びかけながら少し周囲を探してみる。しかし返事はない。森の奥に足を踏み入れたのか、そう考えて少し探す方向を変えてみてすぐのことだった。近くの木の根元に自然に落ちたにしては多すぎる数のきのみが転がっているのを見つけた。そして、その周囲の地面には何者かの足跡と、何かを引きずったような跡があった。
レジスタンスに所属しているデジモンでシンイチに逆らってこの森に来る者はいない。来るとしたら自分のような半分世話になってる状態のデジモンだけだ。そして、今レジスタンスの拠点にはそんなデジモンは自分たち選ばれし子供のパートナーデジモンしかいない。
足跡は明らかにデジモンの足跡。だが、足跡は選ばれし子供のパートナーデジモンのものと一致しない。
ガブモンの脳裏に嫌な予感がよぎる。
ガブモンは足跡と引きずり跡を辿って行く。するとその跡はどんどん拠点から離れていき、やがて少しだけ高い崖の淵に出た。跡はそこで途切れている。
不意に崖の下に広がる森の開けた場所に何かが見えた。目を凝らせばそれは何か長いものを引きずる白いデジモンだった。そして、そのデジモンの近くをもう一匹、黒っぽい蝙蝠のようなデジモンが飛んでいる。
「あれは……ピコデビモンだ! じゃああっちの白いのもヴァンデモンの手下?」
追いかけるべきか。そう思って崖の下を見る。降りられそうな感じだが、降りたら登るのは大変そうだ。
「うん? あれはなんだろう?」
少しだけ崖を降りたところに一つだけ何かこの場にしては異質なものがある。そこまでならすぐに戻ってこられることもあって、ガブモンはその物のところまで降りる。そして近づいたことでそれが何かハッキリ認識した。
「これはシンイチの靴だ。じゃ、じゃああの白いのが運んでたのってまさか……た、大変だ! 急いでみんなに知らせないと!」
シンイチは敵のデジモンに誘拐された。シンイチの靴を落とさないように両手で抱えながら必死に走るガブモン。
レジスタンスはヴァンデモンから見たら鬱陶しい存在だ。そのリーダーであるシンイチが誘拐された後にどうなるかは想像に難くない。
そんな最悪の想像をなんとか考えないように振り払って、入り口を通ったガブモンはヤマトの部屋へと急ぐのだった。