その国は世界的に見ると貧困国家の一つだった。
痩せた土地ばかりで農作物には恵まれなかったが、
数十kmの海岸線から得られる水産資源と
鉱山から取れる鉱物の輸出で何とか国を維持していた。
しかし、鉱山のうちの一つが枯れてしまう。
まだ他にも鉱山はあったが、
その鉱山だって無制限では無いのだと思い知り、
国民は不安を抱くようになる。
政府は打開策を迫られていた。
国家予算100億円にも満たない小さな国。
あるのは海と鉱山。
あとは明るく我慢強い十万余の国民くらいである。
十万余の国民…
その国の大統領はひらめく。
世の中には派遣会社というものがあるらしい。
これを国でやってみたらどうだろう?
幸い我が国は、豊かな先進国にも
いくつか大使館を置かせていただいている。
まぁ小さな大使館だが、無理をすれば
100人くらい詰め込めるだろう。
これなら家賃も住民税もかからない!
我が国の国民は我慢強い上に頑張り屋だ。
この自慢の国民を豊かで
人手不足で困っている国に派遣するのだ。
パッと少し考えただけでも、
良さそうな国が20ヵ国位ある。
そこに選りすぐりの人材を100人ずつ送る。
合計2000人だ。
某国を例に考えると、
例えば時給1200円として派遣料+300円。
決して安くは無いが、福利厚生も保険料も
掛からない上に、
我が国が完全にバックアップするから、
遅刻や無断欠勤は無い。
バイトテロなんて絶対に起きない。
安全安心な人材の確保が出来るのだ!
決して「高く」ない。
時給分は派遣された者の取り分だ。
そこに手をつけるつもりはない。
しかし、派遣料はまるまる政府の収入となる。
派遣された国民の収入を計算してみる。
1日8時間働いて年間250日働けば240万円!
我が国の平均年収の10数倍近いでは無いか!
これは志願者が殺到するだろう!
しかも、寝床と食事は国からの支給!
まさに至れり尽くせりだ!
うん!良いぞ!
次にお待ちかね、国の取り分の計算をしよう!
派遣料は300円に8時間と250日かけて…
年間60万円!
これが2000人だから、12億円!
国家の歳出の10%以上を賄える!
早速大統領は動いた。
はじめに大統領は大使館に軍隊で使っていた
二段ベッドを各大使館に送った。
ちょうど買い替えのタイミングだったのだ。
大使館の書庫に廊下にまで敷き詰められたベッド。
場所によっては応接室、執務室まで使った。
窮屈ながらも何とか100人分の寝床を用意出来た。
食事の確保には困らされた。
何分先進国は物価が高い!
そこで大使館が置かれているそれぞれの政府に声を掛け、
スーパーやらホテル、レストランで廃棄される食料を
まさに捨て値で買い取らせてもらう事に成功する。
一度は渋られたが、
「大丈夫!我が国の国民はみんな胃が強いから」
と押し切ったのだ。
店側の説得は逆に容易だった。
本来、廃棄物として処理にお金がかかるところを、
僅かとはいえお金が貰え、
その上、自国の政府の顔を立てらのだから
恩も売れる。
さらには貧困国への支援で企業イメージもアップ!
相手も大喜びだった。
次に人の選抜である。
犯罪歴がなく、派遣先の言語も不自由がない人材。
3年間、年に一回しか帰国出来ないという条件。
人選は困難になると思われたが、
鉱山が一つ潰れて職にあぶれていた人達や、
海外への憧れを持つ人、
一攫千金に釣られる人など
あっという間に集まった。
無事、派遣事業はスタートした。
当初の目論見通り、国がバックにいるという事で、
離職率の大きい職場や、
コンプライアンスに厳しい仕事で
重宝された。
派遣された人々は食事も家賃もいらない上、
休みの日も派遣先の勉強や社会見学に費やしたので、
お金を使う事がほとんどなく、金銭感覚が
故郷の時のままだったので、
これだけ大金を得られるのだからと、
真面目に取り組んだ。
そうやって働いていると、彼らの国の人材の評価は
確実に上がっていった。
評価が上がると、次々と良い仕事が舞い込んでくる、
自然と時給も上がってくる。
そんなこんなで、初年度の派遣事業の売上は、
当初予定の12億円を遥かに超える18億になった。
さらに良い効果があった。
国を支配していた閉塞感のようなものが消え、
国民達は、
海外で活躍できるチャンスと
3年働けば一生働かなくても食える財産を求め、
派遣選抜隊に選ばれるようにより勤勉になる。
殺到する希望者に大統領は、
派遣数を10倍に上げる。
翌年の派遣事業の売上は200億円に上った。
ついに国家予算の倍を超える額の大事業となる。
国民の2割が派遣社員という国。
世界中の人達はそんな彼の国を
派遣会社ならぬ「派遣国家」と呼んだ。