3/20改訂
微細な変更をしました。物語に大きく関わる変更はありません。
「脳内管理サービスは一月一日をもって、サービスを終了致しました。脳内管理サービスは──」
カタコトの声が何度も同じ言葉を繰り返す。どうも不気味だ。一定の高さ、なんとも聞きにくい機械音声なのだろう。電光掲示板の光は太陽よりも眩しかった。
「聞いているのか、エイヴィ?君が私を呼び出したと言うのに。」
目の前の教授はセミ・オートマタ。首から下は事故で喪失し、代わりの身体は私でも持ち上げられるくらいには軽い。私の体重を教授に移す呪詛とか、あればいいのに。
「何をボケっとしている。時間を無駄にしないでくれ。」
「えぇ…すみません。もう時間はないんでしたね。私たちにも。」
笑ってないと正直やってられない。私達は太陽の終わりと共に、生涯を終える運命だ。教授は悔しそうに、しかし冷たく街を見下ろした。
「まだ五十年あると言うのに、早い終わりだな。稼ぐ気力も失ったのか。」
私は苦笑いするしか無かった。生まれた頃から終わりを見せられてきた私には、だいぶ当たり前の景色になってしまった。でもまだ、私は終わりたくない。
「…教授、最後に悪足掻きしてみませんか?」
「君の無鉄砲な悪戯の為に来た訳じゃないぞ。」
口元が緩む。教授が賛成してくれなくともやるつもりだ。華やかな、私なりの悪足掻きを。私にとってこれは救いであり、冒険だ。今までの短い人生の中で、最も非合理的行動だろう。
私は頷き、言葉を続ける。
「聖杯戦争。願望器を手に入れるための戦いです。何でも叶えてくれるんです。こんなの、使わない方が損じゃないですか?」
「…殺し合いをしろ、と。残り短い寿命をさらに削るつもりか?」
流石、教授はしっかりと現実を見ている。でも今回はちゃんとその言い訳を考えてきた。本当はそんな立派なこと、思っていないけれど。
「どうせ世界は終わるんです。古代の英雄達が続けてくれた世界ですよ?私達が戦わない理由なんてないですよね?」
顔の歪んだ人形のような顔でこちらを見ている。初めて教授のこんな顔を見た。いつもはロボットみたいに表情一つ変えない人だったのに。
「…そうか。君は信じているのだったな。あの英雄達が本当にいたと。」
「いなかったとは誰も言っていません。私たちが知らないだけで、どこか違う時空で戦っていた、なんてこともあるかもしれませんよ?」
はぁ、といつものようにため息をつく教授。しかしその表情は呆れとはまた違う、関心にも見えた。
「…そもそも、その戦争に参加するとして、私に明かしてしまってもいいのか?」
「教授には協力してもらいますよ?」
「………正気か?」
「教授なのですから、聖杯戦争を知らないわけないですよね?どうせまた戯言だと思って適当に聞いていたんでしょうけど。どうせ一度は参加しようとしていたのでは?」
小さく舌打ちする音がした。
「参加したところで私に何か利益はあるのか?寿命が縮むくらいなら、私はまだ研究したいことがあるのだが。」
「もちろん。教授の好きな"勉強時間"の余命が伸びます。」
嫌なところを突かれたというように表情を歪める教授。しばらく無言で考えていたが、仕方ないと言うように。
「…あぁ、わかった。君の協力者になってやろうじゃないか。言っておくが、ある程度の秘匿はさせてもらうからな。」
窓から吹いてきた風で、教授を待っている間に読んでいた本のページがめくれる。幾つもの神話をまとめた分厚い本。ぱらぱらとめくれていき、ケルトの神話のページから北欧のページに進んでいく。そのページのある人物に目が止まった。隻眼の老人、オーディン。
もし彼がこの世界を見たら、ラグナロクと同じように感じるのだろうか。私は本をそっと閉じ、椅子から立ち上がった。
「それでは教授、また明日もここで。」
「また閉鎖された教室に来いと?」
「はい、もちろん。隠れ家、ですからね。」
私は教授のため息を聞きながら教室を出ていった。やっぱり教授に伝えて良かった。もう立ち止まらなくて済む。
たとえ、この先が地獄でも。
次回の話は書き終わってますが、夜遅いので明日の昼過ぎくらいに投稿します。読んでくださりありがとうございます。