前を駆ける青年を追う。
「待ってください!一人じゃ危険です!」
彼は驚くほどに速く、どんどん遠のいてしまう。焦りと持久力のなさに呼吸が荒くなっていく。
「ハァ、ハァ…まっ、て…」
その時教授の声がすぐ後ろから聞こえる。
「アーチャー、止めてこい。」
すぐに少年は私の横を通り過ぎ、閃光のように彼の元へ走っていき、彼の進行方向を塞ぐ。
「お待ちください。貴方が欠ければ、彼らもきっと悲しみます。…それでも、貴方一人で行くと言うのですか。」
青年は少年の悲しそうな声に、やっと状況を理解する。後ろには息を切らしながら近付いてくる彼女と、ほどほどのスピードで走ってくる教授と呼ばれた男。そしてたった今、俺の横を通り過ぎて行ったランサーのサーヴァント。
「…おい、あれはいいのか?マスターなしでどっか行こうとしてるが。」
少年は目をまんまるにしてランサーを見つめる。溜息が出る。こんなチームワークで聖杯戦争に勝てるのか?
彼女の方に行き背を向けてしゃがむ。
「教授(?)は走れるだろ。早く追い付かないとあいつ、どこで何するか分からないぞ。」
俺に教授と呼ばれたことを驚いているが、まだ名を名乗っていなかったことに気が付いたらしい。
「…エインガルだ。」
少女はまだエインガルと俺を見たりしている。
「早く乗れ!あれ以上ひっちゃかめっちゃかやられたら困る!」
俺の声にびくりと肩を震わせるが、すぐに背中に重みを感じる。俺は彼女をおぶったまま立ち上がり、もうだいぶ遠くに行っているランサーを追い始める。
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後ろから彼らを追っていた少年と私だったが、一つ不可解な点を発見する。
「…アーチャー、あの建造物だけ綺麗すぎるように見えないか。」
もちろん少年に聞いたのは彼の方が遥か遠くまで見えるからだ。彼の目には、私とは違う何かが見えているかもしれない。
「…中に誰かいます。確かにあそこだけ綺麗すぎます。まるで、意図的に壊されていないような…」
「いや、壊されていないというより、あそこから壊している。おそらく、あそこが陣地だ。」
あの破壊は何らかの強力なサーヴァントによるものだろう。そして中の人物がマスターだ。
「…行くぞ、サーヴァントはあいつらに任せればいい。若干不安ではあるが、あの男も多少は頼れそうだからな。」
少年はコクリと頷き、私に向かって手を広げる。意図が分からず混乱する。
「……?抱っこか…?」
少年は私の言葉に目をぎょっとさせる。
「ち、違います!僕がマスターを運ぶんです!」
私を運ぶ…。この小さな体で?その疑問を投げかける前に、私の腰を両手で抱え持ち上げる。
「僕だってサーヴァントですから、これくらい出来ます。それに、こちらの方が速いですから。」
少々不安定な形のまま少年は猛スピードで走り出す。周りの景色が調色板のように混ざっていく。一瞬、前を走っていたあの青年の紫の髪が見えた気がした。