エントランスに入ってきた青年は肩にカバンを掛け、手には紙袋が下げられている。
「…なんだ、その服は。」
微笑する少女、顔を背けるアサシン、そして不満げなエインガル。
「…まぁいい、色々話し合うこともあるだろ。菓子、持ってきたから食え。」
紙袋を軽く持ち上げる。
「じゃあ、紅茶入れましょうか?」
答えを聞く前にキッチンへ向かっていく少女。エインガルは勝手に談話室への扉を開け、入っていく。青年も続けて中に入る。
エインガルの正面側に座り、ビニール袋の中身を広げる。少し小洒落たクッキー缶にチョコ菓子の箱。その手元を見ながらエインガルは話し始める。
「まだ、しっかりと自己紹介もしていなかったな。」
箱を開けようとしていた手を離し、エインガルと向き合う。
「時計塔で呪詛科の教員をしている、エインガル・トリ二ノートだ。呪詛は分かるか?」
「呪いだろ?藁人形とか。」
「…日本的だな。日本が好きなのか?」
「いいや。日本が出身地なんだ。何となく呪いと言われれば藁人形が思い浮かぶ。」
エインガルは納得したように頷いた。
「日本か…。こっちに来たのは?」
「二年前だ。英語は祖父から教わった。日本育ちには見えないだろ?」
「あぁ、全くだ。君のおじい様は英語慣れしていたんだな。」
「…そうだな。…っと、悪いな。」
少女が運んできたティーカップを受け取る。人数分のカップと一つのティーポットが置かれ、全員が席に着いた。様子を見てから口を開く。
「シン・トウサイだ。トウサイでも、シンでも、好きな方で呼べ。」
少女はカップの取っ手から手を離し、姿勢を正してから話し始める。
「では、私からも改めて。エイヴィ・グレイリーヴ。グレイリーヴ家の次期当主です。これからもどうかご贔屓に。」
エイヴィはわざとっぽく、胸に手を当てお辞儀する。
「グレイリーヴって世界で一番デカい図書館だろ?」
シンは記憶を辿りながらエイヴィに問う。
「図書館、というより…そうですね、文献の提供者です。デジタル書籍はもちろん、太古の様々な書籍を提供しています。別に運営はしてないんですよね…。」
「へぇ…そうなのか。時間があれば行ってみる。少し知りたい事があるからな。」
「えぇ、是非。」
しばらく腕を組んで聞いていたエインガルが口を開く。
「…交流を深めるのもいいが、このままじゃ地球を救う前に死ぬぞ。敵マスターもただサーヴァントを使役してるわけじゃない。あいつは私に匹敵するほどの魔術知識と力がある。」
「それもそうですが、あの時、一時的に力が弱まっているような感覚がありました。皆さんは?」
「実を言うと、エインガルが見えた頃くらいからおかしかった。力というより、全部刃こぼれしてたんだ。」
「…恐らく、敵の魔術か何かだな。あの男に変化の魔術を教えた覚えは無いし、独学で出来る範囲ではないはずだ。それに、君のサーヴァントが戦っているのが一瞬見えたが、様子がおかしかった。」
談話室の中心から少し離れた窓際、柔らかい椅子に座りながらカラフルなフレーバーティーの箱を漁っていたサーヴァントがいた。
「…俺が押されていたと、そう言いたいのか。」
エインガルは表情を変えずにそちらを見る。
「そうは言っていない。おかしかったのは貴方ではなく敵サーヴァントの方だ。」
「比較的順調そうに見えましたが…。」
不思議そうに首を傾げるエイヴィ。
「考えてみろ。サーヴァントがあんな簡単に自分の陣地に入らせるか?しかもマスターが戦っている最中に。」
「…俺達はまんまと罠にハマったってことか。サーヴァントの魔術ならクラスはキャスターってところか。」
「断定は出来ない。最有力候補はそうなるな。」
三人は沈黙、もしくは思考の海に沈み、部屋の中は箱を漁る音だけになる。しかし扉のすぐ近くにいたサーヴァントがシンの後ろに立ち、チョコに手を伸ばした。
「ん…、…ふむ…異国の甘味も良いものよ。」
「…食べるか。」
自分のサーヴァントの自由さに、シンは少し救われた気がした。
昨日、一昨日は登場人物の設定を盛り込むことに熱中してまして…