Fate/Unfinished   作:サルンパス

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3/20改訂
物語に関わる変更はありません。


第一章 顕現 前編

部屋は静かで、外の世界とは隔離されている。周りは本、本、本。暑苦しく、私にとっては心地好い。

聖杯戦争の準備の前に少し気になったことを終わらせる。

「片目を失い、知識を得た…」

何かを得るには何かを失う。当たり前のことであり、恐怖でもある。それでも私は歩みたい。

 

本を棚にしまい、部屋を出る。本題に戻ろう。時間は限られている。聖遺物は私の範囲外、私情で持ち出すのは不可。なら、一番近い物を差し出す。それが私なりの誠意だ。

 

リビングのテーブルと椅子をどかし、スペースを作る。先人達が聖杯戦争のはじめ方を残していてくれて良かった。手のひらに包丁を当て、その血で陣を書いていく。

 

「ふぅ…とりあえずは…。」

 

陣の真ん中に立ち、本を片手に儀式を始める。

 

 

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する」

 

「───Anfang」

 

「───告げる」

 

「─────告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

「誓いを此処に。

我は己が未来を捧げし者、

我は常世総ての理を求める者。」

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ───!」

 

 

光が広がり、目の前が白になる。同時にじんわりと右目から温かい液体が流れ、膝から崩れ落ちた。

 

「ぐ、ぁぅぅぅ…!」

 

激痛が走る。目に釘を刺されるような感覚。思わず目を押さえた。

 

光が収まり、押さえていた手を離す。手は赤く染まり、いつもとは見え方が変わっていた。いつもより左寄りで、自分の鼻の先が見える。右目が開かないのか、視力を失ったかのか。

 

「…俺を呼んだのはお前だな。」

 

男は立ったまま、私を見下ろして話している。私は魔力消費による疲労と、片目の痛みにふらつきながら立ち上がった。

 

「──そう、です。私が、あなたを呼びました。」

 

男は私の悲惨な様子を日常のように静かに流し、鼻を鳴らした。

 

「その程度で俺を求めたのか?」

 

絶句した。その程度。この痛みが、程度という言葉に収められてしまった。

 

それでもきっとこれは───

 

彼にとっては当たり前のことだ。なら、それ以上の代償と、覚悟を払う必要がある。

 

「令呪二画をもって命ずる──!」

 

「私にあなたの力を貸してください!!」

 

手の甲の印が輝き、じわりと、雪に湯をかけたように消えていく。

 

ふっ、と軽い笑いのような、軽蔑のような声。

 

「それが、貴様の誠意か。…ならばその誠意の分は応えてやろう。」

 

私は顔をあげ、彼の顔を見る。

 

「───え…?」

 

ある。あったのだ。澄んだ灰青の瞳が。

 

「な、んで…?」

 

思わず息を呑んだ。

北欧の神オーディン。片目を捧げ、知識を得た隻眼の老人のはず。でも目の前にいるのは両目がある、歳若い男。

 

「俺の最盛期をその程度の代償で呼べるとでも?」

 

赤子でも解る常識のように吐き捨てた。

 

悔しい…。悔しいけど、目の前にいるのはオーディンであり、オーディンになる前の男…!

 

「…いいえ!あなたほどのお方が、私の元に来てくださったこと、深く感謝致します…!」

 

興奮で口が早くなる。右目の痛みはいつの間にか消えていた。当然のことだ。こんな痛みでは、この方には取るに足らないもの。左目も、この体も。その時が来れば、わたしの全てを。




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