「…は?」
まただ。またそうやってこいつは理解不能なことを言う。
「よく考えてみてください。暴露されたくない情報を握っている人間がいたら、あなたはどうしますか?」
「…バラされないように、要求に答える…?」
「正解です。同じことですよ。やろうと思えばいつでも出来てしまうんです。それにこういうことは、世間に残したくないことでしょう?」
分厚い本をぺらぺらとめくり、あるページで指を止める。
「今から三年前、航空機ハイジャック事件がありました。イギリス行きの飛行機は目的地を変え、乗客全員への金銭要求と引き換えに一般道路へ墜落しました。」
「…生かすつもりなんてなかったのか?」
「…どうでしょう。私は当事者ではないので。…本当は着陸するつもりだったのかもしれませんね。」
「…そうか。」
「…犯人の三人組の一人が操縦士を刺殺。そのまま操縦席を奪ったようですが…。操縦士と犯人を含む乗客のうち九割が死亡。生存者六名のうち五人が重症でした。」
「…俺に話したってことは…それは…」
「…残念ながら、お祖父様が殺害した、“ハサン”を名乗る暗殺者の生き残りによる犯行かと。」
シンは何も言わず、俯いた。何度も本に記された犯人の証言の文を目で追った。膝の上に置かれた手は震えていた。
「…俺は、こいつらを見つけ出して殺せばいいのか…?」
エイヴィは答えてくれない。静かに本を閉じ、元の場所に戻しに行った。
横で霊体化していたアサシンが声をかける。
「そう気に病むことではあるまいよ。主は孫であって当事者ではなかろう?」
まだ俯いたまま、一点をぼんやりと見つめている。
「でも、俺は…託されて、ここに来て…」
「…主の好きなことをすれば良い。」
アサシンはシンの肩に手を置きながら、また空気に溶けていった。
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「…あれで良かったのか。」
エイヴィの後ろを歩く男が話しかける。
「なんのことでしょう?」
振り返ることもなく、ただ棚へ向かって歩いていく。
「お前はあの男をどうしたい。利用か、それとも救済か?」
「私はただ真実を見せただけです。」
「…答えになっていない。質問に答えろ。お前はどうしたい。」
「特に、何も。好きなように生きて欲しいだけです。」
背後でため息が聞こえた。
「厄介な女だ。」
まだ本棚の前ではないが、歩を止める。
「そういえば気になっていたのですが…。」
「…なんだ。また気色悪いことじゃないだろうな。」
「奥様に、どのような感情を持っていたのですか?いつご結婚を?」
「…知らん。」
「…そうですか…残念です。」
「お前は隙あればあいつの話だとか馬の話をするがな、今の俺は知らん。」
「でしたら、また今度の機会に。」
「やめろ。何度聞かれても答えは同じだ。」
微笑みながら、エイヴィはまた歩き始める。本棚の空いた箇所を埋めるように本をしまった。