パンを頬張るエイヴィを待つあいだ、窓の外の歩行者を数えていた。ランサーは近寄り難いし、エインガルはアーチャーの世話を焼いている。アサシンが居れば話は別だったのだが、特にやることがない。
また一人、路地を歩いている。
(八人目…。見逃すところだった…。)
この薄暗い路地では見えにくい服装。ただそれだけのはずだった。
猛スピードで路地を走るバイクと耳を刺すようなブレーキ音。
そして宙を舞う人と鮮血。周囲が少し騒がしくなった。気付いた時には立ち上がっていて、その拍子に机の上の水が零れそうになった。
バイクから降りた人物が被害者に駆け寄り、揺さぶった。大丈夫な訳が無い。加害者はバイクを起こし、走り去ろうとした。
手が無意識にショルダーバッグの中の刃物を探す。今にもこの窓を突き破って、引っ捕まえてやりたい衝動が走った。
不意にその人物がこちらを向いた。俺は本能的にその人物の首を見てしまった。見ようとしていたわけではない。体が勝手にそうした。
呼吸が揺れ、首筋に冷や汗が流れた。それでも目線は動かなかった。こちらを見たまま首を傾げ、裂けそうなくらいに笑っていた。こちらに何か告げるように、唇が動いている。
胸が苦しくなり、力が抜ける。そのまま席に崩れ落ちた。エインガルが俺の身体を支えながらどこかへ連れていく。
「…大丈夫か?食後に見て心地よいものではなかっただろう。もう少しで着くから、耐えてくれ。」
吐き気で目が潤んでよく見えない。口元に当てられた袋で少し呼吸が落ち着いた。そのまま男子トイレへ入っていく。
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ランサーを霊体化させ、現場に向かわせる。バイクは既に走り去ってしまい、行方は分からない。アーチャーは先に現場を見に行っており、今は私一人だ。
「…もしもし。えぇ、はい。事故ですね。ひき逃げです。救急車と警察を。場所は…」
ひとまず連絡を入れる。きっと誰も連絡はしていないのだろう。
次にランサーに電話をかける。
「戻ってきてください。アーチャー君も。あとは公的機関がどうにかしてくれますから。」
「…アーチャー、帰れ。俺はもう少し調べてから戻る。」
相変わらず自由奔放な方だが、一応スマホを持たせておいて良かった。しかしあれはただの事故だったのか、それとも何か関係があるのか。それとも私たちへの罠か。よくある事故ではあるけれど、小さなことが関係していてもおかしくないのがこの戦争だ。
「…それこそ証拠隠滅も有り得る…。そもそもあちらがマスターであるという可能性も…。」
考えが口から漏れた。考え事ばかりしていると脳が疲れる。何か甘いものを食べようと、追加で注文していた星型の果実を口に含んだ。甘酸っぱくて、瑞々しい。霧を晴らしてくれるような、まさに丁度良い果実。気長に皆を待つとしよう。
1/4 Fri
今日も体調が悪そうだった。今日はきっと事故のせいだろう。
あの事故も、戦と死の神に目をつけられたのかもしれない。
僕も見ていて心地よいものではなかった。吐き気がするのも無理はない。
でも、ところどころおかしな所があった。
事故を目撃したことで、呼吸困難と吐き気を起こすような人間が刀なんて振るえるのだろうか。
同類を殺す覚悟があったようには見えない。それに、あの様子だと同類ではなくサーヴァント殺しにも向いていないだろう。
なぜあんなにも強い殺意を感じたのだろう。僕はあの殺意を知っていた気がする。
身体に残されたものか、最後の記憶かもしれない。
あれはとても危険な物だ。
この若い体では抑えることが出来ないかもしれない。
とにかく、様子を見る必要がある。
僕たちの計画の危険因子になるかもしれない。
だからと言って、敵には回したくない人間だ。
マスターから指示があった時は、覚悟した方が良いだろう。
今はまだ情報が少ない。
事故の現場に残っていた魔力はなんだったのか。
それも調べる必要がある。
ひとまずマスターの元に戻ろう。