「戻りました。」
「えぇ、おかえりなさい。どうでした?」
霊体化を解きながら目の前に現れるアーチャー。エイヴィの問いに小さく答える。
「ただの事故ではないと思います。あの道全てに魔力の残滓が見られました。」
「…前回のサーヴァント…?体感はどうでした?動きが鈍るとか…。」
「特にはありませんでしたが…。戦闘があったわけではないので、何とも…。」
指を唇の下に当てながら、少し考える。今もあそこにいる、ランサーに聞いた方が良いかもしれない。
「…度々すみませんが、身体の異常はありますか?前回のような。」
電話の向こう側で槍を振るう音が聞こえる。
『…問題はないな。ないが…。』
「ないが…?」
『近くにいるのは確実だろう。攻撃的ではないが、あたり一面染められている。上に逃げろ。』
「分かりました。シンさんの体調が戻り次第移動します。」
『…いや、迎えに行く。急いだ方が良い。』
ランサーのことだ、このまま窓を割って入ってきてもおかしくない。ランサーがこちらに来る前に決済だけでも済ませる。
「アーチャー君は教授を迎えに行って貰えますか?出来る限り上へ逃げるよう、伝えてください。」
「わかった。どうかご無事で。」
ガシャンっと窓が割れた。思った通り。ランサーの手が伸びてきて、体を抱き上げる。
「昇るぞ。」
隣のビルの窓を、足と手で上がっていく。落ちないか不安なのと、風圧が怖い。
どんどん地面が離れていく。下に誰かいるのが見えた。ランサーに話しかけようと、口を開きかけた。
『やめておけ。噛むぞ。』
念話で話しかけられる。そうだ、これじゃ舌を噛む。
『下、いや横…?どこかから見られています。』
ランサーの動きが止まり、そのまま辺りを見渡す。
「わからん。俺は弓兵じゃないからな。それと、顔を覆え。」
急いで手で顔を覆う。またガラスが割れる音と、少し暖かい空気になる。
「…もういいですか?」
「あぁ。」
またひとつ、建造物が破壊された。大丈夫なのだろうか、あちらこちら破壊してしまって。
そんなことを考えていると、無言で床に下ろされる。
「どうして上なんですか?魔力が薄いのは分かりますが…。」
窓ガラスの近くを叩き割り、その破片を渡される。
「…少し重いような気がしますね。」
私の手を引っ張りながら、部屋の中を動き回るランサー。何度も振り返っている。
「重いのではない。下に向かっている。」
「…それって、意味あるんですか?」
「気付かないだけで他にもあるのかもしれん。分析するのは得意だろう。」
「そうは言われましても、何にもないですし、偵察も私たちじゃ…。」
再び抱き上げられ、腕に乗せられる。
「…移動するぞ。死角を探す。」
どこからか分からない視線。モルモットになった気分。上から、下から、全部を見られているような不安。早くどこかに隠れないと…。
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「マスター、一旦逃げましょう。」
「行けるか、シン。」
「…先行っててくれ。動くと吐きそうだ。」
「アサシンは?」
「…ここにいるが。」
後ろから声がした。
「…実体化しててくれないか?見えないと不安になる。」
「それはすまなんだ。一応はアサシンのクラスだからなぁ。」
「…早く逃げるんだぞ。」
一言かけてから外に出る音が聞こえる。アサシンは後ろに立ったまま、何をしているのか分からない。
「…外行ってただろ。」
「少しな。見覚えのある顔が通った気がしてな。」
「青いやつだろ…?」
背中が凍るようなあの目線。睨んでいるようで、笑っている顔。頭に染み付いて離れない。
「すぐに見失ったが、関係ないようであった。また別のサーヴァントか、魔術師か。そも、気のせいであったかもしれん。」
バーサーカー、キャスター、あと…。だめだ。考えがまとまらない。早く逃げないといけないのに、体も動かせない。
「…ここで戦をすれば、巻き込むことになるが。」
そうだ。まだ中には一般人がいる。ここで戦うわけにはいかない。
「…悪いんだが、運んでもらえるか…?」
「承知。」
吐かないように、周りを見ないようにした。景色が動いていると気持ち悪くなってくる。さっきよりは良いが、万全ではない。
どこにいくのかはアサシンの判断に任せる。出来れば、今は敵と接触したくない。
まだ見られている気がする。ここには窓がないのに、すぐ近くから気配がする。逃げ場を全部測られているような───
───喰われる。