「……ん…。」
柔らかな肌触り。まるで上質な───
「ッ、寝過ごした…!」
布団を引き剥がすように押しのけ、ベッドから降りた。
「ご飯…いや、服から?!」
食事は大切だ。寝過ごしたとしても、摂らなくては。
食パンをトースターに投げ入れ、その間に服を着替える。クローゼットを開けると、ジャラジャラと音を立てて何かが雪崩落ちた。
足に伝わる冷たさに顔を下に向ける。触れていたのは金のネックレスに、兜のようなもの。とにかく金一色だった。
なんでこんな場所に仕舞ったのか覚えていない。こんなもの買っただろうか?
「帰ってきたら…。」
今は拾い集める暇はない。再びクローゼットに目を戻した。
「…え?」
どの服も白。セーターもお気に入りのワンピースもない。そういえば、さっき下を向いた時も私は白い服を着ていた。そんな寝間着は持っていないはずだが…。
少し遠くの鏡を見た。白のウエディングドレス。この後何十分も探したが、それ以外見当たらなかった。これでは服を買いに行くことさえ困難だ。
「…そうだ、教授…。」
壁のモニターに手を当てる。
「教授に。」
コール音が部屋に響いた。二回、三回…。誰も出なかった。
「…切って。」
ついてない、では済まされない問題だ。そもそもなんでこんな服しかないのか。誰かのイタズラ?そんなことする人は知人にいないはず…。
考え込んでいたエイヴィの横を、誰かが通り過ぎた。ぱっと顔を上げ、話しかけようとした。
「…ランサー!」
『…ランサー?俺の事か?』
「…?あなた以外誰がいると言うのです?一つ、お使いを頼みたくて。報酬は魔力で…。」
『お使い…?魔力…?お前は何を言っているんだ?寝惚けてるのか?』
「…正気ですが?」
『お前…いや、何でもない。』
『…フリッグ。今日は予言はいい、もう少し寝たらどうだ?』
「…何を言って…。」
ランサーは静かにエイヴィの首元に触れた。いつの間にか身についていた首飾りが外れていく。
『…ん?こんなもの持っていたか?』
「え…?多分…?」
訳の分からぬまま相槌を打った。
『手。』
「手…?」
『寝室まで運んでやる。』
「あ、あぁ…。」
ランサーの手に自分を重ねた。椅子から引き上げられ、気付けば体が浮いていた。この景色は体験したことがある。
「あの、本当に分からないのですか?」
『何がだ。』
「お使いは百歩譲っていいとして、魔力とか…。」
『普通、報酬は銀とかだろう。そもそも夫婦間でそこまで気にすることでもあるまい。』
「夫婦…。」
『不満か?』
寝室に出戻った。シルクの上に体が沈む。
『今は休め。好きなだけ寝るがいい。』
ランサーの手が目元に触れた。ザラザラしていて、温かい。私はそのまま微睡みに落ちていった。