Fate/Unfinished   作:サルンパス

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第十七章 戦線 後編

薄暗い路地を駆け抜け、割れた扉をくぐってビルに入る。私がさっきまでいた場所。なぜ遠く離れた場所で瓦礫に埋もれていたのか、そもそもここで何があったのか思い出せない。頭を強く打ったのかもしれないが、幸い走っても支障はない。魔術の行使も完璧。あんなに血が出ていたのに、ふらつきがないのはおかしい。

 

考えてもどうにもならない、と小さく息をつく。ランサーを見つけるのが先。彼が何か知っているかもしれないし、いつサーヴァントが出てきてもおかしくない状況だ。今は目の前のことに集中しなければ。

 

そう思ったのもつかの間、上の階へ走る人影が見えた。

 

「そこか───!」

 

勢い良く踏み出すシンさんの手を引き、小さく呟いた。

 

「あれはランサーじゃない。小さすぎる。」

 

「わかってる。でもこんなところにいたんだ、普通じゃない。」

 

「…あなたは、あれをマスターと?」

 

「断定はしない。だが、確率は高いはずだ。マスターを殺せば終わる。それなら俺が適任だと思った。」

 

「…マスターでなかったら?」

 

「あのな、俺だってそれくらい見分けがつく。令呪だろ、マスターの証拠は。それなら手を見ればわかる。」

 

なんだろう。少し拍子抜けした。彼は令呪が手につく物だと思っている。確かに、私のは右手の甲に、教授のは右手首あたり。そして勘違いしている張本人は左手の甲。

 

「シンさん、令呪は手限定ではないですよ。今までも色んな事例がありましたから。」

 

「…そうか、残念だ。なら殺さない。けど、あっちが危害を加えるようなら、俺は斬るからな。」

 

「そもそも、ここに元から人がいなかったなんて言ってないですからね。身を隠していた一般人の可能性もあるでしょうし。」

 

「まぁ、そうだな。とりあえず進もう。また隠れられると見つけるのが難しくなる。」

 

そういって彼は階段を登った。私は令呪があてがわれた右手を下ろし、後ろを着いていく。

 

────────────────────────

 

どこか遠くで人の叫びが聞こえる。その原因は俺たちにある。多数を救うために少数を犠牲にして、俺たちはそれを救済と呼ぶ。

それが善か悪かも分からぬまま。

 

「……いたな。」

 

部屋の中央に佇むのは奇抜な女だった。黄のインナーが入った髪が首に張り付いている。震える両手で刃物を構えている。その目と刃は明らかにこちらに向いているが、恐怖に満ちて揺れていた。

 

「…ッ…けほ…。」

 

今にも倒れそうな呼吸をしながら、女は一歩踏み出す。女の純白の衣にツタが這うように、青い光が繊維に蠢いている。何かがおかしい。

 

怯えている。サーヴァントを連れいる訳でもない俺たちに恐怖している。この女に俺の刃は見せていない。では何故───?

 

「来る、な…私に、近付くなぁぁッ!!」

 

刃を突き出したまま走り出す女を、俺は弾いた。左手に携えた短刀の柄を鼻根へぶつけると、ぐらりと女の体が倒れる。それと同時に女の衣服が青々と輝いた。

 

閃光に目を奪われる。太陽よりも眩しいそれはすぐに収まったが、視界はチカチカと明滅する。

 

「罠か…ッ!」

 

見えない、というのは非常にまずい。音が無ければ何をされているのかもわからないのだから。

 

「エイヴィ!」

 

背後にいたはずの彼女の名を呼ぶ。返答はなし。数歩後ろに下がり、触覚での感知を試みる。

 

やはりいない。

 

視界が完全に戻った頃、女はいなかった。エイヴィは衣服が乱れた状態で壁際に寄せられていた。シャツの釦は一つずれ、胸元が乱れている。リボンだけが膝に残されていた。

 

「……生きてるか。」

 

恐ろしい程に美しく目を瞑っている。首元に手を当てると、はっきりと脈動しているのがわかった。

 

「……。」

 

リボンをポケットにしまい、立ち上がる。

 

「…薬物か。計画的だな。」

 

大きく、起きろと声をかける。しかし目は開かない。あの短時間で眠らせたのだから、相当強力な薬だろう。

 

おぶって運ぼうと思った。だが、こんなお偉いさんの女性を無闇やたら触らない方が良い気がする。

 

「…いや、危険に晒してる時点でアウトか。」

 

深いことを考えるのはやめた。

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