「違う。」
いくつか階を登った頃、エイヴィの口からそんな言葉が漏れた。
「立てるか?そろそろこっちも限界だ。」
期待した返事は帰ってこず、彼女の目は閉じたままだった。
「…困るな、薬品じゃなかったら。魔術はさっぱりわからないんだ。」
一つ、二つと段差を登る。十八階。エレベーターに視線を送るが、あっちはお陀仏のようだ。
「何階まであるんだろうな。」
もちろん返答はない。孤独には慣れている。日本にいた時も、
「
エイヴィの代わりに腹が答える。朝飯を済ませてから軽く五時間は経っている。おまけに走ったりなんだで疲労も溜まってきた。
「…五分だけ休ませてもらうか。」
壁際に彼女を降ろし、自分も横に座る。ランサーを見つけて、エインガルと合流。厄介事がなければ十三時くらいには帰れるだろうか。そう考えながら荷物を確認する。短刀二振り、絆創膏、ガーゼ、包帯、財布…?財布の中身が軽い。小銭だけがなくなっている。
「…あの女か。何がしたいんだ…。」
金銭が目的なら財布ごと盗めばいい。紙幣はおそらく一枚も奪われていない。別に困る額ではないのだが、敵となると頭に来る。わざわざ目眩しした結果が身体接触と窃盗。警察が聖杯戦争に参加してくれれば良かったのだが。
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約五分経っただろう。変わらずエイヴィは目を覚まさない。エインガルに見せに行くことも、そろそろ視野に入れた方が良いかもしれない。
十九、二十…あと五階で最上階だ。いなければいないで諦めがつく。問題はランサーではなく女がいたときだ。
現状、光にさえ気を付ければ殺せる可能は高い。むしろエイヴィが寝ている間に済ませてしまうのが良いだろう。弱体は狙わず首を…
───ダンッ!
と、階上で音がした。何かがいる。こちらへの威圧か。エイヴィの頬を軽く叩く。
「……」
無駄な暴力だった。後で殴られるな。そうは言えど背負って戦う訳にもいかない。階段を降りたとき目に付きにくいのは…ここか。
ここはおそらく社長や地位の高い人間の部屋だ。横幅のある机、散らばった衣服、開きっぱなしのクローゼットらしきもの。エイヴィをクローゼットに入れ、衣服を押し込む。いくつかハンガーにかけて閉めれば、何の変哲もない衣装入れだ。
「…よし。」
短刀を手に部屋を出る。ショルダーバッグを開いてすぐにもう一振り。十分殺せる。油断するな。あの女は危険だ。
殺せ。
殺すべきだ。
アレは世界に不必要だ。
排除しろ。
…違う、俺じゃない。
足は止まらない。
一段、また一段。もう惑う必要はない。排他すべき存在だ。
あぁ、気持ちが悪い。また始まった…。