クローゼットから見える景色は地獄だった。赤い液体が滴る天井、床に出来た深紅の池。鼻を刺す異臭。
外は暗くなり始めていた。
そして最も不快なのは───
バキりと何かを折る音とぐじゃぐじゃと何かを潰すような音。
「…大丈夫。きっと彼じゃない。」
階段を登る足が震える。分かりたくないものを明かしてしまうような気分。
二十一階。異臭は更に強くなり、血溜まりは比にならないくらい広がっていた。
「…シン、さ…」
紫の瞳が私を刺す。手には肉塊がぶら下がり、血が指先を滴っている。ぼたりと肉片を落としながら近付いてくる彼。
「お前は……違う。エイヴィ……?」
獣のような瞳が消え失せ、いつもの彼になる。びちゃりと足が音を立て、彼は足元を見た。うっ、と嗚咽しながら血塗れの手で口を押さえた。その匂いと温度を想像するだけで、私も吐きそうになった。
「おぇ…っ…」
人間一人分の肉量としては少なすぎる。彼が食人をしていないのなら、まだ殺してはいない。けれど、足がすくんだ。
何と声を掛ければいいのか分からない。「殺したんですか?」なんて聞く訳にもいかないが、何もしないのはバツが悪い。
「…その、まずは吐いちゃいましょう。少し良くなったら、お水買ってきますから。」
血溜まりを避けるように私は、彼の斜め横にしゃがみ込んだ。不安定に上下する彼の背を、震える手でさする。不安を打ち消すように深呼吸する。口から入った空気でさえ、この異臭を鼻に運んでくる。
「一人にして、すみませんでした。もし、これがあなたの血だったら、私は…。いえ、ともかく、私の責任不足でした。」
「…罪に問われたら、私が何とかしますから。」
彼は俯きながら目を向ける。先程のような尖った様子ではなく、いつもの彼。
「…大丈夫だ。まだ、俺は殺してない。」
その言い方に私は違和感を覚えた。まるで自分以外の誰かがいたと、強調したように感じ取れる。
「敵サーヴァントの乱入は?」
「ない。居たのは女だけだ。」
「では、ランサーも…。」
あぁ、と彼は相槌を打って、ワイシャツの袖で口を拭った。
「この床って、木材じゃないよな。」
「えぇ、そうだと思いますが…なぜ急に?」
「片付けないとだろ、これ。悪いんだが、水買ってきてもらえるか。その間に、終わらせておくから。」
「それはもちろん良いのですが…もう動いて大丈夫なんですか?」
「あぁ、慣れてる。このレベルなら大丈夫だ。ファミレスのときはヤバかったけどな…。」
無理はしないでくださいね、と言い残し部屋を出る。割られていない窓から外を見下ろすと、空が赤くなり始めていた。
「随分、任せっきりにしてしまったみたい。」
この戦争に参加したことを、じわじわと意識し始める。これは殺し合いで、甘い判断は命取りになる。ランサーと離れて、やっとそれを理解した。
受験が間近になってきて嫌ですね…