超微細な修正です
午後九時。誰もいなくなった時計塔の一室。もう使われなくなった教室に一人、呪詛科のロードがいる。ガラリと、少し古めかしい木の扉が開いた。
「こんな時間に探し物かね?エインガル教授。」
教授と呼ばれた男は振り向かず、黙々と紙をめくる。教室の冷たい空気を刺すような、乾いた音だった。
扉は開いたまま。男の近くまで歩み寄り、肩を叩く。
「こんな時間まで、身体を壊すぞ。壊す身体もないだろうがね。」
声質は柔らかいが、どこか皮肉らしく棘がある。
「すまないな。鍵は私が締めていく。帰っていいぞ。」
沈黙の後、コツ、コツと教室を去っていく音が廊下に響く。開いたままの扉から、冷えた空気が流れてきた。
教授は誰もいなくなった教室で栞の存在も忘れ、扉へ向かう。そっと扉を閉め、内側のシャッターを下ろす。静かに教室の中央に戻っていき、床のタイルを剥がし始めた。
「まさか、生徒にバレているとは。口を滑らせたのかもな。」
誰に言うでもなく、純粋にあの問題児の分析力を讃える。
木のタイルの下、コンクリの床には随分と昔の魔法陣が薄らと現れる。あとは魔力を注ぐだけ。
カチリ、と懐中時計が針をならす。
小さな声で唱えはじめる。万が一にも見られてしまえば───
(少しばかり、記憶を弄ることになるな。)
詠唱が終わりに向かうにつれ、陣から光が溢れ、風が肌を撫でる。まだ元気だったあの恒星のように。あまりの眩さに私は目を閉じた。
教室の明かりが月光だけになった頃、ゆっくりと結果を確認する。
目の前に立っていたのは、好奇心と闘志に燃える若い男児だった。自信に満ち溢れた表情で私を見上げている。
「サーヴァント、アーチャー。英雄ではないが、あなたを守る戦士となろう!」
男児は躊躇なく金の指輪を嵌めた右手を差し出す。
「あぁ、よろしく頼もう。」
男児の意志に応えるよう、私もその手を取った。
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同刻、本に囲まれた家にて。
「ルーン文字は?習得前なんですか?それとも一時的に身体が戻ってるんですか?機能の抑制?ラグナロクの記憶は?ランサーなのはやっぱりグングニルから?だとしたら──」
少女が興奮のまま質問をしてくるのを受け流し、窓の外を見る。この世の太陽はもう僅かな寿命だというのに、月は驚くほどに眩い。
「…あの衛星は常に嗚呼も輝かしいのか?」
男はこの日初めて好奇心から少女に問う。少女はすぐに窓を見た。
「…いいえ?いつもはほんのり明るい程度です。今日は随分と明るいですね。」
男は無言で扉へ向かった。
「待ってください!あまり、その服装で動かれると…」
「知らん。」
少女の言葉は無慈悲にも投げ捨てられた。リビングの扉が開き、そのまま玄関の扉がガチャリと開いた。少女はその自由奔放な姿に怒ることはなく、ついて行くことにした。
「どこに行くんですか?」
男は沈黙する。仕方なくといった様子で口を開く。
「山へ行く。あの星がよく見る為だ。…それに、見知った空気がする。置いていかれたくないのならすぐに準備しろ。」
少女は慌てて、鞄とコートを取りに戻る。
男は静かに月を見上げた。
「なるほどな。お前がいるのならさぞ可笑しな戦争になるだろうよ。」
1章終