Fate/Unfinished   作:サルンパス

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3/20改訂


第二章 歪み

月の光が山道を照らす。辺りには羽毛と剥製のように固まった燕が散乱している。落葉を踏む音が風に掻き消されていった。

 

「奇妙ですね。時が止まったみたいです。形もそのまま。本当にただの死骸なのでしょうか。」

 

少女は慎ましくスカートの裾を押さえ、しゃがみこんだ。革の手袋を身につけた右手で、燕の胸に触れる。

 

隣の男は怪訝そうに少女の行動を見つめる。

「得体の知れないものに容易に触るな。呪いでもかかっていたらどうする。人の身体はあまりに脆いのだぞ。」

 

呪い。回避不可避な何かによる死。考えうる可能性は少ない。人の手では到底叶わない量の死骸だ。それこそ、隕石でも落ちてこない限り不可能だ。

 

パキっと2人のものではない、枝を踏む音が迫まった。男は少女から音の方向へ目線を向けた。

 

『そこで何をしている。』

 

褐色肌の青年がこちらをギロりと睨んでいる。

 

少女は静かに立ち上がり、青年をしかと見つめた。

「勝手にこの地に入ったことは謝罪しましょう。ですが、私の記憶では、この山は私有地ではなかったはずです。」

 

青年の表情が硬くなる。歯を食いしばっていたが、少女の隣の男を見て口を開いた。

 

『お前、人間じゃないな。』

 

男は面白そうに青年を見下ろす。愉悦とも取れるその表情は、月明かりに照らされ、獲物を捕らえた狼のようだった。ギラりと目を光らせ、青年を睨み返している。

 

「そういう貴様も人の道を外したようだが。」

 

またもや青年の表情は硬くなった。青年は少女の容姿と行動に混乱する。貴族のようなお淑やかな容姿の割に、直前に見た少女は好奇心のまま死骸に触れていた。

『質問を変える。何をしに来た。』

 

少女が答える間もなく男が答える。

「山に入ることに理由が必要か?それとも、入られると困るか?」

 

静かに、氷のように冷たい声が山に静けさを与える。その声に青年は沈黙した。

 

『…あぁ、今は“片付け”で忙しい。今は入ってくるな。邪魔になる。』

 

少女はすかさず隙を突く。

「片付けですか。この量を一人で、とは。大変ですね。僅かながら力になりましょう。」

胸に手を当て、わざとらしく青年に告げる。

 

目の下に皺を作る。この二人は言っても聞かない。脅しも効果なし。青年は最終手段に出た。

 

『─────ッ!』

 

ゴッ、と鉄同士がぶつかり、低く詰まった金属音が鳴る。確かに少女の首を断ったはずの刃は、男が気配もなく突き出した槍によって防がれた。

青年が持っていたはずの短刀の刃先は、静かに、落葉に沈んで行った。青年の額に冷や汗が流れる。目の前の男の動き一つ読めなかったことへの焦り。そして単純な恐怖。

 

「やめてください。あなたの目的は彼でないでしょう。」

男はその槍を振るうのではなく、少女の言葉によって静かに収めた。不満げにフンっと鼻を鳴らす音が山に響いた。

 

『なぜ生かす。何が目的だ。』

純粋な疑問と屈辱。

 

「あの星と、人探しだ。どうやらここにはいなかったようだがな。」

男は青年から、奥の小屋に視線を移す。人の気配は無く、廃墟のようにも見える。少女は青年の警戒を解こうと努める。

 

「私達は、あなたを害すため来たわけじゃありません。結果、あなたの気分を害してしまったのなら、お詫びいたしましょう。」

少女は深く頭を下げる。

 

『月を…?』

青年は空を見上げる。異様に輝くその星は、まるで誰かの手によって光らされているようだ。いつも山にいるにも関わらず、気付く事が出来なかった。違和感を上から塗りつぶされていたかのように

『なん、だ…あれ…。おかしいだろ…』

 

不気味な月が三人を照らしていた。




二章終
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