『ピピピッ、ピピピッ』
静寂を電子音が断ち、朝を告げる。床にカツっと足を着く音がする。朝の冷たい空気をものともせず、日課を始めた。午前七時三十分、いつもと同じ時間。球体関節を隠す黒の手袋を着け、白のワイシャツにネクタイを締める。衣服が擦れる音が支配する部屋に、再び電子音が邪魔をした。
目の前に浮かぶ電子モニターの応答ボタンに触れると、あの問題児の声が聞こえてくる。
『早朝から失礼します、教授。今日は教室ではなく、私の家に来て欲しいのですが、よろしいでしょうか?』
教授と呼ばれた男はこめかみを押さえた。ふぅ…と溜息をつき、静かに問う。
「一応聞くが、あの“計画”のせいか。」
少女は悪びれも無く答える。
『はい、もちろんです。どうせ教授は成功したんですよね?こちらは少々…外に出れない状況でして。』
外に出れない状況。一体何があった。問う前に電子モニターから男の声がする。
『これはどんな構造になっている。どこから出てきた。』
「…エイヴィ。その男に、私は敵では無いと伝えておけ。九時頃にそちらに着く予定だ。」
答えは聞かずに通話終了ボタンを押す。そこに後ろから昨日の少年が話しかける。
「僕は着いていかない方が良いかな?」
ほんの少し寂しそうに、私を見上げている。私は自然と、その少年の頭を、無機質なこの手で撫でた。
「…失礼、すまない。気を悪くしないでくれ。」
咄嗟に手を離す。英霊である彼の頭を撫でるなど、偉そうにも程がある。しかし少年はにこやかに笑ってみせる。
「とても嬉しいよ。気にしないでもっと撫でて欲しいな、僕は。」
引いた手をゆっくり彼の頭に戻しながら、本題に戻す。
「君の質問だが、着いてきてくれると助かるよ。私達の仲間に会いに行くからな。可能なら、あちらのことを信頼してやって欲しい。頭のおかしい奴だが、根はいい生徒だ。」
少年は楽しそうに目を細める。
「分かりました。マスターの仲間なのでしたら、きっといいお方でしょう。」
私は少し表情を緩め、撫でていた手を離して準備に戻る。
「…さて、朝食はいるかね。大した魔力になる訳では無いが、味は楽しめるだろう。」
コクコクと頷く少年に、少々懐かしい気持ちになった。
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午前八時四十五分。チャイムを鳴らす男と、その息子のように隣に立つ少年。少しして、いつもより上品さの失われた少女が出てくる。
「…その目はどうした。」
少女の右目の眼帯。笑ってまぁまぁと言う彼女に頭が痛くなる。
「…まぁいい、中に入ってからじっくり聞かせてもらおう。」
バタりと扉が閉まり、朝の静けさが取り戻された。
明日は少々更新が遅くなります。優しく見守ってください。