「次に彼のことですが。」
私が何か言う前に彼女は話し始めた。彼女なりの気遣いだろう。
「彼は私が召喚したサーヴァントです。クラスはランサー。真名は流石に伏せさせていただきます。」
止めるまでもなかった。文を綴るが如く洗いざらい話してしまった。私だけならまだしも、ここには正体不明の青年がいるのだ。
「待て、そこの青年は信頼に値する人物なのか?」
青年は静かに布で巻かれた何かを机に置き、布を解く。巻かれていたのは恐らく短刀だったもの。人の業とは思えぬほどに美しく断たれた刃先。
「昨晩そこの女と男に接触して、このザマだ。無駄な抵抗はしない主義だからな。今のところはその気はないさ。」
少年は青年の言葉に眉をひそめる。
「では、敵対の意思はない、と?」
「さあな。あんたらが無秩序な行動を取らなければ攻撃するつもりはないさ。」
状況は比較的理解できた。だが何故だろう、まだこの青年への警戒心が解けない。この異様な空間に溶け込んでいること。“サーヴァント”という言葉に疑問を持たなかったこと自体が奇妙だ。
「…率直に聞くが、君は聖杯戦争参加者だな?」
青年は一口紅茶を飲んでから答える。
「だからどうした。この刀が一番の証拠だろう。」
言葉が終わると同時に本をバタりと閉じる音が聞こえる。
「まだ終わらないのか。わざわざ待っていてやったというのに。ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃと。そういう所がいつまで経っても馬鹿なのだ。俺はもう行くぞ。勝手に話してろ。」
ガタリと席から立ち、扉の方へ行ってしまうのを彼女が引き止める。
「待ってください!私も行きます!」
彼女がそんな理性的な行動を取るわけないか。期待した私が阿呆だったようだ。何より、彼女の安全が保証されている訳でもない。だがこの青年の安全性も不確か。別行動はまだ控えた方が良さそうだ。敵の情報を収集するためにも。
私はチラリと青年を見てから席を外す。そして隣の少年も私と同じように席から立った。
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部屋に一人残された青年が呟く。
「アサシン、あんたはどう思う。あいつらは消すべきか、守るべきか。」
アサシンと呼ばれた姿なき者は青年にだけ聞こえる声で答える。
「そうさなぁ…善き者のように見えたが。何か引っかかるところでもあるか?」
青年は沈黙する。
「…いいや。だが、信じるべきかは判断できない。」
アサシンはその判断を否定も、肯定もしなかった。
「なら、思う存分見届ければ良い。今はまだ行動に移すべきではない、そういうことなのだろう。」
静かに頷き、彼らの跡を追った。部屋にはまた静寂が戻り、外では賑やかな話し声が続いている。どこか遠くで、それとは別の騒がしい、嫌な音が聞こえたような気がした。
3章終