まさかの最高記録更新でございます。
では、どうぞ。
8/5 明らか月一更新は詐欺だと思ったので、不定期更新に変更しました。
空を舞う粉雪が風に乗ってペシペシと俺の顔を叩いてきた。なかなかに痛いし鬱陶しい。
あまり水分を多く含んでいない雪はサラサラとしていて、スキーとかスノボーとかにはもってこいなんだろうなと空中で場違いなことを考える。……っていうか肌が痛い。
……そう、現在俺は敵陣真っ只中……ではなく空中にいるのである。いや、まあよく考えれば当たり前なんだけどね。正確にわからない目的地への瞬間移動なんてできるわけないのである。多分どこぞのネコ型ロボットでも無理だろう。
結局神社で能力を使った後も何も起こらなかったので、この寒い中敵陣を探しているのだ。
上空は厚い雲が覆っており、雪と相まって世界全体が白っぽくなっているように見える。
眼下に広がる森も見にくくなっており、これは探すのに骨が折れるぞ、と俺は気合いを入れた。
「……あー、さみぃ」
しかし凍てつくような寒さに抗うことはできず、骨よりも先に心が折れそうになる。
俺の今の服装はなんかの毛皮を羽織りまくっている状態なのだが、足までカバー出来ていないのでそこから寒く入ってきている。
「こたつが欲しい……」
思わず文明の利器を求めてしまった。
俺が前世、ものづくりに関わってたなら産業革命でも起こしていたのに……と心中で悔やむが、意味はないので考えないようにする。
そんなことを考えながらもキョロキョロと探していると、やっと見つけた。
その場所は仮住居みたいなのが簡易的な柵で囲われていて、いかにも拠点だという形だった。
「あれか……、ん?」
よく見ると白い地面の上に二十人ほど人が固まっている。中心に一人と取り囲むように残りの人間らしき人たちがいた。おそらく建御名方神の下についている神様だ。
なんとなく気になったので、気付かれないように細心の注意を払いながら高度を下げていく。
さすがに声までは聞こえないが、真ん中にいる女の子? らしき人物を捕らえようとしているのが雰囲気でわかった。
少女は隙を見せないように全方位を見渡しており、逆に捕らえる側は一瞬の隙を見つけようとしている。
何かイレギュラーが入ればどちらかが動くだろう。
どうしようか。助ける? いやでもあの少女がもしかしたら過去に大虐殺をした極悪人っていう可能性も否めないし、何より俺が介入することによってこの後の交渉が円滑に進められない可能性が出てくる。
……まあ、あまりにも一方的な暴力を振るわれそうになったなら助けてやろう。いくら極悪人でもリンチされているのは見たくないのである。
どんな不測の事態に陥っても冷静な対処ができるように心の準備をする。
「……あ」
目を凝らしていると、俺は囲んでいるやつの一人が武器を持っているのに気づいた。
もうちょっと高度を落としてしっかりと確認できるようになると、ほとんどが手に武器を持っている。
一方少女は手になんかの手紙みたいなのを持っており、他は完璧な丸腰だ。
これは……………ヤバいんじゃないか? ボッコボコにされている運命しか見えない。
さすがに一方的すぎるので、取り巻き側が動き出した瞬間に助けよう。極悪人ならそのままおとなしくさせてから突き出せばいいんだから。
ちょうどいい能力も付与したしな。まさかこんなところで役立つとは思ってなかった。
空中で機会を窺う。雪はもう降っておらず、風も止んでお天道様が顔を見せている。
そして俺の影が少女を覆い、不自然に暗くなったことで彼女が視線をこちらに移して──バッチリ俺と目があった。
──瞬間。
まるで合図でもしたかのように全く同じタイミングで取り巻きたちは飛び出した。
「──!」
少女は声にならない悲鳴をあげる。
すぐに俺は能力を使ってその円の中心へと降り立った。
一瞬にして変わった景色に若干酔うが、すぐに少女の手をつかんでもう一度空中へ退避する。
「え、え? えぇ?」
いつの間にか空中にいたことに少女は驚いたようであたふたしているが、すぐに冷静になり手をつかんでいる俺の方を見てきた。
「だれ?」
「その前に。お前は悪人か?」
先に聞いてきた質問をあえて黙殺し、逆に問い返す。
「……っ。違う。わたしはこの書を建御名方さまに」
「そうか」
それだけわかれば十分だ。
もしかしたら嘘という可能性もあるが、明確な目的を持っているし、まあ別にいいだろう。
諏訪子みたく特別な力を持っているというわけでもなさそうだし、腕っ節が強いわけでもなさそうだ。
「なら、その書を建御名方に持っていけばいいんだな?」
「なっ⁉︎ よ、呼び捨て……?」
一応訊いてみたものの答えてくれる様子じゃなかったので、なかったことにする。
「場所を教えてくれ。さっさと届けよう」
俺は下の方を指差しながら言った。
下からは俺に気づいたやつらが飛んで追いかけてきており、悠然と佇んでいる暇はないようである。
「は、はい。えと、あっち……だ」
そう言って少女は指差す。
俺もその方角を見てみると、周りに比べて少しだけ大きい建物があることに気づいた。
場所と位置がわかればこっちのもんだ。瞬間移動でささっと行ける。
「よし、行くぞ」
一応一言断っておく。
さっきわかってたはずの俺が若干酔ったから、何もわからん状態で瞬間移動されたら確実に酔うに決まってる。
そして俺はもう一度瞬間移動を使ってその建物へと向かった。
「きゃっ」
少女はかわいい悲鳴をあげて、俺とともに無事目的地の屋根へとたどり着く。
俺は確認する意味も込めて、もう一度少女に問いかけた。
「えーと……ここであってるのかな」
「は、はい。……っ、それよりもあなたは誰だ? なぜわたしを助ける?」
その問いに答えようか迷ってしまう。別にここで洩矢の使者だ、と言ってしまってもいいんだが、中でもう一度説明するのもめんどいしなぁ。
「どうせ中で説明するんだ。その時までの辛抱」
「な、中? ……どうして」
また新たな疑問が浮かび上がったようだが、俺は気づいていないふりをして屋根から降りた。
少女は疑問符を頭に浮かばせながら、自分の目的も果たそうと追随してきた。
「先に入って。んで、洩矢からの使者が来たって伝えてくれ。──ああ、先にそっちの用事を終わらせてからでいいから」
それを伝えると少女はびっくりしたように目を見開き、その後悔しそうに顔を伏せ「そうか、間に合わなかったか……」と呟いていた。
いまいちよくわからなかったので、早く行ってくれという意思表示も込めて背中を押す。
「予定が変わった。わたしの用事にはあなたが必要だ」
「……? そうか、なら早く行こう」
これがまさに一石二鳥というやつか。
一緒くたにできるなら断然その方がいい。んで、さっさと終わらせて帰って寝たい。
少女がその建物へと入っていくのを見て、俺も後ろから続いていく。
「会議中失礼します! 洩矢への文書に無礼があったので報告に参りました!」
さっきのかわいい悲鳴とはうって変わって、跪きながら凛々しい声で答える少女。
その変わりように驚いていると、見られているような気がしたので視線を上げたら、実際睨まれていた。
円卓会議でもしてたかのようにお偉いさん方であろう爺さん達が並んで座っている。
誰だそいつは、とでも言わんばかりの訝しげな視線を向けられ続けていると、少女が代わって答えてくれた。
「この方は洩矢の使者でございます。彼はわたしを助けてくれたので、あまり危害を加えたくないのですが……」
少し口ごもりながらも俺を擁護してくれる少女に感謝していると、難しい顔をしているお偉いさん方の中で紅一点と言うべきか、一人だけ真ん中にいる女性が一番顔をしかめていた。
菫色がかった青色をした左右にとてもボリュームのあるセミロングの髪で、瞳は茶色に近い赤眼となっている。右側には赤い楓と黄色い銀杏の髪飾りで、控えめながら着飾っていた。
その女性──建御名方神かな? が代表して喋りかけてくる。
「そうか……その者、感謝する。それで、無礼な書とはどういう物だ」
無礼、というワードが気になったのだろう。目が早く見せてくれと言っていた。
これでございます、と少女がずっと手に持っていた手紙を手渡す。
「それは、洩矢への手紙の複写でございます。恐らく筆者は外でわたしを捜していると思われます」
難しい顔で読み進めていた建御名方神が、眉間にしわを寄せたまま顔を上げた。
「ふむ、これはどういうことだ? あたしはこんな書を書けと命じた覚えはないが……」
ぐるりと他のお偉いさん方を見回す。
その目は犯人がこの場にいないか見定める、鋭い視線だった。
「いない、か。ならばその、お前が言う“追いかけてきた者たち”が犯人なのか」
「はい」
キッパリと答える少女。
相手も一切少女を疑わないというのは彼女がとても信頼されているという証拠だろう。
そして少女が犯人だと思われる名前をつらつらと述べていった。
俺は本当に手持ち無沙汰なので、ちょこっとだけ遊んでみるかな、と思って神力を少しだけ──本当に微かに、注意してないとわからないぐらいの量を体外に放出する。
別に戦闘したいわけでもなく、暇なのでただ単に相手方にちょっかいをかけてみたくなっただけである。
このスリル感はある意味、ビルとビルの間を命綱なしで綱渡り〜だとかいうバカなタイプの人間が味わっているのと同じなのかもしれない。
少し力加減を間違えただけでオワリ。そのスリルはさながらジェットコースターのようにクセになってしまいそうだ。
さあ、気付くやつはいるだろうか。
上がる口角を必死に抑え込みながら、一人ひとりの表情をしっかりと読み取っていく。
「……?」
一人が違和感に気づいたようだ。
しかし、それは単なる違和感として処理されたようで面白いことにはならなかった。
「……はぁ」
まあここで荒事をするつもりなんて毛頭無いし、気付かれたらそれはそれでめんどくさいんだけども。
っと、ここで俺の番が回ってきたようだ。
少女がこちらを向いて目配せしている。大方要件を話せ、と言ったところだろう。
俺は神力を引っ込めて、口を開いた。
「……今聞かされた通り、その無礼な書状の所為でうちの領主様は大層ご立腹だ。んでもって、その代わりと言っちゃあなんだが、諏訪側は大将同士の一騎打ちを望む。……もしこの意見が受け入れられない場合、俺が全力で暴れさせていただくことになる」
こうべを垂れることなくできるだけ高圧的に、敬意など欠片も持ち合わせていないかのごとく語った。
ここでヘコヘコして中途半端に舐められるよりは、最初からコッチの意見を折ることは無いと意思表示しておけば、この後を少しでも有利に進められると思ったからである。
もちろん、あまりにも無礼な使者に向こう側は殺気立ち、今にも攻撃をしてきそうな雰囲気を醸し出していたが、建御名方神が手で制した。
「──なるほど。確かにその書状はこちらの責任であるし、実際洩矢殿の怒りも買ってしまっている。……いいだろう。その条件、飲んだ」
静かになった室内に凛とした声が響く。
数秒間。それは全員が言葉の意味を理解するまでにかかった時間だ。
直後、向こうの側近らしきやつらがざわついた。
「正気ですか神奈子さま!」「そうです! 我々が集団で攻め入れば、造作も無いことなのに」「考え直してくだされ!」と口々に発言する。
……確かに戦力で勝っている建御名方神側は、数で攻めればたった一回の攻撃で諏訪の国を陥落させることはできるだろう。
それだけ有利な状況にもかかわらず、それを全てなげうって一騎打ちに臨む姿勢は手放しで賞賛するに値する。素晴らしき騎士道。……神だけど。
「よし、では日時の決定をしたい」
「その前に、こちらも一つ条件があ──」
建御名方神が何か言おうとした刹那、外からガシャンガシャンと金属同士がこすれ合う物騒な物音が聞こえた。
あの少女を追っかけてたやつらが武装してやってきたんだろう。──まだここにたどり着いていないと踏んで。
近くでは怒りの表情を顔に浮かべ、今にも自らが飛び出していきそうな状態の建御名方神を側近たちががっしりと押さえつけていた。
「丁度いい。もし戦場で一騎打ちにならなかった場合、乱入してきたやつの末路ってのを見せてやるよ」
そう言って俺は室内を出た。
恐らくその場にいた全員が呆然としていただろう。
──俺が、あの神力を垂れ流していたんだから。
別にこの神力を自慢したいわけでは無い。高飛車になるつもりも無い。
ただ、一番安全にこの場を抑えることができるのはこれしかなかっただけだ。
あの諏訪子との戦闘以来、人に対して使ったことは無い。……あの時若干やりすぎたかな、と反省したからである。
外に出て、雪に反射した太陽が目を攻撃し、痛みを伴った風が俺の頬を撫でる。
目を細めながら周りの光景を見てみると、何かに恐れたような目をした敵がこちらを睨んでいた。
予想通り敵は武装しており──といっても簡易的な鎧と剣のみだが──今にも攻撃してきそうなので、さっさとやってしまおう。
俺は建物の周囲にまばらにいるやつら全員の位置をある程度把握してから、一番近いやつの正面に瞬間移動した。
シュン、と漫画のような音を立ててそいつの懐へしゃがんだ状態で入り込み、顎へと一撃。
顎への一撃は脳を揺らす。平衡感覚が失われ、倒れるのだ。
鈍い音がして相手は仰向けに倒れた。右手にジンジンと痛みが走るが、即座に神力を流して治療する。
ぐるりと見渡し、次のターゲットを決める。
「ヒッ!」
そんな情けない悲鳴が俺の
仮に声の主が女性なら躊躇ったかもしれないが、相手はただの野郎だ。気にする必要などない。……些か女尊男卑な気もするが、単純に躊躇いがあるかないかの違いだけである。いざとなったら両方平等に戦う、はず。
俺はさっきと同じように一撃をお見舞いしてやって、また次のターゲットへ狙いを変えた。
◇◆◇
「そ、それでだな、白神殿」
「畏るな。こっちがやりにくい。んで? 条件ってなんだ?」
敵を粗方片付けると、残ってたのは一目散に逃げていった。
そうして、勝利して話を続けようと戻ってきたのがさっきである。
すると向こう側はわちゃわちゃと動き始め、何やってんだ……? と思いながらも見続けているとさっきの台詞が建御名方神の口から出たのだ。
向こうが俺に気づいて、どうしたらいいかわからずにわちゃわちゃしてたんだろうが、こちとらさっさと帰りたいんで早くしてほしい。
「そ、そうか。えーっと……こんなことを頼むのもアレなんだが、
『………………………は?』
当事者である俺たちはもちろん、周りの爺さん方も驚いていらっしゃった。
なんでこの少女を俺が連れてかなきゃならないんだ。……まあかわいいところもあるからキッパリと否定するのもなんだし、一応理由だけ聞いておく。
「なんで俺がこいつを連れて帰らなきゃいけないんだ?」
「いやぁ……。その娘をここに置いておくと、またいつ残党に襲われるかわからないし、絶対に生かしておくと約束することもできない。私的な理由になるんだがな、その娘は昔からあたしが面倒を見てきたんだ……だから、な」
両手を顔の目で合わせて懇願してくる建御名方神。
理由は……まあわからんでもない。しかしそれは当事者であるこの……雪輝? ──見た感じ年近そうだから呼び捨てでいいか──って娘の意見を完全にスルーしてもいいのか。
「どういうことですか……?」
現に雪輝は声を震わして、今にも泣きそうになっている。
面倒を見てきたということは雪輝にとっては姉とか母親のような存在だったんじゃないか。
今日初めて出会ったやつらの家庭の事情とやらは知らないから口出しできるような立場じゃないが、いきなり身内から敵対国に行ってこいと言われればどういう心情になるかは建御名方神だってわかってたはずだ。
それでいて、なお行ってこいというのはどういう心情から導き出されたんだろうか。
思考は泥沼に嵌っていく。
そんな中で、震える声が一つ。
「そう、ですか……。わたしはい、いらない娘な、んですね」
ポロリと頬を滑る涙。
そら、そういう結論にたどり着くわ。俺だってそう思う。
涙を流す雪輝に対して顔をしかめるだけの建御名方神に怒りを覚えるが、今はそんなことよりも雪輝のメンタルケアが先だろう。
何か声をかけようとするが、その前にスルリと建物から出て行ってしまった。
その去り際に「もういいです。絶対に戻ってきません」という捨て台詞を吐きながら。
それを見届けた後に俺は口を開いた。
「どういうことだ。建御名方さんよ」
「あたしの本名は
「そうか。なら神奈子。どういうつもりだ? あんな風に突っぱねて」
語気を強めながら俺は尋ねた。
「……あの娘はあたしに依存してたきらいがある。だからいい機会だし遠回しに旅してみろ、って言ってみたんだが……ちょっとばかし分かりにくかったかねぇ」
神奈子はそこで視線を落とし、とても悲しそうな表情になった。
なるほど、可愛い子には旅をさせよ理論か。しかし神奈子自身はああなるとは思ってなかったんだろう。……不器用すぎだろうが。
彼女から強く唇を噛み締めて後悔する様子がよく伝わってきた。
「白神殿……。あの娘を、よろしく頼んだ……!」
唐突に深々と頭を下げる神奈子。
そこまで心配するならなぜ反論する余地もなく突っぱねたのか甚だ疑問だが、今ここでそれを聞くのは野暮だろう。
俺のとる選択肢はたった一つしかないはずである。
「ああ、まかせろ」
力強く答えてみせた。流石にここで他人のふりをするのは良心が痛む。
神奈子はその言葉によっぽど安心したのか、心の底から安堵した表情を浮かべた。
俺はその表情を見てから言葉を続けた。
「絶対に、ここでお前に謝らせてやる」
キッパリと言い放った言葉に驚いて目を見開いていたが、やがて笑顔になった。
「そうだな。任せる」
その言葉を聞いた俺も、ニコッと微笑み建物から出た。
夕陽がだいぶ雪を溶かしたものの、やっぱり室内と外じゃ体感温度が全然違うな、と思いながら建物の合間を縫って雪輝を探す。
すぐ近くにいると思っていたんだが……あまりにも嫌すぎて逃げたのか? というありえそうで怖い予想をしていると、その予想に反して見つけた。
彼女は入り組んで誰も見つけれなさそうな細い道に蹲っていた。ちなみに俺はわざとそういうところを探していたから見つけれたのだが。
「おい、大丈夫か」
できるだけ優しい声音で、初めてそらちゃんを見つけた時のごとく話しかける。
すると首がゆっくりと動き俺の顔をじっくりと見た。
「あなたは……優陽さん」
そう言ってゆっくりと立ち上がった。
目は真っ赤に腫れており、口元は未だゆがんでいた。
「さっさと帰るぞ。早く飯食いたんだから」
そこまで言った時点で、俺はおにぎりのことを思い出した。
せっかく作ってくれた弁当を、帰ってから食べるとかいう虚しいことはしたくない。
俺は懐からおにぎりを取り出した。綺麗な三角形が三つ。
俺はその一つを雪輝に渡した。
「……?」
「いいから食え。持って帰るとかいうことはしたくないんだ」
意味がわかっていなかったらしく戸惑っていたが、強引に渡すと理解したらしい。
小さい口でパクリと一口かじった。
「……おいしい」
か細い声で言った言葉に、俺は我が事のように喜びを感じた。
「今から帰ったら、それを作ったやつと向こうの神様に会える。神様はちっこいし、もう一人はお前と同い年ぐらいだから気があうだろう」
可能な限り向こうの生活へと希望を持たせる。
俺の言葉か、あるいはそらちゃんのお手製おにぎりのおかげか、雪輝は少し元気が出たようだ。
「ありがとうございます。優陽さん」
「呼び捨てでいい」
「……なら。ありがとう、優陽」
とても穏やかに微笑んだ表情にドキリとする。
多分若干赤く色づいているだろう顔を見せないように後ろを向く。
「元気出たんなら早く帰ろう」
俺のどっかに掴まってくれ。
そう言い切る前に雪輝は俺の手を握った。
急速に上がる体温と心拍数に、俺自身驚きながら瞬間移動をした。
──神奈子との約束を絶対に忘れないよう心に刻みながら。
──ドキドキする鼓動に違和感を感じながら。
◇◆◇
「ってのがわたしと優陽の出逢い」
雪輝は小休憩のつもりかそこで一度日記を閉じ、腕をぐーっと伸ばしていた。
かれこれ数時間、雪輝の知らないところは日記を使って語っていたのだ。疲れるのも無理はないだろう。
しかし疲れている様子のない二人は疑問をぶつけてくる。
「なんで雪輝さまは優陽さまの手を握ったんすか?」
「やっぱりーその時すでに恋に落ちていた……みたいな感じですか⁉︎」
目をキラキラさせながら聞いてくる昂陽と真海に苦笑しながらも雪輝は答えた。
「違うよ。はじめて瞬間移動した時に手を握ってたから、そうしないといけないのかなぁって思っただけ。ただの勘違い」
期待してた答えと違ったのかふーんと残念がるように返す二人。
「せっかく雪輝さまの弱みを握ってイジれるとおもったんすけどねー」
「ふふふ、まだまだ甘いよ」
楽しそうに話す三人がいる神社の外では、夕陽が完全に沈み、静かな夜が訪れていた。
閲覧ありがとうございました。
いやー、やっと雪輝ちゃん出せた。
……そんなことよりも昂陽君と真海ちゃんが、デュラララ‼︎のゆまっちと狩沢さんみたくなってるのは気にしないで。こんな性格じゃなかったはずなのに……。
次回予告!
優陽とともに諏訪の国へとやってきた雪輝。
諏訪子らに受け入れてもらえるのか。神奈子との一騎打ちはどうなる⁉︎
次回 第十五話 染まる頬は太陽のごとく